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ただ帰るなんてつまらないし
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二個セットのブラウニーを一つ食べ終えた俺はザッハトルテに手を伸ばした。彼氏達もそろそろ手を出している頃だ、感想を言い合ういいタイミングだな。
「んんん……! 濃厚っ……!」
「美味しいです……なんだか上品なお味ですね」
「ケーキの王様や言うだけのことはあるなぁ」
甘ったるいものは量を食べられないからまだマシだ、甘いだけじゃないチョコレートケーキは罪深い、ついつい食べ過ぎてしまう。今回は量を予め考えて注文したが、追加注文したくなってきている。ダメだダメだ、キモオタデブスの再来なんてさせてたまるか。
《濃いな、美味ぇ》
《うん……すごく美味しい、泣きそう》
《また泣くのかよ》
《……お前俺が泣くの気にするけど、なんで?》
《俺友達出来たことないからさ、日本来る前にババ……母親がな、人との付き合い方っての教えたんだよ。改めて日本社会に溶け込む時に俺が足でまといにならないようにな》
アキとセイカがまた二人だけで話している、ザッハトルテの感想なら俺とも話して欲しい。
《目が合ったらヘラヘラ笑っとくとか、舌打ちするなとか、睨むなとか、色々。そんでそん中にさ、泣いてるヤツは積極的に慰めろって……泣いてるヤツは弱ってるから、その時に優しくすればコスパがいいって》
《コスパ……? 俺に何求めてんだよ》
《泣いてる時に慰めたら効率良く仲良くなれるってこと。俺もっとスェカーチカに好かれたいんだ。だから泣いてる時に傍に行くようにしてんだけどさぁ、合ってる?》
《……少なくとも、俺に対してはな。俺なんかに好かれてどうすんだって話だけど、そう思ってくれてるって分かっただけで、俺……秋風のこともっと……その……》
《好きになった? ハハッ! チョロいな、やったぁ!》
《チョロいってお前……一言、多いんだよなぁ……》
楽しそう、何話してるんだろ。俺もロシア語が分かるようになりたい、でも勉強はしたくない、朝起きたら急にペラペラになるとか、コンニャク食べたら話せるようになるとか、そういうのがいい。
みんな食べ終えて、口に残った甘さを楽しみながら、次はどうするかなんて話す。電車に揺られて隣駅まで来ておいてただ帰るなんてつまらない。
「リュウの家みんなで行こうか」
「あかん! 絶対あかん、来んといて」
「そんなに……? 俺この辺詳しくないんだよなぁ。リュウ、遊べるとことか知ってる?」
「ゲーセンとかカラオケやったら一通り揃ってんで」
ホムラに聞いても遊びの知識も経験もない彼は何の提案も出来ないだろう。カラオケに行っても彼が歌えるとは思えないし、となるとゲーセン……楽しめるだろうか? いや、楽しませるのだ。
「この時間ならカツアゲとかされなさそうだし、ゲーセン行ってみようか」
「そもそもされへんよ」
カフェを出てリュウの案内に従っていくと、途中からセイカが頻繁に振り返って俺を見上げるようになった。
「セイカ? どうした?」
「……なんでもない。ほむら……その、楽しませてやってくれ」
「あぁ、もちろん」
先程俺に奢られたことや、これからホムラが遊ぶのにも金を使わせることを気にしているのかな? とりあえず頭を撫でておこう。
「ここや、小さいとこやし寂れとるけど遊べんのは遊べる思うで」
「本当だ、ちょっと古めのゲーセンって感じ……ここなら不良も居な……いや、こういうとこほどカツアゲされたり……」
「水月なんでそないにカツアゲされるん気にしとるん。大丈夫やって、そもそもそんなんするヤツ居らんしこっちゃ今人数居んねんから」
「リュウはここよく来るのか?」
「んぃや全然」
まぁ、ゲーセンとかで遊ぶタイプじゃないもんな。見た目以外は。ゲーセンで喜びそうなのはハル辺りか? 歌見もそこそこ? レイはどうだろう。
「鳴雷……あの、降りたい……ダメ?」
「ダ…………なんでだ?」
振り返って俺を見上げているセイカの怯えた表情に、ダメと言いかけた口を一旦噤んで理由を聞いた。
「…………っ、ここ、俺……」
「……ん?」
「俺……ここ、で……あの……」
何かを話そうとしてくれていると察した俺は、人気のないゲーセンだけれど通行の邪魔にならなさそうな位置に車椅子を止めてその前に回り、身を屈めて視線の高さを合わせた。こちらの方が話しやすいだろう。
「水月ー? どないしたん?」
「先に遊んでてくれー! セイカ、ゆっくりでいいよ。どうしたんだ? ゲーセン苦手か?」
「ここ……」
「うん」
「俺っ、の……違う……俺を……あの」
セイカはそれきり俯いて何も話さなくなった。話そうと大きく息を吸ったりはしているようだが、声が出ないようで左手を強く握り締めている。
「…………一旦出よっか」
「……っ!? ダ、ダメっ、ほむら……楽しめるかもしれないしっ」
「俺とセイカだけだよ、それでもダメ?」
「ダメ……鳴雷も、ここ楽しいかもしれないから……」
セイカがずっと何かに怯えているのに俺が楽しめる訳がないのだとは、セイカは思い至らないのだろうな。
(ゲーセンで色々奢らされたりしたんでしょうか? その過程で殴られたり?)
イジメられっ子でもあったセイカがゲーセンを苦手としている理由は容易に想像が付く。どうするべきかと悩んでいると背中をつつく者があった。
「にーにぃ、眩しいするです……ここ、ぼく、嫌いするです。眩しいするです……嫌い、です」
「アキ……ゲーセンダメか? そっか、眩しいか。チカチカしてるもんなぁ、明暗差激しいしサングラスしてても嫌だよな……ちょうどよかった。セイカ、アキもゲーセン嫌いだってさ。一緒に外出てたらどうだ? その辺ウロウロしてな、向かいに雑貨屋さんあったしコンビニも近いし……ちょっと渡しとくよ」
札を二枚ほどセイカのポケットにねじ込み、二人の頭を撫でる。
「アキ、セイカも、ゲーセン嫌い。一緒、別のところ、遊ぶする、行っておいで」
詳しい説明はセイカに頼み、二人の元を離れてリュウとホムラの元へ向かった。アキもセイカも心配だったけれど二人で出かけることは多いらしいし、セイカは俺がここで楽しまなければ気に病んでしまうだろう。別行動は正しい判断だと思いたい。
「んんん……! 濃厚っ……!」
「美味しいです……なんだか上品なお味ですね」
「ケーキの王様や言うだけのことはあるなぁ」
甘ったるいものは量を食べられないからまだマシだ、甘いだけじゃないチョコレートケーキは罪深い、ついつい食べ過ぎてしまう。今回は量を予め考えて注文したが、追加注文したくなってきている。ダメだダメだ、キモオタデブスの再来なんてさせてたまるか。
《濃いな、美味ぇ》
《うん……すごく美味しい、泣きそう》
《また泣くのかよ》
《……お前俺が泣くの気にするけど、なんで?》
《俺友達出来たことないからさ、日本来る前にババ……母親がな、人との付き合い方っての教えたんだよ。改めて日本社会に溶け込む時に俺が足でまといにならないようにな》
アキとセイカがまた二人だけで話している、ザッハトルテの感想なら俺とも話して欲しい。
《目が合ったらヘラヘラ笑っとくとか、舌打ちするなとか、睨むなとか、色々。そんでそん中にさ、泣いてるヤツは積極的に慰めろって……泣いてるヤツは弱ってるから、その時に優しくすればコスパがいいって》
《コスパ……? 俺に何求めてんだよ》
《泣いてる時に慰めたら効率良く仲良くなれるってこと。俺もっとスェカーチカに好かれたいんだ。だから泣いてる時に傍に行くようにしてんだけどさぁ、合ってる?》
《……少なくとも、俺に対してはな。俺なんかに好かれてどうすんだって話だけど、そう思ってくれてるって分かっただけで、俺……秋風のこともっと……その……》
《好きになった? ハハッ! チョロいな、やったぁ!》
《チョロいってお前……一言、多いんだよなぁ……》
楽しそう、何話してるんだろ。俺もロシア語が分かるようになりたい、でも勉強はしたくない、朝起きたら急にペラペラになるとか、コンニャク食べたら話せるようになるとか、そういうのがいい。
みんな食べ終えて、口に残った甘さを楽しみながら、次はどうするかなんて話す。電車に揺られて隣駅まで来ておいてただ帰るなんてつまらない。
「リュウの家みんなで行こうか」
「あかん! 絶対あかん、来んといて」
「そんなに……? 俺この辺詳しくないんだよなぁ。リュウ、遊べるとことか知ってる?」
「ゲーセンとかカラオケやったら一通り揃ってんで」
ホムラに聞いても遊びの知識も経験もない彼は何の提案も出来ないだろう。カラオケに行っても彼が歌えるとは思えないし、となるとゲーセン……楽しめるだろうか? いや、楽しませるのだ。
「この時間ならカツアゲとかされなさそうだし、ゲーセン行ってみようか」
「そもそもされへんよ」
カフェを出てリュウの案内に従っていくと、途中からセイカが頻繁に振り返って俺を見上げるようになった。
「セイカ? どうした?」
「……なんでもない。ほむら……その、楽しませてやってくれ」
「あぁ、もちろん」
先程俺に奢られたことや、これからホムラが遊ぶのにも金を使わせることを気にしているのかな? とりあえず頭を撫でておこう。
「ここや、小さいとこやし寂れとるけど遊べんのは遊べる思うで」
「本当だ、ちょっと古めのゲーセンって感じ……ここなら不良も居な……いや、こういうとこほどカツアゲされたり……」
「水月なんでそないにカツアゲされるん気にしとるん。大丈夫やって、そもそもそんなんするヤツ居らんしこっちゃ今人数居んねんから」
「リュウはここよく来るのか?」
「んぃや全然」
まぁ、ゲーセンとかで遊ぶタイプじゃないもんな。見た目以外は。ゲーセンで喜びそうなのはハル辺りか? 歌見もそこそこ? レイはどうだろう。
「鳴雷……あの、降りたい……ダメ?」
「ダ…………なんでだ?」
振り返って俺を見上げているセイカの怯えた表情に、ダメと言いかけた口を一旦噤んで理由を聞いた。
「…………っ、ここ、俺……」
「……ん?」
「俺……ここ、で……あの……」
何かを話そうとしてくれていると察した俺は、人気のないゲーセンだけれど通行の邪魔にならなさそうな位置に車椅子を止めてその前に回り、身を屈めて視線の高さを合わせた。こちらの方が話しやすいだろう。
「水月ー? どないしたん?」
「先に遊んでてくれー! セイカ、ゆっくりでいいよ。どうしたんだ? ゲーセン苦手か?」
「ここ……」
「うん」
「俺っ、の……違う……俺を……あの」
セイカはそれきり俯いて何も話さなくなった。話そうと大きく息を吸ったりはしているようだが、声が出ないようで左手を強く握り締めている。
「…………一旦出よっか」
「……っ!? ダ、ダメっ、ほむら……楽しめるかもしれないしっ」
「俺とセイカだけだよ、それでもダメ?」
「ダメ……鳴雷も、ここ楽しいかもしれないから……」
セイカがずっと何かに怯えているのに俺が楽しめる訳がないのだとは、セイカは思い至らないのだろうな。
(ゲーセンで色々奢らされたりしたんでしょうか? その過程で殴られたり?)
イジメられっ子でもあったセイカがゲーセンを苦手としている理由は容易に想像が付く。どうするべきかと悩んでいると背中をつつく者があった。
「にーにぃ、眩しいするです……ここ、ぼく、嫌いするです。眩しいするです……嫌い、です」
「アキ……ゲーセンダメか? そっか、眩しいか。チカチカしてるもんなぁ、明暗差激しいしサングラスしてても嫌だよな……ちょうどよかった。セイカ、アキもゲーセン嫌いだってさ。一緒に外出てたらどうだ? その辺ウロウロしてな、向かいに雑貨屋さんあったしコンビニも近いし……ちょっと渡しとくよ」
札を二枚ほどセイカのポケットにねじ込み、二人の頭を撫でる。
「アキ、セイカも、ゲーセン嫌い。一緒、別のところ、遊ぶする、行っておいで」
詳しい説明はセイカに頼み、二人の元を離れてリュウとホムラの元へ向かった。アキもセイカも心配だったけれど二人で出かけることは多いらしいし、セイカは俺がここで楽しまなければ気に病んでしまうだろう。別行動は正しい判断だと思いたい。
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