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まずは先に神社へ

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自分の分の荷物は運び終えた。次は彼氏達の荷物を運んで好感度稼ぎだ。ハルやカンナなどの非力な子の元に行くべきだろうか。

(セイカ様は……ミフユどのの親戚さんに車椅子ごと運ばれてますな。荷物も持ってくれてまそ、後でお礼言わねば。レイどのの荷物はパソコンとか入ってそうですし本人に任せまそ、精密機械は怖いでそ~)

ハルは予想通りたくさんの洋服などを持ってきていて荷物が多い、キャリーケースを三つも車から下ろしている。カンナも意外と荷物が多い、あのバカデカいトートバッグには何が詰まっているのだろう。さてどちらを手伝うべきか──と迷う俺の目に鞄を持ち上げられず困っているリュウの姿が映った。

「リュウ、そんなに荷物重たいのか?」

「水月ぃ……水月が入れっぱにしよるから、力入れたら腹もぎゅうて力入ってもうて、気持ちよぉなって下ろしてまうんやんか……」

鞄を持ち上げようとしては「んっ」と声を漏らして脱力する。そんなリュウの姿はとても色っぽい。

(なるほろ~。そんな弊害があるのですな。ということはレイどのも……?)

レイはキャリーバッグに旅行鞄を載せ、地面を転がして運んでいた。アレなら腹に力は入らないだろう。

(……じゃあ困ってるのはリュウどのだけですか)

Mなリュウに優しくするのは好感度稼ぎになるのかというのは疑問だが、放ってはおけない。

「俺が持ってくよ、鞄これだけか?」

「ええのん? ぁ、これも俺のんやねん」

「これとこれな。他にはないな?」

「うん……ありがとぉさん、水月ぃ」

鞄を二つ持ち上げ、いつも明るく騒がしいリュウのしっとりとした礼と大人しげな笑顔を見る。

「おっ……ど、どないしたん? そない重かった?」

見とれて鞄を落としてしまった。パソコンだとかが入っていそうなレイの鞄を運んでいなくてよかった。付き合って何ヶ月にもなるのに、何度も身体を重ねたのに、まだ微笑みかけられただけで脱力するなんて……慣れも飽きもまだまだ遠いな。



全ての荷物が車から別荘に移された。

「それではネザメ様、私共はこれで。車を一台残して帰りますので、買い出し等あればこの車をお使いください」

運転手達は帰るようだ、大人が居ないとなれば本格的に俺の天下だな。

「運転免許をお持ちの方がいらっしゃると聞きましたが……」

「木芽だ」

「あなたですね、どうぞ」

残していくらしい車のキーはレイに渡され、運転手達は二人と一人に分かれて車に乗った。

「ミフユ、しっかりと勤めを果たしなさい」

「はっ。お気を付けて」

二台の車は来た道を戻っていき、見えなくなった。俺の天下の始まりだ! ここをヌーディストコテージにすることだって可能!

「昼食はバーベキューですよね? ここでするんですか?」

「ここは駐車場だ。バーベキューは庭でする」

ついこの間高級な焼肉屋に行ったばかりだが、バーベキューはまた違った良さがあるだろう。ネザメが用意した肉なら多分高級品だろうし……何より今日は彼氏しか居ない! あのにっくき形州やそのエロい……じゃなくて、意外に常識人と見せかけてアキにナイフを贈るような異常者の従兄は居ないのだ!

(アーンしたりされたり、燃え上がる炎に怯える彼氏を庇って男気を見せたりぃ……おや?)

積極的に準備を行って甲斐性を見せつけようと画策する俺の視界の端に、フラフラと道へ出ていくリュウの姿が見えた。

「リュウ、どこ行くんだよ。バーベキューは庭でするんだぞ?」

「その、前に……挨拶せなあかんやん。新しいとこ来たらまず挨拶すんねん、神社行かな……」

「神社ぁ? あー……お前ん家もそうだもんな、なんかそういうのあるのか? うーん……ちょっと待ってろ。ネザメさん!」

「なんだい?」

「リュウが先に神社に行きたいって……どこにあるか分かりますか?」

「神社? いや……知らないな、ミフユ?」

「ビーチの端、岩場の辺りにあったはずです。だがあそこは足場が悪い、あの調子で行くことは勧めないな……抜いてやったらどうだ? どうせまた何か入れさせているんだろう」

俺も近辺の散策はしたいが、それはバーベキューとセックスの後、そして海水浴を楽しんだ後だ。何よりも先に神社……まぁ、仕方ない。付き合ってやるか。

「ローター抜いていいぞ。一緒に行こう」

「僕も行こうかな。みんな! 神社に行かないかい?」

「海沿いの神社~? 映えそう! 行く行く~!」

「早く食べたいんですけど……」

二人で行こうと考えていたが、どうやらみんな着いてくるようだ。

「ネザメ様、自分はサン殿の補助を致しますのでメープルをお願い致します……メープル! ネザメ様が転ばないようちゃんと歩幅を合わせるんだぞ、ネザメ様は急に走り出すこともあるから気を付けろ」

ネザメ、犬より信用低い説。

「ここから海へは坂になってるんだな……車椅子は危なそうだ。狭雲、俺がおぶってやろうか」

「え、ゃ、自分で歩ける…………ごめん、やっぱりお願い。この坂……多分コケる」

「クマは置いていけよ」

「えっ……」

セイカの面倒は歌見が見てくれそうだ。

《ジンジャってアレ? 教会の仏教バージョンみたいなヤツ?》

《神社は仏教じゃなくて神道だ、日本固有の……んー、アニミズムだな》

《アニ……? 何……?》

アキは買い直したらしいサングラスも日傘もバッチリ、見ているだけで暑苦しい長袖長ズボンに手袋までして紫外線対策は完璧。様子を見ておかなければならない彼氏達は三人共大丈夫そうだ、出発していいだろう。

「時雨くん、そんなに逃げないで欲しいなぁ。メープルと仲良くさせておくれよ」

「ゃ、だっ……! 嘘つきっ、ぅ、さぎ……食べなっ、犬、て……言っ……から、小型……だと、思っ……のにぃ、形がっ、おーかみ……!」

「メープルはウサギなんて食べないよ。ねぇ?」

「ぷぅ太……入っ……鞄、すご……嗅い、でたぁっ。今も……すご、見てる……ぉ、いしそ……思って、るんだぁっ」

ウサギ用ハーネスを取り付けてはいるが、カンナはウサギを地面に下ろす気はなさそうだ。大切そうに抱きかかえてウサギを嗅ぎたがる犬から遠ざけている。

「食べないとは思うけど……カンナが怖がってるんで離してあげていてくれますか? ごめんなさいネザメさん」

「おやおや……大型犬はすぐこれだ、辛いねぇメープル」

「メープルは中型犬ですよ」

カンナはネザメの傍を離れ、俺の影に隠れるように隣に並んだ。

「……カンナ、メープルちゃんすごく賢いし大丈夫だと思うぞ? ネットでたまに仲良くしてるウサギと犬とか猫見るし」

「ゃ、だっ……肉食、だもん。もしも……が、あったら……だめ。ぷぅ太、ぼくの一番大事な宝物なのっ……だめ、なの。やだ」

「…………そっか、分かった。離して過ごさせような、俺も協力するよ」

いつも聞き取るのが大変な小さな声なのに、一番大事な宝物という言葉だけはハッキリと聞き取れた。一番の座を獲れていないのは残念だが、カンナの孤独を支え続けた彼には敵わない。大人しく二番手に甘んじよう。
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