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お昼ご飯は町中華に

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シュカは暴力的なツンデレだ。照れ隠しにツンツンした態度を取って、たまに暴力を振るう。でも二人きりになったりするとデレてくれる、甘えてくれる。そのギャップがたまらないのだが、今回はシュカの自宅に来ているので自動的に二人きりとなり、ツンなしのデレだけを楽しめるという訳だ。

「ん……」

頭を撫でられるために俯いているから表情は分からないけれど、多分喜んでくれているのだろう。

(髪濡れてるの頭のてっぺん手前辺りだけですな、後頭部も側頭部も新しく濡れてはいませんぞ。さっき寝ながらシャワー浴びてたから全体的に湿ってはいますが……ぉ?)

シュカが不意に顔を上げ、撫でる手を止める。

「もういいのか?」

「……ええ、ありがとうございました。お腹が空いているのを忘れてしまうところでした。水月、外へ食事に行きましょう。準備をするので少し待っていてください」

「靴取ってくるよ」

窓から入った俺の靴は庭に置きっぱなしなので、それを取って窓を閉め、窓の鍵をかけ、靴を玄関に運んだ。シュカはまだかなと彼の部屋の扉を見つめていると、トントンと玄関扉が叩かれた。

(……っ!? びっくりしたぁ……そっかこの家インターホン壊れてましたな。誰でしょう、わたくしが出るのはまずいですよな)

どうするべきか悩んでいるとシュカが部屋から出てきた、ナイスタイミングだ。

「シュカ、シュカ、誰か来てる……!」

「私が呼んだ方です、そんな声を小さくしなくても大丈夫ですよ」

シュカは躊躇なく扉を開け、恰幅のいい女性を招き入れた。

「……親戚の方?」

「…………ホームヘルパーの方です。少しお話があるので先に外に出ていてくれますか」

「え、ぁ……うん」

閉め出されて数分後、シュカが出てきた。

「お待たせしました」

「いや、いいよ。行こっか、何食べたい?」

「ラーメン以外なら何でも構いません」

「博多出身のくせに……」

俺の家に遊びに来る際、制服のままだったり制服とほとんど同じ見た目の私服を着ていたりするシュカだが、今日はどちらとも違う。制服に似ていない私服だ。

「にしてもシュカ、今日の服──」

飢腸轆轆とゴシック体で書かれたTシャツ、深緑のカーゴパンツ、デニム生地の青っぽいサンバイザー、目立つ赤色のスニーカー。

「──なんか、新鮮だな」

少しは色を統一した方がいいんじゃないかとか、その四文字熟語ゴシック体Tシャツシリーズはどこで買い集めてるんだとか、そういうのは言わないでおこう。

「そうですか?」

「うん、シュカいつも制服っぽいの着てたから。そのスニーカー見たことないけど買ったのか?」

「はい、以前まで履いていた物が破れてしまって」

「スニーカー破れるまで履いたのか……シュカは物持ちがいいなぁ」

「褒めてるんですか? それ。あ……水月、あの店入りましょう」

シュカの人差し指の先にあったのは小さな町中華。

「いいけど、ラーメン嫌なんじゃなかったのか?」

「ラーメンなんか頼みませんよ、あの店の炒飯が好きなんです」

近所の町中華ともなれば常連客なのは自然なこと。店に入るとシュカは店員と顔見知りのように接し、カウンター席に座った。

「今日でスタンプが十個溜まるので餃子一皿タダになります」

「よかったな」

「水月もスタンプカード作りませんか?」

「ゃ、俺はそんな頻繁に来ないと思うし……」

シュカはもう注文するものが決まっているようなので、俺だけメニューを見せてもらった。

「決まりました?」

「今見たばっかだよ、ちょっと待ってくれ」

「…………決まりました?」

「いや……どうしようかな」

「……まだですか?」

「先に注文しろよもぉ~……」

別々に注文するという発想はシュカにないらしく、足をぷらぷら揺らしながら退屈そうに俺が注文を決めるのを待っている。

「…………」

「決まりましたか?」

「いやぁ、可愛いなぁと思って」

退屈しのぎの仕草も、俺を見つめる切れ長の瞳も、何もかも可愛い。もう少し見つめられていたいから、もう少し注文は決めずに──痛い、蹴られた。

「痛い痛い! 分かった決めたよごめんごめん」

「ふんっ……すいませーん。炒飯と五目炒飯と天津飯と青椒肉絲……水月、餃子と唐揚げ食べますか?」

「食べたいな」

「餃子二人前。唐揚げも二人前お願いします。水月、メインは?」

「俺五目ラーメン」

「以上で」

カウンター席からだと厨房が稼働し始めたのがよく見える。ランチタイムをかなり過ぎた今、店内はガラ空きだ。カウンター席の端っこではさっき注文を取っていった店員が賄いを食べ始めた。

「鳥くーん、その子友達? カッコいいね」

食べながら話しかけてきた!?

「彼氏です」

「あっ言っちゃうんだ……」

「へー、じゃあデートだ。ムードない店来たね」

「昼飯にムードなんか必要ありませんよ」

店員との距離が近い店は苦手だ……

「お待ち」

「あっ、ありがとうございますぅー……シュカ、来たぞ」

注文した料理が届き始めた。シュカが頼んだ物は多いので全て一気に来ることはない。

「ん、熱っ……美味しい」

卵、肉、野菜などが入った五目ラーメン。まずはスープを一口、うん美味しい。

「炒飯が美味いと言っているのにラーメン頼みやがって」

「ウチのイチオシはラーメンだよ」

「って店の人が言ってるぞ」

「この店で一番美味いのは炒飯ですよ、炒飯推しなさい」

「どうせラーメン食ったことないんだろ? 全部食わずにランク決めちゃうのは水月くんよくないと思うな、一口やるから食えよ」

「嫌です」

肉と野菜と麺をバランスよく乗せてレンゲにミニラーメンを作ってみたのに、見もせずに拒絶された。

「一口ずつ交換しよぉよぉ~、ランチデートの醍醐味だろぉ?」

「じゃあ後で餃子交換しましょう」

「味一緒じゃん!」

と軽い言い争いにはなったが、餃子が届いた後俺達は一口ずつ食べさせあった。当然ながら味は変わらないのだが、シュカの照れた表情がスパイスになって自分で食べた時よりも美味しく感じた。
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