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お話しましょ

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アキの部屋でセイカは一人で居た。アキとホムラはプールだろう。

「……よ、狭雲。俺のこと覚えてるよな?」

アッシュグレーに染めた短髪、軽度の三白眼、筋骨隆々な身体、健康的に日に焼けた肌──歌見は他人に威圧感を与える外見をしている。自身でも分かっているのか、それともただ性格なのか、歌見は爽やかで人当たりのいい笑顔を浮かべる。

「…………歌見」

「正解、この間誕生日だった歌見だ」

テディベアを抱き締めて顔の半分以上を隠し、小さな声でただ苗字を答えただけのセイカは確かに歌見が評する通り無愛想だ。中学の頃はスクールカーストトップらしくコミュ力の塊だったのに……人は変わるものだな。

「……………………ごめんなさい」

「……へっ?」

突然謝られた歌見は驚いた顔で俺を見る。俺は無言で首を横に振り、謝罪の意図は俺にも分からないと主張した。

「誕生日の時……プレゼント、なくて…………ごめんなさい」

「あっ……あぁ! なんだ、それかぁ! いやいやそんなことでそんな泣きそうな声出すなよ……」

裏返りかけた大きな声、相当驚いた証拠だ。

「次に会ったら渡そうと思って……えっと、少し……待ってて、ください」

申し訳程度の敬語を残し、セイカはベッドから落ちた。上手くテディベアをクッションにしたことから察するに、落ち慣れている。

「すぐ取ってくるから……」

テディベアをその場に置き、セイカは四つん這いで部屋の隅へと向かう。手のひらではなく肘をついて、膝まではない左足で、本人なりに急いでいるつもりなのだろう速度で這っていくセイカはとても可愛らしい。

「…………」

歌見はセイカの欠損が強調される仕草を見るのが初めてだったかな? 呆然と言うべきか、緊張と言うべきか、何とも言えない顔をしている。

「…………歌見先輩」

セイカが紙袋を持った、歌見は俺の声にハッとして表情を整え、俺と共にセイカを待った。セイカは紙袋をどう持っていこうか迷っているようだ。義足の方をチラッと見た、サボらずつければよかったと後悔しているのだろう。

「……先輩」

受け取りに向かおうとした歌見を片腕で制す。セイカがどう工夫するのか見たい好奇心と、困っているところをもっと見ていたい嗜虐欲からの行動だ。

「…………そうだな」

決して、歌見が想像しているのだろう自主性がどうとか世話し過ぎもどうたらなんてもっともらしい理由じゃない。

「クソ、なで肩じゃなきゃ……」

肩にかけて這おうとすれば紙袋はズリ落ちた、なで肩のせいにしているがセイカはそこまでなで肩ではない。多分体勢のせいだ。

「…………」

持ち手を噛もうと口を開けたが歌見の顔を見てやめた。人に渡す物だからと思い留まったのかな? 咥えて運んでくるところ、見たかったなぁ。

「……!」

輪になっている持ち手に無理矢理頭を通し、セイカは「これだ!」という顔をした。自信たっぷりな顔で紙袋の底を床に擦りながら這い、歌見の前で膝立ちになった。左足は膝上で切断されているので、当然少し傾いている。

「歌見っ、これ……あれ? あっ、抜けな……嘘、どうしよ……」

持ち手から頭が抜けなくなったようだ。なにそれかわいい。俺にはそんな間抜け可愛いところ見せてくれなかったじゃないか、歌見への嫉妬で胸が熱い。

「……っ」

歌見は「これは手伝っていいよな?」みたいな顔でチラチラ俺を見た後、セイカの前に屈んだ。

「一旦持ち上げてだな……ちょっと頭下げて。耳……よし、取れたぞ」

紙袋本体を持ち上げて持ち手からセイカの頭を抜かせた。セイカは気まずそうにしながらも小さな声で礼を言った。

「で、これは……俺へのプレゼントって考えていいのか?」

「……うん。ごめんなさい……誕生日に用意出来てなくて。俺っ、知らなくて……」

「いいいい、初対面だったんだから。しかしあの時ブルーベリーだったかをもらったはずだが、物もちゃんとくれるのか? 律儀なヤツだな」

セイカの頭をポンポンと撫でた後、歌見は紙袋を床に置いて中身を取り出した。タオル二枚、ボックスティッシュ、紙に包まれたトイレットペーパー一つ……どこで手に入れてきたんだ?

「…………セイカ、アレどうしたんだ?」

「いつも秋風と行ってる商店街で福引やってて……日用品ギフトっての当たって。俺金持ってないし、これくらいしか用意出来なくて……」

「福引……へぇー、運いいんだなセイカ。俺そういうの一番下のポケットティッシュしかもらったことないよ」

「ありがとう! 絶対使うヤツだからめちゃくちゃ助かるよ」

「ちなみに来月はアキの誕生日だぞ」

歌見に感謝されて頬を緩めたセイカの顔はすぐに絶望に染まった。可愛い、ずっと見ていたい。

「まぁまぁまぁまぁ、プレゼントって金をかければいいって訳じゃないからな。ほら、何か手作りするとか」

「材料費…………鳴雷ぃ……臓器売れるとこ、紹介して」

「知らないよ!? 俺そんな闇医者知らない!」

これ以上セイカの身体を減らしてなるものか。誕生日プレゼントのために臓器を売るなんて聞いたこともない。

「まぁまぁ、まだ誕生日までは時間があるんだし……俺もまだ決めてないし貧乏大学生だからな、今度一緒にお金のかからないプレゼントを考えよう。なっ?」

「…………うん」

「よし……約束な」

歌見が小指を差し出すも、セイカは不思議そうな顔でそれを見つめるばかりだ。

「セイカ? 指きりだぞ。ほら、こうして……」

セイカの左手の小指を歌見の小指に絡めさせる。歌見が手を上下に揺らしながら歌い始めると、セイカは次第に笑顔になった。

「これ知ってる、なんか聞いたことある」

「だろ? またここに遊びに来るよ、都合の悪い日とかあるか?」

「通院はしてるから病院行く日は……ぁ、でも、それも午前で終わるから…………うん、いつでも暇」

「そっか。じゃ、俺の都合のいい日にまた来るよ」

「……うん」

「よし……じゃあ、俺は貴重な水月と二人きりの時間を楽しんでくる。プレゼントありがとうな!」

紙袋を持った歌見に手を引かれ、アキの部屋から出る。

「……昔イジメっ子だったとは思えないな。めちゃくちゃ大人しいしいい子だし、ちょっと抜けてるし……なんか、可愛かった」

「でしょ! あの四つん這いのとか最高ですよな、お尻ふりふりして、短いお手手で頑張っててぇ! 萌えるっ……!」

「え……? いや……俺はアレ見てられなかった」

「えっ?」

気まずい空気が流れ、どちらともなく「外は暑いから早く部屋に戻ろう」と歩き始めた。
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