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デザートの後に食べるのは

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ちらりと俺に視線を戻し、目を合わせ、また目を逸らし、口を手で押さえてため息をつく。好きな本の新刊を読んだ後の俺にそっくりな仕草だ。

(ネザメちゃまにとってわたくしって……)

「鳴雷一年生、どうした? 嫌いな物でもあったか?」

「あ、いえ、すみません。ネザメさんとちょっと話してて」

「む……ネザメ様、食事中の会話は多少なら構いませんが、手を止めるほどはおやめください」

「…………あっ、あぁ、うん、すまないね」

俺もネザメもスプーンを持つ手がぎこちない、まるでついさっき食器の使い方を教わったようだ。

「美味い……めっちゃ美味いわ……うま……うまぁ……」

俺とネザメが会話をやめると食器が擦れる音とリュウの呟きだけが部屋に響くようになる。

「ソーダとフロートの隙間のシャリシャリしたバニラ好きやわ」

「あ、分かる」

「デザートの用意があるが、食べるか?」

全員で頷くとミフユは席を立った。俺は残っていたコーンスープを飲み干し、空になった食器を軽く押してデザートを置くスペースを作った。

「わ……!」

透明の美しい器の中心に鎮座するプリン、脇に添えられたチョコソースがかかったバニラアイス、周囲を飾るキウイやサクランボなどの色とりどりのフルーツ達。

「プリン・ア・ラ・モードだ」

「めっさ美味そ~……アラモードってどういう意味なんです?」

「当世風、だな」

当世風という言い方が今や当世風ではない。

「とう……何?」

「流行、現代風、今風、そういう意味だ」

「あー……せやけど何やプリンアラモードって昭和感ありません? レトロな純喫茶とかで出てきそうやないですか」

「流行が変わってもいちいちデザートの名前を変えないだろう、外国語の意味など気にしない者が大半だ。それに、プリン・ア・ラ・モードがもはや古いものだとして、今風のプリンの飾り方があるか?」

まずはプリンを一口……固めに焼かれたプリンだ、喫茶店でプリンなんて食べたことがないはずなのに、何故かノスタルジックな美味しさ。

「……虹色に光るとか?」

「ゲーミングプリンか……派手な輝きでSNSガチ勢を引き付けつつ、ゲーミング要素でオタクも拾う。意外と流行るかも」

「虹色の物など食べたくないわ気色悪い! いいか天正一年生、食欲減退色というものがあってだな! たとえ合成着色料不使用だとしても奇妙な色の食べ物を人間は避けたがるものなのだ、それも虹色なだけならまだしも光るなど気味が悪過ぎる!」

「まぁまぁまぁ商品開発部でもないんだしそんなに怒らないでくださいミフユさん」

「貴様は何か意見があるか?」

何気ない雑談だと思っていたが、ミフユは商品開発部部長の目をしている。次の機会に作ってくれようとしているのだろうか。

「そうですね、最近の流行り……最近の流行り? え~……」

ただでさえアニメ漫画以外の流行りに疎いのに、デザートの流行りなんて全く分からない。

「あっ、の……ほら、えっと……昆虫食が、今かなり……ホットなので、トッピング……する、とか…………虹色のプリンの方がまだ食べたい……すいません思い付きません」

「いや、いい意見だ。昆虫食か……なるほどな、アリだな」

「ナシですナシですナシよりのナシです」

「粉末にすれば見た目の問題は解決するぞ」

「嫌です虫は嫌です。モニっとして皮が意外としっかりしてて足がカサカサして噛んだら一気に汁がぶしゃあぁあああ嫌ぁあ!」

「……す、すまない。嫌なんだな……やらない、やらないから……次回もフルーツや乳製品だけでデザートを作るから、落ち着け、な?」

自分で虫の話題を出しておいて勝手にトラウマを掘り起こした面倒臭い俺にミフユは優しく接してくれる。背を撫でてくれた。

「うぅう……虫は、虫だけは……許してくださいセイカ様……勘弁して……」

「鳴雷一年生、ほら、ホイップクリームだ。乳製品だぞ。美味いぞ」

「んむっ……?」

ホイップクリームをすくったスプーンが口に押し付けられ、それを食べると甘さが強制的に幸せを引きずり出した。

「甘い……美味しい。ミフユさんのアーンたまんねぇ、もっかいしてください」

「……調子が戻ったようだな」

ミフユはそれから四度ほど俺にプリンアラモードを食べさせ、残りは自分で食えとスプーンを置いて席に戻った。面倒見のいい人だ。

「ごちそうさまでした!」

「ごっそさん」

「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

食器を乗せたワゴンを押していくミフユを気にしつつも三人で先にネザメの私室に戻った。

「ふぅ……おなかいっぱい。デザートまであんなにたくさん作るなんて珍しい、君が来てくれて嬉しいのかな?」

「へへっ……」

二人がけのソファにネザメと共に腰を下ろす。リュウは背の低い机を挟んだ対面のソファに一人で座り、肘掛けと背もたれに身体を預けてウトウトしている。

「まだ帰るには早過ぎますけど、リュウは疲れてるみたいですし、きっとミフユさんもそうですよね。ねぇ、ネザメさん……恋人らしいこと、しませんか?」

ネザメの太腿にそっと手を置く。ネザメの手が俺の手に重なり、きゅっと握り返す。

「ふふ……構わないよ、恋人だものね」

余裕綽々な微笑みを返され、少し気圧される。しかし昼食の際に知ったネザメの余裕のなさを思い出し、気合を入れ直した。

(ネザメちゃまが照れるのはアキきゅんだけではなく、わたくしもなのでそ! 頑張ってわたくしに慣れてくださっただけで、今もギリギリ! もうちょい押せばイケまそ)

真っ直ぐに見つめると細められていた亜麻色の瞳が開き、微かに震えた。

「……それじゃあ何がしたいか言ってごらん? 具体的にね。その美しい唇をどんな風に歪めるのか僕に見せて」

恥ずかしいことを言わせて主導権を握ろうとしているのか? ネザメは攻め役を狙っている、主導権を渡したが最後、抱かれてしまう。絶対に主導権を渡す訳にはいかない。

「今ネザメさんが褒めてくださった唇で、ネザメさんの全身を愛でて、ネザメさんの可愛い声を聞いたり、悩ましい表情を見たりしたいです」

「……! 大胆だね、ふふ……」

羞恥心を感じている素振りを見せなければ何を言おうと主導権を放棄したことにはならない。キリッとしたまま目を逸らさずに欲望を伝えるとネザメは少し動揺したようだったが、それでも胡散臭い微笑みは崩さなかった。

(手強いですな……)

主導権という目に見えないが確かに存在するものを静かに奪い合う俺達の滑稽さを笑うように、眠ってしまったリュウがくしゃみをした。
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