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超ショック
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膝が痛い、ショックで崩れ落ちた時に打ったみたいだ。水月と俺を呼ぶ声が遠く聞こえる、俺はプールの底に沈んでいて、プールサイドから呼びかけられているみたいに遠くに──バチン、と頬に痛み。
「水月! 水月っ! 返事をしてください、私が誰か分かりますか!?」
シュカに平手打ちをされたようだ。
「落ち着けや鳥待、ちょぉショック受けとるだけやて」
「ぁ……ごめんごめん、心配かけたな」
突然膝から崩れ落ちては彼氏達を心配させてしまう。彼氏……レイはどういうつもりでこんな文章を送ってきたのだろう。そうだ、まだフラれたと決まった訳じゃない、送る相手を間違えたとかかもしれない、ちゃんと話さないと、せめて電話だけでも……
「水月、水月? 水月、私は誰ですか?」
「えっ? あ、あぁ、シュカ……鳥待 首夏。俺の可愛い恋人だよ。ごめんな、ちょっとショックで……大丈夫だよ」
「焦り過ぎやで、どないしたん。音信不通の間なんかあったん?」
「……何もないですよ。確かに、取り乱しましたね。失礼しました」
誰にも会わず、連絡も取らず、自分を忘れてしまった母親の世話に追われて十日以上過ごしていたのだ。多少調子が違うのも仕方のないことだろう。って、今は自力でどうとでもなりそうなシュカではなく、レイのことを考えなければ。
「えっ……と、どうしよう……どう、しよう」
「とりあえず返信か電話かしたええんちゃう?」
「で、でもさぁ……よく見たらこのメッセ、結構前に送られてきてて……今頃返信って。なんか……こう、本気度がアレって言うか、もう手遅れじゃないかな……」
「遅れとる自覚あるんやったらはよし! このままグダグダしとったら既読無視の罪まで加算されてまうで」
「あっ、そ、そうだな、開いちゃったもんな。返信、ぁ、でも、先に母さんに連絡入れないとお前らの飯が」
「もー、うだうだしとるなぁ。はよしぃ!」
「関西人はせっかち……」
「今は急がなあかんやろ! せっかちちゃうし関西関係ないわ!」
シュカとリュウが喧嘩を始めてしまったが、仲裁している暇はない。母に電話をかけつつセイカに視線を送る。
「……! ふ、二人とも、やめて……」
期待はしていなかったがセイカは俺の意図を汲み取って仲裁を始めてくれた、成功を祈ろう。
「あ、もしもし母さん? 今日彼氏が泊まりに来てくれてて、うん、二人……だから、あの、晩ご飯お願いしたくて……うん、えっ? ぁ、そうなんだ……分かった。うん、ばいばい」
母との通話を切り、レイに電話をかける。
「……あっ、母さん今日は遅くなるみたいだからさ、自分で飯作って食えって……うわ電子マネー送ってきた。えっと、だから……食べたいもの相談して決めといてくれ、俺は激辛とかの極端なものじゃなけりゃなんでもいいや。検索してレシピ出てくるものなら作れると思うから、遠慮はするなよ」
「おー……このめんに電話はええんか?」
「今かけてるけど全然出なくて……メッセなんか送った方がいいかな。何送ろう、これ本当に俺宛かな?」
「あなた宛じゃなきゃ浮気してたってことになっちゃいますよ」
レイの職業がイラストレーターでなく、漫画家だとかだったら編集者とセリフの相談をしていたとかいう無茶な解釈も出来るのに。
「……せやけど、このめん……水月大好きやで? 俺らん中でも一二を争うで?」
「そうですねぇ、でもまぁ、人の気持ちなんて変わるものですし……あの方、惚れっぽそうじゃないですか」
「この顔のんと付き合っといて他のんに惚れることあるか?」
「より優秀な人間に惚れるのなら、どこの国も一夫多妻制ですよ。遺伝子が噛み合う相手ってのが居るもんです、酷いブサイクでも美女と結婚したりするでしょう。意外と金目的じゃなく、普通に恋愛結婚なことが多いそうですよ」
「遺伝子てそんな、んなもん参考に恋人選ぶような効率ええ生きもんやったら同性好きになれへんやろ。種残されへんもんが遺伝子選んでどないすんねん」
「……恋は理屈じゃないんですよ」
「さっきと言うとること違うがな! 恋は遺伝子が噛み合う相手探す言うことなんやろ?」
「イケメンで金持ってても性格合わなきゃやってけませんし、優しくても虫しか食わないとか生乾きのタオル放置して平気とか一度にティッシュ三枚使うとか色々あるでしょ許容範囲を超えることが! 価値観の擦り合わせが遺伝子がアレだとなんかこう、アレ、手間が省けるんです! 子孫を残せなかろうが一緒に過ごすならそういうの大事でしょう」
「今考えたようなことよぉ自信満々に言えたもんや。論文持ってきぃ、話はそれからや……なんの話しとったんや?」
「……木芽さんが水月以外に惚れるのかという疑問を話していましたが、そもそも好きな人が他に居るから別れたいとか言ってきた訳じゃありませんでしたね」
「別れて欲しいとしか言うてへんなぁ、情報不足や。しっかしよっぽど嫌やなかったら次の恋人候補見つけてへんのにフるっちゅうんも考えにくない?」
「…………水月何かしました?」
それを今もずっと考え続けているんだ。最近会う機会が減っていたけれど、電話やメッセージのやり取りは頻繁だったし、テディベアに仕込まれた盗撮カメラへの挨拶などもちゃんとしていた。
「心当たりはなさそうですね」
「心当たり今パッと思い付くんやったらフラれる前に改善しとるやろ。自分では分からんあかんとこあったんちゃう? 鳥待なんや思い付かんか、水月の欠点」
「…………そんなこと言うってことはリュウ、俺に何か不満があるのか?」
「は?」
「そうだよ……さっき、怒ってたよな。俺がどうしようどうしようってぐずぐずしてたから……うだうだするなって、はよしって……こういう時にモタモタするヤツってムカつくよな、お前はSなご主人様が欲しい訳だし? こ、こんな、情けない俺が嫌になったんじゃ、お前まで俺をフったりするんじゃないだろうな!」
「落ち着きぃな水月、俺は水月に不満なんかあらへん。ぐずつくもんはムカつくけど、そん時だけや。俺は不慣れやのに頑張ってご主人様やってくれとる水月の健気なとこも好きなんやで、完璧なご主人様なんか求めとらへんよ。水月にご主人様演って欲しいだけやねん、水月やないとあかん」
「…………そ、うか。ぁ……ご、ごめん、レイのことでちょっと……ごめん、疑ってたとかじゃなくてさ、俺、俺……ぁ、シュカ、シュカっ、勝手に家入ってごめんな? 家来られるの嫌だったよな、ごめんな? 俺のこと嫌ってないか? 今晩何食べたい?」
「水月、落ち着いてください。私達はあなたを愛しています、今の不安要素は木芽さんだけ……でしょう?」
そうだ、落ち着け、取り乱し過ぎだ。レイはもしかしたら俺に愛想が尽きたのかもしれないが、他の彼氏達はまだ俺を好きでいてくれている……そう、まだだ、俺にベタ惚れだと思っていたレイが俺に愛想を尽かすのなら、他の彼氏達も近いうちに? 嫌だ、そんなの嫌だ。
「……鳴雷、また呼吸早くなってきてる。さっきちょっと落ち着いたのに……鳴雷、過呼吸になっちゃうからちゃんとリズムを……鳴雷?」
「セイカ、セイカ……セイカは、俺を虐めたよな、俺に酷いことしたよな」
「……っ、うん……し、た。ごめんなさい……」
「…………水月、今そんなん関係あらへんやろ」
「詫びろよ、俺に。詫び続けろよ。虐めたこと申し訳ないと思ってるなら、俺のこと好きでいろよ? 傍に居ろよ。俺だけ、セイカには俺だけだよな、なぁセイカ、帰る場所なんかないだろ? セイカのこと愛してるのは俺だけだ、俺のとこに居るよな?」
「水月! やめ。そんなん言う方が嫌んなるわ。なぁせーか」
「……ううん、嬉しい……鳴雷が、こんな……なんか、変な感じになっちゃうくらい、俺のこと欲しがってくれてるの……幸せ」
うっとりとした表情で見上げられ、呼吸が落ち着いていく。同時に先程のセイカへの最低な発言をクリアになっていく頭で反芻して、この場から消え去りたいような気持ちになった。
「水月! 水月っ! 返事をしてください、私が誰か分かりますか!?」
シュカに平手打ちをされたようだ。
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「ぁ……ごめんごめん、心配かけたな」
突然膝から崩れ落ちては彼氏達を心配させてしまう。彼氏……レイはどういうつもりでこんな文章を送ってきたのだろう。そうだ、まだフラれたと決まった訳じゃない、送る相手を間違えたとかかもしれない、ちゃんと話さないと、せめて電話だけでも……
「水月、水月? 水月、私は誰ですか?」
「えっ? あ、あぁ、シュカ……鳥待 首夏。俺の可愛い恋人だよ。ごめんな、ちょっとショックで……大丈夫だよ」
「焦り過ぎやで、どないしたん。音信不通の間なんかあったん?」
「……何もないですよ。確かに、取り乱しましたね。失礼しました」
誰にも会わず、連絡も取らず、自分を忘れてしまった母親の世話に追われて十日以上過ごしていたのだ。多少調子が違うのも仕方のないことだろう。って、今は自力でどうとでもなりそうなシュカではなく、レイのことを考えなければ。
「えっ……と、どうしよう……どう、しよう」
「とりあえず返信か電話かしたええんちゃう?」
「で、でもさぁ……よく見たらこのメッセ、結構前に送られてきてて……今頃返信って。なんか……こう、本気度がアレって言うか、もう手遅れじゃないかな……」
「遅れとる自覚あるんやったらはよし! このままグダグダしとったら既読無視の罪まで加算されてまうで」
「あっ、そ、そうだな、開いちゃったもんな。返信、ぁ、でも、先に母さんに連絡入れないとお前らの飯が」
「もー、うだうだしとるなぁ。はよしぃ!」
「関西人はせっかち……」
「今は急がなあかんやろ! せっかちちゃうし関西関係ないわ!」
シュカとリュウが喧嘩を始めてしまったが、仲裁している暇はない。母に電話をかけつつセイカに視線を送る。
「……! ふ、二人とも、やめて……」
期待はしていなかったがセイカは俺の意図を汲み取って仲裁を始めてくれた、成功を祈ろう。
「あ、もしもし母さん? 今日彼氏が泊まりに来てくれてて、うん、二人……だから、あの、晩ご飯お願いしたくて……うん、えっ? ぁ、そうなんだ……分かった。うん、ばいばい」
母との通話を切り、レイに電話をかける。
「……あっ、母さん今日は遅くなるみたいだからさ、自分で飯作って食えって……うわ電子マネー送ってきた。えっと、だから……食べたいもの相談して決めといてくれ、俺は激辛とかの極端なものじゃなけりゃなんでもいいや。検索してレシピ出てくるものなら作れると思うから、遠慮はするなよ」
「おー……このめんに電話はええんか?」
「今かけてるけど全然出なくて……メッセなんか送った方がいいかな。何送ろう、これ本当に俺宛かな?」
「あなた宛じゃなきゃ浮気してたってことになっちゃいますよ」
レイの職業がイラストレーターでなく、漫画家だとかだったら編集者とセリフの相談をしていたとかいう無茶な解釈も出来るのに。
「……せやけど、このめん……水月大好きやで? 俺らん中でも一二を争うで?」
「そうですねぇ、でもまぁ、人の気持ちなんて変わるものですし……あの方、惚れっぽそうじゃないですか」
「この顔のんと付き合っといて他のんに惚れることあるか?」
「より優秀な人間に惚れるのなら、どこの国も一夫多妻制ですよ。遺伝子が噛み合う相手ってのが居るもんです、酷いブサイクでも美女と結婚したりするでしょう。意外と金目的じゃなく、普通に恋愛結婚なことが多いそうですよ」
「遺伝子てそんな、んなもん参考に恋人選ぶような効率ええ生きもんやったら同性好きになれへんやろ。種残されへんもんが遺伝子選んでどないすんねん」
「……恋は理屈じゃないんですよ」
「さっきと言うとること違うがな! 恋は遺伝子が噛み合う相手探す言うことなんやろ?」
「イケメンで金持ってても性格合わなきゃやってけませんし、優しくても虫しか食わないとか生乾きのタオル放置して平気とか一度にティッシュ三枚使うとか色々あるでしょ許容範囲を超えることが! 価値観の擦り合わせが遺伝子がアレだとなんかこう、アレ、手間が省けるんです! 子孫を残せなかろうが一緒に過ごすならそういうの大事でしょう」
「今考えたようなことよぉ自信満々に言えたもんや。論文持ってきぃ、話はそれからや……なんの話しとったんや?」
「……木芽さんが水月以外に惚れるのかという疑問を話していましたが、そもそも好きな人が他に居るから別れたいとか言ってきた訳じゃありませんでしたね」
「別れて欲しいとしか言うてへんなぁ、情報不足や。しっかしよっぽど嫌やなかったら次の恋人候補見つけてへんのにフるっちゅうんも考えにくない?」
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「心当たりはなさそうですね」
「心当たり今パッと思い付くんやったらフラれる前に改善しとるやろ。自分では分からんあかんとこあったんちゃう? 鳥待なんや思い付かんか、水月の欠点」
「…………そんなこと言うってことはリュウ、俺に何か不満があるのか?」
「は?」
「そうだよ……さっき、怒ってたよな。俺がどうしようどうしようってぐずぐずしてたから……うだうだするなって、はよしって……こういう時にモタモタするヤツってムカつくよな、お前はSなご主人様が欲しい訳だし? こ、こんな、情けない俺が嫌になったんじゃ、お前まで俺をフったりするんじゃないだろうな!」
「落ち着きぃな水月、俺は水月に不満なんかあらへん。ぐずつくもんはムカつくけど、そん時だけや。俺は不慣れやのに頑張ってご主人様やってくれとる水月の健気なとこも好きなんやで、完璧なご主人様なんか求めとらへんよ。水月にご主人様演って欲しいだけやねん、水月やないとあかん」
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「水月、落ち着いてください。私達はあなたを愛しています、今の不安要素は木芽さんだけ……でしょう?」
そうだ、落ち着け、取り乱し過ぎだ。レイはもしかしたら俺に愛想が尽きたのかもしれないが、他の彼氏達はまだ俺を好きでいてくれている……そう、まだだ、俺にベタ惚れだと思っていたレイが俺に愛想を尽かすのなら、他の彼氏達も近いうちに? 嫌だ、そんなの嫌だ。
「……鳴雷、また呼吸早くなってきてる。さっきちょっと落ち着いたのに……鳴雷、過呼吸になっちゃうからちゃんとリズムを……鳴雷?」
「セイカ、セイカ……セイカは、俺を虐めたよな、俺に酷いことしたよな」
「……っ、うん……し、た。ごめんなさい……」
「…………水月、今そんなん関係あらへんやろ」
「詫びろよ、俺に。詫び続けろよ。虐めたこと申し訳ないと思ってるなら、俺のこと好きでいろよ? 傍に居ろよ。俺だけ、セイカには俺だけだよな、なぁセイカ、帰る場所なんかないだろ? セイカのこと愛してるのは俺だけだ、俺のとこに居るよな?」
「水月! やめ。そんなん言う方が嫌んなるわ。なぁせーか」
「……ううん、嬉しい……鳴雷が、こんな……なんか、変な感じになっちゃうくらい、俺のこと欲しがってくれてるの……幸せ」
うっとりとした表情で見上げられ、呼吸が落ち着いていく。同時に先程のセイカへの最低な発言をクリアになっていく頭で反芻して、この場から消え去りたいような気持ちになった。
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