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突然の訪問

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歌見に続いて母と義母も出ていき、残された兄弟二組はダイニングに留まった。いつもは勉強に励むホムラも、筋トレに励むアキも、今日はダイニングに居る。

(これは……ほむほむお別れ会的なアレですかな? 会話ないですけど)

俺含め全員が無言だ。スマホを弄っている訳でも本を読んでいる訳でもなく、無言。どういうつもりなんだ?

《秋風、昨日の話なんだけど》

話題を探していたが、セイカが話し始めてくれた。俺には分からない言葉だけれど。

《俺を鳴雷から取り上げないでくれって言ったけど……取り上げてくれた方が助かる時もあるし、そもそも取り上げてくれる気持ち自体はずっと嬉しいんだ。だから……もっと、いつもみたいに……抱きついてきて欲しい。セイカって呼ばないで欲しい……嫌、かな。俺のこと、もう嫌いになった?》

《…………アンタの方が俺嫌いになったと思ってた》

《お前意外とネガティブだな……ドマイペースな癖に。俺がお前嫌いになんかなる訳ないじゃん……》

《なんか、兄貴との時間邪魔しまくっちゃったみたいな》

《……泣きたくて泣いてないし、鳴雷に慰められるの……その、申し訳ないって言うか……面倒かけて嫌だなって思うから、お前がまだそうしたいって思ってくれるなら、これからも鳴雷から取り上げてもらえると……その、助かる? 嬉しい……? そんな感じ……》

《そっか》

静かな会話だ、心配になってきた。

《じゃあ今まで通り好き勝手していいんだな? スェカーチカ》

《う、うん……》

《よっしゃ》

唐突にアキが立ち上がった。思わず身構えたが、彼はいつものようにセイカを抱きかかえてソファに運び、肩を抱いてスマホを弄り始めた。

(……あの「俺のもんだけど?」感ちょっとムカつくんですよな。セイカ様はわたくしのものですが?)

仲直りの話だったのかな? 何にせよ元通りになったのならよかった。

「ほむらくん、チョコ買いに出かけるのはお昼ご飯の前と後どっちがいい? 今日の天気は……一日中晴れだってさ」

スマホで天気を確認しつつ尋ねる。

「後の方が気温が高くなりますよね。前の方がまだ活動しやすいのではないでしょうか」

「確かにじわじわ気温上がってくみたいだな……もう二、三十分したら出かけよっか」

「はい」

「セイカ、ほむらとチョコとか買いに行くんだけどどうする? アキにも聞いてくれ」

《秋風、兄貴出かけるってよ。一緒に行くか?》

《行く。スェカーチカも行くよな?》

「да……鳴雷、俺も秋風も行く」

この四人での外出は初めてだな。ホムラのいい思い出になればいいのだが、いや、するのだ。

(チョコ買うだけじゃなくて、ちょっとした遊びもあるといいですな。しかし一体どうすれば……ゲーセンとか? カツアゲされそうで怖いでそ。いやいやこんな日の高い時間から不良共のたまり場になっていたりはしないはずでそ)

アキは太陽光対策をするため部屋に戻った。セイカも義足の準備をしている、俺も外出着に着替えてくるかな……と立ち上がったその時、呼び鈴が鳴った。

「来客ですか? お茶の用意は必要でしょうか」

「お茶飲ませるような来客アポなしで来ないよ。通販頼んだ覚えはないし、勧誘か何かだろ。居留守だな」

「出て「俺が神だ」って言ってこいよ、その説得力のある顔で」

「嫌だよ恥ずかしい! 受信料の方だったらどうするんだよ」

「鏡を見るのが一番の娯楽」

ナルシストにも程がある。俺は自分が超絶美形であるという自覚はあるが自己愛はあまりないのだ。なんて楽しく話しているうちに呼び鈴は鳴り止んだが、その数十秒後ダイニングの窓が叩かれた。

「……っ!? あっ」

コンコンとダイニングの窓を叩いた彼はむすっと俺を睨んでいる。慌てて窓を開け、彼を家に上げる。

「酷いやん居留守使いよって。アキくんとこ居るんかな思て回ってきたら中しっかり居るんやからびっくりしたわ」

「ごめんごめん、ほんとごめん、今度からちゃんとインターホン確認する」

「いつでも来てええ言うから来たんに……ちゃーんと手土産も持ってきたってんで」

リュウは持っていたビニール袋を俺に押し付ける。受け取ったそれはとても冷たい。ドライアイスも入っているようだ。

「アイス? へぇー、ありがと」

「あっつかったわー……俺のんこれな」

額の汗を拭いながらアイスを一つ取り、エアコンからの冷気が一番よく当たる位置に座った。

「みんなー、アイスだぞ。今食べるか?」

三人とも肯定の返事を返したのでアイスを配った、けれどまだ二つ余っている。

「六個買ってきたのか?」

「三つごとに安なんねん」

「あー……あるな、そういうの」

味はバラバラだった、俺はミルクでセイカはイチゴ、ホムラはグレープだ。リュウは……ミカンかな?

「美味っ、ミルクセーキそのまま凍らせたみたいな……これどこで買ったんだ?」

「物理的に潰れそうな駄菓子屋。アキくん居らんな、どないしたん?」

「部屋で着替え中。みんなで出かけようって話しててさ、ほら、アキは太陽光対策必須だろ」

「ほーん……紫外線やなくて太陽光なん?」

「眩しいのもダメだから」

「あー。ほいでどこ行くん? 俺も行ってええ?」

「もちろん。買い物行くだけだし」

窓が開き、熱気が外から流れ込む。見ているだけでも汗をかきそうな格好のアキが戻ってきた。

「暑そうなカッコしとんなぁアキくん」

「……! てんしょー! てんしょー、来るするしたです? 外行くするです、てんしょーも行くするです」

「行くで。アキくんもアイス食べ」

「あいすー……?」

残り二つのアイスからアキが選んだのはクリームチーズ味だった。きっと濃厚なのだろう。

「アイス食べ終わったら行こうか。悪いな、リュウ。今歩いてきたとこなのに」

「ええよええよ、俺勝手に来ただけやし」

自由に来ていいと言ったのは俺だ。今後も事前連絡なしでリュウがやってくるのなら、留守の間に来てしまうことがあるかもしれない。せっかく来た彼を帰らせるのは嫌だ、合鍵を渡しておくべきだろうか。

(合鍵と言えばレイどの、連絡は取り合ってますが会えてはいませんな。また今度遊びに行きませう。連絡……そういえば、シュカたまグルチャに現れないんですよな。どうしたんでしょう)

連想ゲームのように思考が移っていく。俺は頭を振り、今日出かける際に合鍵を作ってもらえるところに寄ろうと脳内メモに記した。
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