680 / 2,051
手間暇かけて縄作り
しおりを挟む
過去を打ち明けたセイカをアキはあっさりと受け入れた。俺は安堵して部屋を去り、買ってきた縄をキッチンで煮込んだ。
(アキきゅんの態度が変わらなかったのは助かるのですが、わたくしのために怒ったりしないってのはちょっと寂しいような気も……まぁ今現在わたくしが誰かに虐められたら怒ってくれるんでしょうけど)
過去は過去と割り切ってしまえる性格はやはりドライだと感じてしまう。
(そろそろ煮えましたかな? いやもう少し……)
緊縛用の縄の作り方をミフユにメッセージで送ってもらっている、その際のメッセージを眺めながら縄を菜箸でつつく。
「鳴雷ー……? 何してんの?」
セイカとアキがダイニングに移ってきた。鍋の中身を覗き込んで不思議そうな顔をする。
「縄で縛るプレイがしたいんだけど、麻縄ってチクチクしてるだろ? そのままじゃ肌ボロボロになっちゃうんだよ、だから──セイカ?」
俺が話すのに少し遅れてセイカがロシア語で話し始めた、まるで輪唱だ。
「……ん? あぁ、通訳してんの。ちゃんと俺も聞いて理解してるから大丈夫だぞ、話してる時に話すのが不快なら話し終わるまで待つけど」
「そ、そっか……慣れてきてるんだな、すごいよ、びっくりした。不快って訳じゃないからそのままでいいよ。じゃあ続き話すぞ、硬くて人を縛るのにも向かないから、こうやって煮込むんだ。この後干したり油染み込ませたり毛羽焼いたり……色々やる」
アキは俺とセイカを交互に見てうんうんと頷いている。
「完成したら俺を一番に縛ってくれよ」
「セイカ緊縛に興味あったのか? あぁもちろんっ、習ったばっかりでまだ上手くないんだけど、それでもいいなら俺の縄童貞もらっ」
「違う違う違う秋風の翻訳! 俺じゃない!」
「えっ、ぁ、アキが縛って欲しいのか? そっか、意外だなぁ……じゃあ上手く出来ないかもしれないけど、それでもいいなら是非って言っといてくれ」
「…………童貞もらってやるってさ」
「なんか男前なセリフで違和感あるなぁ」
「まぁ……俺の言い方になるからな」
拙い日本語を聞き慣れているから違和感があるのだろうか、ニュアンスごと翻訳したらアキはどんな話し方になるのだろう。
「ロシア語でも丁寧な言い方とか可愛い話し方とかあるんだろ? アキの話し方再現してみてくれよ」
「えー……恥ずかしい」
「お願い!」
手を合わせて頼むとセイカは渋々頷いてくれた。アキの言葉に限りなく近いものが聞けるだけでなく、セイカが慣れない口調を恥じる姿まで見られる、一石二鳥だ。
「…………あっ、何か話さないとアキも話してくれないよな。えーっと……そうだ、お土産あるんだよ」
俺はコンロの火を弱め、パックに詰めて持って帰ってきた味噌カツサンドを取り出した。
《今日行ったカフェで出たサンドイッチがデカくてな、持ち帰りOKだったから秋風の分も持って帰ってきたぞ。味噌だ、味噌分かるか?》
ミソと言っているように聞こえる、味噌はそのままなんだな。
「あ、セイカ、アキの話すことは全部翻訳してくれよ、俺に対してのじゃなくても!」
「仕方ねぇなぁ…………味噌な、晩メシのスープの味付けだろ? 豆潰して腐らせてんだっけ、下痢クソみてぇな見た目してんだよな、正体知ってたら絶対食わなかったぜ。知る前に食ってよかった」
「あ、あらぁ……意外と口調お荒いのねアキきゅん」
オーブントースターで温め直した味噌カツサンドを渡すとアキは満面の笑みを浮かべて可愛らしく「ありがとーです!」と言い、かぶりついた。
「……セイカ、翻訳翻訳」
「はいはい…………クソ美味ぇじゃねぇかオイ、こんなもん可愛い可愛いセイカたんと食ってきたとか許せねぇなクソ兄貴。有罪だぜ有罪……こんな感じだな」
「……すぇかーちか呼びまでは日本風にしなくていいんだぞ? セイカたん」
セイカの顔が一気に真っ赤になる。
「うっ、うるさい! えっと……コサックダンス踊れるようになるまでサウナから出られませんの刑に処す、だってさ」
「実質死刑判決! 上告不可避」
「……でも激ウマな貢ぎもんに免じて許してやんよ、だってさ」
「よかった。美味しいか? アキ」
「おいしー、です。にーに、ありがとーです。にーに、だいすきー、です!」
セイカの翻訳したセリフとは全く違う。
「……なぁセイカ、アキに日本語教えるのやめよう。今が一番可愛い」
「なんだよ、気に入らなかったのか?」
「アキも普通に男の子なんだなぁ……いや、ほら、天使みたいに可愛いだろ? だからその……なぁ?」
「俺が翻訳出来るように話してくれてるからマシな方だぞ、秋風……自分の母親とかと話してる時は文法めちゃくちゃスラング多用、とてもじゃないが聞き取れたもんじゃない」
「そ、そうなんだ……」
ショックを受けるな、俺。アキに夢を見過ぎるな。出生と見た目が珍しいだけで彼は至って普通の男の子なのだから。
「……煮込み終わった。陰干ししてくるよ」
アキの部屋に縄を持っていき、彼が懸垂などに使用している金属の棒に縄を絡めて干す。縄の両端などに重しを吊るして乾く際に縄が縮み過ぎないようにする。
「縛るだけなら八メートルくらいだっけ……縮んでも大丈夫な長さ買ったけど、不安だな……」
乾いたら油を塗り込んで、毛羽を焼いて──その工程は夕飯の後だな。もう母が帰ってきた。
「おかえりなさいませませママ上~」
「ただいま」
荷物をキッチンに運び、手際のいい調理風景を眺めて技術を盗もうとするも、手際が良過ぎてコツが頭に入ってこない。
「……セイカ様、アキきゅんにわたくしを虐めてたこと話したのでそ」
「あら……そう、隠すと思ってたわ。反省してる証拠と見てあげようかしら」
「そうしてあげて欲しいでそ。それでアキきゅん……セイカ様への態度変わりませんでした、何にも気にしてない感じでそ」
「ふぅん……? そう、まぁ……そんな感じよね、アキって」
「この先も仲良くやっていけそうで安心でそ!」
「……アンタが満足なら私はそれでいいわ」
セイカへの恨みを抑え込んで普通に接してくれている母には感謝しかない。
「ママ上、いつも本当にありがとうございまそ! ママ上は大好きな自慢のおかーたまでそ」
「…………その気持ち悪い口調直しなさいって言ってるでしょ!」
パシンっ、と後頭部を叩かれてしまった。
(アキきゅんの態度が変わらなかったのは助かるのですが、わたくしのために怒ったりしないってのはちょっと寂しいような気も……まぁ今現在わたくしが誰かに虐められたら怒ってくれるんでしょうけど)
過去は過去と割り切ってしまえる性格はやはりドライだと感じてしまう。
(そろそろ煮えましたかな? いやもう少し……)
緊縛用の縄の作り方をミフユにメッセージで送ってもらっている、その際のメッセージを眺めながら縄を菜箸でつつく。
「鳴雷ー……? 何してんの?」
セイカとアキがダイニングに移ってきた。鍋の中身を覗き込んで不思議そうな顔をする。
「縄で縛るプレイがしたいんだけど、麻縄ってチクチクしてるだろ? そのままじゃ肌ボロボロになっちゃうんだよ、だから──セイカ?」
俺が話すのに少し遅れてセイカがロシア語で話し始めた、まるで輪唱だ。
「……ん? あぁ、通訳してんの。ちゃんと俺も聞いて理解してるから大丈夫だぞ、話してる時に話すのが不快なら話し終わるまで待つけど」
「そ、そっか……慣れてきてるんだな、すごいよ、びっくりした。不快って訳じゃないからそのままでいいよ。じゃあ続き話すぞ、硬くて人を縛るのにも向かないから、こうやって煮込むんだ。この後干したり油染み込ませたり毛羽焼いたり……色々やる」
アキは俺とセイカを交互に見てうんうんと頷いている。
「完成したら俺を一番に縛ってくれよ」
「セイカ緊縛に興味あったのか? あぁもちろんっ、習ったばっかりでまだ上手くないんだけど、それでもいいなら俺の縄童貞もらっ」
「違う違う違う秋風の翻訳! 俺じゃない!」
「えっ、ぁ、アキが縛って欲しいのか? そっか、意外だなぁ……じゃあ上手く出来ないかもしれないけど、それでもいいなら是非って言っといてくれ」
「…………童貞もらってやるってさ」
「なんか男前なセリフで違和感あるなぁ」
「まぁ……俺の言い方になるからな」
拙い日本語を聞き慣れているから違和感があるのだろうか、ニュアンスごと翻訳したらアキはどんな話し方になるのだろう。
「ロシア語でも丁寧な言い方とか可愛い話し方とかあるんだろ? アキの話し方再現してみてくれよ」
「えー……恥ずかしい」
「お願い!」
手を合わせて頼むとセイカは渋々頷いてくれた。アキの言葉に限りなく近いものが聞けるだけでなく、セイカが慣れない口調を恥じる姿まで見られる、一石二鳥だ。
「…………あっ、何か話さないとアキも話してくれないよな。えーっと……そうだ、お土産あるんだよ」
俺はコンロの火を弱め、パックに詰めて持って帰ってきた味噌カツサンドを取り出した。
《今日行ったカフェで出たサンドイッチがデカくてな、持ち帰りOKだったから秋風の分も持って帰ってきたぞ。味噌だ、味噌分かるか?》
ミソと言っているように聞こえる、味噌はそのままなんだな。
「あ、セイカ、アキの話すことは全部翻訳してくれよ、俺に対してのじゃなくても!」
「仕方ねぇなぁ…………味噌な、晩メシのスープの味付けだろ? 豆潰して腐らせてんだっけ、下痢クソみてぇな見た目してんだよな、正体知ってたら絶対食わなかったぜ。知る前に食ってよかった」
「あ、あらぁ……意外と口調お荒いのねアキきゅん」
オーブントースターで温め直した味噌カツサンドを渡すとアキは満面の笑みを浮かべて可愛らしく「ありがとーです!」と言い、かぶりついた。
「……セイカ、翻訳翻訳」
「はいはい…………クソ美味ぇじゃねぇかオイ、こんなもん可愛い可愛いセイカたんと食ってきたとか許せねぇなクソ兄貴。有罪だぜ有罪……こんな感じだな」
「……すぇかーちか呼びまでは日本風にしなくていいんだぞ? セイカたん」
セイカの顔が一気に真っ赤になる。
「うっ、うるさい! えっと……コサックダンス踊れるようになるまでサウナから出られませんの刑に処す、だってさ」
「実質死刑判決! 上告不可避」
「……でも激ウマな貢ぎもんに免じて許してやんよ、だってさ」
「よかった。美味しいか? アキ」
「おいしー、です。にーに、ありがとーです。にーに、だいすきー、です!」
セイカの翻訳したセリフとは全く違う。
「……なぁセイカ、アキに日本語教えるのやめよう。今が一番可愛い」
「なんだよ、気に入らなかったのか?」
「アキも普通に男の子なんだなぁ……いや、ほら、天使みたいに可愛いだろ? だからその……なぁ?」
「俺が翻訳出来るように話してくれてるからマシな方だぞ、秋風……自分の母親とかと話してる時は文法めちゃくちゃスラング多用、とてもじゃないが聞き取れたもんじゃない」
「そ、そうなんだ……」
ショックを受けるな、俺。アキに夢を見過ぎるな。出生と見た目が珍しいだけで彼は至って普通の男の子なのだから。
「……煮込み終わった。陰干ししてくるよ」
アキの部屋に縄を持っていき、彼が懸垂などに使用している金属の棒に縄を絡めて干す。縄の両端などに重しを吊るして乾く際に縄が縮み過ぎないようにする。
「縛るだけなら八メートルくらいだっけ……縮んでも大丈夫な長さ買ったけど、不安だな……」
乾いたら油を塗り込んで、毛羽を焼いて──その工程は夕飯の後だな。もう母が帰ってきた。
「おかえりなさいませませママ上~」
「ただいま」
荷物をキッチンに運び、手際のいい調理風景を眺めて技術を盗もうとするも、手際が良過ぎてコツが頭に入ってこない。
「……セイカ様、アキきゅんにわたくしを虐めてたこと話したのでそ」
「あら……そう、隠すと思ってたわ。反省してる証拠と見てあげようかしら」
「そうしてあげて欲しいでそ。それでアキきゅん……セイカ様への態度変わりませんでした、何にも気にしてない感じでそ」
「ふぅん……? そう、まぁ……そんな感じよね、アキって」
「この先も仲良くやっていけそうで安心でそ!」
「……アンタが満足なら私はそれでいいわ」
セイカへの恨みを抑え込んで普通に接してくれている母には感謝しかない。
「ママ上、いつも本当にありがとうございまそ! ママ上は大好きな自慢のおかーたまでそ」
「…………その気持ち悪い口調直しなさいって言ってるでしょ!」
パシンっ、と後頭部を叩かれてしまった。
0
お気に入りに追加
1,241
あなたにおすすめの小説


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる