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謝罪配信

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カミアの母親によってメイクを施された。こめかみ辺りを殴られた時のアザをファンデーションで隠すだけの簡単なものだ。

「カミア、ここに座って。鳴雷さんは隣にお願いします」

ソファに並んで座らされる。目の前にはカメラ、俺の顔が晒されてしまった嫌な思い出が蘇る。

「……カミア、言った通りに話すのよ」

「うん……」

「鳴雷さんはサングラスを外すだけで構いません、私がカメラの後ろで合図しますので、その際に外してください。お辞儀などはカミアに合わせてくださるだけで構いません、後は相槌なども余裕があれば」

「分かりましたよ」

足を組んでそっぽを向いてやった。本来なら彼氏の家族には好かれたいが、カミアの母親には嫌われた方がいい、変に好かれてスカウトのために付きまとわれたら困る。

「配信十秒前ー……」

母親がカウントを始めた。鼓動が早くなった。

「……こっんにっちは~☆ マジ神アイドルカミアだよ☆」

呼吸も浅くなっていく。

「えっと……今回の配信は、前回の配信に起きたトラブルの説明と謝罪のためのものです。まず前回の配信についてですが──」

カミアが簡単に前回の配信の内容と放送事故について説明した。

「──僕の隣の方が放送終了時の不手際により映り込んでしまった「みぃくん」です」

カミアの母親がカメラの後ろで手を揺らしている。俺はサングラスを外し、深々と頭を下げ、カメラを二秒ほど見つめてサングラスをかけ直した。

「……彼は一般人で、僕の個人的な友人です。一部で囁かれているような……デビュー前のアイドル、俳優などではありません。前回の配信で作ったハンバーグを食べてもらうために僕が勝手に呼んだ友人です」

カミアの母親は不満そうな顔をしている、俺が顔を出した時間が短かったのが気に食わないのだろう。

「配信中、僕は日常的に料理をしていて、今回の配信はそのうちの一つをありのまま見せるだけのものといった様な発言がありましたが……訂正させていただきます。僕は初めから自分であのハンバーグを食べる気はなく、料理なんてほとんどしたことがありません……嘘をついてごめんなさい」

有名人の謝罪といえば「思い違い」だの「言い間違い」だのの言い訳が定番だが、カミアは真っ向から故意の嘘だと白状した。これは母親の作戦か? カミアの真摯さか?

「……見栄、張りたかったんです。みんなに……カミアって料理も出来るんだ、忙しそうなのに自炊してるんだ、すごーいって……思われたくて、つい…………ごめんなさい」

あ、可愛い。これは母親の作戦かもしれないな、成人済みならともかく彼は現役高校生アイドル、未成年で思春期の彼の可愛い嘘なら厳しい世間も甘い顔をするだろう。

「ライブ前で体型調整の真っ最中だから、チーハンなんてカロリー爆弾食べられなくて……みぃくん呼んだの。ごめんねみぃくん、迷惑かけて……」

俺に話しかけてきた!? 返事をした方がいいのか?

「みぃくん、あれから大丈夫? 僕のファンはみんな優しいから大丈夫だと思ってるけど……何かあったりした?」

「い、いや、特に……夏休みであんまり外出てないし、カミアの友達ですか~とか言われたりはないかなぁ~……?」

声が裏返る。今何万人見ているんだ? 吸っても吸っても肺に酸素が入ってこないぞ?

「そっか……よかった。みんな、アーカイブ残せなくてごめんなさい、みぃくんの顔晒しちゃったのそのまま出す訳にはいかないから……みぃくんが出ちゃったところだけを削った編集盤は公開されてるので、また見たいな~とか見逃したな~って方は、そっち見てくださいね。後でSNSに再度URL載せます」

やばい、頭が回らない。

「それと、もしみぃくんの顔が映ったシーンをキャプチャしたり、スクショしたりした人が居たら……カミアのお願い! 消して? みぃくんすごくカッコイイから残しておきたい気持ちは分かるんだけど、知らない人に顔写真持たれてるってのは僕みたいな活動してないみぃくんにはすごく怖いことなんだ。だから保存したものは消して欲しいな☆ あと、SNSとかに「こんなカッコイイ人見つけちゃった!」って感じで投稿とかしちゃってたら、それも消して欲しいな……無理強いはしないし、出来ない。僕がカメラ上手く止められなかったのが悪いんだし、みんなにワーワー言うのもね……でも、お願いっ☆」

「……っ、は……」

「ん……? みぃくん? どうしたの? うわすっごい汗! な、何、暑い? あっ緊張しちゃった?」

カミアの声は鼓膜を確かに揺らしているのに、脳に届かない。脳が働いていない。

「は、は……」

「な、なぁにみぃくん……大丈夫?」

「……吐き、そ」

「へぇっ!? えっ、だっ、まっ、待って待って待って! ふ、袋っ……あっ画角から出て画角から出て! 生配信じゃキラキラ加工出来ない……!」

腕を引っ張られ、立たされ、トイレに押し込まれた。

「ぼ、僕配信まだちょっとやらなきゃだから! 戻るね、ごめんね、配信終わったらすぐ背中さすりに戻るからね!?」

カミアはそう叫ぶとトイレの扉も廊下とリビングを隔てた扉も開けっ放しにしてソファに走って戻った。

「ごっ、ごめんねみんな席外して。みぃくんちょっとしんどくなっちゃったみたい、意外と気ぃ弱い子で、緊張したのかなっ? あはは……だ、大丈夫かな……まだ吐いてはない……? カメラから離れて落ち着いたのかな?」

俺の状態を伺って実況するのやめろ!

「…………そ、そういう訳で、色々見栄張っちゃったり、迷惑かけてごめんなさい……みぃくんについてお願いもしちゃって、ごめんなさい。分かったと思うけどみぃくんすごく繊細だから、もしもどこかで見かけちゃったりしても、優しく放置してあげてねっ☆ えっと……ご視聴ありがとうございました! 色々ごめんなさい! 今回はこれまで、カミアでした~☆ バイバイ☆」

カメラに向かって手を振り、母親がパソコンを操作する。放送が終わったのだろう、カミアは俺の元へ走ってきた。

「みぃくん! みぃくん大丈夫? 背中さすろうか?」

「い、いや……ごめん、大丈夫……冷静になってきた。情けない……緊張して吐きかけるなんて」

「仕方ないよぉ……みぃくん普通の人なんだもん。ごめんね? 本当に……前のうっかりもだし、今回も無茶言ってきてもらって、その……僕のこと、嫌いになった?」

「まさか、大好きだよ」

胸をさすりながら立ち上がり、深呼吸をする。カミアを抱き締めたかったけれど、まだ消化器官が怪しい。

「……ごめん、お茶とかある?」

「あっ、ま、待ってて」

カミアが冷蔵庫へと走ると入れ替わりにカミアの母親が俺の様子を覗きに来た。

「……お察しの通り、ぅぷ……俺、ちょっと吐きやすいんで……ちょっとしたストレスで吐くんで……芸能界とか、ぉえっ……無理です」

「…………よく分かりました」

小さく「もったいない」と呟きながらカメラの片付けに戻った彼女と入れ替わりにカミアがお茶を持ってきてくれた。

「ありがとう、いただくよ……」

みっともない姿をカミアにもそのファンにも晒してしまった、やはり配信なんていいことが一つもない。
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