冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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オリジナルブレンド

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フィナンシェを全て食べ終えたサンは立ち上がり、キッチンへ向かった。家の形はもう完璧に頭に入っているのだろう、杖は使っていないし壁に手を当てていたりもしない、ごくごく自然に過ごしている。

「水月、紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「あ、コーヒー……ミルクと砂糖多めで」

「ふふっ、はぁい」

子供っぽく思われてしまっただろうか。

「飲みながらゆっくり食べればよかったなぁ、紅茶にもコーヒーにもよく合いそうなお菓子だったよ。ボクってばがっついちゃって」

ポットに水を汲みながらサンは照れ臭そうに話す。

「また持ってくるよ」

今度母に作り方を教えてもらわなくては。

「また来る気なの? ボクは昨日が最後のつもりだったんだけどな……お母さんの言うことちゃんと聞きなって言ったろう? ボクには近付くなとか言われたんじゃないの?」

「……母さんは関係ない、サンを好きなのは俺だよ」

「お母さんに心配かけちゃダメだよ」

「母さんがおかしいんだよ! 自分を棚に上げて、サンはヤクザだからダメなんてっ、サンはヤクザじゃないよね? サンは画家だもん、変な薬売ったり人殺したりなんかしてない!」

「どうしてそう言い切れるのかなぁ、ボクのこと何にも知らないくせに」

ポットの中で温度を高めていく水のグツグツという音を聞きながら、サンは少し怒ったような声を出した。

「知らないけどっ……分かる、サンは悪い人じゃない。悪い人を好きになったりなんて俺しないよ」

「……調子に乗るなよガキ、アンタにそんな人を見る目なんてある訳ない」

「じゃあ殺したことあるの? 非合法なもの売ったことあるの?」

「ないけど……」

「ないんじゃん!」

「そういう問題じゃないだろ、ボクは悪い団体に属してるかもしれない人間……というかアンタのお母さんが知ってるレベルの悪い大人だ。そんなのと付き合うなんて、アンタのお母さんショックで倒れちゃうよ」

「俺の母さんそんなヤワじゃないよ」

カチッ、とポットが鳴った。お湯が湧いたのだ。サンは二つ並べたマグカップの片方にティーパックを、もう片方には粉末コーヒーを入れた。

「ミルクと砂糖多めだったね。ミルク……クリープどこにあったかな。水月、コーヒー飲んだら帰りなよ、それでもう二度とここには来ないこと。ボクのことは忘れて」

「嫌だ。サンだって困るだろ、まだ絵途中なんだし……ねぇサン、本当に穂張組ってヤクザなの? 今日行ったけどそんな気あんまりしなかったよ」

「さぁね、ボクはあんまり関わりないから……でもま、絵の売り上げ何割かヒト兄貴に渡してるから、ちゃんとヤクザやってるならボクは資金源だね。あんまりよくないんじゃないのそういうのって」

「ほらサンは関係ないんじゃん!」

「……ボクが実際何をやったかじゃなくて、大事なのは印象だよ。ボクが穂張の人間だからアンタのお母さんは心配してるんだろ? お母さんに心配かけちゃダメだってば……他にも彼氏いっぱい居るんだろ? ボクは諦めなよ」

「嫌だ……サンも俺のこと好きだろ?」

サンはため息をつきながら俺の分のマグカップに白い粉をザザっと入れた。

「……あの、サン? 流石にミルクそこまでいらないかな」

「…………これ味薄いから」

「そう……? なら……うん」

「……それより、帰る気はないんだね? 今日追い返してもまた来るんだね?」

「うん」

湯気が立ったコーヒーと紅茶が机に並べられる。

「……ボクのこと好き?」

「好き!」

「………………ボクも水月が好きだよ」

「……! 本当? やった……! じゃあ、いい? 付き合ってくれる? 俺サンのこと寂しがらせないよ、いっぱい尽くすよ!」

サンの手がふらふらと俺を探す。俺はその大きな手を取り、顔に触れさせた。

「普通の家に生まれて、目が見えてたら……ボクはアンタの告白きっと二つ返事だったよ。結局継いだのはヒト兄貴だったけど、穂張の跡取りはボクだったんだ。その事実は消えない、薬や女の子を売った金で美味しいもの食べさせてもらった子供時代は覆らない、水月……綺麗なアンタはボクなんか好きになっちゃいけなかったのに」

コーヒーに手を伸ばすとサンにその手を掴まれた。

「……黄泉竈食って分かる?」

「えっと、あの世のものを食べたらあの世の住人になっちゃう的なアレだよね」

「これを飲んだらもう帰れないって言ったら?」

「…………どういうこと?」

「水月はボクが好きなんだね、ボクも水月が好きだよ。でも水月のお母さんが心配するから、ダメって言うから、やっぱりダメかなぁって思ったけど……本心じゃない。水月が欲しいよ。でも頑張って離れようとしてるのにアンタがしつこいから理性の抑えが効かなくなってきた。ボクはろくな大人じゃない、まともな人間じゃないんだよ。水月、最後のチャンスだよ、飲まずに帰ってもう二度とここに来ないで」

「……意思表示ってことだね。飲むよ」

俺は熱いコーヒーをゆっくりと、だが確実に飲み干した。

「ふぅ……これで付き合ってくれる?」

「………………あーぁ」

サンは他人事のように残念そうにそう言うと、空になったマグカップを持ってキッチンへ向かった。

「あっ、サン……」

「立っちゃ危ないよ、座ってなよ」

ちゃんとした返事が欲しくて、もっと彼に触れたくて、触れられたくて、サンを追おうと立ち上がる。数歩歩き、ガクンと膝をつく。

「……っ!? ぁ……?」

「そんなに身体に悪いものじゃないから安心して」

「……?」

「入れるとこ見てたくせに、飲まないで帰りなって言ったのに、一気飲みなんてして…………水月、ボクは悪くないよね? ボクは忠告した、帰れって言った、でも水月がボクを好きだ諦めないって言ったんだから……水月はボクのものだ。もう我慢してやらない、遠慮もしない」

身体に力が入らない。眠い。頭も回らない。眠い。何が起こっているのか分からない、眠い、サンが何を話しているのかもよく分からない、耳の手前で声が滑っているみたいだ、脳に入ってこない。ただひたすらに眠い。

「よいしょっ……水月結構重いね、鍛えてるもんね。ふふ、ふふふっ……水月、水月ぃ、ふふふふ」

浮遊感。サンの顔が近い。抱き上げられた? サンはそんなに力が強かったのか?

「さ、ん……」

「散々忠告したのに今更怖くなった? もう離さないよ」

何が何だかよく分からないけれど、お姫様抱っこをされる側に回るなんて想像していなかった。心地いい、嬉しい、とても眠くて身体がだるいけれどサンの首に腕を回すくらいは出来た、鎖骨あたりへの頬擦りにも成功した。

「……す、き」

「……………………あっははははっ!」

薄れゆく意識の中サンの楽しげな笑い声が頭に響いて、幸せな気持ちのまま俺は目を閉じた。
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