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努力はなでなでの引き換え券

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敷布団になって数十秒後、シュカが寝息を立てているのに気付いた。その様子からアキとセイカを思い出す、彼らも俺に引っ付いてすぐに眠った。

「シュカ……?」

髪がまだ濡れているのにだとか、掛け布団もないとまずいんじゃないかとか、色々と言いたいことはあったけれど、全部飲み込んで敷布団に徹した。

(シュカたまが安眠出来る場所になってあげたいとは思っていましたが、物理的にそうなりたいとは考えていませんでしたぞ。私が想定していたのは添い寝くらいで……)

今までの添い寝などでは経験出来なかったシュカの重さは、騎乗位の時に感じるものとは違う。今は仰向けの俺の上にうつ伏せになっているからという体勢の違いはもちろん、シュカが眠っていて完全に脱力しているからというのもある。幸せな重みだ。

(まぁ、敷布団も敷布団で悪くないですな)

密着している部位が多い、シュカの体温や感触が全身に伝わってくる。興奮してきた。

(くぅう……昨日結局アキきゅんもセイカ様も抱かせてくれなかったんですよな。サンさんは一日一回二回しか抜いてくれませんでしたし……溜まってるんでそ! 溜まってるのにぃ……この状況! 地獄!)

疲れ切っている様子のシュカに手を出す訳にもいかず、俺は悶々としたまま数時間敷布団として過ごした。

「ん……ふわぁ…………ぁ? 水月?」

「…………あ、シュカ。起きたか? おはよう」

「……おはようございます」

ゆっくりと起き上がったシュカは周囲を見回し、俺の上からどいた。

「痛たたたた……ぁー、背中痛ぁ……」

「…………あっ、やばい寝過ぎたっ」

慌てて部屋から出ていったシュカを追い、キッチンへ。

「シュカ? あ、昼飯か? 手伝うよ」

パックの米をレンジに入れ、味噌汁を作るためなのか湯を沸かし、魚の干物をコンロに入れていたシュカに声をかけると、彼はこっちにやってきた。

「水月はここです」

シュカの私室に戻された。

「シュカ? 俺も手伝うよ、料理はレシピ通りに作れるレベルの腕前だ」

「私のお願いを一つ聞いて欲しいんです」

「なんだ?」

シュカは勉強机の引き出しに入れてあったイヤホンを取り、先端を軽くティッシュで拭ってから俺に渡した。

「私が部屋に帰ってくるまで音楽を聞きながらじっとしていて欲しいんです」

「……分かった」

「私セレクトの音楽です、別の聞いちゃ嫌ですよ」

「シュカの趣味が知れる貴重なチャンスだ、そんなことしないよ」

イヤホンをセットするとシュカは自身のスマホを操作し、音楽を流し始めた。ロックだろうか? かなり激しい、というかうるさい。

「……シュ、シュカ? ちょっと音量下げてもいいかな?」

「このままです」

一瞬だけ右耳のイヤホンを外してそう言われた。また部屋を出ていったシュカが扉を閉じた音すら聞こえなかった。



曲は変わっているはずなのに、曲の切れ目が分からない。静かになる瞬間が一瞬足りとも存在しない。何曲聞いたのか、シュカが部屋を出てからどれくらい経ったのか、どちらも分からない。

(ひ~ま~、で~そ~)

ゴロゴロと床を転がりながら待って一時間以上、下手をすれば二時間は経ったのではないだろうか、ようやくシュカが戻ってきた。

「おかえり! 遅かったな」

「…………すいません」

「あ、いや、俺が勝手に押しかけたんだし……」

シュカにしおらしく謝られると調子が狂う。イヤホンを外してシュカに返し、彼の様子をじっと観察する。

「……なんか髪濡れてないか?」

「洗いました」

「え……? そ、そっか……」

俺が待っていたのに? いや、さっきの風呂では濡れただけでシャンプーで洗ったりする前に眠ってしまっていたようだから、頭を洗いたかったのだろう、目くじらを立てるな。

「隣失礼します」

「あ、うん……」

昼食を作っていたのではなかったのか? 自分だけ食べた? 俺の分は作ってくれなかったのか? そんな疑問を抱く。

(……? シャンプーの匂いとかしませんな)

しっとりと濡れた髪からは何の匂いもしない。ここに来てから不思議に思うことが多過ぎる。でも詮索したらシュカは嫌がるかもしれない。

「はぁ……」

「……ど、どうかしたのか?」

「お気になさらず」

隣でクソデカため息をつかれて気にせずにいられる人間は少数派だろう。

「気になるよ、何か嫌なことあったのか?」

「…………水月、水月は……何かありましたか? 最近。私が、忙しさのあまり連絡を忘れていた間」

「あぁ、聞いてくれ! サンさんと付き合えたんだ、彼氏が十二人になったぞ」

「そうですか、よかったですね」

「他はあんまり……取り立てて言うようなことは。イチャついたりセックスしたりばっかりだからなぁ」

シュカともそうしたいと言外に滲ませたつもりなのだが、どうだ?

「そうなんですね」

無反応か。

「…………シュカともしたいなぁ、とか思ったりするんだけど……今はダメかな?」

滲ませるとか匂わせるとか、そんな曖昧なことをするから伝わらないんだ。直球が一番だ。

「……私と?」

シュカはじっと俺を見上げ、俺の頬に触れた。微笑みかけてみるとシュカはそのまま手を下ろして首を撫でていく。その途中、シュカの腹がくぅと鳴った。

「……お腹が空きました。食事が先です」

「え、さっき昼飯作ってたんじゃ……あ、もしかしてアレあの人の分か? あっちの部屋の……女の人、お母さん?」

「…………」

「お母さんのご飯作ってたのか、えらいなぁシュカは」

ぽんぽんとシュカの頭を撫でてやった。シュカの母と思しき女性は病院にあるようなベッドに寝ていたし、どこか悪いのかもしれない。その世話で忙しくて掃除に手が回らなかったり返信が出来なかったり、不思議な風呂の入り方をしながら寝てしまったりしたのだろうか。

「…………えらい?」

「えらいよ、詳しいことは知らないけどシュカが頑張ってるのは分かる」

「……結果が伴わない努力に価値はありません」

「どんなに無駄な努力だったとしても、頑張ったんだから俺がえらいよって褒めてあげるぞ。彼氏の頑張りを評価しないなんてありえないからな」

「そうですか……それなら、価値がありますね。あなたに褒めてもらえる…………ねぇ、水月、もう一度……頭を撫でてください」

しっとりと濡れた頭を優しく撫でる。

「もっと……」

俯きながらも首を伸ばして俺の手に自ら頭を擦り付けるシュカには普段とは違う可愛さがあった。
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