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兄としてのプライド
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歯磨きなどを済ませ、ソファの上でテレビを横目にイチャついているうちにレイは眠ってしまった。精神的にも肉体的にも疲労が溜まっていたのだろう、俺もそうだ、瞼が落ちてきている。
(ねむねむ……しかしわたくしはまだ眠る訳にはいかないのでそ)
数分前に風呂に入ったばかりのサンと、彼の髪の手入れをしてやる約束をしたのだ。今眠ればその約束を反故にすることになる。
「…………レイちゃん寝ちゃった?」
スマホで名前を確認し、フタがレイの顔を覗き込む。
「はい。寝室に運んできます」
「おー、がんば」
フタは扉を開けるために同行してくれた。意外にも細かいところに気が付く人だ。
「……おやすみ、レイ」
ベッドに寝かせたレイにタオルケットを被せ、頬を撫でながらあどけない寝顔を眺める。愛しい人の無防備な寝姿を間近で見つめるのを許されるのは、男として最も幸福なことの一つだろう。
「はぁ……可愛い」
取り返した。俺はレイを取り返せたんだ。彼氏達の協力あってのことだし、解決出来たのはほとんど運だ。ご都合主義的展開が起こってくれて助かった。
「その子、えーっと……レイちゃんも恋人?」
スマホをチラリと見て、レイの顔を覗き込み、その後俺の顔を見る。
「はい。大切な彼氏です」
「……サンちゃんとどっちが大切?」
「え……俺、俺はそういうの……ないです。みんな平等に愛してるつもりです。同じです、みんな……順番付けろなんてそんなの、無理です」
虫のいい話に思われてしまうかな、でも本心なんだ。
「ふーん」
フタは反論はしてこなかった。
「みつきボコボコだけどさぁ、それ……確かこの子取り返すためとかだったよな?」
「ぁ、はい、結局俺の力だけじゃダメでしたけど」
「サンちゃんがどうにかなっても同じくらい頑張るってこと?」
「はい。死んでも助けます」
死んでも、なんて軽々しく言い過ぎたかな。一般人の俺よりは死に近そうなフタにはむしろ覚悟がないように思われるかもしれない。
「…………サンちゃんがヒト兄ぃに殴られてたらどうする?」
「へっ? た、たとえば……ですよね? サンさん怪我してないし……そんなの、ダメですよ、許せません。二度と殴らせないっ……ように、したいけど……どうすればいいかは分かりません。でも、頑張ります……ぁ、そうだっ、交渉します。サンさん殴りたくなったら俺を代わりに呼んでくださいって、俺が身代わりやるって、受けてくれるかどうかは分からないけど……それくらいしか思い付きません」
たとえ話だと分かっていても、フタが暴力を振るわれる様が頭に焼き付いてしまっていて、その光景の中のフタをサンに置き換えることは簡単に出来てしまって、実体のない怒りと焦りが産まれた。
「ふぅーん……」
「…………えっと、認めていただけてますかね? 俺……サンさんの恋人として、お兄さん的には……合格ですか?」
「え? あぁ、いんじゃね? サンちゃんが気に入ってんだから」
俺の十二股に怒ったり、今の質問だったりと、サンの気持ちだけを尊重するタイプではないのは分かっている。しかし裏表があまりなさそうなフタがこの言い方をするということは、フタにとってサンの恋人としての合格点は既に取れていて、後はサンの気持ち次第と判断していると見ていいだろう。つまり俺は恋人の兄にとうとう正式に認められたのだ!
「お願いあんだけどさぁ、いい?」
「俺に出来ることなら」
今まで彼氏の家族に恋人と紹介してもらえたのはカンナの父親だけだ、しかし彼は俺がカミアとも付き合っているとは知らないし、攻撃的な態度を取られることがあるからまだ認められた感じはしない。彼氏の家族に認めてもらえたのは今回が初めてだ、嬉しい、どんな困難なお願いごとでも達成してみせる!
「俺とも付き合ってよ」
「はい喜んで! えっ……?」
「やった~、俺も恋人出来たぁ」
「……ちょっ、ちょちょっ、ちょっ、ちょ……ちょっと、待って。なんて? なっ、何……え?」
聞き間違いだったのかもしれない。俺は深呼吸をし、フタにもう一度お願いごとを言ってもらうことにした。
「だからぁ、俺とも付き合ってって」
「……ど、どうしてです?」
「俺も恋人欲しい。サンちゃんが居るのにさぁー、兄貴の俺が居ないってさぁ……なんかやじゃない?」
「そんな理由で……?」
聞き間違いではなかった。どうする? 受け入れるか、断るか──いや、その前にもう少しちゃんと話すべきだ。
「待ってください、よく考えてください。兄として弟に負けてたくないってのは分かりますけど、だからって弟の恋人と付き合うってのはちょっと……」
「十人くらい居るんだろ? 一人くらいアレじゃん、ゴザじゃん」
「それを言うなら誤差ですね。ゴザは敷物ですよ」
「それそれ~。なんかグダグダ言ってっけどさぁ、ダメなん? 付き合ってくんないの?」
カクン、と少々やり過ぎなほどに首を傾げる。これが最低でも二十代後半の男の仕草か? 可愛いんだが? ダメだダメだキュンとするな俺落ち着け、フタは俺に惚れている訳じゃない、ちゃんと話していけば多分「やっぱ今のナシ」とか言うに決まってる、俺がフタに惚れてしまったらきっと悲惨なんだ。
「いや、だから、ちゃんと考えてくださいってば! 俺のこと好きでもないのに付き合ってなんてそんな……」
「……みつき、俺嫌い?」
首が反対側に傾げられる。あぁ、ダメだ、可愛い。
「好きぃ!」
「じゃ、付き合って」
「うんうん! 付き合う! あぁサンさんとちょっと似てるけどちょっと違う、ジャンル違いのデカ美人がまた一人俺のモノにっフォウッ!」
「んじゃヒト兄ぃ何とかしてね」
「もちろん! えっ?」
「やった~! ありがとみつきぃ、せんきゅ~。んじゃ俺観たいテレビあるから。深夜の漫才特ば~ん」
フタは寝室を出ていってしまった。
俺、今なんかとんでもないこと押し付けられなかったか?
(ねむねむ……しかしわたくしはまだ眠る訳にはいかないのでそ)
数分前に風呂に入ったばかりのサンと、彼の髪の手入れをしてやる約束をしたのだ。今眠ればその約束を反故にすることになる。
「…………レイちゃん寝ちゃった?」
スマホで名前を確認し、フタがレイの顔を覗き込む。
「はい。寝室に運んできます」
「おー、がんば」
フタは扉を開けるために同行してくれた。意外にも細かいところに気が付く人だ。
「……おやすみ、レイ」
ベッドに寝かせたレイにタオルケットを被せ、頬を撫でながらあどけない寝顔を眺める。愛しい人の無防備な寝姿を間近で見つめるのを許されるのは、男として最も幸福なことの一つだろう。
「はぁ……可愛い」
取り返した。俺はレイを取り返せたんだ。彼氏達の協力あってのことだし、解決出来たのはほとんど運だ。ご都合主義的展開が起こってくれて助かった。
「その子、えーっと……レイちゃんも恋人?」
スマホをチラリと見て、レイの顔を覗き込み、その後俺の顔を見る。
「はい。大切な彼氏です」
「……サンちゃんとどっちが大切?」
「え……俺、俺はそういうの……ないです。みんな平等に愛してるつもりです。同じです、みんな……順番付けろなんてそんなの、無理です」
虫のいい話に思われてしまうかな、でも本心なんだ。
「ふーん」
フタは反論はしてこなかった。
「みつきボコボコだけどさぁ、それ……確かこの子取り返すためとかだったよな?」
「ぁ、はい、結局俺の力だけじゃダメでしたけど」
「サンちゃんがどうにかなっても同じくらい頑張るってこと?」
「はい。死んでも助けます」
死んでも、なんて軽々しく言い過ぎたかな。一般人の俺よりは死に近そうなフタにはむしろ覚悟がないように思われるかもしれない。
「…………サンちゃんがヒト兄ぃに殴られてたらどうする?」
「へっ? た、たとえば……ですよね? サンさん怪我してないし……そんなの、ダメですよ、許せません。二度と殴らせないっ……ように、したいけど……どうすればいいかは分かりません。でも、頑張ります……ぁ、そうだっ、交渉します。サンさん殴りたくなったら俺を代わりに呼んでくださいって、俺が身代わりやるって、受けてくれるかどうかは分からないけど……それくらいしか思い付きません」
たとえ話だと分かっていても、フタが暴力を振るわれる様が頭に焼き付いてしまっていて、その光景の中のフタをサンに置き換えることは簡単に出来てしまって、実体のない怒りと焦りが産まれた。
「ふぅーん……」
「…………えっと、認めていただけてますかね? 俺……サンさんの恋人として、お兄さん的には……合格ですか?」
「え? あぁ、いんじゃね? サンちゃんが気に入ってんだから」
俺の十二股に怒ったり、今の質問だったりと、サンの気持ちだけを尊重するタイプではないのは分かっている。しかし裏表があまりなさそうなフタがこの言い方をするということは、フタにとってサンの恋人としての合格点は既に取れていて、後はサンの気持ち次第と判断していると見ていいだろう。つまり俺は恋人の兄にとうとう正式に認められたのだ!
「お願いあんだけどさぁ、いい?」
「俺に出来ることなら」
今まで彼氏の家族に恋人と紹介してもらえたのはカンナの父親だけだ、しかし彼は俺がカミアとも付き合っているとは知らないし、攻撃的な態度を取られることがあるからまだ認められた感じはしない。彼氏の家族に認めてもらえたのは今回が初めてだ、嬉しい、どんな困難なお願いごとでも達成してみせる!
「俺とも付き合ってよ」
「はい喜んで! えっ……?」
「やった~、俺も恋人出来たぁ」
「……ちょっ、ちょちょっ、ちょっ、ちょ……ちょっと、待って。なんて? なっ、何……え?」
聞き間違いだったのかもしれない。俺は深呼吸をし、フタにもう一度お願いごとを言ってもらうことにした。
「だからぁ、俺とも付き合ってって」
「……ど、どうしてです?」
「俺も恋人欲しい。サンちゃんが居るのにさぁー、兄貴の俺が居ないってさぁ……なんかやじゃない?」
「そんな理由で……?」
聞き間違いではなかった。どうする? 受け入れるか、断るか──いや、その前にもう少しちゃんと話すべきだ。
「待ってください、よく考えてください。兄として弟に負けてたくないってのは分かりますけど、だからって弟の恋人と付き合うってのはちょっと……」
「十人くらい居るんだろ? 一人くらいアレじゃん、ゴザじゃん」
「それを言うなら誤差ですね。ゴザは敷物ですよ」
「それそれ~。なんかグダグダ言ってっけどさぁ、ダメなん? 付き合ってくんないの?」
カクン、と少々やり過ぎなほどに首を傾げる。これが最低でも二十代後半の男の仕草か? 可愛いんだが? ダメだダメだキュンとするな俺落ち着け、フタは俺に惚れている訳じゃない、ちゃんと話していけば多分「やっぱ今のナシ」とか言うに決まってる、俺がフタに惚れてしまったらきっと悲惨なんだ。
「いや、だから、ちゃんと考えてくださいってば! 俺のこと好きでもないのに付き合ってなんてそんな……」
「……みつき、俺嫌い?」
首が反対側に傾げられる。あぁ、ダメだ、可愛い。
「好きぃ!」
「じゃ、付き合って」
「うんうん! 付き合う! あぁサンさんとちょっと似てるけどちょっと違う、ジャンル違いのデカ美人がまた一人俺のモノにっフォウッ!」
「んじゃヒト兄ぃ何とかしてね」
「もちろん! えっ?」
「やった~! ありがとみつきぃ、せんきゅ~。んじゃ俺観たいテレビあるから。深夜の漫才特ば~ん」
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