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俺(僕)が攻めだ!

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二人がけのソファの上で眠ってしまったリュウに毛布をかけ、改めてネザメを見つめる。くしゃみを聞いた瞬間は邪魔が入ったと思ったが、自然と立ち上がれた恩恵は大きい。

「……ネザメさん」

ソファに深く腰を下ろしているネザメの前に立ち、余裕の笑みを浮かべている彼を見下げる。彼の太腿の傍に膝をついて背を丸め、距離を詰める。

「君の方から僕にここまで迫ってくれるなんて嬉しいね」

肩に添えようとした手を掴まれ、手の甲にキスをされた。なかなか主導権を奪えない、早く奪ってしまわなければ経験の浅さや自信のなさが仇となってネザメの手のひらの内に入ってしまう。

(ランチの時はちょろさを見せてきたくせに……まさかアレは計算で、わたくしは今まんまと罠にハマっているのでわ?)

俺はネザメがチョロいと、彼の攻めをやりたいという思惑をひっくり返せると確信して今こうしている。実はチョロくなかったら、下手に性的な雰囲気を作ってしまうと俺が受けにされるかもしれない。一旦引くべきか?

「でも、あまり欲を剥き出しにするのは確信しないなぁ……目がいつもと違っているよ」

「今の目は嫌いですか?」

「まさか。君の目はいつだって宝石のようだよ、そうだね……カンゴームあたりが似ているかな?」

「俺、自分の目の色はヘーゼルだと思ってたんですけど……黒いですか?」

俺の虹彩は色が薄い、淡褐色やヘーゼルと呼ばれる色だ。母とお揃いのお気に入りの目だ。ネザメには黒く見えていたのだろうか。

「虹彩はそうだね、でも僕を見つめる君の瞳は……瞳孔が大きくなって、黒く見えたよ。照明を背にしているからか……獲物を見つめているからか、光が入っていなくて真っ黒に見えた」

「……そうですか。怖がらせちゃいましたかね」

「まさか、胸が高鳴ったよ。それにしても……君は案外宝石に詳しいんだね、てっきりどんな宝石か聞いてくると思っていたよ」

「詳しくないですよ、たまたまです。ネザメさんみたいに本物を見たことはありませんし」

「謙遜だねぇ」

否定しなかった、やはり男子高校生のくせに本物の宝石を所持しているのか。俺が宝石の名を聞いて首を傾げていたら本物を見せるとか言って俺の腕の中から逃げるつもりだったのかな? だから誕生石などではないメジャーとは言い難い宝石を選んだのか? やはりネザメは油断出来ない。

「……ネザメさん、自分が獲物だって感じてるんですね。食べちゃってもいいってことですか?」

真っ直ぐにネザメの目を見つめながら顔を寄せつつ、左手で彼の腰のくびれを愛でる。ネザメは一瞬表情を強ばらせて視線を逸らしたが、すぐに俺を微笑んで見つめ返した。

「そんな怖いことを言わないでおくれよ水月くん、僕は君と愛し合いたい……君を愛でたいな」

頬と尻をそれぞれ撫でられる。ここで尻に触れてくる意図を察した俺は対抗してネザメの腰を優しく掴んだ。ネザメは大胆にもズボン越しに俺の尻の割れ目をなぞった。

「俺はネザメさんを……」

「ひゃうっ!?」

もっと耳元で囁いてやろうと耳に口を近付けるとネザメは甲高い声を上げて手で耳を隠し、身体を傾けて逃げた。

「……ネザメさん?」

「…………恥ずかしいところを見せてしまったね。僕、耳は少し……話すのは目を見つめてがいいな」

耳が弱いのか。これはいいことを聞いた。

「水月くん……?」

弱点を知られてしまったことをまずいと思っているようで、ネザメの表情が強ばる。

「……水月くん、お願い、僕に意地悪をしないで?」

ネザメは眉尻を下げて瞳を潤ませ、か弱さを演出した。今まで歳上の余裕を見せつけてきていた彼の突然の方針転換には正直グッとくる、同時にその思い切りの良さにゾッとする。

(手強い……!)

演技だろうとほぼ確信してはいるが、それでも俺にはこれ以上ネザメの耳に触れることなんて出来ない。身体が拒否する、離れてしまう。

「ただいま戻りました!」

扉が開き、小柄な人影がこちらへやってくる。

「ミフユさん、おかえりなさい」

「おかえり、ミフユ」

「……む、天正一年生は眠っているのか」

ミフユはリュウを一瞥し、俺達に視線を戻し、少し悩んでから独り言のように「うむ」と首を縦に振った。

「鳴雷一年生、ベッドに移動しろ。このソファはベッドとしても使えるものだが……ネザメ様にはちゃんとした場所が好ましい」

「はい! ネザメさん、行きましょう」

「…………そうだね」

ネザメの表情が硬かったような……ベッドは俺に有利ということか?

「どうぞ、ネザメさん」

ベッドの真横に立ったネザメはなかなか寝転がろうとしない、通常下側が先にベッドに入るからだろう。

「……どうぞ」

男性らしい肩幅ではあるもののどこか少年らしい華奢さの残る肩を掴み、ベッドに倒そうとするも、ネザメは口をきゅっと閉じて踏ん張った。

「ぼ……僕は、あまり……上に乗られるのは好きではなくてねっ……圧迫感が、あるだろう? だからっ……君が、下に……!」

踏ん張りながら途切れ途切れに話すネザメの手は俺の肩を掴み、俺がネザメにしているように俺をベッドに押し倒そうとしている。腕力に物を言わせれば押し倒した上に押さえ付けることも出来る程度の体格差はあるのだが、やはり力任せは躊躇われる。

「ネザメ様、どうなされたのです? 気分ではないのですか?」

「ミフユ……いや、気分なのだけれどね、水月くんがなかなかベッドに寝てくれないんだよ」

「ふむ、なるほど。鳴雷一年生?」

「いや、俺は……えっと」

ジロっと睨まれて思わずネザメの肩を掴んでいた手を離す。ネザメも俺の肩を離したが、一歩距離を詰めて俺に抱きついてきた。

「水月くん……君を一目見た時からこの瞬間を願っていた。後悔はさせない、よくしてあげる……だから僕に可愛がらせておくれ、ね?」

左手で腰を抱き、右手は的確に尻の穴を捉えてズボンの上からそこばかりを集中して撫でている。

「……ネザメさん、もうカッコつけるのやめて正直に言いますね。俺はあなたを抱きたい、あなたに突っ込みたいんです。もちろん今日すぐにはしませんけど……」

尻を撫でる手を掴み、真っ直ぐに目を見つめる。

「僕が君を抱くんだよ? 美術品のように美しい水月くん、君は愛でられてこそ輝く。僕に僕の手で乱れる君を見せて欲しい」

「…………嫌です俺が攻めです」

「僕はお尻は使わないんだよ……僕が君を抱く、いいね?」

「俺だって使いませんよ、俺があなたを抱きます。満足させてみせますよ」

「それはこっちの台詞だよ、絶倫体質な君は抱かれる側に回った方が満足出来るはずだ」

平行線のまま応酬が続き、やがてネザメがため息をついて俺から三歩離れた。

「埒が明かないね。仕方ない……あまり気は進まないけれど、強硬手段を取らせてもらうよ。ごめんね、気持ちよくしてあげるからね。ミフユ! 縄を。水月くんを押さえ付けなさい」

「え……し、しかし」

「ミフユ」

ミフユは躊躇いながらも赤い麻縄をベッドの下から引っ張り出してネザメに手渡し、俺の両手首を掴んだ。

「すまない鳴雷一年生っ……!」

ベッドに倒して手首を背後か頭上で縛らせたいのだろうが、小柄なミフユの力では俺はビクともしない。

「えい」

「わっ」

軽く腕を振るだけでミフユはころんっと転がってしまった。

「え……ミ、ミフユ?」

ネザメは酷くショックを受けた様子で縄を床に落としてしまった。どうして小学生サイズのミフユの力を信じられたのかを不思議に思いつつ、硬直している彼を今度こそ押し倒した。
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