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十二分の一じゃないから

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何を、言った?

「あ、ええのん? 今の嬉しかったんや。まぁ分かるわぁ、嫌なやり方でも傍に置いときたいっちゅうのんが見せられるんはええかも……なぁ、鳥待」

「……執着される心地良さ、ですか。私にはまだよく分かりません。ので水月、私にもしてみてください」

「あっずるいわ、水月ぃ俺もぉ」

俺は今、セイカに何を言った? にこにこと笑って俺を見上げている可愛いセイカに、なんてことを言ったんだ。虐めた詫びに俺に惚れろ? 申し訳ないと思ってるなら傍に居ろ? セイカに帰る場所なんてない? セイカを愛しているのは俺だけ? なんでそんな暴言を吐いた、レイのことでもういっぱいいっぱいなのに、どうして、俺は一体何をしているんだ、よりにもよってこんな時に。

「鳴雷、鳴雷……えへへ」

「……ち、がう……セイカ、昔のことは……気にしないでくれっ。俺はっ、セイカの意思で、セイカが望むなら、俺の傍に居て欲しいって……こ、こんな、俺、こんな、ぁ……セっ、セイカはみんなに愛されてるよ。なぁっ、シュカ! リュウ! セイカ好きだよなっ?」

「まだあんまり話したことないので……」

「まぁ、ええ子や思うで。っちゅうかセイカ喜んどるんやしそない焦って取り繕わんでもええんちゃう?」

「ホムラもアキもセイカが大好きだぞ! アキ……? アキはどこだっ? そういえばさっきから居ない! 見てない! シュカとずっとヤってたから拗ねたっ? お、ぉっ、俺のこと嫌いになって家出とかっ」

「いい加減落ち着きぃ! アキくんはサウナや!」

「サウナ、サウナか、よし」

アキに会うため俺はダイニングの窓を開けてウッドデッキを数歩歩き、三人の彼氏を置いてきていることに気付いて踵を返した。

「みんなっ、一緒に行こう」

「ええけど……」

「私立てませんよ」

「俺も義足履かないと……」

「二人とも俺が運ぶよ」

シュカをおぶってセイカを抱える、俺の頭に浮かんだのはそれ一つ。二度に分けたりセイカに義足を履かせる選択肢はなかった。

「ま、待って待って、落とされそうで怖いっ。俺自力で行くから」

「……せーかは俺が運んだるわ」

抱えていたセイカがリュウにひょいっと奪われる。

「え、ぁ、天正っ? 俺自分で歩ける……」

「ええよええよ、楽な方選んだだけや。せーかのが軽い」

「どういう意味ですかそれ」

「俺の背中で暴れないでくれ。行くぞ」

リュウが運んでくれるなら安心だ。喧嘩を始めそうなシュカを抱えてさっさとアキの元へ向かった。アキはサウナでもプールでもなく部屋に居り、頭にタオルを被っていた。

「アキくん、もうサウナ終わったん?」

「アキ……! シュカ、下ろすぞ」

シュカをベッドに下ろし、サウナからのプールを終えたばかりなのだろうアキの前に屈む。

「にーに?」

「アキ……アキ、お兄ちゃんのこと……好きか?」

「……? にーに? ぼく、にーに、好きです」

「好き? 本当? 本当にお兄ちゃん好き? よかった……」

笑顔で俺のことが好きだと即答してくれたアキは満面の笑みを浮かべており、とても可愛らしい。俺を好いているのは本心だろう、信用していいと思う。

「……ヤバない? 一人にフラれたかもしれんってだけでこれやで、十二人も彼氏居るくせに」

「ヤバいですね、水月が気持ち悪いくらいに私達を好きなのは知っていたつもりでしたが、フラれるとこうなるんですね……しばらくは鬱陶しいのが続きそうです」

「…………ほんまに水月フラれたんやろか。おかしない? このめんやで? 水月好き過ぎてカメラ仕掛けとるようなやっちゃで」

「そのせいで幻滅したとか?」

ひとまずこの場に居る彼氏達はまだ俺から離れるような兆候は見せていない、一安心だ。しかしまだまだ油断出来ない、レイの問題が全く解決していない、一歩も前に進んでいない。

「……レイ」

「お、ふりだしに戻ったみたいやで」

「相談乗るんですか? 面倒臭そう……」

「レイは……少し前に、本屋のバイト辞めて……リフォーム終わってレイの家に泊まらなくなってからは、元カレが家の周りウロウロしてるのもあって、あんまり会えてなくて……で、でも、電話も、メッセージも……やり取りずっとしてて、カメラに話しかけたりもしてて…………ぁ、こ、こないだのメッセのやり取り見てくれっ、俺と別れたそうな素振りなんて少しもないんだ!」

俺はレイとのメッセージのやり取りを彼氏達に見せつけた。

「……冷静んなって恋人同士のやり取り見るんキッツいわ。ゲロ甘……胸焼けしそうや、俺も似たようなやり取りしとったん思い出してなんや恥ずかしゅうなってきた、何が「ちゅき」や……恥っずぅ」

「最近返信出来ていなかったんですけど、その間も水月は数十通送ってきてましたよね、私に」

「あぁ、だからレイとはちゃんと心が通じ合ってたはずなんだけど……」

「正直ちょっと気持ち悪いですし、鬱陶しいです。メッセージの送り過ぎは普通に別れる一因ですよ、一般的に考えても」

想像もしていなかった原因を提示され、硬直する。

「ぇ……でっ、でも! レイはこういうの喜ぶタイプだぞ!? 前に「せんぱいメッセいっぱい送ってきてくれるの嬉しいっす」って言われたことあるし!」

「まぁ確かに、木芽さんの返信の文面から見てもこういう面倒臭いのを好みそうな気はしますが」

シュカはメッセージを何通も送られるのが嫌なタイプなのだろうか。今後は少し控えようかな。

「木芽さんとはあまり話したことがないんですよね、人柄がよく分からないと言いますか……天正さんは木芽さんと、どうでした?」

「それなりやね。このめんほんまに水月水月っちゅう感じの子で他のもんとはそこまで……ぁ、せんぱいせんぱいか。水月のことせんぱい呼んでたもんなぁ」

「つまり、私達に相談しても無駄ってことですよ。さっさと電話でもして直接話すべきだと思いますね」

「さっきから掛けてるんだけど出なくてさ……」

別れて欲しいというのはどういうことなのかと、一度電話で話したいとメッセージも送っているのだが、返信どころか既読もつかない。今はスマホを見ていないのだろうか。

「……レイ、元カレにしばらく放ったらかしにされて、寂しくて浮気したことがあるって言ってたんだよ。だから……電話やメッセだけじゃ物足りなくて、寂しくて、もう嫌だって、別れるって言ってるのかなって……もっと会いに行くべきだったのかな」

「知りませんよ」

「でもさ……元カレの時は元カレが悪かったんだよ。レイを雑に扱ってさ! あんなおっきい雄っぱい居ない……じゃなくて! あんなそこに居るだけで人を威圧するようなヤツ、繊細なレイには合わないんだ! 俺の時とは事情が違う……!」

「知りませんって……」

「このめんの元カレってかーくんやったっけ」

「……お前本当誰とでも仲良くなれるな」

「かーくんええやつそうやったけどなぁ……」

確かに、あの雄っぱいはすごい。ん? 違う違う、不良としてはカンナをカツアゲした連中よりはずっとマシではありそうだったが、それと恋人と上手くやれるかは別だ。

「っていうかその元カレさん関係ないでしょ、元カレなんですから」

「それもそうだな……あぁ、レイ……電話出てくれよぉ」

「……水月と別れるんやったらより戻したりとかあるんちゃう? 向こうは未練あるんやし」

「まさか。木芽さんは霞染さん以上に女々しいんですよ、女の恋愛は上書き保存って言うでしょう。男が元カノとはヤれたらヤるのと違って、元カレは本気で嫌いになるものですよ」

「ろくに恋愛しとらんくせにえらっそうに……」

とにかく、レイと一度会って話がしたい。今日はもう遅いから明日にでも会う約束を取り付けたい、なのに電話が繋がらずメッセージも既読がつかない。八方塞がりの現状に俺は深い深いため息をついた。
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