冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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ドッグセラピー

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着替えを済ませて庭に戻る。レイはまだ少しふらつくようなので、俺の腕に掴まらせた。庭に着いて椅子に座らせるとレイは名残惜しそうに俺の腕を撫でながらゆっくりと離し、俺の顔をじぃっと見上げた。

「何か食べるか?」

「……もうちょい後でにするっす。まだちょっと、お腹が変な感じで……余韻に浸らせてもらうっすよ」

「そうか、俺はお腹すいたから何かもらってくるよ。何かあったら呼んでくれ」

ピンク色の髪を撫でてからその場を離れた。現在の肉焼き係は歌見で、彼は俺と目が合うと「もう少し待てよ」と笑顔で言った。俺は頷いて紙皿を手にコンロの傍で待ち、赤色を失っていく肉を眺めた。

(……ハルどのとセイカ様、どうしてらっしゃるんでしょう)

ハルは相変わらず庭の隅に居る、体育座りはやめて足を伸ばして座っている。その太腿に犬が顎を乗せている。誰かが渡してやったのだろう野菜串を食べている。大丈夫そう……かな?

「水月、焼けたぞ」

「あっ、ありがとうございます先輩。あの……ハルにも持ってってやりたいので、もう一枚いいですか?」

「あぁ、ほら」

二枚目の肉が紙皿に盛られた。俺は一人にして欲しいと言われたことを思い出しつつも、ハルの傍へと足を運んだ。

「ハールっ」

「……みっつん」

芝生に膝をつき、目線を合わせて微笑む。

「一人で考えたいって言ってたけど、どうかな? もういいかな……? 俺そろそろ寂しいよ」

「ふふっ……彼氏いっぱい居るくせに何言ってんの」

笑える元気は戻ったようだ。

「……ぜーんぜん、一人じゃなかった。一人にしてくんなかった。このワンコがね」

つんと鼻をつつかれた犬は目を開け、ハルと俺を見上げた。俺がゆっくりと手を上げると犬はぺしょっと耳を寝かせ、撫でられるのを待った。

「泣いたら顔舐められるし、泣くのやめたら腹とか撫でさせられるし、しぐしぐが持ってきてくれたの食べてたらなんか足で寝始めたし……」

頭の上に手を上げるとセイカは怯える。ほんの一瞬だけだけれど、頭を庇おうと腕を上げる。アキもそうだ、視覚外から触れようとすると迎撃体勢に入る。驚かせて蹴られたことが一度ある。この犬は違う、ネザメやミフユに愛されて育ったのだろう。

「そっか、ふふ……ありがとうな、メープル。ハルのこと見ててくれて」

柔らかい毛皮のすぐ下に小さな頭蓋骨の硬さを感じる。口を少し開けて舌を出し、目を閉じているこの反応は……心地よく思ってくれていると判断していいのかな?

「よくないんですけどぉ~、一人で考えたかったのになーんにも考えられなかったしぃ……ま、寂しくはなかったかな~。もっふもふでさ、なんかもう……笑えてくんの。落ち込んでたのになぁ……」

ハルも犬の肩辺りを撫で始める。すると犬は俺の手から離れ、ハルの顔を舐め出した。

「な、何っ? きゃー!? 落ち込んでない落ち込んでない泣いてないぃ! もぉっ、や~めぇ~てぇ!」

「本当に賢いな……」

察しはしたが俺には対応が思い付かなかったハルの僅かな落ち込み。その心の機微に犬は反応している。ハルが暇そうだから傍に居る訳ではない、この犬は正確に落ち込んでいる人間を判別して励ましている。

「もぉ~……顔ベットベト……」

「お肉持ってきたんだけど、食べるか?」

「……あ~ん」

「はい、あーん」

肉がすぐ傍にあっても飛びかかってきたりはしない、見つめてはいるが……本当に賢い犬だ。

「元気そうでよかった。こっち来いよ、みんなと食べよう」

「……でもぉ~、俺が居ると雰囲気悪くなるみたいだし~?」

「ハルはムードメーカーだよ、ハルが居ないと静かで暗い。ハルが居て雰囲気悪くなるなんてありえないよ」

「だって~……りゅーが……」

「……セイカのこと嫌いなら嫌いで構わないよ、露骨な態度取らなきゃな。今回は俺が悪かった、俺が騒いじゃったからだ」

「そんなっ、みっつんのせいじゃないっ! 全部全部っ……」

「セイカが悪い?」

ハルは目を見開き、視線を逸らし、小さく頷いた。

「そうだよ、セイカが悪い。でもそれは原因の話だ。芸能人とかがよく、本人は別に悪くないのにお騒がせして申し訳ございませんって謝ってるだろ? 今回は俺が悪かったって言ってるのはアレだよアレ」

「……何それぇ」

「社交辞令ってヤツ? まぁ……だからさ、つまり……えっと、仲良くしろとは言わないからさ、喧嘩したり嫌味言ったりはしないでくれ。みんな気にするし……なっ?」

「…………うん。叩いちゃったのは、まぁ……反省してるし。後悔はしてないけど」

セイカに悪いことをしてしまったという反省ではなく、雰囲気を悪くしてしまったという反省なんだろうな。

「……戻る。ありがと、みっつん。メープルちゃんもありがと~、わしゃわしゃ~」

過去を知る前、ハルはセイカに勉強などを教わっていた。あの時は仲良く過ごせていたように思える、精神的に不安定なセイカを気遣ってくれていたし、セイカと過ごして疲弊する俺を励ましてくれてもセイカと会うなとまでは言わなかった。疲れは癒してやるから会ってやれという態度を取っていた。上手くやっていける二人だと思っていたのにな……

「先に顔洗わないと犬臭いぞ?」

「やっぱり~? フユさんに洗面所の場所聞いてくる~」

犬を撫で回して立ち上がったハルはミフユの元へと走る。先程風呂に入ってきたから俺も洗面所の場所は分かるのだが……まぁいいか。ハルがしばらくコンロの傍に戻らないならちょうどいい、次はセイカに構おう。

「アキ、セイカは?」

一足先にコンロの傍に戻り、肉を頬張っているアキに尋ねる。

「すぇかーちか、です? すぇかーちか、足……痛いする、疲れるするです。すぇかーちか、座るするです」

「足疲れたから座ってるのか? そっか……どこで?」

アキは誰も座っていない椅子を指差し、首を傾げた。先程までそこに居たらしい。俺もさっき見た気がする。

「おや……秋風くんばかり見ていて気付かなかったよ」

「俺も肉焼いてたからそっちは見てないな」

「ボクも見てないよ」

トイレだろうか? だとしたら室内でハルと鉢合わせる可能性があるな。

「見てないけど聞いたよ、あの子足音変わってるからすぐ分かる。あっちに行ったよ」

サンが指した方にあるのは駐車場と庭を繋ぐ砂利道だけだ。

「なんか砂利踏んでるみたいな音してた」

「……どっか行ったってことか? 庭を出て……まずくないか?」

「…………ふざけんなよもぉお! 迷惑かけたくないですって態度取ってるくせにこんなことばっかりっクソッ義足もいで差し上げますわ!?」

「鳥待! 肉焼き役変われ、俺は水月のストッパーになる!」

行方をくらましたかもしれないセイカを探すため砂利道を走り抜け、駐車場に出た。何時間でも走り回るつもりだった俺に反し、セイカはすぐに見つかった。
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