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アイドルの元へ
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食器を洗い終えてダイニングに戻り、スマホを弄っているアキの頭を撫でる。
「にーにぃ」
パァっと笑顔になって俺の手に擦り寄るアキを可愛がりつつ、リビングのソファに移動したリュウとセイカの様子を見る。
「はぁあ……ダメになっていく……」
セイカはソファに寝転がり、リュウの膝を枕にしてリュウに頭を撫でられている。気持ちよさそう、羨ましい。俺もリュウに膝枕されつつなでなでされたいし、セイカにそれをしてあげたい。
「水月、アンタ今日出かけるんだっけ?」
「ぁ、はい、約束がありまして」
「昼飯はいらないのね」
「はい」
「お昼どうしようかしら……今日はなんか色々作りたい気分なのよねー、久しぶりにお菓子作ろうかな……」
日曜日は母も休日、本来ならセイカはアキの部屋に逃げたりするのだろうが、今日はリュウの膝枕と愛撫にうつつを抜かしている。
「そろそろ出ないと間に合わないな……母さん、俺出かけるよ。リュウ、セイカ、行ってくる。アキ、お兄ちゃん、行ってきます」
「……! にーに、行ってらっしゃいです」
氷のような冷たさを感じる無表情が、話しかけた瞬間に花が開いたような笑顔に変わる。自分以外の者達の会話が自分には理解が難しい言葉で交わされていれば、そりゃあ面白くないだろう。そんな中で理解しやすいようにとゆっくり話しかけられたら顔が緩んで当然だ。それだけの理由かもしれないのに俺は俺がアキを喜ばせているのだと錯覚して浮かれてしまう。
「可愛いなぁもぉ……よしよし、リュウとセイカに遊んでもらっとけよ~」
アキの頭を撫でた後、リュウとリュウの膝枕で溶けているセイカにも軽いスキンシップを行い、着替えなどの荷物を持って家を出た。終業式の日にカミアから送られてきたメッセージを開き、行くべき場所を再確認する。
電車に揺られてほとんど来たことのない街に到着。都会の気配が濃くなったことに緊張しつつ、スマホ片手に歩いてく。スマホの案内に従うと大きなマンションに到着した。オートロックだ。カミアから送られている三桁の数字を──部屋番号を入力するとピンポーンとインターホンのような音が鳴った。
『……みぃくん? わー、早かったね。上がって』
受話器越しのようなカミアの声がして、自動ドアが開く。緊張しつつもその先のエレベーターに乗り、カミアが待つ部屋の扉を叩いた。
「いらっしゃい水月くん」
「カミア……久しぶり」
「入って入って早く入って」
腕を掴まれ引っ張り込まれ、背後で閉まった扉にすぐに鍵をかけたカミアを見て、やはり警戒心が強いんだなと思った。
「水月くん……本物の水月くんだぁ! えへへっ、何日ぶりだろ。会いたかったぁ」
「俺も会いたかったよ。でもいいのか? カンナとかお父さん呼ばなくて」
「恋人と二人っきりになりたいのってそんなに不思議?」
「いや……」
「家族とはちょいちょい会ったり電話したりしてるから、心配しないで」
俺の知らないところで家族の時間が重ねられているのならそれでいい、俺が邪魔になっていないか不安だっただけだから。
「そっか、今日は配信するって聞いたけど」
「うん、料理配信。前のゲームのはゲーム会社から依頼された完全なお仕事だったけど、今回は半プライベート的なもの」
「へぇー……?」
「月一回は配信するってノルマがあってね、その配信のタイミングと内容は自由なんだ。自由って言っても何するかは事前に言って、許可もらわないといけないんだけどね。僕のイメージ崩しちゃまずいから」
「うん……?」
「今回は屋内撮影にしたから僕一人だし、空き時間も多いからたくさん……その、いちゃいちゃ? 出来るね」
「ンンッ……さ、撮影は一人じゃない時もあるのか?」
「アスレチック系の企画の時とかは固定カメラじゃアレだし、僕が頭とかに付けたカメラとか手持ちカメラとかの映像だけじゃちょっとね……やっぱり僕を後ろから追いかけてる映像がなきゃあんまり面白くないでしょ?」
俺は三次元の人間を推さないタイプのオタクなので配信などもほとんど見ない、だからなのかアスレチック系と言われてもイメージが湧かない。
「こういう話気になる気持ちも分かるけど、僕今日はみぃくんとたぁっくさんいちゃいちゃしたくてみぃくんだけ呼んだんだよ。早くこっち来て」
引っ張られるままに廊下を進み、三脚カメラがセットされたキッチンを通り過ぎ、リビングのソファに座らされた。部屋はモデルハウスのようにオシャレで綺麗だ、流石撮影用。
「み、水月くん……お膝乗っていい?」
「もちろんいいよ、おいで」
カミアはカンナとは別種の孤独を抱えている子だ。彼への声や言葉は極力優しく、包み込むような対応が好ましいだろう。
「えへへ……」
ソファに座った俺の膝に横向きに腰を下ろしたカミアは俺の左腕に背を預け、照れながらも笑顔で俺を見上げた。
「みぃくん温かいね、落ち着くなぁ」
「……カミア、なんか俺の呼び方安定しないよな。みぃくんとか水月くんとか」
「へっ? あ、あぁ……お兄ちゃんはみぃくんって呼んでるだろ? あれちょっと真似したくて……でも、全然会えてなくて僕付き合い浅い感じなのに、そんな馴れ馴れしく呼ぶのもなぁって」
「カンナは割と最初からみぃくん呼びだったよ。会える回数が少なくても愛情はちゃんと深まってると俺は思ってるし、好きに呼んでくれて構わない。カンナの真似ばっかりじゃなくてもいいし、お兄ちゃんとお揃いがいいって言うならもちろんそれでもいい。呼びやすい方でいいよ、使い分けてくれてもいいし」
「……そぉ? えへへ、ちょっと気楽……みぃくん、水月くん……みぃくんの方がやっぱり言いやすいなぁ、でも、うん……双子両方彼氏にしてもらって……差異出さないってのも面白くないよね?」
「お揃いを楽しむのも差異を楽しむのも両方双子の醍醐味だと思うぞ。何やっても可愛い、無敵だよ」
「全肯定するぅ~……」
拗ねたように言いながらもカミアは頬を赤らめている。
「まぁ、僕が可愛くて無敵なのは当然だけどねっ☆」
調子を戻したいのかアイドルらしい笑顔を作るのもまた可愛い。やはり無敵だ。
「にーにぃ」
パァっと笑顔になって俺の手に擦り寄るアキを可愛がりつつ、リビングのソファに移動したリュウとセイカの様子を見る。
「はぁあ……ダメになっていく……」
セイカはソファに寝転がり、リュウの膝を枕にしてリュウに頭を撫でられている。気持ちよさそう、羨ましい。俺もリュウに膝枕されつつなでなでされたいし、セイカにそれをしてあげたい。
「水月、アンタ今日出かけるんだっけ?」
「ぁ、はい、約束がありまして」
「昼飯はいらないのね」
「はい」
「お昼どうしようかしら……今日はなんか色々作りたい気分なのよねー、久しぶりにお菓子作ろうかな……」
日曜日は母も休日、本来ならセイカはアキの部屋に逃げたりするのだろうが、今日はリュウの膝枕と愛撫にうつつを抜かしている。
「そろそろ出ないと間に合わないな……母さん、俺出かけるよ。リュウ、セイカ、行ってくる。アキ、お兄ちゃん、行ってきます」
「……! にーに、行ってらっしゃいです」
氷のような冷たさを感じる無表情が、話しかけた瞬間に花が開いたような笑顔に変わる。自分以外の者達の会話が自分には理解が難しい言葉で交わされていれば、そりゃあ面白くないだろう。そんな中で理解しやすいようにとゆっくり話しかけられたら顔が緩んで当然だ。それだけの理由かもしれないのに俺は俺がアキを喜ばせているのだと錯覚して浮かれてしまう。
「可愛いなぁもぉ……よしよし、リュウとセイカに遊んでもらっとけよ~」
アキの頭を撫でた後、リュウとリュウの膝枕で溶けているセイカにも軽いスキンシップを行い、着替えなどの荷物を持って家を出た。終業式の日にカミアから送られてきたメッセージを開き、行くべき場所を再確認する。
電車に揺られてほとんど来たことのない街に到着。都会の気配が濃くなったことに緊張しつつ、スマホ片手に歩いてく。スマホの案内に従うと大きなマンションに到着した。オートロックだ。カミアから送られている三桁の数字を──部屋番号を入力するとピンポーンとインターホンのような音が鳴った。
『……みぃくん? わー、早かったね。上がって』
受話器越しのようなカミアの声がして、自動ドアが開く。緊張しつつもその先のエレベーターに乗り、カミアが待つ部屋の扉を叩いた。
「いらっしゃい水月くん」
「カミア……久しぶり」
「入って入って早く入って」
腕を掴まれ引っ張り込まれ、背後で閉まった扉にすぐに鍵をかけたカミアを見て、やはり警戒心が強いんだなと思った。
「水月くん……本物の水月くんだぁ! えへへっ、何日ぶりだろ。会いたかったぁ」
「俺も会いたかったよ。でもいいのか? カンナとかお父さん呼ばなくて」
「恋人と二人っきりになりたいのってそんなに不思議?」
「いや……」
「家族とはちょいちょい会ったり電話したりしてるから、心配しないで」
俺の知らないところで家族の時間が重ねられているのならそれでいい、俺が邪魔になっていないか不安だっただけだから。
「そっか、今日は配信するって聞いたけど」
「うん、料理配信。前のゲームのはゲーム会社から依頼された完全なお仕事だったけど、今回は半プライベート的なもの」
「へぇー……?」
「月一回は配信するってノルマがあってね、その配信のタイミングと内容は自由なんだ。自由って言っても何するかは事前に言って、許可もらわないといけないんだけどね。僕のイメージ崩しちゃまずいから」
「うん……?」
「今回は屋内撮影にしたから僕一人だし、空き時間も多いからたくさん……その、いちゃいちゃ? 出来るね」
「ンンッ……さ、撮影は一人じゃない時もあるのか?」
「アスレチック系の企画の時とかは固定カメラじゃアレだし、僕が頭とかに付けたカメラとか手持ちカメラとかの映像だけじゃちょっとね……やっぱり僕を後ろから追いかけてる映像がなきゃあんまり面白くないでしょ?」
俺は三次元の人間を推さないタイプのオタクなので配信などもほとんど見ない、だからなのかアスレチック系と言われてもイメージが湧かない。
「こういう話気になる気持ちも分かるけど、僕今日はみぃくんとたぁっくさんいちゃいちゃしたくてみぃくんだけ呼んだんだよ。早くこっち来て」
引っ張られるままに廊下を進み、三脚カメラがセットされたキッチンを通り過ぎ、リビングのソファに座らされた。部屋はモデルハウスのようにオシャレで綺麗だ、流石撮影用。
「み、水月くん……お膝乗っていい?」
「もちろんいいよ、おいで」
カミアはカンナとは別種の孤独を抱えている子だ。彼への声や言葉は極力優しく、包み込むような対応が好ましいだろう。
「えへへ……」
ソファに座った俺の膝に横向きに腰を下ろしたカミアは俺の左腕に背を預け、照れながらも笑顔で俺を見上げた。
「みぃくん温かいね、落ち着くなぁ」
「……カミア、なんか俺の呼び方安定しないよな。みぃくんとか水月くんとか」
「へっ? あ、あぁ……お兄ちゃんはみぃくんって呼んでるだろ? あれちょっと真似したくて……でも、全然会えてなくて僕付き合い浅い感じなのに、そんな馴れ馴れしく呼ぶのもなぁって」
「カンナは割と最初からみぃくん呼びだったよ。会える回数が少なくても愛情はちゃんと深まってると俺は思ってるし、好きに呼んでくれて構わない。カンナの真似ばっかりじゃなくてもいいし、お兄ちゃんとお揃いがいいって言うならもちろんそれでもいい。呼びやすい方でいいよ、使い分けてくれてもいいし」
「……そぉ? えへへ、ちょっと気楽……みぃくん、水月くん……みぃくんの方がやっぱり言いやすいなぁ、でも、うん……双子両方彼氏にしてもらって……差異出さないってのも面白くないよね?」
「お揃いを楽しむのも差異を楽しむのも両方双子の醍醐味だと思うぞ。何やっても可愛い、無敵だよ」
「全肯定するぅ~……」
拗ねたように言いながらもカミアは頬を赤らめている。
「まぁ、僕が可愛くて無敵なのは当然だけどねっ☆」
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