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お昼ご飯を待とう

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着替えとスパンキングを済ませてネザメの私室に戻る。ベッドで寝ていたはずのミフユは居らず、ネザメだけが退屈そうに佇んでいた。

「ネザメさん、ミフユさんは……起きたんですか?」

「おかえり、二人とも。ミフユは今キッチンだよ、昼食を作ってくれるそうだ。ダイニングに行こうか」

「そういや腹減ってきとったんやった、ありがとうございますー。呼ばれますわ。水月ぃ、行こ」

俺に声をかけつつリュウはネザメに着いていく。ついさっきまで尻を叩かれて喘いでいたとは思えない無邪気な表情に萌えつつ後を追うと、部屋を出たところでリュウがふらついた。

「……っ、と。大丈夫か?」

腰に腕を回して支え、照れながらも礼を言うリュウを見下げる。

「ちょっと足覚束んくて……へへ、ありがとうなぁ水月……もうちょいこのままで居させてもろてもええかなぁ」

「あぁ、もちろん」

ヤり過ぎたせいかななんて考えつつ、普段は優しくすると意地悪に振る舞えと文句を言ってくるリュウが素直に甘えてくれる珍しい状況を喜んでいると、リュウが肩に頭を擦り付けてきた。

「…………どうしたんだよ甘えて、いつもあんなに虐めろ虐めろってねだってくるくせに」

「んー……賢者タイム、っちゅうヤツやと思う」

「あ、あぁそう……なんか心境の変化とかじゃないんだ」

「ちゃうなぁ……」

最近ようやくS役に慣れてきたところなので、今更気が変わられても困る。ただの賢者タイムなのは俺にとってもいいことだ。

「…………こうやって水月にべったり出来るん、なんや久しぶりな気ぃするわ」

厳密には二人きりではないのだが、何だか二人きりで居る気分だ。それはリュウも感じているらしい

「いつもカンナに譲ってくれてるもんな」

登下校や休み時間、俺の腕に抱きつくカンナの後ろにリュウが居ることは珍しくない。他の彼氏と話している時などに遠慮しているカンナの背を押してくれているのだ、その面倒見の良さが彼の魅力の一つだ。

「たまには自分が来てもいいんじゃないか?」

「そんなんしたらしぐがしゅんとしてまうやん」

「それはそうかもしれないけど、たまにはな。公平じゃないだろ? リュウばっか我慢してちゃ」

「我慢っちゅうほどのもんでもないんやけど……しぐが落ち込んどるとなんか、小動物のエサ取り上げたみたいな……なんやよぉ分からん気持ちになんねんなぁ」

前にSNSで見かけた隠していたエサを片付けられてしまったハムスターの呆然とした顔を思い出し、落ち込んでいるカンナと重ね、思わず笑う。確かにどちらにも胸をキュンと痛める可愛らしさがある。

「ふふっ……まぁ、夏休みに入ったんだし、いつでも二人きりになれるよ。みんな何かと忙しいけどお前は暇なんだろ?」

「めっちゃ暇」

「いつでも家来いよ」

笑って頷いたリュウにまたときめき、不意にネザメの背中を見る。まだダイニングに着かないのだろうか、広いにも程がある。

「………………あれ? あっ……こっちじゃ……」

不審な呟きの後、ネザメは反転して俺とリュウを通り過ぎ、先程は無視した曲がり角を曲がっていった。

「……嘘だろあの人まさか自分の家で迷ったのか?」

「広い家やししゃあないんちゃう?」

「毎日住んでるんだぞ……?」

天然とかそういう問題じゃない、と思いつつネザメの後を追うとすぐにダイニングに着いた。

「ミフユはまだみたいだねぇ……しばらく待っていようか」

広いダイニングの片隅でキッチンで調理中らしいミフユを待つ。手伝いに行きたいところだが、シャワー中に意識が胡乱なミフユから俺に手料理を食べさせるのを楽しみにしているようなことを聞いた、ミフユの喜びを大きくするためには完成するまで見ないでいるべきだろう。

「…………あ、ちょっと家に電話かけていいですか? アキがご飯食べたか確認したくて……」

「どうぞ。僕にも秋風くんと話させてくれると嬉しいな」

疲れたらしいリュウが無口で、ネザメは無言の時間にあまり抵抗感がないらしく、静かな時間が続いていた。耐え切れなくなった俺はスマホを取り、アキに電話をかけた。

『…………もしもし』

「もしもし……セイカか?」

『あぁ、うん……秋風今昼飯食ってるから』

「セイカは?」

『俺はもう終わった。昼飯、パスタ茹でたんだけどさ……俺はちゃんと一人前の量教えたのに、秋風、これじゃ絶対足りないって勝手に足して……山盛りのパスタに苦戦してる、味に飽きてきてるっぽい』

「あー、乾麺はなぁ、油断させられるよな……パスタは何味だ? うん……あー、それなら味変出来るな、冷蔵庫に確かさぁ……」

味変レシピを説明中、視線を感じてそちらを向くとネザメがじぃっと俺を見つめていた。目が合うと彼は身振り手振りでスマホを寄越せと伝えてきた。

「出来そうか? うん……アキに一回代わってくれないか? あっ、うん、ありがとう……ネザメさん、どうぞ」

「……! ありがとう。もしもしっ、秋風くん? あ、ううん、にーにじゃなくて……ネザメ、紅葉だよ、もーみーじ」

ネザメはまるで恋する乙女のような無邪気で可愛らしい笑顔を浮かべてスマホを握っている、俺にはあまり見せてくれない顔だ。俺に対しては保ちたいイメージがあるのかもしれないが、俺にも胡散臭くない笑顔をもっと見せて欲しいものだ。

(ミステリアス感とか歳上感を出していたいのは分かるんですが、それがどうしてあの胡散臭スマイルとして出力されるのか……)

珍しい表情は眺めているだけで暇が潰せる。

「声、可愛いね。えっと……耳、幸せ……する、よ。秋風くん、話す……僕、好きだな」

飾り気たっぷりのいつもの話し方をやめてアキに分かりやすい言葉を選んでいるようだ、アレも俺に対して行われるものではない。最近何かとアキに嫉妬してしまうことが多いな。

「え? うん……? ん? あれっ……あ、狭雲くん? 秋風くんは……え……そ、そんな……ぁ、ううん……ありがとう、ごめんね……うん、ばいばい」

ネザメはしゅんとした顔で俺にスマホを返した。

「……どうかされたんですか?」

「秋風くん……僕と話したくないって。食事中だからって言ってたけど……あれは狭雲くんの気遣いじゃないかなぁ……僕は秋風くんにあまり好かれていないようだよ、落ち込むなぁ」

「そんな、アキは……いや、分かりませんけど、あんまりちゃんと接せてないですよねっ? きっと仲良くなれますよ、夏休みですし機会はいくらでもありますから、ねっ?」

「うん……」

どうして俺は俺の弟に好かれたいと悩む自分の彼氏を慰めているんだ? 俺がネザメともっと仲良くしたいんだが? 性的な意味で。

「……天正くんは秋風くんと仲が良かったよね? ご教授を……おや、天正くん?」

リュウは机に突っ伏して眠っていた。幼い寝顔に悩みが吹っ飛び、勝手に口角が上がってしまった。
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