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深夜のプール
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上下の感覚を失う。口からガボガボと泡が溢れる。無理矢理開いた目には満面の笑みのアキが映った。
「……っ、ぶはっ! はぁっ、はぁ……い、いきなり落とすなよ……うわ服重っ! アキ、ちょっと待ってくれ。脱ぐ、脱ぐから」
水面から顔を出し、寝間着を脱いでプールサイドに投げる。何となく下着は脱がなかったけれど、十二分に身軽になった。眠たい目を擦ってアキの方へ振り返ると、顔に水をかけられた。
「わぶっ……アキ、やったな~? お返し!」
幼げに笑うアキに両手いっぱいにすくった水をかけてやる。犬のようにぷるぷると顔を振る彼の元へ、プールの壁を蹴って突進した。
「……! にーに! にーにぃ!」
抱き締めてやれば抱き締め返してくれて、冷たいプールの中で彼の体温が浮き彫りになる。
(マイペースで運動神経良くてすぐ無表情になるから勘違いしちゃいがちですが、それほどメンタル強くないんですよなアキきゅんも。つーか育ってないって感じ? 意外と気弱というか、遠慮しぃなとこあるというか……ちゃんと目と手をかけなきゃいけない弟でそ)
くすくす笑っているアキの目をじっと見つめると、彼は笑うのをやめて俺の目を見つめ返し、背に回していた腕を両方とも俺の首に移した。俺の首にぶら下がるように自身を持ち上げてキスをしてくれたので、当然俺も応えた。
(毎日会えてるからと他の彼氏を優先しちゃってましたな……顔合わせるだけじゃ寂しいですよな)
身体は冷たい水に包まれているのに、舌は熱く濡れた柔らかいものに触れ続ける。互いの唾液を混ぜ合い、飲み合い、舌を絡めても味を感じなくなってきたら口を離した。
「……はぁ、気持ちよかった…………ほっといてごめんな、アキ」
明日は予定がない、アキとたっぷり過ごそう、アキが望むことをしてやろう。
「……? にぃに?」
「…………遊ぶか!」
「遊ぶするです!」
その後、俺達は何時間もプールで遊んだ。水をかけあったり、端から端までクロールで競争したり、キャッチボールをしたり……とても楽しかった。
プールの後はサウナに入った。冷え切った身体はすぐに温まった。その後はまたプールで身体を冷やし、プールサイドで整いタイムを過ごした──
「……ぃ、お……! み……き!」
──誰かの声が聞こえる。何だか頬が痛い。
「おいっ! 起きろ水月!」
「痛ぁ!?」
頬を強く叩かれ、思わず頬に手を当てる。
「何回呼んでも何回叩いても起きやしない! アキくんは近付いただけで起きたぞ、両極端な兄弟だな、平均を取れ」
「んなこと言われても……もう朝ですか?」
「こんなとこで裸で寝て、風邪引くぞ。ったく」
どうやら整いタイムの最中に眠ってしまったようだ。これでは整うどころかガッタガタ、むしろ体調を崩してしまう。俺は病気方面には丈夫な身体をしているが、アキは免疫が弱い。また風邪を引かせてしまったかもしれない。
「はぁ……やっぱりお兄ちゃん失格……」
眠れないアキと遊んで兄らしさを上昇させられたと思ったら、これだ。一歩進んで三歩下がる、とでも言うべきか? 三歩どころじゃないか。
「アキぃ……あれ、アキは?」
「すぐ起きたって言ったろ、向こうで飯食ってるよ。さっさと服着ろ、俺も腹減った」
「すいません……」
部屋着に着替えて歌見と共にダイニングに向かう。アキは肩に毛布をかけたままポタージュスープをぐびぐび飲んでいた。
「アキ! アキごめんな、寒かったろ。風邪引いてないか?」
「……? にーに、お早う御座います」
「あっ、あぁ……おはよう、アキ。体調は? 平気か?」
首や額をぺたぺた触って体温を確かめると、アキは何故かくすくす笑って喜んだ。
「大丈夫……なのかな? ぁ、セイカ、ほむらくん、おはよう」
「おはよ……」
「おはようございます鳴雷さん」
セイカはまだ目が覚めきっていない様子でパンを咥えたまま時々静止したりしているが、ホムラの目はぱっちり開いてキラキラ輝いている。ほんの数週間前まで死んだ魚のような目をしていたのに。
「……いただきます」
ホムラの綺麗な瞳を見ると自分の行動が正しかったような気がするから、好きだ。でもよく似た形の目なのに死んだままのセイカの瞳が余計に悲壮感を増すから、少し苦手でもある。
朝食を終えると歌見はすぐに荷物を持った。
「そろそろ行かないと時間がやばい。またな水月、アキくん、狭雲。と……ほむらくん。あっ、えっと……唯乃さん、ありがとうございました! 飯すごく美味しかったです。今日はこれで失礼します」
「はーい、また来てね~」
ダイニングで手を振る母と、まだ食べ切っていないセイカ以外の三人で歌見を玄関まで見送った。
「……先輩大きいし明るい人だから、ちょっと寂しくなるなぁ……ほむらくんも今日行っちゃうんだっけ?」
「はい、父様が仕事終わりに迎えに来てくださるそうです」
「そっか……今日一日はセイカと過ごすか? それともみんなで遊んじゃう? どっか出かけてもいいなぁ」
「いえ、そんな……」
「俺はセイカの生涯の伴侶になるつもりだ。となると君は? 俺の何?」
「……義理の、弟」
「そ、家族。家族と離れ離れになっちゃうんだから色々したくなるのは当たり前だろ? 今日くらい何でもしたいこと言いな」
なんて話しながらダイニングに戻ってきた。ホムラはしばらく悩んだ後、俺だけにこっそり教えてくれた。
「……チョコレート、また食べたいです」
ホムラを学校まで迎えに行った日、彼にチョコを買ってやった。アレで気に入ってくれていたとは光栄だ。
「分かった、今ないから後で買いに行こうな」
「ありがとうございます!」
可愛らしい笑顔での礼を受け、彼はこれからも幸せに生きていけそうだと思えた。俺が居ないとダメになってしまいそうなセイカとは違う、俺がホムラに一切惹かれなかったのはそういうところが大きいのかもしれないな。
「……っ、ぶはっ! はぁっ、はぁ……い、いきなり落とすなよ……うわ服重っ! アキ、ちょっと待ってくれ。脱ぐ、脱ぐから」
水面から顔を出し、寝間着を脱いでプールサイドに投げる。何となく下着は脱がなかったけれど、十二分に身軽になった。眠たい目を擦ってアキの方へ振り返ると、顔に水をかけられた。
「わぶっ……アキ、やったな~? お返し!」
幼げに笑うアキに両手いっぱいにすくった水をかけてやる。犬のようにぷるぷると顔を振る彼の元へ、プールの壁を蹴って突進した。
「……! にーに! にーにぃ!」
抱き締めてやれば抱き締め返してくれて、冷たいプールの中で彼の体温が浮き彫りになる。
(マイペースで運動神経良くてすぐ無表情になるから勘違いしちゃいがちですが、それほどメンタル強くないんですよなアキきゅんも。つーか育ってないって感じ? 意外と気弱というか、遠慮しぃなとこあるというか……ちゃんと目と手をかけなきゃいけない弟でそ)
くすくす笑っているアキの目をじっと見つめると、彼は笑うのをやめて俺の目を見つめ返し、背に回していた腕を両方とも俺の首に移した。俺の首にぶら下がるように自身を持ち上げてキスをしてくれたので、当然俺も応えた。
(毎日会えてるからと他の彼氏を優先しちゃってましたな……顔合わせるだけじゃ寂しいですよな)
身体は冷たい水に包まれているのに、舌は熱く濡れた柔らかいものに触れ続ける。互いの唾液を混ぜ合い、飲み合い、舌を絡めても味を感じなくなってきたら口を離した。
「……はぁ、気持ちよかった…………ほっといてごめんな、アキ」
明日は予定がない、アキとたっぷり過ごそう、アキが望むことをしてやろう。
「……? にぃに?」
「…………遊ぶか!」
「遊ぶするです!」
その後、俺達は何時間もプールで遊んだ。水をかけあったり、端から端までクロールで競争したり、キャッチボールをしたり……とても楽しかった。
プールの後はサウナに入った。冷え切った身体はすぐに温まった。その後はまたプールで身体を冷やし、プールサイドで整いタイムを過ごした──
「……ぃ、お……! み……き!」
──誰かの声が聞こえる。何だか頬が痛い。
「おいっ! 起きろ水月!」
「痛ぁ!?」
頬を強く叩かれ、思わず頬に手を当てる。
「何回呼んでも何回叩いても起きやしない! アキくんは近付いただけで起きたぞ、両極端な兄弟だな、平均を取れ」
「んなこと言われても……もう朝ですか?」
「こんなとこで裸で寝て、風邪引くぞ。ったく」
どうやら整いタイムの最中に眠ってしまったようだ。これでは整うどころかガッタガタ、むしろ体調を崩してしまう。俺は病気方面には丈夫な身体をしているが、アキは免疫が弱い。また風邪を引かせてしまったかもしれない。
「はぁ……やっぱりお兄ちゃん失格……」
眠れないアキと遊んで兄らしさを上昇させられたと思ったら、これだ。一歩進んで三歩下がる、とでも言うべきか? 三歩どころじゃないか。
「アキぃ……あれ、アキは?」
「すぐ起きたって言ったろ、向こうで飯食ってるよ。さっさと服着ろ、俺も腹減った」
「すいません……」
部屋着に着替えて歌見と共にダイニングに向かう。アキは肩に毛布をかけたままポタージュスープをぐびぐび飲んでいた。
「アキ! アキごめんな、寒かったろ。風邪引いてないか?」
「……? にーに、お早う御座います」
「あっ、あぁ……おはよう、アキ。体調は? 平気か?」
首や額をぺたぺた触って体温を確かめると、アキは何故かくすくす笑って喜んだ。
「大丈夫……なのかな? ぁ、セイカ、ほむらくん、おはよう」
「おはよ……」
「おはようございます鳴雷さん」
セイカはまだ目が覚めきっていない様子でパンを咥えたまま時々静止したりしているが、ホムラの目はぱっちり開いてキラキラ輝いている。ほんの数週間前まで死んだ魚のような目をしていたのに。
「……いただきます」
ホムラの綺麗な瞳を見ると自分の行動が正しかったような気がするから、好きだ。でもよく似た形の目なのに死んだままのセイカの瞳が余計に悲壮感を増すから、少し苦手でもある。
朝食を終えると歌見はすぐに荷物を持った。
「そろそろ行かないと時間がやばい。またな水月、アキくん、狭雲。と……ほむらくん。あっ、えっと……唯乃さん、ありがとうございました! 飯すごく美味しかったです。今日はこれで失礼します」
「はーい、また来てね~」
ダイニングで手を振る母と、まだ食べ切っていないセイカ以外の三人で歌見を玄関まで見送った。
「……先輩大きいし明るい人だから、ちょっと寂しくなるなぁ……ほむらくんも今日行っちゃうんだっけ?」
「はい、父様が仕事終わりに迎えに来てくださるそうです」
「そっか……今日一日はセイカと過ごすか? それともみんなで遊んじゃう? どっか出かけてもいいなぁ」
「いえ、そんな……」
「俺はセイカの生涯の伴侶になるつもりだ。となると君は? 俺の何?」
「……義理の、弟」
「そ、家族。家族と離れ離れになっちゃうんだから色々したくなるのは当たり前だろ? 今日くらい何でもしたいこと言いな」
なんて話しながらダイニングに戻ってきた。ホムラはしばらく悩んだ後、俺だけにこっそり教えてくれた。
「……チョコレート、また食べたいです」
ホムラを学校まで迎えに行った日、彼にチョコを買ってやった。アレで気に入ってくれていたとは光栄だ。
「分かった、今ないから後で買いに行こうな」
「ありがとうございます!」
可愛らしい笑顔での礼を受け、彼はこれからも幸せに生きていけそうだと思えた。俺が居ないとダメになってしまいそうなセイカとは違う、俺がホムラに一切惹かれなかったのはそういうところが大きいのかもしれないな。
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