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起床、足枷、ドライヤー
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起き上がり、辺りを見回す。俺が寝かされていたのはベッドのようだ、シングルよりは少し大きい気がする。頭がぐらぐらする……
「ぅ……」
灯りは点いておらず、カーテンを閉められた窓からの陽光だけが光源で、部屋は薄暗い。ベッドの他に部屋に何があるのか分からない。
「…………?」
頭が少しずつ回り始めた、サンの家を訪問していたことを思い出した。それで……なんで俺はベッドで寝ているんだ? 記憶が曖昧だ、サンにフィナンシェを渡して、美味しいと言って食べてくれて、それから……それで……えぇと……何があったんだっけ。
「……ジャラ?」
ベッドから降りようとするとジャラッと金属音が鳴った。同時に足首に異物感を覚えて薄手の毛布を剥がして左足を持ち上げてみると、足首とベッドの足が鎖で繋がれていた。
「……は?」
鎖は部屋の端まで行ける程度の長さはありそうだ、足首に巻かれている黒い革製のベルトは内側にクッションが付いており、多少暴れても皮膚が剥けたりはしなさそうだ。
(え? 何? どういう状況? わたくしサンさんと拘束プレイでもしてましたん? そんな覚えは……いやなんか記憶が飛んでるんですよな。サンさんがフィナンシェ食べて、それで、あぁそうだ、コーヒーか紅茶か聞かれて、わたくしはコーヒーって言いましたよな。それで……コーヒー淹れてくれましたよな? 飲んだんでしたっけ? うーん……?)
ベッドの上で頭を抱えていると扉が開いた。
「サンっ?」
「あれ、起きてるの? ふぅん……まぁ身体大きいしそんなもんか」
薄暗い部屋をスタスタと歩いてベッドに腰を下ろしたサンの髪はいつも以上に黒い。普段のふんわりとした広がりはなく、濡れて纏まっている。
「サン、髪濡れてる……お風呂入ったの? ダメだよちゃんと乾かさないと、せっかくの綺麗な髪が傷んじゃうし風邪引いちゃうよ!」
「……第一声がそれ? なんでこんなことするのとか、何この足首のとか、聞いたり怒ったりしないんだ?」
「あぁ、ごめん、俺寝ちゃう前の記憶が曖昧でさ……サンがコーヒー淹れてくれた辺りまではぼんやり覚えてるんだけど、その先がちょっと。後で教えてくれる? 今はとりあえず髪乾かさないと」
「面倒臭いなぁ……いつもやってる事だけどさ。兄貴に言われてやってるだけで俺がやりたい訳じゃないんだよね、水月やってくれない?」
「いいよ」
「……ドライヤーとか持ってくるね」
サンは他にも何か言いたげな表情をしながらもそれだけを言い、一旦部屋を出てドライヤーと櫛とヘアオイルらしきボトルを持ってきた。
「座って」
ベッドの端に座ってもらい、サンの背後で膝立ちをして彼の肩にかかったバスタオルで髪から水気を取る。
「乾かす前に油塗れって兄貴が言ってたんだけど、合ってる?」
「うん、タオルで軽く拭いた後の髪が一番浸透しやすいし、ドライヤーの熱風から髪を守ってくれる……らしいよ」
「ふぅん……じゃあお願い」
しっとりとした髪にヘアオイルを塗り、サンの髪の長さを改めて実感する。
「じゃあ乾かしていくね」
「……うん。なんか……ドライヤー遠くない?」
「近くから温風当てると傷んじゃうから」
「ふぅん……ドライヤーうるさいから話せないと思ったけど、この距離なら十分話せるね」
「うん。あっ、説明してくれる? 俺サンがコーヒー淹れてくれた辺りから記憶ないんだ」
サンはあまり元気がなさそうに見える。風呂で体力を使ったのだろうか、何か落ち込むようなことがあったのだろうか。
「……最近この辺りで流行ってるレイプドラッグがあってね」
「レイプドラッグ……? って何?」
「すぐ代謝して検出されにくい睡眠薬とかそういうの。飲み屋とかでこっそりお酒に混ぜてお持ち帰りするようのお薬」
「こっそり酒に睡眠薬混ぜてお持ち帰り…………えっ悪どっ!? 悪どくない……? 怖……究極の邪悪じゃん……」
サンの肩が微かに揺れる、笑っているようだ。
「やっぱりまだ子供だね、可愛い。そうだよね、酷いよねぇ……そんなもの流行ったら困るってんでうちのボスが調べるよう言ったんだよね」
「ヒトさん?」
「の上。穂張組を顎で使ってる人。ヒト兄貴はめちゃくちゃ嫌ってて、フタ兄貴は大好きな人。まぁそれはいいよ、とにかくその人が薬を調べろって……お薬は自然発生しないからね、捌いてるグループがあるはずなんだ。うちの縄張り荒らしてるってことだし、潰さないとね。だからフタ兄貴の弟分達がその辺のチンピラとして接触、仲良くなって全体像を掴む……段階で、お薬を貰ったり買ったりしてね、製造法や元を探すためボスに渡さなきゃいけないんだけど、ボスとはそんな頻繁に会えないからフタ兄貴が管理してるんだけど、フタ兄貴は隠すのが下手だからね、ちょっと盗ってきてたんだ。それ飲ませた、アンタに」
「……えっ俺薬……びょ、病院! 救急車呼んで! なんか頭痛くなってきた気がする!」
「短時間眠るだけでそうそう不調は出ないよ、強姦のつもりが殺人になっちゃあ誰も買わないだろ?」
「どっちにしろえぐい犯罪だよ…………え、なんでそんなの飲ませたの?」
「…………ここに居て欲しかった」
帰れと言っていたのはサンの方だ、俺は帰りたくないと、また来たいと喚いていた。
「俺はこんなことしなくてもここに居るつもりだったけど……」
「うん、水月はボクが好きだもんね? じゃあ僕と一緒に居てくれるだろ? ボクはボクなんてやめとけって言ったのにね…………今も暴れて帰ろうとしたりなんてしないし、ボクの髪心配してくれた。嬉しいよ、大好きだよ水月、一緒に居ようね。ちゃんとお世話してあげるから安心してね」
普段とは少し違う甘ったるい声でそう言われ、背筋にゾクッと悪寒が走る。まさか俺はこのまま帰してもらえないのではと想像してしまったからだろう。
「あ、食べられない物とか飲まなきゃいけない薬とかあったら今教えておいてくれる?」
サンの機嫌を見つつ交渉して今日中に帰るか母に連絡するかしなければ、母が更にサンを危険人物と認識して交際が難しくなる。頑張らなければ。
「ぅ……」
灯りは点いておらず、カーテンを閉められた窓からの陽光だけが光源で、部屋は薄暗い。ベッドの他に部屋に何があるのか分からない。
「…………?」
頭が少しずつ回り始めた、サンの家を訪問していたことを思い出した。それで……なんで俺はベッドで寝ているんだ? 記憶が曖昧だ、サンにフィナンシェを渡して、美味しいと言って食べてくれて、それから……それで……えぇと……何があったんだっけ。
「……ジャラ?」
ベッドから降りようとするとジャラッと金属音が鳴った。同時に足首に異物感を覚えて薄手の毛布を剥がして左足を持ち上げてみると、足首とベッドの足が鎖で繋がれていた。
「……は?」
鎖は部屋の端まで行ける程度の長さはありそうだ、足首に巻かれている黒い革製のベルトは内側にクッションが付いており、多少暴れても皮膚が剥けたりはしなさそうだ。
(え? 何? どういう状況? わたくしサンさんと拘束プレイでもしてましたん? そんな覚えは……いやなんか記憶が飛んでるんですよな。サンさんがフィナンシェ食べて、それで、あぁそうだ、コーヒーか紅茶か聞かれて、わたくしはコーヒーって言いましたよな。それで……コーヒー淹れてくれましたよな? 飲んだんでしたっけ? うーん……?)
ベッドの上で頭を抱えていると扉が開いた。
「サンっ?」
「あれ、起きてるの? ふぅん……まぁ身体大きいしそんなもんか」
薄暗い部屋をスタスタと歩いてベッドに腰を下ろしたサンの髪はいつも以上に黒い。普段のふんわりとした広がりはなく、濡れて纏まっている。
「サン、髪濡れてる……お風呂入ったの? ダメだよちゃんと乾かさないと、せっかくの綺麗な髪が傷んじゃうし風邪引いちゃうよ!」
「……第一声がそれ? なんでこんなことするのとか、何この足首のとか、聞いたり怒ったりしないんだ?」
「あぁ、ごめん、俺寝ちゃう前の記憶が曖昧でさ……サンがコーヒー淹れてくれた辺りまではぼんやり覚えてるんだけど、その先がちょっと。後で教えてくれる? 今はとりあえず髪乾かさないと」
「面倒臭いなぁ……いつもやってる事だけどさ。兄貴に言われてやってるだけで俺がやりたい訳じゃないんだよね、水月やってくれない?」
「いいよ」
「……ドライヤーとか持ってくるね」
サンは他にも何か言いたげな表情をしながらもそれだけを言い、一旦部屋を出てドライヤーと櫛とヘアオイルらしきボトルを持ってきた。
「座って」
ベッドの端に座ってもらい、サンの背後で膝立ちをして彼の肩にかかったバスタオルで髪から水気を取る。
「乾かす前に油塗れって兄貴が言ってたんだけど、合ってる?」
「うん、タオルで軽く拭いた後の髪が一番浸透しやすいし、ドライヤーの熱風から髪を守ってくれる……らしいよ」
「ふぅん……じゃあお願い」
しっとりとした髪にヘアオイルを塗り、サンの髪の長さを改めて実感する。
「じゃあ乾かしていくね」
「……うん。なんか……ドライヤー遠くない?」
「近くから温風当てると傷んじゃうから」
「ふぅん……ドライヤーうるさいから話せないと思ったけど、この距離なら十分話せるね」
「うん。あっ、説明してくれる? 俺サンがコーヒー淹れてくれた辺りから記憶ないんだ」
サンはあまり元気がなさそうに見える。風呂で体力を使ったのだろうか、何か落ち込むようなことがあったのだろうか。
「……最近この辺りで流行ってるレイプドラッグがあってね」
「レイプドラッグ……? って何?」
「すぐ代謝して検出されにくい睡眠薬とかそういうの。飲み屋とかでこっそりお酒に混ぜてお持ち帰りするようのお薬」
「こっそり酒に睡眠薬混ぜてお持ち帰り…………えっ悪どっ!? 悪どくない……? 怖……究極の邪悪じゃん……」
サンの肩が微かに揺れる、笑っているようだ。
「やっぱりまだ子供だね、可愛い。そうだよね、酷いよねぇ……そんなもの流行ったら困るってんでうちのボスが調べるよう言ったんだよね」
「ヒトさん?」
「の上。穂張組を顎で使ってる人。ヒト兄貴はめちゃくちゃ嫌ってて、フタ兄貴は大好きな人。まぁそれはいいよ、とにかくその人が薬を調べろって……お薬は自然発生しないからね、捌いてるグループがあるはずなんだ。うちの縄張り荒らしてるってことだし、潰さないとね。だからフタ兄貴の弟分達がその辺のチンピラとして接触、仲良くなって全体像を掴む……段階で、お薬を貰ったり買ったりしてね、製造法や元を探すためボスに渡さなきゃいけないんだけど、ボスとはそんな頻繁に会えないからフタ兄貴が管理してるんだけど、フタ兄貴は隠すのが下手だからね、ちょっと盗ってきてたんだ。それ飲ませた、アンタに」
「……えっ俺薬……びょ、病院! 救急車呼んで! なんか頭痛くなってきた気がする!」
「短時間眠るだけでそうそう不調は出ないよ、強姦のつもりが殺人になっちゃあ誰も買わないだろ?」
「どっちにしろえぐい犯罪だよ…………え、なんでそんなの飲ませたの?」
「…………ここに居て欲しかった」
帰れと言っていたのはサンの方だ、俺は帰りたくないと、また来たいと喚いていた。
「俺はこんなことしなくてもここに居るつもりだったけど……」
「うん、水月はボクが好きだもんね? じゃあ僕と一緒に居てくれるだろ? ボクはボクなんてやめとけって言ったのにね…………今も暴れて帰ろうとしたりなんてしないし、ボクの髪心配してくれた。嬉しいよ、大好きだよ水月、一緒に居ようね。ちゃんとお世話してあげるから安心してね」
普段とは少し違う甘ったるい声でそう言われ、背筋にゾクッと悪寒が走る。まさか俺はこのまま帰してもらえないのではと想像してしまったからだろう。
「あ、食べられない物とか飲まなきゃいけない薬とかあったら今教えておいてくれる?」
サンの機嫌を見つつ交渉して今日中に帰るか母に連絡するかしなければ、母が更にサンを危険人物と認識して交際が難しくなる。頑張らなければ。
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