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完全勝利S
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勝った。
「ふっ……」
店を出る寸前、勝ち誇った笑みを浮かべたまま振り返って元カレを見た。彼は俯くのをやめて俺を睨んでいたが、もはやその視線すら気持ちいい。
(勝利ってイイネ! いやぁ今まであんまり勝ったことがなかった人生でしたからな)
もちろんゲーム以外での話だ。
「ここから帰れるならここで解散にしようと思うんだけど、みんな道分かる?」
「駅までの道くらい分かりますよ」
「俺分からんから着いてくわ、頼むで」
サンの家を経由するよりも焼肉店から直接駅へ向かった方が早いようだ。
「シュカ、リュウ、気を付けてな。特にリュウ、不良共は一旦全滅させたとはいえ金髪はこの町では危ないらしいからな……大通り歩けよ!」
「分かっとる分かっとる、大丈夫や。とりりんも一緒やし」
「お腹いっぱいなのであんまり期待しないでください」
二人の頭をいっぺんに撫で、順番にキスをする。ちゅっと唇を触れ合わせるだけの短いキスだったが、二人共頬を赤らめて喜んでくれた。
「セイカ、アキ……大丈夫か? 帰れるか? やっぱり俺と一緒に泊めてもらわないか?」
「秋風帰りたいって言ってるし……」
「一人がいいなら一人で居れるよう工夫するよ」
セイカに俺の発言を翻訳してもらったが、アキは首を横に振った。
「そんなに帰りたいのか……セイカ、駅まで歩けるか? アキ、セイカ……足、痛いする、なら……背負う、するんだぞ」
「余計なこと言うな、俺は一人で歩ける」
「でも、セイカ……足」
「あぁ俺は足が片っぽねぇよ、だからって歩くのまで他人頼りになる気はない! 駅まで歩いて電車乗って、また駅からお前の家まで歩くくらい、この足でも出来る!」
手足の欠損に関連する心配はセイカにとって不愉快なものでもある、それは分かっていたが、ここまで怒らせてしまうとは予想出来なかった。
「……ごめん。本当に大丈夫だから……ばいばい、鳴雷。また明日……? 帰ってくる? まぁ、好きな時に帰ってこいよ」
「セイカ……でも、セイカぁ……そんなに歩いたら義足に乗せてるとこ、硬くなっちゃうだろ?」
セイカの左足の切断面はまだ柔らかい、皮膚も肉もぷにぷにしている。義足を履いて日常的に活動していればその切断面は次第に硬くなっていく、らしい。
「なっちゃうってお前、俺はそれ目指してんだよ。今の柔らかい足じゃ長時間履いてると痛いから……お前別にここよく触るって訳でもないんだし、硬くても関係ないだろ?」
「義足履くの痛くなくなっちゃったらセイカは俺が居なくても移動出来るようになっちゃうじゃないか……俺は車椅子押してあげたい、お姫様抱っこで運んであげたいんだよ、必要とされていたい、俺が居なきゃ生きていけないセイカが欲しい」
「……俺は鳴雷をタクシー代わりにするのは嫌だ。そんな不安そうな顔するなよ……手足が使えたって使えなくたって、俺は鳴雷が居なきゃ生きていけない。鳴雷だけが生きる理由なんだ。鳴雷が死ねって言うなら死ぬし、鳴雷がもう俺のこと要らないって言うなら死ぬよ」
「そう……? そう……なら、うん、我慢する……無理するなよ? 痛かったらアキにおぶってもらえよ? 帰ったらすぐ義足外して断面マッサージして、クリーム塗るんだぞ。アキを頼むからな」
両肩を掴んでしっかりとセイカに言い聞かせ、頷いた彼の唇に唇をほんの少しだけ引っ付けた。
「アキ、今は結構日差しが強いからな……暑さと明るさにも気ぃ付けろよ。何かあったらすぐ電話しろ、セイカを頼むよ」
頬をむにむにと揉みながら顔を上げさせ、唇を重ねた。姿が見えなくなるまで四人に手を振り、サンの方を振り返った瞬間、フタに胸ぐらを掴まれた。
「どういうつもりだてめぇ」
「へっ……?」
怒っている? のか? なんで? 俺は彼氏達と別れの挨拶をしていただけだぞ? 彼氏ならちゃんと駅まで送れってことか?
「みつき、てめぇはサンの彼氏なんだよな? 何他の男と仲良くしてんだよ……友達の域超えてんだろ、流石に分かるぞ。サンが見えてねぇからって目の前でてめぇ……!」
「ま、待ってください待ってください違うんです!」
しまった、サンには付き合う前にちゃんとハーレムのことを話していたけれど、フタには何も言っていなかった。
「何が違うんだよ!」
「サンさんにちゃんと許可取ってます!」
「はぁ!?」
「サンさんサンさん! お兄さんに説明して欲しいっす、せんぱいまた殴られちゃうっすぅ!」
激怒している様子のフタの背後、イヤホンをつけてスマホを弄っていたサンがレイに揺さぶられている。俺達の事態に気付いたサンはフタの肩を掴んで引っ張った。
「兄貴、やめて」
「サン! こいつ浮気してやがる!」
「うん、水月は彼氏が十二人居るんだ」
「は……!?」
フタ、元カレとレイの会話聞いてなかったのかな。
「水月はボクを口説く時にちゃんと説明したよ、今十一人居るけどいいかって、十二人目になってくれないかって。水月以上に創作意欲と性欲を刺激してくれる人間はもう居ないだろうし、ボクは別に独占欲とかないし……絵描いてる日とか恋人に構えない日が多いからね、寂しがられてこっそり浮気されるくらいなら水月みたいに堂々としてくれた方がいいんだよ」
監禁したくせに自己分析では独占欲がないと判断しているのか。いや、でも、他の彼氏に嫉妬する素振りなどを見せたことはないんだよな、サンは。自称する通り独占欲はあんまりないのか……? 寂しがりなだけ?
「…………よく分かんねぇ」
「ボクは、納得してる。満足してる。心配しないで、兄貴。ってこと」
「……サンちゃんがいいならいいけど、いっぱい恋人作るのってアリなんだ、ダメだと思ってた」
「ボクらの父親が何人孕ませたと思ってるの、分かってるだけで三人だよ三人。ボクらの母親はバラバラだろ? 水月は親父よりずっと誠実だよ」
「ふぅん……」
納得してくれたのか? 怒りは鎮まったようだ。
「俺の愛情は割り算じゃなくて掛け算なんです、精一杯サンさんを幸せにしますからどうか信じてください」
「なんで急に算数の話すんの」
「ボクは水月に大切にされてるってことだよ」
「なら、いいけど……サンちゃん泣かしたら許さねぇからな」
いつもぼーっとしていて温厚そうな目が、俺を探していた頃のように鋭く変わって俺を睨む。サンの困りながらも嬉しそうな笑顔がそのすぐ隣にあって、俺はついつい頬を緩めたまま深く頭を下げた。
「ふっ……」
店を出る寸前、勝ち誇った笑みを浮かべたまま振り返って元カレを見た。彼は俯くのをやめて俺を睨んでいたが、もはやその視線すら気持ちいい。
(勝利ってイイネ! いやぁ今まであんまり勝ったことがなかった人生でしたからな)
もちろんゲーム以外での話だ。
「ここから帰れるならここで解散にしようと思うんだけど、みんな道分かる?」
「駅までの道くらい分かりますよ」
「俺分からんから着いてくわ、頼むで」
サンの家を経由するよりも焼肉店から直接駅へ向かった方が早いようだ。
「シュカ、リュウ、気を付けてな。特にリュウ、不良共は一旦全滅させたとはいえ金髪はこの町では危ないらしいからな……大通り歩けよ!」
「分かっとる分かっとる、大丈夫や。とりりんも一緒やし」
「お腹いっぱいなのであんまり期待しないでください」
二人の頭をいっぺんに撫で、順番にキスをする。ちゅっと唇を触れ合わせるだけの短いキスだったが、二人共頬を赤らめて喜んでくれた。
「セイカ、アキ……大丈夫か? 帰れるか? やっぱり俺と一緒に泊めてもらわないか?」
「秋風帰りたいって言ってるし……」
「一人がいいなら一人で居れるよう工夫するよ」
セイカに俺の発言を翻訳してもらったが、アキは首を横に振った。
「そんなに帰りたいのか……セイカ、駅まで歩けるか? アキ、セイカ……足、痛いする、なら……背負う、するんだぞ」
「余計なこと言うな、俺は一人で歩ける」
「でも、セイカ……足」
「あぁ俺は足が片っぽねぇよ、だからって歩くのまで他人頼りになる気はない! 駅まで歩いて電車乗って、また駅からお前の家まで歩くくらい、この足でも出来る!」
手足の欠損に関連する心配はセイカにとって不愉快なものでもある、それは分かっていたが、ここまで怒らせてしまうとは予想出来なかった。
「……ごめん。本当に大丈夫だから……ばいばい、鳴雷。また明日……? 帰ってくる? まぁ、好きな時に帰ってこいよ」
「セイカ……でも、セイカぁ……そんなに歩いたら義足に乗せてるとこ、硬くなっちゃうだろ?」
セイカの左足の切断面はまだ柔らかい、皮膚も肉もぷにぷにしている。義足を履いて日常的に活動していればその切断面は次第に硬くなっていく、らしい。
「なっちゃうってお前、俺はそれ目指してんだよ。今の柔らかい足じゃ長時間履いてると痛いから……お前別にここよく触るって訳でもないんだし、硬くても関係ないだろ?」
「義足履くの痛くなくなっちゃったらセイカは俺が居なくても移動出来るようになっちゃうじゃないか……俺は車椅子押してあげたい、お姫様抱っこで運んであげたいんだよ、必要とされていたい、俺が居なきゃ生きていけないセイカが欲しい」
「……俺は鳴雷をタクシー代わりにするのは嫌だ。そんな不安そうな顔するなよ……手足が使えたって使えなくたって、俺は鳴雷が居なきゃ生きていけない。鳴雷だけが生きる理由なんだ。鳴雷が死ねって言うなら死ぬし、鳴雷がもう俺のこと要らないって言うなら死ぬよ」
「そう……? そう……なら、うん、我慢する……無理するなよ? 痛かったらアキにおぶってもらえよ? 帰ったらすぐ義足外して断面マッサージして、クリーム塗るんだぞ。アキを頼むからな」
両肩を掴んでしっかりとセイカに言い聞かせ、頷いた彼の唇に唇をほんの少しだけ引っ付けた。
「アキ、今は結構日差しが強いからな……暑さと明るさにも気ぃ付けろよ。何かあったらすぐ電話しろ、セイカを頼むよ」
頬をむにむにと揉みながら顔を上げさせ、唇を重ねた。姿が見えなくなるまで四人に手を振り、サンの方を振り返った瞬間、フタに胸ぐらを掴まれた。
「どういうつもりだてめぇ」
「へっ……?」
怒っている? のか? なんで? 俺は彼氏達と別れの挨拶をしていただけだぞ? 彼氏ならちゃんと駅まで送れってことか?
「みつき、てめぇはサンの彼氏なんだよな? 何他の男と仲良くしてんだよ……友達の域超えてんだろ、流石に分かるぞ。サンが見えてねぇからって目の前でてめぇ……!」
「ま、待ってください待ってください違うんです!」
しまった、サンには付き合う前にちゃんとハーレムのことを話していたけれど、フタには何も言っていなかった。
「何が違うんだよ!」
「サンさんにちゃんと許可取ってます!」
「はぁ!?」
「サンさんサンさん! お兄さんに説明して欲しいっす、せんぱいまた殴られちゃうっすぅ!」
激怒している様子のフタの背後、イヤホンをつけてスマホを弄っていたサンがレイに揺さぶられている。俺達の事態に気付いたサンはフタの肩を掴んで引っ張った。
「兄貴、やめて」
「サン! こいつ浮気してやがる!」
「うん、水月は彼氏が十二人居るんだ」
「は……!?」
フタ、元カレとレイの会話聞いてなかったのかな。
「水月はボクを口説く時にちゃんと説明したよ、今十一人居るけどいいかって、十二人目になってくれないかって。水月以上に創作意欲と性欲を刺激してくれる人間はもう居ないだろうし、ボクは別に独占欲とかないし……絵描いてる日とか恋人に構えない日が多いからね、寂しがられてこっそり浮気されるくらいなら水月みたいに堂々としてくれた方がいいんだよ」
監禁したくせに自己分析では独占欲がないと判断しているのか。いや、でも、他の彼氏に嫉妬する素振りなどを見せたことはないんだよな、サンは。自称する通り独占欲はあんまりないのか……? 寂しがりなだけ?
「…………よく分かんねぇ」
「ボクは、納得してる。満足してる。心配しないで、兄貴。ってこと」
「……サンちゃんがいいならいいけど、いっぱい恋人作るのってアリなんだ、ダメだと思ってた」
「ボクらの父親が何人孕ませたと思ってるの、分かってるだけで三人だよ三人。ボクらの母親はバラバラだろ? 水月は親父よりずっと誠実だよ」
「ふぅん……」
納得してくれたのか? 怒りは鎮まったようだ。
「俺の愛情は割り算じゃなくて掛け算なんです、精一杯サンさんを幸せにしますからどうか信じてください」
「なんで急に算数の話すんの」
「ボクは水月に大切にされてるってことだよ」
「なら、いいけど……サンちゃん泣かしたら許さねぇからな」
いつもぼーっとしていて温厚そうな目が、俺を探していた頃のように鋭く変わって俺を睨む。サンの困りながらも嬉しそうな笑顔がそのすぐ隣にあって、俺はついつい頬を緩めたまま深く頭を下げた。
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