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ため息吸ったら幸せになれるはず
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本屋でレイの元カレと出会してしまい、何故か今共にフードコートに来ている。
「……飲み物だけでいいのか?」
「さっきお昼ご飯食べたんで……」
「めちゃくちゃ多かったんだよ、一切れお持ち帰りになった」
「…………あの店か、確かに多い……」
彼は今川焼きを二つとコーヒー、俺はアイスコーヒー、セイカはクリームソーダを注文し、今飲んでいる。
「……お前は初めて見たな」
「狭雲……ぁ、苗字変わったんだった、早苗だ、よろしく」
レイの元カレで現在ストーカーということを知らないからか、セイカは俺とは違い緊張していないようだ。
「鳴雷の友達? でいいのか?」
「………………顔見知り?」
「ぐらい、ですよね」
緊張で喉が乾くのに、コーヒーが喉を通らない。
「……で、お前イチオシの本は?」
「えっ、ぁ、わたくしぃ? えと……ちょ、ちょいとお待ちください」
震える手でスマホを操作し、プレイ内容や絵柄が比較的万人受けしそうな作品を電子書籍アプリを使って紹介してみた。
「…………ふぅん」
あんまり興味がなさそうだ。一番ではないものの好きな作品だから悔しい。
「……お前は?」
「俺は漫画読まない、鳴雷の付き合いで来ただけだ。ご覧の通り連れ回すしかないタイプの人間だからな」
「…………そうか。まぁ、一人出来ただけでも十分だ」
あれ? 俺BL漫画愛好家友達扱いされてない?
「……早苗と言ったな、お前はこの男を見たことはあるか?」
彼は自身のスマホをセイカに見せた、表示されている画像は金髪時代のレイを撮ったものだ。
「知らねぇ…………いや、コイツ……」
まずい、セイカはレイ周りの事情を知らない。張本人の目の前で説明するなんて自爆でしかないし、今セイカをどこかへ連れていくのも不自然だ。詰んだか?
「……どこかで見たのか?」
「なんで探してんの?」
「……俺の物だからだ。理由なんてどうでもいいだろう、見覚えがあるならその場所を話せ」
「ゃ、悪い。見間違いだ、よく見たら全然違った」
誤魔化してくれた? 事態を察知したのか? セイカはそんなに察しが良かったか? 金髪だからレイだと分からなかった……いや、セイカがそんなポンコツだとも思えない。
「…………そうか」
セイカを見つめていた三白眼が伏せられたのは、手元に戻したスマホを見るためのはずだ。親指でスマホの画面を撫でたように見えたけれど、ただちょっと操作しただけのはずだ。レイを想っているなんて、思いたくない。
「……コイツはイラストレーターでな、仕事用のアカウントが動いているから……生きてはいるはずなんだ、ちゃんと仕事が出来る環境にある…………行方不明だが、無事なはずだ」
「行方不明って、仕事してんならお前に対してだけだろ? 避けられてんじゃねぇの」
「お、おいセイカっ」
「…………俺を避ける理由なんてない」
「嫌われたとか?」
「セイカ! やめろって……!」
BL漫画を読む趣味があったとて、危険な不良であることには変わりない。セイカに暴力を振るわないでいてくれるとは思えない、もしもの時は俺が肉壁にならなければ。
「……寂しがらせたから、浮気された。だから寂しくないようにしてやった、好きな物を食わせてやった、嫌われてなんていないはずだ」
セフレ扱いに腹を立てて当てつけのように浮気をしてしまった後に軟禁されたとレイは語っていた。俺はそれを支配欲からのものだと思っていたが、元カレにとっては自分の悪いところを改善したつもりだったようだ。
「…………レイは童顔で背が低い、妙な輩に目を付けられやすい、きっと誰かに攫われたんだ。乱暴されて、イラストレーターの仕事で得た金も奪われて、身も心もボロボロになっているのかもしれない……そうに違いない、早く見つけてやらないといけない、俺に助けて欲しがってるに決まってる、あの時みたいに」
「なんか……様子おかしくないか?」
「そ、そうですな、そろそろお暇しましょうか」
「……仕事の内容を呟いているだけの義務的なものかと思っていたが、俺に対する暗号が隠されているのかもしれない。もう一度ちゃんと見返さないと…………なんだ、帰るのか? そうか、またな。今度会ったらさっき買った漫画の感想でも語ろう」
「は、はーい……さようなら~」
小走りでレイの元カレから離れ、一階の広場に設置されたクッション付きベンチに腰を下ろす。吹き抜けに月代わりで展示されている巨大芸術作品がよく見える位置だ。
「はぁあ~……怖かったぁ」
「おつかれ。俺の対応アレでよかった? あの写真のヤツ木芽だよな、髪の色違ったけど。なんかヤバそうなヤツだったから適当に知らないフリしたんだけど、合ってた?」
「大正解過ぎる! すごかったよセイカ、ありがとう! ごめんな、話すの忘れてたよ。あの人レイの元カレで、レイは今隠れて諦め待ちなんだけど……」
「まだまだかかりそうだな」
「はぁあぁあ~…………ため息つくと幸せ逃げるって言うじゃん? セイカ、俺のため息吸って。幸せになって、ほら早く吸って」
「気持ち悪い愛情だなぁ、嬉しい」
「俺の吐く息だけ吸って生きて欲しい」
「酸素多めに残してくれよ」
なんてふざけている場合じゃない、レイに元カレがSNSを見張っていることをメッセージで教えておこう。
「はぁ……しっかし、二メートル越えのヤンデレとか、最高過ぎるッッ……! 褐色三白眼筋肉質とか何そのエロスの塊! 雄っぱいすごかったぁー、ほんっと爆乳だったぞ見たかあの胸! はぁー……」
「似てねぇけど特徴だけだと歌見そんな感じじゃん」
「パイセンの三白眼は常識の範囲内な上に、日焼けと生来の褐色は別のエロスなんだよ! 胸も尻も濃いんだろうなぁあぁあ見てぇ! ハッ……このままBL漫画愛好家友達として仲良くなれば一緒にプールとか銭湯とか行けるのでわ!?」
「お前もう彼氏増やさないって言ってたじゃん」
「あの性格と体格のタチ口説く勇気はないよ、裸見たいだけ…………あっそのドン引きフェイス最高、はいちーずっ」
「変な顔撮るなよ……」
今度はセイカがため息をついた。俺はすぐに大きく息を吸ってセイカのため息を回収した。
「……飲み物だけでいいのか?」
「さっきお昼ご飯食べたんで……」
「めちゃくちゃ多かったんだよ、一切れお持ち帰りになった」
「…………あの店か、確かに多い……」
彼は今川焼きを二つとコーヒー、俺はアイスコーヒー、セイカはクリームソーダを注文し、今飲んでいる。
「……お前は初めて見たな」
「狭雲……ぁ、苗字変わったんだった、早苗だ、よろしく」
レイの元カレで現在ストーカーということを知らないからか、セイカは俺とは違い緊張していないようだ。
「鳴雷の友達? でいいのか?」
「………………顔見知り?」
「ぐらい、ですよね」
緊張で喉が乾くのに、コーヒーが喉を通らない。
「……で、お前イチオシの本は?」
「えっ、ぁ、わたくしぃ? えと……ちょ、ちょいとお待ちください」
震える手でスマホを操作し、プレイ内容や絵柄が比較的万人受けしそうな作品を電子書籍アプリを使って紹介してみた。
「…………ふぅん」
あんまり興味がなさそうだ。一番ではないものの好きな作品だから悔しい。
「……お前は?」
「俺は漫画読まない、鳴雷の付き合いで来ただけだ。ご覧の通り連れ回すしかないタイプの人間だからな」
「…………そうか。まぁ、一人出来ただけでも十分だ」
あれ? 俺BL漫画愛好家友達扱いされてない?
「……早苗と言ったな、お前はこの男を見たことはあるか?」
彼は自身のスマホをセイカに見せた、表示されている画像は金髪時代のレイを撮ったものだ。
「知らねぇ…………いや、コイツ……」
まずい、セイカはレイ周りの事情を知らない。張本人の目の前で説明するなんて自爆でしかないし、今セイカをどこかへ連れていくのも不自然だ。詰んだか?
「……どこかで見たのか?」
「なんで探してんの?」
「……俺の物だからだ。理由なんてどうでもいいだろう、見覚えがあるならその場所を話せ」
「ゃ、悪い。見間違いだ、よく見たら全然違った」
誤魔化してくれた? 事態を察知したのか? セイカはそんなに察しが良かったか? 金髪だからレイだと分からなかった……いや、セイカがそんなポンコツだとも思えない。
「…………そうか」
セイカを見つめていた三白眼が伏せられたのは、手元に戻したスマホを見るためのはずだ。親指でスマホの画面を撫でたように見えたけれど、ただちょっと操作しただけのはずだ。レイを想っているなんて、思いたくない。
「……コイツはイラストレーターでな、仕事用のアカウントが動いているから……生きてはいるはずなんだ、ちゃんと仕事が出来る環境にある…………行方不明だが、無事なはずだ」
「行方不明って、仕事してんならお前に対してだけだろ? 避けられてんじゃねぇの」
「お、おいセイカっ」
「…………俺を避ける理由なんてない」
「嫌われたとか?」
「セイカ! やめろって……!」
BL漫画を読む趣味があったとて、危険な不良であることには変わりない。セイカに暴力を振るわないでいてくれるとは思えない、もしもの時は俺が肉壁にならなければ。
「……寂しがらせたから、浮気された。だから寂しくないようにしてやった、好きな物を食わせてやった、嫌われてなんていないはずだ」
セフレ扱いに腹を立てて当てつけのように浮気をしてしまった後に軟禁されたとレイは語っていた。俺はそれを支配欲からのものだと思っていたが、元カレにとっては自分の悪いところを改善したつもりだったようだ。
「…………レイは童顔で背が低い、妙な輩に目を付けられやすい、きっと誰かに攫われたんだ。乱暴されて、イラストレーターの仕事で得た金も奪われて、身も心もボロボロになっているのかもしれない……そうに違いない、早く見つけてやらないといけない、俺に助けて欲しがってるに決まってる、あの時みたいに」
「なんか……様子おかしくないか?」
「そ、そうですな、そろそろお暇しましょうか」
「……仕事の内容を呟いているだけの義務的なものかと思っていたが、俺に対する暗号が隠されているのかもしれない。もう一度ちゃんと見返さないと…………なんだ、帰るのか? そうか、またな。今度会ったらさっき買った漫画の感想でも語ろう」
「は、はーい……さようなら~」
小走りでレイの元カレから離れ、一階の広場に設置されたクッション付きベンチに腰を下ろす。吹き抜けに月代わりで展示されている巨大芸術作品がよく見える位置だ。
「はぁあ~……怖かったぁ」
「おつかれ。俺の対応アレでよかった? あの写真のヤツ木芽だよな、髪の色違ったけど。なんかヤバそうなヤツだったから適当に知らないフリしたんだけど、合ってた?」
「大正解過ぎる! すごかったよセイカ、ありがとう! ごめんな、話すの忘れてたよ。あの人レイの元カレで、レイは今隠れて諦め待ちなんだけど……」
「まだまだかかりそうだな」
「はぁあぁあ~…………ため息つくと幸せ逃げるって言うじゃん? セイカ、俺のため息吸って。幸せになって、ほら早く吸って」
「気持ち悪い愛情だなぁ、嬉しい」
「俺の吐く息だけ吸って生きて欲しい」
「酸素多めに残してくれよ」
なんてふざけている場合じゃない、レイに元カレがSNSを見張っていることをメッセージで教えておこう。
「はぁ……しっかし、二メートル越えのヤンデレとか、最高過ぎるッッ……! 褐色三白眼筋肉質とか何そのエロスの塊! 雄っぱいすごかったぁー、ほんっと爆乳だったぞ見たかあの胸! はぁー……」
「似てねぇけど特徴だけだと歌見そんな感じじゃん」
「パイセンの三白眼は常識の範囲内な上に、日焼けと生来の褐色は別のエロスなんだよ! 胸も尻も濃いんだろうなぁあぁあ見てぇ! ハッ……このままBL漫画愛好家友達として仲良くなれば一緒にプールとか銭湯とか行けるのでわ!?」
「お前もう彼氏増やさないって言ってたじゃん」
「あの性格と体格のタチ口説く勇気はないよ、裸見たいだけ…………あっそのドン引きフェイス最高、はいちーずっ」
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