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不法侵入の罰
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十日以上音信不通だったシュカにようやく会えた、それなのに俺はもう外に蹴り出された。シュカ宅滞在時間は一時間とない、三十分あったかも怪しい。
「……シュカ、お、おいシュカ!」
玄関扉を叩いているとスマホが鳴った、メッセージアプリの通知音だ。
『近所迷惑ですからやめてください』
『連絡しなかったことは謝ります』
『次からはちゃんと返信します』
『さっさと帰ってください』
連続で四度鳴った通知音、淡々とした四つの文章。
(……いや、いやいや、帰れませんて。割れた茶碗の片付けも中途半端なまま、つーか破片持ったまま風呂に入ろうとした? しかも服を着たまま? その途中で寝た? そんな明らかに様子がおかしい彼氏を置いて帰るなんて出来ませんぞ!)
シュカはまだ窓に鍵をかけていないことに気付いていないだろうか、そうであって欲しい。
(そもそも十日間一切メッセも電話もなかったのがおかしいんでそ、いくら忙しかったって言ったって……いやまぁ忙しかったらありえるか…………とにかく! 今のシュカたんはおかしいんでそ! 彼氏としてちゃんと見てあげて、聞いてあげなくちゃいけませんぞ)
俺は意を決して再び窓から侵入した。
「シュカ~……?」
居間にも風呂場にもシュカは居ない。後は女性が眠っている部屋と──何の部屋だろう? 恐る恐るドアノブを捻って扉を開けた。
「……っ! やっぱり通報した方がいいみたいですね、この犯罪者」
「ここシュカの部屋か? 畳張りなんだな」
勉強机が一番に目に入ってすぐにそれを察した。シュカの部屋だと分かると自然と目がふらふらと周囲を見回してしまう。
「部屋は綺麗にしてるのか……」
床には紙くず一つ落ちていない。居間のゴミ溜めっぷりが嘘のようだ。しかし物の少ない部屋だな、学用品の他に見当たるものが服くらいしかない。
「……キョロキョロキョロキョロと他人の部屋見てんじゃねぇぞ不法侵入者ぁ!」
「わ、ご、ごめん、勝手に入ったのは謝るよ」
「ごめんで済んだら警察はいらねぇんだよ殺すぞ! ズカズカ土足で入ってきやがってっ……!」
「靴は脱いでるよ!」
俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らしたシュカは肩で息をしながら、ゆっくりとその場に座り込んだ。体力がかなりなくなっていると見ていいのだろうか。
「シュカ……? そんなに疲れてるのか? どっか悪いとかじゃ……ない、よな? やっぱり一回病院行こう、怪我もだけど、元気ないよシュカ……」
絆創膏かガーゼでも貼ると言っていた手のひらの傷は放置されたままで、じんわりと溢れ出した血が手相を浮き出させていた。
「うるさい……帰れって言ってるでしょう」
「無理だよシュカ、そんなの無理、シュカが元気ならそうするけどシュカ元気じゃないんだもん」
「……何がだもんだ、デケェ野郎にゃ似合わねぇんだよ」
シュカの隣に腰を下ろし、縮んだ肩を抱き寄せる。俯いたままの顔を上げさせようとしたが、顎に向かわせた手は払われてしまった。
「…………なんで私の家知ってるんですか」
「調べたんだ」
「どうやって……まぁ、それはいいです。どうやって入ったんですか?」
「窓の鍵かかってなかったよ」
「……そうですか。洗濯物干した後に忘れちゃったんですね」
「シュカらしくないよ、やっぱりめちゃくちゃ疲れてるんじゃないか? なぁ……顔見せて、目見て話しよう?」
シュカの顔に向かわせた手はまたもや払われ、シュカは立てた膝に額を押し付けてしまった。しっとりと濡れた髪は黒さを増し、俯くことで無防備になったうなじと共に妖艶な魅力を放つ。思わずゴクリと生唾を飲んだが、堪えてシュカの手を握った。
「シュカ……」
「…………あなたは、私が今何を一番嫌がっているか……分からないんでしょうね」
「……うん、分かんない。ごめんな。教えてくれるか? 教えてくれたら気を付けられるから」
「……………………私は」
「うん、シュカは?」
「……あなたに」
「俺に?」
「…………ここに、来て欲しくなかった」
シュカは眼鏡を外してポイッと畳の上に雑に置くと、俺の手を払って両手で自分の足を抱えた。顔を膝に押し付けている、顔を見せる気は全くないらしい。
「……ごめんな」
丸い頭を優しく撫でる。
「ごめん」
髪の向きに逆らわず、丁寧に撫でる。
「本当に、ごめん」
「…………犯罪なんですよ。他人の家に、勝手に入るのは」
「うん……」
「なんで、勝手に入ってきたんですか」
「…………心配だったんだ。シュカに会いたかった。ごめんな、傷付けて……でも、シュカ……俺、今日来てよかった。シャワー浴びながらあのままずっと寝てたら、シュカ風邪引いちゃってたかもしれない。身体、すごく冷えてた。だから……ごめんな、よかったって思っちゃうよ」
シュカはとても深いため息をついた。
「……シュカ」
「………………寝転がってください」
「えっ?」
「……その辺に。仰向けに」
「あ、あぁ、寝転がればいいのか……? それだけ?」
不思議に思いつつ部屋の真ん中に寝転がり、顔のようなシミがたくさんある不気味な古い天井を見つめる。
「……そのままで」
「ぁ、うん……んっ? シュ、シュカ?」
シュカは俯いて俺に顔を見せないまま俺に覆い被さり、俺の胸を枕にしてうつ伏せに寝転がった。
「シュカ……?」
「…………不法侵入の罰です。敷布団の刑……罪人は黙って罰を受け入れてください」
「……分かっ、た」
なんて可愛い甘え方だ! なんて感激して食虫植物のようにシュカを抱き締めたり、我々の業界ではご褒美です! なんて叫んだり、そんなことが出来る雰囲気ではなかった。俺は何も言わず、身動ぎもせず、ただ敷布団の刑を受けた。
「……シュカ、お、おいシュカ!」
玄関扉を叩いているとスマホが鳴った、メッセージアプリの通知音だ。
『近所迷惑ですからやめてください』
『連絡しなかったことは謝ります』
『次からはちゃんと返信します』
『さっさと帰ってください』
連続で四度鳴った通知音、淡々とした四つの文章。
(……いや、いやいや、帰れませんて。割れた茶碗の片付けも中途半端なまま、つーか破片持ったまま風呂に入ろうとした? しかも服を着たまま? その途中で寝た? そんな明らかに様子がおかしい彼氏を置いて帰るなんて出来ませんぞ!)
シュカはまだ窓に鍵をかけていないことに気付いていないだろうか、そうであって欲しい。
(そもそも十日間一切メッセも電話もなかったのがおかしいんでそ、いくら忙しかったって言ったって……いやまぁ忙しかったらありえるか…………とにかく! 今のシュカたんはおかしいんでそ! 彼氏としてちゃんと見てあげて、聞いてあげなくちゃいけませんぞ)
俺は意を決して再び窓から侵入した。
「シュカ~……?」
居間にも風呂場にもシュカは居ない。後は女性が眠っている部屋と──何の部屋だろう? 恐る恐るドアノブを捻って扉を開けた。
「……っ! やっぱり通報した方がいいみたいですね、この犯罪者」
「ここシュカの部屋か? 畳張りなんだな」
勉強机が一番に目に入ってすぐにそれを察した。シュカの部屋だと分かると自然と目がふらふらと周囲を見回してしまう。
「部屋は綺麗にしてるのか……」
床には紙くず一つ落ちていない。居間のゴミ溜めっぷりが嘘のようだ。しかし物の少ない部屋だな、学用品の他に見当たるものが服くらいしかない。
「……キョロキョロキョロキョロと他人の部屋見てんじゃねぇぞ不法侵入者ぁ!」
「わ、ご、ごめん、勝手に入ったのは謝るよ」
「ごめんで済んだら警察はいらねぇんだよ殺すぞ! ズカズカ土足で入ってきやがってっ……!」
「靴は脱いでるよ!」
俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らしたシュカは肩で息をしながら、ゆっくりとその場に座り込んだ。体力がかなりなくなっていると見ていいのだろうか。
「シュカ……? そんなに疲れてるのか? どっか悪いとかじゃ……ない、よな? やっぱり一回病院行こう、怪我もだけど、元気ないよシュカ……」
絆創膏かガーゼでも貼ると言っていた手のひらの傷は放置されたままで、じんわりと溢れ出した血が手相を浮き出させていた。
「うるさい……帰れって言ってるでしょう」
「無理だよシュカ、そんなの無理、シュカが元気ならそうするけどシュカ元気じゃないんだもん」
「……何がだもんだ、デケェ野郎にゃ似合わねぇんだよ」
シュカの隣に腰を下ろし、縮んだ肩を抱き寄せる。俯いたままの顔を上げさせようとしたが、顎に向かわせた手は払われてしまった。
「…………なんで私の家知ってるんですか」
「調べたんだ」
「どうやって……まぁ、それはいいです。どうやって入ったんですか?」
「窓の鍵かかってなかったよ」
「……そうですか。洗濯物干した後に忘れちゃったんですね」
「シュカらしくないよ、やっぱりめちゃくちゃ疲れてるんじゃないか? なぁ……顔見せて、目見て話しよう?」
シュカの顔に向かわせた手はまたもや払われ、シュカは立てた膝に額を押し付けてしまった。しっとりと濡れた髪は黒さを増し、俯くことで無防備になったうなじと共に妖艶な魅力を放つ。思わずゴクリと生唾を飲んだが、堪えてシュカの手を握った。
「シュカ……」
「…………あなたは、私が今何を一番嫌がっているか……分からないんでしょうね」
「……うん、分かんない。ごめんな。教えてくれるか? 教えてくれたら気を付けられるから」
「……………………私は」
「うん、シュカは?」
「……あなたに」
「俺に?」
「…………ここに、来て欲しくなかった」
シュカは眼鏡を外してポイッと畳の上に雑に置くと、俺の手を払って両手で自分の足を抱えた。顔を膝に押し付けている、顔を見せる気は全くないらしい。
「……ごめんな」
丸い頭を優しく撫でる。
「ごめん」
髪の向きに逆らわず、丁寧に撫でる。
「本当に、ごめん」
「…………犯罪なんですよ。他人の家に、勝手に入るのは」
「うん……」
「なんで、勝手に入ってきたんですか」
「…………心配だったんだ。シュカに会いたかった。ごめんな、傷付けて……でも、シュカ……俺、今日来てよかった。シャワー浴びながらあのままずっと寝てたら、シュカ風邪引いちゃってたかもしれない。身体、すごく冷えてた。だから……ごめんな、よかったって思っちゃうよ」
シュカはとても深いため息をついた。
「……シュカ」
「………………寝転がってください」
「えっ?」
「……その辺に。仰向けに」
「あ、あぁ、寝転がればいいのか……? それだけ?」
不思議に思いつつ部屋の真ん中に寝転がり、顔のようなシミがたくさんある不気味な古い天井を見つめる。
「……そのままで」
「ぁ、うん……んっ? シュ、シュカ?」
シュカは俯いて俺に顔を見せないまま俺に覆い被さり、俺の胸を枕にしてうつ伏せに寝転がった。
「シュカ……?」
「…………不法侵入の罰です。敷布団の刑……罪人は黙って罰を受け入れてください」
「……分かっ、た」
なんて可愛い甘え方だ! なんて感激して食虫植物のようにシュカを抱き締めたり、我々の業界ではご褒美です! なんて叫んだり、そんなことが出来る雰囲気ではなかった。俺は何も言わず、身動ぎもせず、ただ敷布団の刑を受けた。
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