冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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変なところ不器用

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ネザメとミフユのふわふわな家族の毛並みを堪能させてもらった。犬小屋の中にはベッド、クッション、ぬいぐるみ、ボールやロープ等が入った箱があった。

「俺よりいい部屋住んどんなぁワン公、飯も俺よりええもん食うてんねんやろ」

「人をダメにするクッションじゃないですか! これ欲しいんですよねぇ……! ねっ、一回ちょっともたれてみていいですか?」

「構わない、メープルはその程度では怒らない。お前は温厚だものな」

わふ、なんて言いながらミフユに頭を撫でられている犬は心底幸せそうな表情に見えた。近くで見ると毛まみれな、絵の具からひり出たままのような原色のクッションにそっともたれる。

「ふわぁああ……! たまらん、ここで寝る……」

「水月ぃ、ここ犬小屋やで」

「空調完備な犬小屋があってたまるか。ここ元は何のための小屋なんですか? 庭師さんとか?」

「メープルをいただいた時に建てたものだよ。本邸に離すと毛の掃除が大変だから、だとかで」

「純然たる犬小屋だったワン……」

犬の鳴き真似をしたので俺はもう犬、なんて独自の理論を展開してクッションでダメになる。

「あんまゴロゴロしとったら服毛まみれになんで、アキくんとかアレルギーちゃうやろな」

「……分かんない」

「コロコロとかありません?」

「そこにある、毛まみれのまま本邸に戻っては小屋を建てた意味がない。出る前に全員綺麗になってもらうぞ」

白と黒の毛は白いシャツにも紺色のデニムにも目立つ。いい加減にクッションから起き上がり、あちこちに縫った跡のあるクマと思しきぬいぐるみを眺める。

「それには触るな、メープル一番のお気に入りだ。ミフユ意外が触れると吠える」

「へぇ……ボロッボロですね」

「たまに破ってしまうのだ。はしゃいで振り回してしまうらしい、我に返って落ち込んではミフユに修理を頼む姿など胸が苦しくなる可愛さだぞ」

「へぇー、賢くっても所詮は犬だなぁ。やっぱりアキの方が賢いぞリュウ」

「アキくんより賢いとは言うてへんがな」

そんなふうに話していると犬がオモチャ箱から短いロープを引っ張り出し、キラキラとした目でミフユを見上げた。

「遊びたいのか? うむ、いいだろう。毎日二時間は遊ぶ約束だものな」

「二時間……!?」

「もちろん外遊びも含めての話だぞ」

「二時間もするんですか……」

「うむ、自分が学校に行っている間は叔父が遊んでくれているからな、ミフユの担当は二時間だ」

合計で言えば二時間を優に超えて遊んでやらなければならないのか? 時間と場所のない一般庶民には飼えないな。

「お世話大変なんですねぇ……」

「うむっ……なかなか、強くてなっ……! しかしこれに無様に負けてはっ、主人の座から陥落しかねんっ……!」

ロープの端をそれぞれ噛み、掴み、引っ張り合っている。ミフユはかなり辛そうだ。

「頑張ってねミフユ。さて、僕の愛犬メープルにはもう一つ自慢があるんだよ」

名義的な意味での飼い主はネザメかもしれないが、犬が認めている飼い主はミフユのようなので、僕のと冠を付けるのには違和感を覚える。

「なんとお仕事を手伝ってくれるそうなんだ。庭木の剪定で落とした大きめの枝を運んでくれたり、庭で作業中の者に水を持っていったり……去年キャンプに行った時には薪を集めてきてくれたよ」

「ほーん、やっぱり牧羊犬として作られとるから働くんも好きなんですかね」

「どうだろうねぇ、羊を追いかけるの楽しいのかなぁ」

「公園で鳩の群れとかに突っ込むの楽しいですよ」

「牧羊犬は羊の群れ固めて移動させたり柵ん中入れたりすんねん、逃げていくんがおもろぉて追い回しとるんとちゃうわ」

「なんでちょっと当たり強いの」

ミフユが犬と引っ張り合いっこ遊びをしている間、俺達は三人で会話を楽しんだ。たまに横を見れば尻尾をちぎれんばかりに振って楽しそうに遊ぶ犬の姿に癒された。

「ふぅっ……もう引っ張り合いはいいだろう、やり過ぎてもよくない……次はフリスビーにするか? うむ! 外に出ようか」

せっかく涼しいのにと思いつつも庭に出る。ミフユがフリスビーを投げれば犬が走り出し、高く跳んでキャッチして戻ってくる。テレビで見たことがある光景だ。

「年積さん、俺も投げたいんやけど……」

「いいぞ。手首をこう、だ。スナップを効かせろ」

フリスビーの投げ方を軽く教わったリュウは見事にフリスビーを飛ばし、犬もちゃんとそれを取りに行って楽しそうに尻尾を振った。

「水月もやらん?」

犬が咥えてきたフリスビーを受け取ったリュウは俺にそれを渡した。二人の投げ方を見ていたので俺も問題なくフリスビーを投げ、取ってきてくれた犬からそれを受け取った。何だか達成感がある。

「楽しいなこれ……」

「やろ? 持ってくるん可愛いしええよなぁ」

「ミフユ、ミフユ、僕も投げたい」

「鳴雷一年生、フリスビーをネザメ様に」

俺はフリスビーがネザメに渡った瞬間に犬が尾をぱたりと下げたのを見逃さなかった。

「手首をこう、ですよ、こうっ」

ネザメはフリスビーを投げるその瞬間までミフユに投げ方を注意され続け、少し疎ましそうに「分かった分かった」と言いながら、フリスビーを地面に叩きつけた。一体どうしてそんなふうになってしまったのか、見ていたのに分からない。

「ごめんねメープル、今度はちゃんとするよ」

再び投げられたフリスビーはネザメの手から離れて二メートル程で地面に落ち、車輪のようにコロコロと転がり、パタンと倒れた。

「……おかしいなぁ」

「すまない、メープル。取ってきてくれ。次はミフユが投げてやるから」

俺やリュウが投げる時ですら立ち上がってフリスビーが飛ぶ瞬間を待っていた犬は、ネザメがフリスビーを持ったその時から座ったまま首以外を全く動かしていなかった。

「ネザメさん体育の成績大丈夫ですか?」

「頑張っていれば落第にはならないよ」

ネザメに下げられたテンションを上げ直すように、ミフユはさっき以上に張り切ってフリスビーを投げている。

「君達、フリスビー好きなのかい?」

「いえ……今日初めて触りましたけど」

「俺もです」

「へぇ、すごいねぇ。筋がいいよ」

珍しく胡散臭さのない無邪気な微笑みを浮かべているネザメに「アンタの筋が悪過ぎるだけだ」だなんて俺にはどうしても言えなかった。
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