冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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格上同士の戦い

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元カレの子分の一人の腕を折った少年は──アキは、右手をパッと開いて見せた。多分、リュウを離せと伝えたいのだろう。

「…………アイツか」

「痛だだだだっ!? 頭割れるっ、ホンマに割れるてかーくんっ! っちゅうか何普通に出てきとんねんアキくんっ、作戦わやなってもうたやないか!」

《離さねぇな……腕両方折っちゃったし、足かな》

「ひっ……!? ク、クニちゃんっ? 何とかしてっ、足まで折られる!」

元カレは大きく舌打ちをしてリュウの頭を離し、代わりに首根っこを掴み、野球のピッチャーのようなフォームでリュウを投げた。

《バケモンがっ!》

アキは男を離し、ガードレールを飛び越えて車道の真ん中辺りに落ちていくリュウを難なく受け止めた。

「ぁ……ありがとぉアキくん、おおきになぁ、あぁ怖かったぁ……」

《さて、後は兄貴だけだ……兄貴返せ、クソ野郎》

「……電話の相手はお前か。やっぱり英語じゃないな、何語だ? 何て言ってるのか全く分からん」

レイはどこに居るんだろう、さっきまでのアキのようにどこかに隠れているのかな。

「っちゅうかアキくん! 俺が引き付けとる間にシバく言うたやん、なんで出てきてまうん。隠れてこっそり近付く作戦やったやん!」

《うるせぇぜてんしょー、受け止め方に文句でもあんのか?》

「どうするん……真っ向から殴り合うて勝てるような相手とちゃうで」

「てんしょー! にーに、車、運ぶする、するです」

「えぇ? せやからそれするためにかーくん後ろからぶん殴ろ言うてたんやんか……俺上手ぁ引き付けられとったと思うんやけど」

今聞いた情報から察するに、俺を取り返すために危険な作戦を立てていたようだ。申し訳ない、情けない、俺は一人では何も出来ない。その作戦も崩れた今、アキ達はどうするつもりなのだろう。

「水月、立てるか?」

「ん……痛たっ! だっ、大丈夫……大丈夫」

元カレの脇を抜けて走ってきたリュウに肩を貸してもらって何とか立ち上がる。元カレはもう俺に見向きもしない、じっとアキを睨んでいる。

「その新しい子ぉ……サンちゃんが車出してくれてなぁ、このめんか水月かボコられとってもすぐ車に突っ込んで逃げられるよう言うて、近くに停めとんねん。俺が引き付けて、かーくんが水月渡してくれたら、アキくんがかーくんぶん殴って怯ませて、その隙に水月車詰め込んで走らせて逃げる気ぃやってんけど……アキくん出てきてもうたなぁ、なんでやろ、どないしたんやろ……」

強者と戦いたい、なんて少年漫画みたいな動機ではないと思いたい。車があるなら無理矢理にでも乗ってしまえば逃げられそうなものだが、駐車場から車道に出るのも今は難しいだろう。アキに集中しているとはいえヤツの横を抜けていくのは無謀というものだ、多分ノールック攻撃であっさりやられる。リュウが無視されたのは入ってきたからだ、出ていくのは……それも俺は、多分見逃してもらえない。

《不意打ち出来るような隙がねぇんだよなぁ、てめぇ俺が隠れてんの気付いてたろ? どこに居るかまでかは分かってなかったっぽいけどよぉ、存在は確実にだよな。近付いたらぜってぇバレてた。距離詰めずに位置アピって俺に注意向けるってのはいいアイディアだと思ったんだが……この立ち位置じゃ兄貴ら逃げらんねぇなぁ》

「……やる気か? サングラス、外さなくていいのか?」

《しゃーねぇ、軽くバトって位置ズラすか。上手く隙見つけてくれよてんしょー》

「…………割れて目に刺さったなんて後から言っても知らないからな」

顔の前で緩く拳を握り、足を前後に開き、何らかの構えを取った元カレに対し、アキは手をだらんと下げたまま至って普通に元カレに近付いていく。

「……不気味だな」

俺もそう思う。

「えぇ……アキくんやる気やん。どないしよ、脇すり抜けるん……怖いなぁ」

駐車場からの出口はただ一つ、車一台分の広さ。二メートル超えの巨漢がその出口の真ん中に立っていては、ここから逃げ出せない。脇を抜けようとした瞬間に裏拳だとかを食らって二人ともダウンだ。

(せめてわたくしが包丁を離さなければアキきゅんと挟み撃ちで注意を分散させられたのですが……ぅー、包丁、歩道に落ちちゃってますな)

アキが上手く元カレを駐車場の出口から離してくれるのを待つしかない。

「リュウ……アキが、隙作るのを待とう」

「せやなぁ……歳下の子ぉに頼りしかない言うんは、なっさけない話やけど……」

息を呑み、アキの無事と勝利を祈る。じりじりと間合いを詰め合い、先に動いたのは元カレの方だった。

「……慣れてるな」

俺には反応すら出来なかっただろう右ストレートをアキは頭を傾けるだけで避けてみせた。

《デケぇ割には速いな。割には、だけどよ》

小手調べだったのだろうパンチを避けたアキは足を真上に振り上げて顎を狙った。死角だろう位置からの蹴りになんと元カレは反応し、仰け反って直撃を避けた。

「……っ」

顎と靴が微かに擦れ合い、チッと僅かな音が鳴る。仰け反ってバランスを崩した元カレはすぐに足を後ろに出して踏ん張ったが、彼が体勢を立て直すよりもアキが足を下ろす方が速く、アキは手前側の足に回し蹴りを食らわせた──が、元カレはそれ以上体勢を崩すことはなかった。

《かっ……たぁっ!? いってぇ足いってぇ! 何俺今柱蹴ったの!?》

アキは後ろに跳んで距離を取り、元カレの足を蹴った足を軽く振った。

「蹴った方がダメージ受けるタイプ……!?」

「怖ぁ……大丈夫やろかアキくん。お、俺も加勢……」

「ダメダメ絶対ダメ、また投げられるだけだって」

足を引っ張るだけだろうリュウにしがみつきつつ元カレの様子を確認すると、アキに蹴られた足に体重をかけず庇っているような立ち方に変わったことに気付いた。

「効いてる……! アキ! 効いてる!」

《あ……? なんだ兄貴、何聞いてるって? 集中してぇんだから黙ってろ》

「伝わったかなぁ……?」

「どうやろ」

アキの表情はほとんど変わっておらず、考えを読むことは出来ない。戦う上ではポーカーフェイスが大事なのかもしれないが、見守るしか出来ない俺達は不安だ。
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