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泣き落としが有効
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シュカの自宅の捜索をサンの知人に頼んだ日の夜、アキから電話がかかってきた。
「電話? 誰?」
「アキ……ぁ、俺の弟」
「スピーカーにして」
夕飯の後片付けをしているサンにそう言われ、俺はスピーカー機能をオンにしてから電話に出た。
『もしもし、鳴雷?』
「……弟に苗字で呼ばれてるの?」
サンの声色が変わった。鼓動が早鐘を打ち、全身から冷や汗が吹き出る。説明をしようと開いた口からはヒュッと無様な呼吸音しか鳴らない。
『お前そろそろ一旦帰ってこいよ……秋風寂しがってるぞ。俺も……だけどさ。今代わるよ、秋風、お兄ちゃん出たぞ』
『……にーに?』
「…………なんだ、びっくりした。嘘つかれたのかと思った」
サンの様子が元に戻った。俺の緊張も解けた。
『にーに、です?』
「あ、あぁ、うん……にーにだぞ」
『……にーにぃ、にーに、いつ帰るするです? ぼく、にーに、会うする欲しいです』
「ぁ……あー、ごめんな、もうしばらくは……帰る、しないかも」
サンがいつ解放してくれるのか俺には分からない。サン自身監禁は間違っていると認識し、後悔もしているようなのだが、足枷は外されないし帰っていいよとも言われないのだ。
『……っ、にーにぃ……にーに、ぼく、にーに、場所行く、いいです?』
「え、こっち来たいのか? いや、それはちょっと……ダメ、かな」
『ぅ……にーにぃ……にーに……ぐすっ、にーにぃ……寂しいするです。ぼく、ぼくいい子するです、にーに、ごはん、食べるする、しないです。いい子するです、絶対ですっ……ひっく……にーに帰るする欲しいですぅっ、にーに、にーにぃっ、ぅ、うぇ……ふぇええんっ』
「ぇ、ちょ、アキっ?」
『ぅえぇえんっ……すぇかーちか、すぇかーちかぁ!』
『あーはいはいよしよし……えー、電話代わったぜ鳴雷。泣き出したのは今が初だが……昨日辺りから泣きそうな顔はよくしてた。お前にも色々あるとは思うがそろそろ頼むぜ……』
「あ、あぁ……ごめん」
『ん、じゃあそろそろ電話切るぜ』
『идти домой бля старший брат!』
通話が切られた。
「……えっと、弟は、異父兄弟で……この間一緒に住み始めたところで、最近まで外国に居たから日本語がまだ拙くて……ってのは、話したっけ」
「……弟を寂しがらせるのは悪いお兄ちゃんだね。そっか……水月もお兄ちゃんなんだったね、そっか…………悪いことしたなぁ、本当に……」
「サン……?」
「………………明日、家に帰してあげる。弟くんにいっぱい構ってあげて」
ナイスだアキ! 意図せず泣き落としが効いた!
「いいの? サン……寂しくない? 不安じゃない? 大丈夫?」
ここで「やったぁ」なんて騒いだら台無しだ、サンを気遣っておかなければ。
「ボクは十分水月を独り占めしたし……本当はいつまでだって一緒に居たいけど、弟くん一人にしてるのは、ね…………お兄ちゃんに放ったらかしにされると弟は、すごく辛いから……」
「……分かった、ありがとう。また来るよ」
「うん。とりあえずしばらくボクはボクのお兄ちゃんに甘えるとするよ、まだ薬残ってるし」
「フタさんはそういうことしなくても頼めば一緒に居てくれるんじゃ……?」
「まぁそうなんだけど、そうじゃないって言うか。うーん、自分でもよく分かんないんだけど、いつでも帰れる状態でってのは、なんかなぁー……」
監禁はサンの癖なんだと諦めるしかないのだろうか? 嫌な癖だなぁ。
「怒られない範囲にしておきなよ?」
「あははっ、気を付けるよ」
翌朝、俺の足首に取り付けられた枷は外された。朝食を食べているとインターホンもなくフタが入ってきた、合鍵を使ったのだろう。
「お、まだ居たんだ。えーっと……みーりん?」
「水月です! サンさんのダーリンの水月です!」
「それそれ、いや覚えてた覚えてた……よっすサンちゃん、おはよ~」
「おはよ、兄貴。朝ご飯すぐ作るね」
ダイニングテーブルに付属する椅子は二脚のみ、俺は慌てて朝食を平らげ、空の食器をキッチンに運んだ。
「洗い物くらいさせてよ」
「ダメ。そろそろ準備しなよ、早く帰らないと弟くん可哀想」
同じ弟として兄が居ない寂しさが分かる、か。サンが共感能力の高い人でよかった。なんて考えながらいつの間にか寝室に移されていた鞄を持った。
(おっと、これサンさんの服でしたな)
洗濯された俺の服に着替え、たった今まで着ていたワンサイズ大きな服を洗濯機に放り込む。
「兄貴、おかわりどうぞ」
「せんきゅー」
二人に挨拶をしようとダイニングへ戻ると、朝食を食べ終えたフタが甘ったるい乳酸菌飲料を受け取るところだった。
「水月? 帰る?」
「うん、またね。今度はいつ会おうか。お泊まりとかもいいけど、どこかデートでも……」
脈が早くなっていくのを感じつつサンをデートに誘っていると、それを邪魔するようにガシャンッと音がした。
「…………盛った?」
フタが机に、いや、皿に突っ伏して寝息を立てている。
「兄貴も水月も舌が鈍いよね」
「盛らなくても頼めば大丈夫なんでしょ? 無理矢理薬で眠らせるって身体によくない気がするけど」
「盛った後に言われてもなぁ。もうお薬なくなったから大丈夫だよ」
「え、ボスって人に渡さなきゃダメなんじゃ……」
「もちろん渡す分は残して、だよ」
「そっか……ぁ、じゃあ俺そろそろ帰るね、お世話になりました。またね、バイバイ」
「またね~」
サンには見えていないのについ手を振ってしまい、不意に以前フタがしていたことを思い出してサンの手を握り、手を振った。
「…………ふふふっ、バイバイ水月」
歳不相応の可愛らしい笑顔に後ろ髪を引かれながら、俺はサンの家を後にした。
「電話? 誰?」
「アキ……ぁ、俺の弟」
「スピーカーにして」
夕飯の後片付けをしているサンにそう言われ、俺はスピーカー機能をオンにしてから電話に出た。
『もしもし、鳴雷?』
「……弟に苗字で呼ばれてるの?」
サンの声色が変わった。鼓動が早鐘を打ち、全身から冷や汗が吹き出る。説明をしようと開いた口からはヒュッと無様な呼吸音しか鳴らない。
『お前そろそろ一旦帰ってこいよ……秋風寂しがってるぞ。俺も……だけどさ。今代わるよ、秋風、お兄ちゃん出たぞ』
『……にーに?』
「…………なんだ、びっくりした。嘘つかれたのかと思った」
サンの様子が元に戻った。俺の緊張も解けた。
『にーに、です?』
「あ、あぁ、うん……にーにだぞ」
『……にーにぃ、にーに、いつ帰るするです? ぼく、にーに、会うする欲しいです』
「ぁ……あー、ごめんな、もうしばらくは……帰る、しないかも」
サンがいつ解放してくれるのか俺には分からない。サン自身監禁は間違っていると認識し、後悔もしているようなのだが、足枷は外されないし帰っていいよとも言われないのだ。
『……っ、にーにぃ……にーに、ぼく、にーに、場所行く、いいです?』
「え、こっち来たいのか? いや、それはちょっと……ダメ、かな」
『ぅ……にーにぃ……にーに……ぐすっ、にーにぃ……寂しいするです。ぼく、ぼくいい子するです、にーに、ごはん、食べるする、しないです。いい子するです、絶対ですっ……ひっく……にーに帰るする欲しいですぅっ、にーに、にーにぃっ、ぅ、うぇ……ふぇええんっ』
「ぇ、ちょ、アキっ?」
『ぅえぇえんっ……すぇかーちか、すぇかーちかぁ!』
『あーはいはいよしよし……えー、電話代わったぜ鳴雷。泣き出したのは今が初だが……昨日辺りから泣きそうな顔はよくしてた。お前にも色々あるとは思うがそろそろ頼むぜ……』
「あ、あぁ……ごめん」
『ん、じゃあそろそろ電話切るぜ』
『идти домой бля старший брат!』
通話が切られた。
「……えっと、弟は、異父兄弟で……この間一緒に住み始めたところで、最近まで外国に居たから日本語がまだ拙くて……ってのは、話したっけ」
「……弟を寂しがらせるのは悪いお兄ちゃんだね。そっか……水月もお兄ちゃんなんだったね、そっか…………悪いことしたなぁ、本当に……」
「サン……?」
「………………明日、家に帰してあげる。弟くんにいっぱい構ってあげて」
ナイスだアキ! 意図せず泣き落としが効いた!
「いいの? サン……寂しくない? 不安じゃない? 大丈夫?」
ここで「やったぁ」なんて騒いだら台無しだ、サンを気遣っておかなければ。
「ボクは十分水月を独り占めしたし……本当はいつまでだって一緒に居たいけど、弟くん一人にしてるのは、ね…………お兄ちゃんに放ったらかしにされると弟は、すごく辛いから……」
「……分かった、ありがとう。また来るよ」
「うん。とりあえずしばらくボクはボクのお兄ちゃんに甘えるとするよ、まだ薬残ってるし」
「フタさんはそういうことしなくても頼めば一緒に居てくれるんじゃ……?」
「まぁそうなんだけど、そうじゃないって言うか。うーん、自分でもよく分かんないんだけど、いつでも帰れる状態でってのは、なんかなぁー……」
監禁はサンの癖なんだと諦めるしかないのだろうか? 嫌な癖だなぁ。
「怒られない範囲にしておきなよ?」
「あははっ、気を付けるよ」
翌朝、俺の足首に取り付けられた枷は外された。朝食を食べているとインターホンもなくフタが入ってきた、合鍵を使ったのだろう。
「お、まだ居たんだ。えーっと……みーりん?」
「水月です! サンさんのダーリンの水月です!」
「それそれ、いや覚えてた覚えてた……よっすサンちゃん、おはよ~」
「おはよ、兄貴。朝ご飯すぐ作るね」
ダイニングテーブルに付属する椅子は二脚のみ、俺は慌てて朝食を平らげ、空の食器をキッチンに運んだ。
「洗い物くらいさせてよ」
「ダメ。そろそろ準備しなよ、早く帰らないと弟くん可哀想」
同じ弟として兄が居ない寂しさが分かる、か。サンが共感能力の高い人でよかった。なんて考えながらいつの間にか寝室に移されていた鞄を持った。
(おっと、これサンさんの服でしたな)
洗濯された俺の服に着替え、たった今まで着ていたワンサイズ大きな服を洗濯機に放り込む。
「兄貴、おかわりどうぞ」
「せんきゅー」
二人に挨拶をしようとダイニングへ戻ると、朝食を食べ終えたフタが甘ったるい乳酸菌飲料を受け取るところだった。
「水月? 帰る?」
「うん、またね。今度はいつ会おうか。お泊まりとかもいいけど、どこかデートでも……」
脈が早くなっていくのを感じつつサンをデートに誘っていると、それを邪魔するようにガシャンッと音がした。
「…………盛った?」
フタが机に、いや、皿に突っ伏して寝息を立てている。
「兄貴も水月も舌が鈍いよね」
「盛らなくても頼めば大丈夫なんでしょ? 無理矢理薬で眠らせるって身体によくない気がするけど」
「盛った後に言われてもなぁ。もうお薬なくなったから大丈夫だよ」
「え、ボスって人に渡さなきゃダメなんじゃ……」
「もちろん渡す分は残して、だよ」
「そっか……ぁ、じゃあ俺そろそろ帰るね、お世話になりました。またね、バイバイ」
「またね~」
サンには見えていないのについ手を振ってしまい、不意に以前フタがしていたことを思い出してサンの手を握り、手を振った。
「…………ふふふっ、バイバイ水月」
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