冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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無人のマンション

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レイのマンションはオートロック。一階で部屋番号を入力してインターホンを押し、その部屋の主に扉を開けてもらって初めてエレベーターに乗れる、素晴らしい防犯システム。

(……レイどの出ねぇ)

元カレと俺を警戒する必要がある今のレイが突然鳴ったインターホンに反応するだろうか? しないだろうな。

(どうしよ……来れば何とかなるなんて、わたくし本当にガキんちょ)

大きな問題にぶち当たっても足掻いていれば必ず何とかなる、概ね望み通りになる、そんな子供らしい全能感は中学生の時に初恋の人からイジメられて捨てたはずなのに、その初恋の人が手に入ってしまったらまた俺は傲慢なガキに戻った。

「はぁ……」

少し行き詰まっただけで八方塞がりになった気分になるのもガキの特徴だ。

「別れるなんて嫌だよ……レイ」

俺に飽きたんだったらまた惚れ直させてみせよう、不治の病なら製薬会社の専務である母に頼もう、元カレ関係の悩みならヤクザのサンに知恵と力を借りよう、そんな他力本願でご都合主義な解決方法しか頭に浮かばない、実際どうしてレイが俺をフったのか分かってもいないのに。

(あぁ……そうか、そうなんですね、レイどの。わたくしが、こんなガキだから……大人なあなたは嫌になってしまったんですね。若さゆえの勢いなんてものに、いつまでも騙されていてくれなくなっただけ……)

自分がどれほどガキで、愚かなのかは理解した。分かったから、分かっただけでも成長だから、成長したから、俺を認め直して。足りないならもっと大人になるまで待って。


そんな身勝手な思考をぐるぐる回していると、扉が開いた。マンションの別の部屋の住民が帰宅したようだ、彼女は蹲っている俺を不審がっているが声をかけることもこの扉を開けないというほどの警戒もせず、鍵を片手にエレベーターへと急いだ。

「…………」

合鍵か住民の許可だけで開く自動ドアを、俺はどちらでもない方法で抜けた。これは犯罪なのだろうか、良くない行為なのは確かだ。

「レイ……」

走ればエレベーターを呼び止めることは出来そうだが、これ以上見知らぬ女性を怯えさせてはいけない。俺はエレベーターの扉が閉まるのを待ち、階数表示が2になってからボタンを押してエレベーターを呼んだ。


女性を送り届けて戻ってきたエレベーターに乗り、8と書かれたボタンを押す。何となく天井を見上げ、待つ。

(これじゃ元カレさんと同じですな。あぁ、わたくしももうレイどの的には元カレか……わたくしは別れたなんて思ってませんが。ぁ、そんなとこまで元カレさんとお揃い、これもうレイどのがそういう人ってことになりません?)

レイの部屋の前に立ち、数分どうでもいいことを考え、震える指で呼び鈴を鳴らした。インターホンは確かに部屋の中に響いたはずだが、反応はない。何度も鳴らすが、無反応のまま。

(ピンポンピンポン聞いてたら頭おかしくなりそうですな)

これ以上は何も望めそうにない。せっかくマンションの中に入れたのに帰るしかないのか? 電車に揺られて、そこそこの距離を歩いて、マンション内に忍び込んで何分もインターホンを押しただけで月曜日が終わり? 帰って他の彼氏を愛でようかって? そんなの嫌だ。


駄々をこねるようにドアノブを掴んだ。インターホンを連打するだけでも怖いだろうに、ドアノブをガチャガチャ揺らされたらレイは恐怖で泣き出してしまうかもしれない。俺をフるからだ、泣けばいい。

「……っ!?」

ガチャリ、と扉が開いた。開いてしまった。鍵がかかっていなかった。驚いてドアノブから手を離すと扉は勝手に閉まり、辺りに静寂が戻った。騒がしいのは俺の心臓だけだ。

(は……? えっ……? 開いてる? なんで? たまたま? たまたま鍵かけるの忘れた? でも、それなら、わたくしが固まってる間にかけ直すべきですぞレイどの。まだ寝てる? 昨日鍵をかけ忘れたことに気付かないままぐっすり寝てる?)

眠っているレイの姿を瞼の裏側に再生した俺は、気付けば再びドアノブを握っていた。まるで住民かのように自然に扉を開けて中へ入り、流れるような手つきで鍵をかけた。

「…………」

息を殺して、足音も殺して、罪悪感まで殺して、寝室に入る。しばらく厄介になった身だ、部屋割りくらい完璧……居ない、レイが居ない。眠っていない? じゃあ仕事部屋か?

「居ない……」

トイレの扉が開いている、でも中には居ない。ダイニングにも風呂場にも居ない。留守だ。

「……俺をフった次の日にふらふらお出かけかよ、いいご身分だな……どこ行ったんだよ、クソ……待っててやる、待ち伏せしてやる……」

ぶつぶつ呟きながら寝室のクローゼットの中に隠れ、レイが帰ってくるのを待った。けれどいつまで待っても帰ってこない、扉の方で音がしたら一旦隠れて、それまでは普通にくつろがせてもらおう。

「もしもしー? リュウ? 今大丈夫?」

『あっ、水月ぃっ? 今っ、今な、ちょお待って……んぁあっ!? アキくっ、手ぇ止め、ちょお待ってぇっ、助けてせーかぁ!』

退屈だったのと、このままここで待っていていいのかの相談のためリュウに電話をかけると、電話の向こうでは嬌声が響いていた。

『はぁっ、はぁっ……ぉ、お待たせ。アキくんと、どの玩具がいっちゃん気持ちええんかトーナメント開催してて……イくタイムで強さ測っとってんけど、あかんわ。俺どんどんイきやすなっとる、後の玩具が有利や……』

「バカじゃねぇの」

『へへへ……ほんで、どないしたん? このめんと復縁出来そうなん?』

「ゃ、レイ……家に居なくてさ、でもドアに鍵がかかってなくて、とりあえず今レイの部屋でレイ帰ってくるの待ってるんだけど、俺このままここに居ていいのかな。なんか冷静になってきてさぁ、流石にヤバくないかなって」

『アホちゃう』

状況説明の後の一言がほぼ同じ、俺達は仲がいいネ!

「やっぱりまずいかなぁ」

『あかんやろ、彼氏のまんまでもギリギリやのに彼氏辞めたい言うとるヤツにそれやったらもうあかんわ。ストーカーや、犯罪者や、異常者や、変態や』

「……だよ、な。マンションの下で待とうかな、ありがとう、目が覚めた……っ!? ヤバいレイ帰ってきたかもごめん切る!」

玄関の方から物音がする、俺は慌てて通話を切ってクローゼットの中に隠れた。スマホの音を消し、リュウからの折り返しの着信に備えたが、その必要はなかった。ちゃんと状況を理解してくれているようだ、助かる。

(ヤバいヤバいヤバいどうしよう靴玄関に置いたまんまでそ!)

こっそり出ていくことは出来るだろうか、いや、こうなったらレイとここで話をつけよう。

「……ほら見ろ、ちゃんと鍵をかけてただろ」

「覚えてないとか曖昧なこと言って不安にさせたのくーちゃんっすよ!」

レイの声、と……何? 誰? くーちゃん……形州 國行? 元カレ? なんで? 浮気? 二股? どういうことだ?

「あっ……ほら鍵入れにスペアキー置きっぱじゃないっすか!」

「……じゃあお前のパーカーに入ってたそれで鍵かけたんだ、覚えてないけど」

「ふんっ、まぁ鍵かかってたんでいいっすけど」

「…………さっさと仕事道具を取ってこい」

仲良さそうに話してる。鍵の話? 何……家の周りをうろついていて困ってるとかいうのは、嘘? 本当は合鍵でも渡していたのか? じゃあ元カレが執拗にレイを探していたのは何? ダメだ、考えがまとまらない、何も分からない、もうしばらく隠れて彼らの様子を伺おう。
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