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二、三、四、五
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風呂から上がったサンの髪を脱衣所で丁寧に乾かした後、寝室に戻ってヘアオイルを塗っていく。
「サン、あのさ、俺……フタさんとも付き合うことになった」
「……は?」
上等な櫛で俺に髪を梳かれて心地よさそうにしていたサンは相当驚いたようで、声の調子がいつもと全く違った。
「えっ、何で?」
「なんか、付き合ってって言われて……」
「えぇ……?」
「サンが羨ましかったんだってさ」
「……俺も恋人欲しい~とか最近よく言ってたけどさぁ」
「弟に抜かされたの相当嫌だったんだね」
「えぇ~……?」
困惑はしているが、嫌悪感はなさそうだ。兄弟で同じ恋人を選ぶというのは案外抵抗がないものなのだろうか? カンナとカミアもそうだし……双子はまたちょっと違うか。
「水月はいいの? そんな来る者拒まず的な感じなの?」
「そこまで寛容じゃないよ俺。ビビっと来たらっていうか、俺の好みに合ったらっていうか……」
「兄貴好みなの?」
「ド好み! ある程度美人で個性的ならもう好みだから俺」
「……まぁ確かに兄貴は結構美形だし個性的か」
俺に髪を梳かれながらサンは手をふよふよと漂わせる、フタの顔を思い返しているのだろうか。
「サンはいい? 俺とフタさんが付き合ってても」
「……まぁ、別にいいよ。ぼくと会う頻度下がらないなら」
「下げない下げない。じゃあさ、じゃあさっ、いつか兄弟丼とかしてもいいかなっ? 3P!」
「え~……? 他の子とならいいけど兄貴とはちょっとぉ……」
「そ、そっか。まぁ無理にとは言わないよ……ごめん」
共に190センチを超える身長かつ、腹筋を割る程度には鍛えており、背中には肌の色が残っていないほどの刺青を彫っている二人と同時にベッドに入ったなら、それはそれは素晴らしい体験が出来そうだと思ったのだが……サンが嫌がるなら仕方ない。
「フタ兄貴も水月を好きになるとはね、やっぱり顔がいいからかな? 性格もいいけど」
「あんまり好かれてる感じしないんだよね……弟に追い抜かされたくなくて早く恋人欲しくて、俺がイケそうだったから提案してみたら上手くいったみたいな」
「そうなの?」
「うん……だから今後の目標は、フタさんに恋愛対象として見てもらうこと! サン、何かいいアイディアない? 兄弟なんだし好みのタイプとか理想のデートとかさぁ」
サンと付き合う寸前の頃、フタに似たようなことを聞いたのを思い出し、なんだかおかしくなって笑った。
「楽しそうだね水月……悪いけど、兄貴のそういうことはボク知らないよ。童貞じゃないかって疑ってるレベルなんだから。ま、流石に風俗くらいは行くと思うけど……水月的には風俗ってアリ? 浮気判定?」
「嫌かな……」
「じゃあ先に言っとかないとだね、兄貴来たらスマホにメモさせなよ。それ以外にも兄貴に守って欲しいことや忘れて欲しくないことがあったらメモさせておかないと、兄貴すぐ忘れるよ」
「分かった……って言ってもなぁ、俺そんな束縛するタイプじゃない特に思い付かないなぁ……あ、連絡先交換しないとだね」
なんて話しているとフタが寝室にやってきた。
「サンちゃん、まだ起きてんの?」
「髪の手入れに時間がかかってね。もうすぐ終わりそうだし、そろそろ寝るよ。あ、水月が兄貴に話あるらしいよ」
「みつきが? 何?」
ヘアオイルでぬるぬるする手をぐっと握り、フタを見上げる。
「えっと……俺と付き合ったんですから、風俗とか行くのはやめて欲しいなぁ~……と」
「……風俗って何?」
「女の子と遊ぶ店だよ、兄貴」
「男と遊ぶタイプの風俗もダメですよ」
フタはずっとキョトンとしている。風俗に行っていないのか、この言い方では思い当たらないだけなのか……
「とりあえずメモしておきなよ、兄貴とか弟分に誘われるかもだし」
「んー」
雑な返事をしながらもスマホにメモを残してくれた。
「水月、他は? 何か言っておきたいことない?」
「ない……あっ、連絡先交換してください」
「してなかったっけ。んじゃしよっか」
スマホを近付けて連絡先を交換。フタのメッセージアプリのアイコンは丸まって眠る白猫の写真だった。
「可愛い、ニャンモナイトですね」
「にゃん……何?」
「アイコンの猫ですよ、これこれ」
「イツだよ」
「もしかしてフタさんの飼い猫ですか?」
猫を飼っているのはマフィアというイメージが俺にはあった、どっちかと言えばヤクザは犬のイメージだ。
「うん。ちょっと待ってねー……あった、これ」
フタは白猫と黒猫を膝に乗せたサンの写真を俺に見せた。
「サン、ヨン、イツ」
順番に指を差して名前を教えてくれた、黒猫がヨンで白猫がイツなのか……一、二、三までは人間で、四、五は猫なんだな。
「可愛いですね、事務所で飼ってるんですか?」
「うん、俺の家住んでんの」
「へぇー、今度会わせてくださいよ」
「うん」
ウサギを飼っている彼氏、犬を飼っている彼氏は居たが、猫はフタが初めてだな。
「……ヨン居るんじゃん、サン……前アキのことヨンとか言ってたけど」
「今度からロクって呼ぶよ」
適当な人だな。
「アキはアキなんだってば!」
「アキってだれ?」
「水月の弟」
「みつき二号か」
「ア! キ!」
3Pをしたいなんて考えていたが、そんな場合じゃない。雑で適当に話すサンと天然で忘れっぽいフタのこの兄弟、一人で相手をするのは会話すら大変だ、疲れる、ツッコミ役がもう一人欲しい。起きてくれレイ。
「あ、みつきって猫見るとくしゃみ出る?」
「えっ? あぁ……アレルギーあるかってことですか? 大丈夫です」
「他の子達は平気? 今日はそうでもないけど兄貴よく毛まみれになってるから、アレルギーの子居るなら会う前にコロコロしないとね、兄貴」
「どうだろう……猫に関わりなかったからそういう話したことないんだよね、今度聞いておくよ」
二人とも雑で適当だけれど、アレルギーの有無を聞く程度には気が回るし優しい。こういう小さなギャップが俺の心を掴んで離さない。
「サン、あのさ、俺……フタさんとも付き合うことになった」
「……は?」
上等な櫛で俺に髪を梳かれて心地よさそうにしていたサンは相当驚いたようで、声の調子がいつもと全く違った。
「えっ、何で?」
「なんか、付き合ってって言われて……」
「えぇ……?」
「サンが羨ましかったんだってさ」
「……俺も恋人欲しい~とか最近よく言ってたけどさぁ」
「弟に抜かされたの相当嫌だったんだね」
「えぇ~……?」
困惑はしているが、嫌悪感はなさそうだ。兄弟で同じ恋人を選ぶというのは案外抵抗がないものなのだろうか? カンナとカミアもそうだし……双子はまたちょっと違うか。
「水月はいいの? そんな来る者拒まず的な感じなの?」
「そこまで寛容じゃないよ俺。ビビっと来たらっていうか、俺の好みに合ったらっていうか……」
「兄貴好みなの?」
「ド好み! ある程度美人で個性的ならもう好みだから俺」
「……まぁ確かに兄貴は結構美形だし個性的か」
俺に髪を梳かれながらサンは手をふよふよと漂わせる、フタの顔を思い返しているのだろうか。
「サンはいい? 俺とフタさんが付き合ってても」
「……まぁ、別にいいよ。ぼくと会う頻度下がらないなら」
「下げない下げない。じゃあさ、じゃあさっ、いつか兄弟丼とかしてもいいかなっ? 3P!」
「え~……? 他の子とならいいけど兄貴とはちょっとぉ……」
「そ、そっか。まぁ無理にとは言わないよ……ごめん」
共に190センチを超える身長かつ、腹筋を割る程度には鍛えており、背中には肌の色が残っていないほどの刺青を彫っている二人と同時にベッドに入ったなら、それはそれは素晴らしい体験が出来そうだと思ったのだが……サンが嫌がるなら仕方ない。
「フタ兄貴も水月を好きになるとはね、やっぱり顔がいいからかな? 性格もいいけど」
「あんまり好かれてる感じしないんだよね……弟に追い抜かされたくなくて早く恋人欲しくて、俺がイケそうだったから提案してみたら上手くいったみたいな」
「そうなの?」
「うん……だから今後の目標は、フタさんに恋愛対象として見てもらうこと! サン、何かいいアイディアない? 兄弟なんだし好みのタイプとか理想のデートとかさぁ」
サンと付き合う寸前の頃、フタに似たようなことを聞いたのを思い出し、なんだかおかしくなって笑った。
「楽しそうだね水月……悪いけど、兄貴のそういうことはボク知らないよ。童貞じゃないかって疑ってるレベルなんだから。ま、流石に風俗くらいは行くと思うけど……水月的には風俗ってアリ? 浮気判定?」
「嫌かな……」
「じゃあ先に言っとかないとだね、兄貴来たらスマホにメモさせなよ。それ以外にも兄貴に守って欲しいことや忘れて欲しくないことがあったらメモさせておかないと、兄貴すぐ忘れるよ」
「分かった……って言ってもなぁ、俺そんな束縛するタイプじゃない特に思い付かないなぁ……あ、連絡先交換しないとだね」
なんて話しているとフタが寝室にやってきた。
「サンちゃん、まだ起きてんの?」
「髪の手入れに時間がかかってね。もうすぐ終わりそうだし、そろそろ寝るよ。あ、水月が兄貴に話あるらしいよ」
「みつきが? 何?」
ヘアオイルでぬるぬるする手をぐっと握り、フタを見上げる。
「えっと……俺と付き合ったんですから、風俗とか行くのはやめて欲しいなぁ~……と」
「……風俗って何?」
「女の子と遊ぶ店だよ、兄貴」
「男と遊ぶタイプの風俗もダメですよ」
フタはずっとキョトンとしている。風俗に行っていないのか、この言い方では思い当たらないだけなのか……
「とりあえずメモしておきなよ、兄貴とか弟分に誘われるかもだし」
「んー」
雑な返事をしながらもスマホにメモを残してくれた。
「水月、他は? 何か言っておきたいことない?」
「ない……あっ、連絡先交換してください」
「してなかったっけ。んじゃしよっか」
スマホを近付けて連絡先を交換。フタのメッセージアプリのアイコンは丸まって眠る白猫の写真だった。
「可愛い、ニャンモナイトですね」
「にゃん……何?」
「アイコンの猫ですよ、これこれ」
「イツだよ」
「もしかしてフタさんの飼い猫ですか?」
猫を飼っているのはマフィアというイメージが俺にはあった、どっちかと言えばヤクザは犬のイメージだ。
「うん。ちょっと待ってねー……あった、これ」
フタは白猫と黒猫を膝に乗せたサンの写真を俺に見せた。
「サン、ヨン、イツ」
順番に指を差して名前を教えてくれた、黒猫がヨンで白猫がイツなのか……一、二、三までは人間で、四、五は猫なんだな。
「可愛いですね、事務所で飼ってるんですか?」
「うん、俺の家住んでんの」
「へぇー、今度会わせてくださいよ」
「うん」
ウサギを飼っている彼氏、犬を飼っている彼氏は居たが、猫はフタが初めてだな。
「……ヨン居るんじゃん、サン……前アキのことヨンとか言ってたけど」
「今度からロクって呼ぶよ」
適当な人だな。
「アキはアキなんだってば!」
「アキってだれ?」
「水月の弟」
「みつき二号か」
「ア! キ!」
3Pをしたいなんて考えていたが、そんな場合じゃない。雑で適当に話すサンと天然で忘れっぽいフタのこの兄弟、一人で相手をするのは会話すら大変だ、疲れる、ツッコミ役がもう一人欲しい。起きてくれレイ。
「あ、みつきって猫見るとくしゃみ出る?」
「えっ? あぁ……アレルギーあるかってことですか? 大丈夫です」
「他の子達は平気? 今日はそうでもないけど兄貴よく毛まみれになってるから、アレルギーの子居るなら会う前にコロコロしないとね、兄貴」
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