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全てお見通し?
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薬を盛って拘束する手際の良さからして初めてではないのではと疑っていたが、やはりそうだった。サンは俺以前にもフタを監禁していたのだ、そういう癖なのだろう、恋愛感情に関係なく好きな物を手元に置いておきたいのだ。
「……なぁに、今のため息」
サンの初めてになれなかった残念さからため息をつくと、サンにむにっと顔を掴まれた。
「もしかして、ボクと居るの嫌になったとかかな?」
「ひあうよ」
「ふふふっ、ごめんごめん離すよ、なんて言ったの?」
「違うよって、閉じ込めちゃうくらい好きになったのは俺が初めてがよかったなーって」
「へぇ? フタは兄貴だよ?」
恋愛感情を抱いたのは俺が初めてだと言いたいのだろうか? 家族愛だろうが何だろうが、俺よりも前に今の俺のように閉じ込められサンの愛を受けた者が居たというのは事実で、そんな情報があったところで拗ねるのをやめるなんて──
「それもそっかぁ!」
──拗ねるの、やめます! だってサンは二十五歳なのに俺が初恋なんだぞ? 最高か? 初恋が遅いと拗らせて大変なことになるという一般論は本当だったようだな、遅咲きの初恋が現在絶賛暴走中、意中の相手を監禁中だ。相手が俺じゃなかったら嫌われて初恋が叶わないというジンクスを補強していただろう。
「家族と恋人じゃ違うもんね!」
「うんうん、違う違う。にしても本当アンタ変わってるよね、普通こんなことされたらもっと嫌がるもんじゃない?」
「だって閉じ込めちゃうくらい俺が好きなんだろ? サンはなんか、距離置かれてるっていうか、一線引かれてるっていうか、そんな感じだったから……好意的だけど付き合うほどじゃないのかなって、俺のことそこまで好きじゃないのかなって思ってたから、こんなことするくらい好きなんだって分かった今はただただ嬉しいよ」
「……そう」
まずいことをしているという自覚があるなら一安心だ、機嫌と頃合いを見て説得すれば案外すんなりと解放してもらえるかもしれない。
「大好きだよサン、俺のこと好きになってくれてありがとう」
まずは機嫌を取ろう。俺にもっと惚れさせて、俺のお願いを叶えてあげたくさせるんだ。どうにか今日中に帰るか母に連絡を入れるかしなければ良くて交際禁止悪くて警察沙汰、どちらも避けたい未来だ。
「……水月」
「ん?」
「ボクはね、人間を描きたいと思ったのは初めてだったんだよ。前にも言ったけどさ。なんで描きたいと思ったんだろ、造形が良かったから? それもあるだろうけど、それだけじゃない……だってボクの専門は内面や本質を色彩で表現する広義の抽象画。どんな不細工だって中身次第でボクの絵では絶世の美人になる」
「……うん、内面大事だよね」
「まぁ、不細工は不当な扱いを受けることが多いから、中身が歪まない確率って美人より下なんだけどね」
「身も蓋もない……」
「だからこそ中身が綺麗な不細工ってのはイイものだと思うよ、ただ綺麗だから大切に扱われて相応の心に育った美人とは違う……なんだろうね、雑草魂? 肥料たっぷりもらって可愛がられた花より、ド根性的なあだ名付けられる野花の方が好き的な……分かる?」
「分かる分かる」
「…………おかしいんだよねぇ、水月はこんなに綺麗でカッコいい顔をしてるのに……なんだろう、心が雑草っぽい」
サンの好み論を前提にして考えれば褒め言葉だと分かるのだが、心が雑草っぽいはなんか傷付く。
「会った時から思ってた、アンタの性格…………身内にはちゃんと愛され教育されたものの、学校だとかの小さな社会で見た目を理由に立場を弁えさせられた見た目だけが醜い人間のものだ。生来の善良性もかなりのものだろうけどね……顔触ったらカッコいいからびっくりしたよ、なんでそんなに綺麗なくせにオドオドしてるのかな? どうして自信がなさそうなのかな?」
「…………秘密……なんだけど、分かっちゃってるならサンには言うよ、でも誰にも言わないで欲しいんだけど……」
「言いふらしたりしないよ」
「……昔は太ってて、気持ち悪かったんだよ俺。痩せたら綺麗になった、それだけ」
「太ってても顔の造形は変わらないと思うんだけど」
「目とか肉で埋まっちゃうし、首は消えるし、顎は増えるし……汗っかきで常にちょっと臭くて、髪型もっさりしてて笑い方も話し方も気持ち悪かったんだけど」
「そりゃブスだね」
「あはは……あだ名はキモオタデブスでした…………ぅ、うぅ……」
「……辛いこと思い出させてごめんね? よしよし……カッコよくなってよかったね、もう人生イージーモードだ。アンタは美人だからってチヤホヤされても調子に乗り過ぎたりしなさそうだし、本当に上手く生きられると思うよ」
確かに、母のように頭もいいならともかく俺のようなバカでは、太ることなく美少年として育ってきていたらとんでもないゲスクズヤリチンクソ野郎になっていた気がする。
「そっかぁ、なるほどねぇ……綺麗になったの最近なんだ? そっかそっか、ふふ、だから外と中の綺麗さがちょっとズレてるんだね、痩せたまま育ってもアンタは中身も綺麗だったんだろうけど、今とはちょっと方向性が違いそうだ、ボクは今のアンタがいいな」
「中の綺麗さなんてそんな……俺中身はそんなに良くないよ? 顔はいいけどさ……十二股してるクズだし」
「あっははっ、そういう謙虚なところも嫌いじゃないけど、ボクが初めて好きになった人をクズなんて言わないで欲しいなぁ?」
「……! そうだね、ごめん……そうだよね、自虐は俺のこと好きになってくれた人にも悪いよね」
「ふふ……素直で可愛いなぁ、水月はすごく綺麗だよ」
超絶美形になって数ヶ月、もうそろそろ褒め言葉にも慣れてくるべき時期なのに俺はまだまだ照れてしまう。
「ボクは芸術家だからね、真っ白なサラサラの紙に絵の具を塗ったくるみたいに、綺麗なものは汚したくなるんだよ」
「……前は綺麗なもの汚したくないのが芸術家的なこと言ってなかった?」
「そりゃ芸術家は綺麗なものはそのままにしたいよ、でも芸術家は綺麗なものを汚して自分だけの芸術にしたいものなんだ」
「う、うぅん……? 芸術って難しいね」
「あははっ、芸術素人はすぐそうやって逃げる」
「ぅ」
「いいよ、水月は可愛いから。そうだよね難しいよねぇ? ふふ、いいんだよ、自分がイイなと思ったものがイイ、それでいいんだ。小難しい理論なんかクソ喰らえだよねぇ?」
子供を宥めるように言われて頬が熱くなり、芸術家がそう言ってしまうのかとたじろいで頬が少し冷えた。差し引き、ほんのり温かい。
「……? 水月ほっぺた温かいねぇ、水月が照れたらもっと熱くなるし……子供体温なのかな? なんてね、ふふふ、可愛い…………あれ、熱くなってきた。可愛いって言われて照れちゃった? 可愛いね」
その通りだ、可愛いとは言われ慣れていない。カッコいいという賞賛の声と違い、何だか恥ずかしさまで湧いてくる。けれど、このこそばゆさが心地いい。
「……なぁに、今のため息」
サンの初めてになれなかった残念さからため息をつくと、サンにむにっと顔を掴まれた。
「もしかして、ボクと居るの嫌になったとかかな?」
「ひあうよ」
「ふふふっ、ごめんごめん離すよ、なんて言ったの?」
「違うよって、閉じ込めちゃうくらい好きになったのは俺が初めてがよかったなーって」
「へぇ? フタは兄貴だよ?」
恋愛感情を抱いたのは俺が初めてだと言いたいのだろうか? 家族愛だろうが何だろうが、俺よりも前に今の俺のように閉じ込められサンの愛を受けた者が居たというのは事実で、そんな情報があったところで拗ねるのをやめるなんて──
「それもそっかぁ!」
──拗ねるの、やめます! だってサンは二十五歳なのに俺が初恋なんだぞ? 最高か? 初恋が遅いと拗らせて大変なことになるという一般論は本当だったようだな、遅咲きの初恋が現在絶賛暴走中、意中の相手を監禁中だ。相手が俺じゃなかったら嫌われて初恋が叶わないというジンクスを補強していただろう。
「家族と恋人じゃ違うもんね!」
「うんうん、違う違う。にしても本当アンタ変わってるよね、普通こんなことされたらもっと嫌がるもんじゃない?」
「だって閉じ込めちゃうくらい俺が好きなんだろ? サンはなんか、距離置かれてるっていうか、一線引かれてるっていうか、そんな感じだったから……好意的だけど付き合うほどじゃないのかなって、俺のことそこまで好きじゃないのかなって思ってたから、こんなことするくらい好きなんだって分かった今はただただ嬉しいよ」
「……そう」
まずいことをしているという自覚があるなら一安心だ、機嫌と頃合いを見て説得すれば案外すんなりと解放してもらえるかもしれない。
「大好きだよサン、俺のこと好きになってくれてありがとう」
まずは機嫌を取ろう。俺にもっと惚れさせて、俺のお願いを叶えてあげたくさせるんだ。どうにか今日中に帰るか母に連絡を入れるかしなければ良くて交際禁止悪くて警察沙汰、どちらも避けたい未来だ。
「……水月」
「ん?」
「ボクはね、人間を描きたいと思ったのは初めてだったんだよ。前にも言ったけどさ。なんで描きたいと思ったんだろ、造形が良かったから? それもあるだろうけど、それだけじゃない……だってボクの専門は内面や本質を色彩で表現する広義の抽象画。どんな不細工だって中身次第でボクの絵では絶世の美人になる」
「……うん、内面大事だよね」
「まぁ、不細工は不当な扱いを受けることが多いから、中身が歪まない確率って美人より下なんだけどね」
「身も蓋もない……」
「だからこそ中身が綺麗な不細工ってのはイイものだと思うよ、ただ綺麗だから大切に扱われて相応の心に育った美人とは違う……なんだろうね、雑草魂? 肥料たっぷりもらって可愛がられた花より、ド根性的なあだ名付けられる野花の方が好き的な……分かる?」
「分かる分かる」
「…………おかしいんだよねぇ、水月はこんなに綺麗でカッコいい顔をしてるのに……なんだろう、心が雑草っぽい」
サンの好み論を前提にして考えれば褒め言葉だと分かるのだが、心が雑草っぽいはなんか傷付く。
「会った時から思ってた、アンタの性格…………身内にはちゃんと愛され教育されたものの、学校だとかの小さな社会で見た目を理由に立場を弁えさせられた見た目だけが醜い人間のものだ。生来の善良性もかなりのものだろうけどね……顔触ったらカッコいいからびっくりしたよ、なんでそんなに綺麗なくせにオドオドしてるのかな? どうして自信がなさそうなのかな?」
「…………秘密……なんだけど、分かっちゃってるならサンには言うよ、でも誰にも言わないで欲しいんだけど……」
「言いふらしたりしないよ」
「……昔は太ってて、気持ち悪かったんだよ俺。痩せたら綺麗になった、それだけ」
「太ってても顔の造形は変わらないと思うんだけど」
「目とか肉で埋まっちゃうし、首は消えるし、顎は増えるし……汗っかきで常にちょっと臭くて、髪型もっさりしてて笑い方も話し方も気持ち悪かったんだけど」
「そりゃブスだね」
「あはは……あだ名はキモオタデブスでした…………ぅ、うぅ……」
「……辛いこと思い出させてごめんね? よしよし……カッコよくなってよかったね、もう人生イージーモードだ。アンタは美人だからってチヤホヤされても調子に乗り過ぎたりしなさそうだし、本当に上手く生きられると思うよ」
確かに、母のように頭もいいならともかく俺のようなバカでは、太ることなく美少年として育ってきていたらとんでもないゲスクズヤリチンクソ野郎になっていた気がする。
「そっかぁ、なるほどねぇ……綺麗になったの最近なんだ? そっかそっか、ふふ、だから外と中の綺麗さがちょっとズレてるんだね、痩せたまま育ってもアンタは中身も綺麗だったんだろうけど、今とはちょっと方向性が違いそうだ、ボクは今のアンタがいいな」
「中の綺麗さなんてそんな……俺中身はそんなに良くないよ? 顔はいいけどさ……十二股してるクズだし」
「あっははっ、そういう謙虚なところも嫌いじゃないけど、ボクが初めて好きになった人をクズなんて言わないで欲しいなぁ?」
「……! そうだね、ごめん……そうだよね、自虐は俺のこと好きになってくれた人にも悪いよね」
「ふふ……素直で可愛いなぁ、水月はすごく綺麗だよ」
超絶美形になって数ヶ月、もうそろそろ褒め言葉にも慣れてくるべき時期なのに俺はまだまだ照れてしまう。
「ボクは芸術家だからね、真っ白なサラサラの紙に絵の具を塗ったくるみたいに、綺麗なものは汚したくなるんだよ」
「……前は綺麗なもの汚したくないのが芸術家的なこと言ってなかった?」
「そりゃ芸術家は綺麗なものはそのままにしたいよ、でも芸術家は綺麗なものを汚して自分だけの芸術にしたいものなんだ」
「う、うぅん……? 芸術って難しいね」
「あははっ、芸術素人はすぐそうやって逃げる」
「ぅ」
「いいよ、水月は可愛いから。そうだよね難しいよねぇ? ふふ、いいんだよ、自分がイイなと思ったものがイイ、それでいいんだ。小難しい理論なんかクソ喰らえだよねぇ?」
子供を宥めるように言われて頬が熱くなり、芸術家がそう言ってしまうのかとたじろいで頬が少し冷えた。差し引き、ほんのり温かい。
「……? 水月ほっぺた温かいねぇ、水月が照れたらもっと熱くなるし……子供体温なのかな? なんてね、ふふふ、可愛い…………あれ、熱くなってきた。可愛いって言われて照れちゃった? 可愛いね」
その通りだ、可愛いとは言われ慣れていない。カッコいいという賞賛の声と違い、何だか恥ずかしさまで湧いてくる。けれど、このこそばゆさが心地いい。
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