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シザーサン

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サンに顔を撫でられながらオナホールを使って自慰をするだけだと思い込んでいたが、俺の反応を面白がったサンは俺のうなじや耳を唇と舌で愛撫し始めた。

「……っ、ひ、ぅ……!」

「もっと声出していいよ?」

十二人も彼氏を持つ身としては耳を舐められたくらいで簡単に喘ぐ訳にはいかない。プライドがある。

「んっ……ぅ」

耳の縁を舌でなぞられ、顔で後頭部の髪を撫でられる。ゾクゾクゾワゾワと快感が頭皮全体を走り回り、背中に鳥肌が立つ。

「ぅあぅっ!」

かぷっと耳を噛まれ、抑えていた声が溢れる。軟骨の硬さを確かめるように何度も何度も甘噛みされ、脳が溶けそうな気分になる。

「……ぁれ? 手動いてないんじゃない?」

密着しているから身体の揺れ方などで気付かれてしまったようだ。サンは俺の顔に右手をぺたっと当てたまま左手でオナホを掴み、遠慮なく素早く動かし始めた。

「う、あっ……!? サンっ、ちょ、はやっ……!」

耳の中に舌が入ってくる。器用な長い舌がぐちゅぐちゅという鼓膜に響く音を立てて俺の耳を蹂躙する。溶けそうじゃない、溶かされる、脳が溶ける、耳から溶け出る。

「ぁ、あっ……」

射精が近いことを感じ取ったのかサンは耳から口を離し、俺のうなじに歯を立てた。

「……っ!?」

噛み付かれた甘やかな痛みを感じながら精液を吐き出し、とてつもない満足感に襲われる。

「は、ぁ……ぅあっ、ぁ…………さ、ん」

萎えた陰茎がオナホの内壁に撫でられる快感で最後の喘ぎ声を漏らし、とろんとした気分でサンの名前を呼びながら手を向かわせると、サンは俺と手のひら同士を合わせ指を絡め合う恋人繋ぎをしてくれた。

「気持ちよかった?」

「めちゃくちゃ……」

繋いでいない方の手は俺の顔を撫でている。だらしない表情を見られているのだろう、でもいい。虚脱状態だ。

「……イったら眠くなっちゃったかな? オナホ洗ってくるよ、寝てていいよ」

優しい声に甘え、俺は陰茎をティッシュで軽く拭った後服を整え、ベッドの真ん中に寝転がって目を閉じた。

「おやすみ、水月」

頭を撫でられた数秒後、扉の開閉音がした。それからまた数分後扉の開閉音、サンがオナホを洗い終えて戻ってきたようだ。サイドテーブルを弄る音の後、ベッドが軋み、肩に触れられた。

「水月……ふふ、水月が居る、ボクの家に居る……水月、水月、ボクの唯一無二の男の子……水月、水月……」

隣に寝転がったようだ、サンの方を向こうかと考える暇もなく強く抱き締められて身動きが取れなくなる。背中全体で感じるサンの体温が心地いい。

「………………描かなきゃ」

しばらく俺を抱き締めた後、サンは不意に立ち上がって部屋を出ていった。一緒に寝るんじゃないのか……と残念に思いつつも俺は二度の絶頂後の眠気に勝てず、一人で眠った。

「ふわぁ……サンー?」

数時間後、目を覚ますもサンの姿はない。というか見えない、真っ暗だ。夜になったのか? 窓から射し込んでいた陽光がなくなっている。まずいな、母に連絡を入れないと……何を射精して満足して寝てるんだ、これだから男はとかまた母に言われてしまう。

「サンー? サンー!」

部屋を出ようとベッドから降りて鎖の音と足首の違和感に足枷の存在を思い出させられた。

「……サン! サンー! サン! ねぇっ、サン!」

暗い、ほとんど何も見えない。電灯のスイッチはどこだ? 扉の横とかにあるものじゃないのか? 手探りでは見付けられない。

「電気点けて! ねぇっ、電気! お願いしますよ、灯り!」

AIアシスタント系の家具もないようだ。

「…………サン」

怖くなってきた。真っ暗な部屋の中一人きり、足枷を付けられて佇むなんて……まるで予算の少ないホラー映画じゃないか。

「サン……サンっ! サン! サン! 居ないの!? さぁん!」

半狂乱になって扉や壁を叩く。すると足早に部屋にやってくる誰かの足音がした、それなりに体重がありそうな……サンか? 彼は背が高く筋肉質な身体をしているから、このくらい重い足音でも違和感はない。普段すり足だから分からないけれど俺が騒いだから急いで来てくれたのかもしれない。

「サン……! ぅあっ!?」

廊下の灯りは人を感知して自動で点灯する仕組みらしく、扉が開くと眩しさを感じた。同時にサンの姿が見えて安心したが、大きな手で頭を鷲掴みにされ足を乱暴に払われて転ばされ、腹に馬乗りになられ、今までとは別の恐怖を感じた。

「何暴れてるの」

頭蓋骨が軋む。人に頭を掴まれただけで軋む訳はないのに、分かっているのに、軋んだ気がした。こめかみが痛い。

「水月はボクのこと好きなんだろ? そう言ったよね、ここに居るの嫌そうにしてなかったよね、何? 急に暴れだして……今までのは演技? ボクを騙してた? ねぇ、水月?」

「ぃ、たっ……痛い、サン、痛いよっ、頭離して……!」

「離したら何するの?」

「話す! 暴れてた、訳を……話すからっ」

「……離したら話す? ふふ、なぁに、ダジャレ? 面白くねぇよクソガキ、ボクから逃げる気なんだろ?」

「ち、違うっ……痛っ、起きたら、真っ暗で……サンが居なくてっ、灯りもつけられなくて、怖かったんだ! サンに来て欲しくて、音立てて……ごめんなさいっ、逃げようとなんかしてない、してないから! やめてっ、ほんとに、それ、痛いぃっ……!」

パッと頭から手を離された時にはもう、廊下の灯りは消えていた。人を感知出来なくると数秒後に消える仕組みなのだろう。暗闇の中ぼんやりとサンの大きなシルエットが恐ろしい。

「…………本当っぽいね。悪かったよ、取り乱して……ごめんね? 怖かった?」

「ちょっと……っていうか、痛かった」

「ごめんね」

「いや、いいよ……俺が暴れたせいなんだし」

「……嘘つかれるのとか、裏切られるのとか、嫌いなんだ。もしかしてって思ったら、つい……ごめんね、ボクのこと怖がったり嫌ったりしないでね?」

「しないよ」

「よかった……灯りだったね、そっか、水月は暗いの苦手なんだね。フタ兄貴と同じだ、兄貴もよく灯りつけてって言ってた」

目が見えている人間にとって明るさは大切なんだ。暗いのが苦手とかそういうんじゃない、とは言わずにサンが灯りをつけてくれるのを待つ。

「この部屋の灯りはリモコンで……」

サンが立ち上がった直後、ゴンッと何か硬く重い物が落ちた音がした。サンは構わずベッド脇のサイドテーブルに向かい、ティッシュボックスの隣に置かれたリモコンで部屋の灯りを点けた。

「…………っ!? サ、サン……? あの、これは? 絵に使うの……?」

瞬きをして眩さに慣れた目が見つけたのは、大きな鋏だった。裁ち鋏だろうか? それにしても大きいような……先程の硬く重い音は持ち手まで鉄製のそれが落ちた音だったのだ。

「何? どれ?」

「ハ、ハサミ?」

「あぁ、水月の足の腱切ろうと思って」

「やめて!?」

「しないよ、水月は逃げようとしてないんだもんね」

……俺、もしかしてヤバいのか? サンは本当に危険人物なのでは? 母の言うことを聞いておくべきだったのでは?

「に、逃げようとしてたら、俺……足」

「…………あっはははは! なぁに水月本気にしたの? 冗談だよ冗談、ふふふっ、やだなぁ……これは晩ご飯作るのに使おうと思って持ってきただけだよ」

「あ……なん、だ。そっかぁ……やめてよ怖いなぁ、こんな大きな鋏、知らないから……俺、てっきり」

キッチン鋏だったのか、いややっぱり大きすぎないか?

「お肉がよく切れるんだよ、ふふふ」

食べ盛りの年頃の俺のために肉料理を作ろうとしてくれているんだ、大きな肉を切ろうとしてくれていただけだ、何も考えるな俺。これはキッチン鋏なんだ、今はそれでいいじゃないか。
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