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ゾンビ系モンスターを消す呪文
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買いたい物は買い終わったのでショッピングモールを後にした。すっかり大荷物だ。
「なぁ、鳴雷……俺とのデート、どうだった?」
帰路の途中、セイカは俺を振り返って見上げ、尋ねた。
「ずっと押してるの疲れたよな」
「うーん……正直、な。でも車椅子押すの結構興奮したし」
「興奮するとこある……?」
「だってさぁ」
ハンドルから手を離し、車椅子の前に回る。
「このまま俺が一人で帰ったら、セイカは家に帰れなくなるんだろ?」
「……いや、義足あるし……歩けるけど。駅までくらいならまぁ、足痛くなるだろうけど何とかなると思う」
「電車に乗るにはお金がいるんだぞ、セイカ今日手ぶらだろ? 道は線路沿い歩いてくれば何とかなるかもしれないけど、そんな距離歩けるか?」
「…………無理、だな」
「な!? それが実感出来るからイイんだよ車椅子! セイカには俺が必要なんだ……! 俺が居なきゃダメだよな? ほらセイカぁ、俺一人で帰っちゃうぞ~?」
ふざけて二、三歩歩いてみるとセイカは慌てて立ち上がり、俺に抱きついた。
「待って! お、置いてくなよぉっ、無理だって言っただろ」
「置いてかないよぉ、あぁ……セイカ可愛い」
「……意地悪だな」
「ごめんごめん、セイカが本当に困ることはしないよ。大好き。ほら、もう座って。足痛めちゃう」
左足の先端はそのうち踵のように硬くなっていくのだろうか。歩くのに慣れないくらい、歩けば常に痛みを覚えるくらい、俺が付きっきりでお世話をしてあげたい。
電車に揺られて自宅最寄り駅に到着、まだ空は明るい。
「夏は日が落ちるのが遅いなぁ」
「そうだな」
「お得感あるよな」
「お前は夜長い方がいいんじゃないのか、エロ野郎」
「真のエロは時間を問わない」
なんて話しながらの帰路は楽しくて、学校帰りだとかに一人で家に帰ってくる時よりも早く着いた気がした。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう、時間の速さに寂しさを覚えつつ扉を開けた。
セイカの靴を脱がしてやり、立たせてから自分も靴を脱いで荷物を持つ。
「おかえりなさい、兄様、鳴雷さん。お楽しみになられましたか?」
「よぉほむら」
「ただいま、ほむらくん。悪いけどこれ俺の部屋の隅っこにでも置いといてくれるか?」
「はい! 喜んで」
縄などをホムラの目から隠し、手芸屋で買った物を渡す。俺の部屋に戻っていくホムラを見送り、無人のダイニングへ。
「セイカの服はアキの部屋に置いておこうか」
「……うん」
「元気ないな、疲れちゃったか?」
「秋風に話すか……迷ってて」
「ぁ……」
決断したくないからと雑に誤魔化してしまった問題がまた戻ってきた。セイカは俺の手から自身の衣類を優しく奪い取り、深い深いため息をつく。
「…………ぁ、あのさっ、母さんとか他の彼氏にはセイカと俺の昔の話アキにしないよう頼んどくから、もう話さない方向で行かないか? 話したって、別に……いいことないよ。アキとセイカが仲良いの俺すごく好きだし、今のままがいいな」
「ありがとう……気ぃ遣ってくれて。でも、後ろめたいんだよ。嘘ついて、隠し事して……秋風ずっと騙すなんて、俺もう」
「騙してるなんてそんな、他の彼氏だって昔の嫌なこと話してくれたのは数人だよ。アキだって過去のことなんか話してないだろ?」
「話してくれた。虐められたことも、学校辞めたことも、傭兵になるための訓練させられたことも、イジメっ子に復讐したことも……全部教えてくれた」
「ぁ……そう、だったな。聞いてた、けど、でも」
決断を避けていた俺は黙っている方の選択肢を選ばせたくなっていた。現状維持を望むのは悪いことではないはずだ。
「……秋風も虐められてたんだよな、じゃあ……俺のこと、許さないかな」
「そっ、そんなふうになったら悲しいだろ? だからもう、黙ってよう……?」
「………………俺は、鳴雷さえ居れば……それでいい。秋風のことも大切に思ってるけど、嫌われるのは嫌だけどっ……鳴雷さえ居れば生きてられる」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……!」
もしアキがセイカを嫌ってしまったら、二人で俺を取り合って争うことになるんじゃないか? 彼らの仲の良さそうな様子を見るのは俺の楽しみでもあるし……でも、アキにすら拒絶されて正真正銘俺にしか縋れなくなったセイカを見てみたくないと言えば、嘘になる。
「……だよなぁ、お前のママ上に秋風のこと色々頼まれてるし……嫌われちゃったらそれ出来なくなって、追い出されるなんてことも……あるかもしれない」
「いや、母さんに二言はないよ、大丈夫。言ってみよう、いつまでもスッキリしないままじゃ身体に悪いよ」
「な、なんだよ急に……今まで反対してた感じだったのに」
「……セイカの中ではもう決まってて、後押しして欲しいのかなって思って……違った?」
嘘だ。セイカが過去を話さずアキと仲良くし続ければセイカに幸せになって欲しいというライトサイドの俺の願望が叶い、セイカが過去を話してアキと仲が悪くなったらなったでセイカの可哀想な姿を見つつセイカを独占したいというダークサイドの俺の願望が叶うと──どっちにしろ俺はオイシイ思いが出来ると気付いてしまったからだ。
「俺はセイカの結論を尊重するよ」
ちゃんとセイカとアキの幸せを考えてやりたいのに醜い欲まで湧かせて、思考放棄を綺麗事で繕って、俺はクズだ。
「…………うん、ありがとう、鳴雷……覚悟決まったよ」
「……どっちにするんだ?」
「話す……秋風にちゃんと話す。軽蔑されても、嫌われても、ちゃんと話したい。もう騙していたくない……俺がどんなにクソ野郎か知ってもらった上で、改めてまた仲良くしてもらう」
「あぁ……高潔だよ、セイカ。俺みたいな腐った人間はニフラまれてしまう……」
覚悟を宿した視線に自身の矮小さを浮き彫りにされる気がして、俯く。セイカは衣類が入った袋の持ち手を握り締めてアキの部屋へと向かった。
「なぁ、鳴雷……俺とのデート、どうだった?」
帰路の途中、セイカは俺を振り返って見上げ、尋ねた。
「ずっと押してるの疲れたよな」
「うーん……正直、な。でも車椅子押すの結構興奮したし」
「興奮するとこある……?」
「だってさぁ」
ハンドルから手を離し、車椅子の前に回る。
「このまま俺が一人で帰ったら、セイカは家に帰れなくなるんだろ?」
「……いや、義足あるし……歩けるけど。駅までくらいならまぁ、足痛くなるだろうけど何とかなると思う」
「電車に乗るにはお金がいるんだぞ、セイカ今日手ぶらだろ? 道は線路沿い歩いてくれば何とかなるかもしれないけど、そんな距離歩けるか?」
「…………無理、だな」
「な!? それが実感出来るからイイんだよ車椅子! セイカには俺が必要なんだ……! 俺が居なきゃダメだよな? ほらセイカぁ、俺一人で帰っちゃうぞ~?」
ふざけて二、三歩歩いてみるとセイカは慌てて立ち上がり、俺に抱きついた。
「待って! お、置いてくなよぉっ、無理だって言っただろ」
「置いてかないよぉ、あぁ……セイカ可愛い」
「……意地悪だな」
「ごめんごめん、セイカが本当に困ることはしないよ。大好き。ほら、もう座って。足痛めちゃう」
左足の先端はそのうち踵のように硬くなっていくのだろうか。歩くのに慣れないくらい、歩けば常に痛みを覚えるくらい、俺が付きっきりでお世話をしてあげたい。
電車に揺られて自宅最寄り駅に到着、まだ空は明るい。
「夏は日が落ちるのが遅いなぁ」
「そうだな」
「お得感あるよな」
「お前は夜長い方がいいんじゃないのか、エロ野郎」
「真のエロは時間を問わない」
なんて話しながらの帰路は楽しくて、学校帰りだとかに一人で家に帰ってくる時よりも早く着いた気がした。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう、時間の速さに寂しさを覚えつつ扉を開けた。
セイカの靴を脱がしてやり、立たせてから自分も靴を脱いで荷物を持つ。
「おかえりなさい、兄様、鳴雷さん。お楽しみになられましたか?」
「よぉほむら」
「ただいま、ほむらくん。悪いけどこれ俺の部屋の隅っこにでも置いといてくれるか?」
「はい! 喜んで」
縄などをホムラの目から隠し、手芸屋で買った物を渡す。俺の部屋に戻っていくホムラを見送り、無人のダイニングへ。
「セイカの服はアキの部屋に置いておこうか」
「……うん」
「元気ないな、疲れちゃったか?」
「秋風に話すか……迷ってて」
「ぁ……」
決断したくないからと雑に誤魔化してしまった問題がまた戻ってきた。セイカは俺の手から自身の衣類を優しく奪い取り、深い深いため息をつく。
「…………ぁ、あのさっ、母さんとか他の彼氏にはセイカと俺の昔の話アキにしないよう頼んどくから、もう話さない方向で行かないか? 話したって、別に……いいことないよ。アキとセイカが仲良いの俺すごく好きだし、今のままがいいな」
「ありがとう……気ぃ遣ってくれて。でも、後ろめたいんだよ。嘘ついて、隠し事して……秋風ずっと騙すなんて、俺もう」
「騙してるなんてそんな、他の彼氏だって昔の嫌なこと話してくれたのは数人だよ。アキだって過去のことなんか話してないだろ?」
「話してくれた。虐められたことも、学校辞めたことも、傭兵になるための訓練させられたことも、イジメっ子に復讐したことも……全部教えてくれた」
「ぁ……そう、だったな。聞いてた、けど、でも」
決断を避けていた俺は黙っている方の選択肢を選ばせたくなっていた。現状維持を望むのは悪いことではないはずだ。
「……秋風も虐められてたんだよな、じゃあ……俺のこと、許さないかな」
「そっ、そんなふうになったら悲しいだろ? だからもう、黙ってよう……?」
「………………俺は、鳴雷さえ居れば……それでいい。秋風のことも大切に思ってるけど、嫌われるのは嫌だけどっ……鳴雷さえ居れば生きてられる」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……!」
もしアキがセイカを嫌ってしまったら、二人で俺を取り合って争うことになるんじゃないか? 彼らの仲の良さそうな様子を見るのは俺の楽しみでもあるし……でも、アキにすら拒絶されて正真正銘俺にしか縋れなくなったセイカを見てみたくないと言えば、嘘になる。
「……だよなぁ、お前のママ上に秋風のこと色々頼まれてるし……嫌われちゃったらそれ出来なくなって、追い出されるなんてことも……あるかもしれない」
「いや、母さんに二言はないよ、大丈夫。言ってみよう、いつまでもスッキリしないままじゃ身体に悪いよ」
「な、なんだよ急に……今まで反対してた感じだったのに」
「……セイカの中ではもう決まってて、後押しして欲しいのかなって思って……違った?」
嘘だ。セイカが過去を話さずアキと仲良くし続ければセイカに幸せになって欲しいというライトサイドの俺の願望が叶い、セイカが過去を話してアキと仲が悪くなったらなったでセイカの可哀想な姿を見つつセイカを独占したいというダークサイドの俺の願望が叶うと──どっちにしろ俺はオイシイ思いが出来ると気付いてしまったからだ。
「俺はセイカの結論を尊重するよ」
ちゃんとセイカとアキの幸せを考えてやりたいのに醜い欲まで湧かせて、思考放棄を綺麗事で繕って、俺はクズだ。
「…………うん、ありがとう、鳴雷……覚悟決まったよ」
「……どっちにするんだ?」
「話す……秋風にちゃんと話す。軽蔑されても、嫌われても、ちゃんと話したい。もう騙していたくない……俺がどんなにクソ野郎か知ってもらった上で、改めてまた仲良くしてもらう」
「あぁ……高潔だよ、セイカ。俺みたいな腐った人間はニフラまれてしまう……」
覚悟を宿した視線に自身の矮小さを浮き彫りにされる気がして、俯く。セイカは衣類が入った袋の持ち手を握り締めてアキの部屋へと向かった。
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