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スカウトされたこと自体は話のネタになりそうだし、彼氏達に自慢する用として名刺は取っておこう。

「SNSで騒ぎになっていますし、早いうちに今回の放送事故に関する動画を上げておきたいのですが……鳴雷さん、出演していただけますか?」

「えっ!? いや……俺、顔出すのは、ちょっと」

「もちろんマスク等はしていただいて構いません」

一瞬とはいえ素顔を晒してしまった身だが、マスクだけでは不安が残る。アキが愛用している真っ黒のサングラスを借りようかな。

「それなら、まぁ……何話すんですか? 言えば配信切るのミスってプライベートの友人が映っちゃっただけですよね」

「そのことを話します。カミア、配信内で今家に一人……とか言った?」

「え、わ、分かんない……どうだったかな」

「なら配信を見直して、彼の存在を否定するような内容の発言があればそれの訂正と謝罪を」

「はい……」

大した内容にはならなさそうだな。

「俺話すことないですよね?」

「そう……ですね、おそらく。事務所に戻って他の者と相談し、台本を作りますので……話すべきことがあってもそれを読むだけで構いません」

「ありがとうございます……いつ頃になりそうです?」

「一週間以内には」

「分かりました、決まったらカミア経由で連絡ください」

しつこくスカウトされそうなので母親には連絡先を教えたくない、後でカミアにも教えないように言っておかなくては。

「以上になります。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

「ごめんなさい水月くん……」

「い、いえいえ……俺も迂闊でしたし……」

「……ありがとうございます。では、そろそろカミアは予定がありますので、連れ帰させていただきます」

「あっ、はい……じゃあ、荷物まとめます」

玩具を見られないように慎重に荷物を片付け、鞄を肩にかける。玄関前でカミアと友愛の範疇と判断されるだろう軽いハグを交わした。

「じゃあな、カミア。また今度」

「うん、バイバイみぃくん。またね」

母親からマスクを渡してもらえたので念のためそれを付け、彼らより先に部屋を出た。一人でエレベーターに乗り、足早に駅に向かった。カミアとの別れが簡素だったことを気にしつつも電車に乗り、カミアにメッセージを送る。

『今日は楽しかったよ、別れ際ちょっと味気なかったけどな。また遊ぼう』

母親に連絡先を教えるなという件と、カンナ関係の話はもうしばらく控えた方がいいだろう。同じ車などに乗るなら母親にスマホ画面を覗かれる可能性がある。

「はぁ……」

ハルからのメッセージが溜まっている。



ハルからの誤字だらけ連投メッセージや、支離滅裂な長文メッセージを読んでいるうちに自宅最寄り駅に着いた。流石に俺がカミアの配信の放送事故に映り込んだ男だと気付いているヤツは居ないとは思うが、念のため人気のない道を何度も振り返りながら自宅へ帰った。

「ただいまぁ……はぁー、疲れましたぞ……精神的に」

バレる可能性はゼロに等しいと思ってはいるが、もしバレたらと考えてしまうからただの外出でも精神的負担が大きい。しばらくは外出を控えようかな。

「おや、よき香り」

ダイニングに入ると焼き菓子の匂いがした。オーブン用の鉄板などが乾かされているところから見るに、母が久々にお菓子を焼いたのだろう。

「おかえり水月、晩ご飯もうそろ出来るわよ」

「ありがとうございまそ。ちなみにママ上お菓子などお作りになられました?」

「フィナンシェ焼いたわ、アンタの分置いてあるから明日のおやつになさい。何人分かは取ってあるから持ってったり来た子にあげたりしてもいいわよ」

「ありがとうございまそ」

部屋着に着替えて手を洗い、ダイニングに戻って席に着いた。

「にーに、おかえりです」

「ただいま、アキ」

笑顔で挨拶をしてくれたアキの頭を軽く撫で、セイカに視線を移す。相変わらずの死んだ魚のような目は焦点が合っていなかった。

「セイカ……?」

「そいつなんか今日調子悪いのよ」

「そ、そうなんですか? どうしたんだろ……」

まぁ、そういう日もあるか。全員で「いただきます」の声を合わせつつも俺はセイカを観察していた、声は聞こえなかったが手を合わせて口をパクパク動かしていたし、ちゃんとフォークを持ったから、あまり心配する必要はなさそうだ。

「今日も美味しい……」

何度食べても飽きることのない美味しい食事に幸せを感じる。今日も食事中の会話がないので、明日何をするかを考える。

《兄貴ー、ウィンナーくれよ》

(ほぼ毎日抱かれたがるシュカたまが一切連絡してこないの、不思議ですよな。つーかメッセも見てないみたいで……心配でそ。しかし家知りませんし、前電話かけた時は出ませんでしたし……食べ終わったらまたかけてみまそ)

《……黙ってるってことはいいことだな》

ウィンナーがひょいっと皿から持っていかれるのを見て思考を中断する。

「こ、こらアキ! 何も言わずに持ってくな。欲しいんだったらそう言ったらお兄ちゃんあげるから」

「……? おいしいです」

「…………セイカー?」

翻訳を頼めないかと名前を呼んでみると、セイカはゆっくりとこちらを向いて頷き、フォークに刺したウィンナーを俺に向かって突き出してきた。

「い、いや、ウィンナー取られたことに怒ってる訳じゃなくて……うん、ありがとう……もらう、な?」

何故か話してくれないセイカにウィンナーを食べさせてもらい、礼を言う。話すのも嫌なほど精神的に疲れているのだろうか。なんで? 何があったの今日。翻訳は母に頼むか、いや、セイカが自分の役割が失われたと悲しむ可能性もあるし……セイカが元気になってから頼もう。
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