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本屋の騒動の原因は
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放課後、本屋でのバイト中にわかに店内が騒がしくなった。女性客が騒いでいるようだ。何事かと倉庫から出ていってみれば白髪の美少年がキョロキョロと辺りを見回していた。
(アキきゅん!?)
俺で美形に慣れているはずの常連客に黄色い声を上げさせるなんて、やはりアルビノは強い。謎の敗北感を抱きつつ彼に近寄っていくと、冷たい無表情が温かな笑顔に変わった。
「にーに!」
ざわ、と本屋が揺れた。
「にーにぃ、今日、ぼく、すぇかーちか、一緒する、お昼ご飯、買うする行くするです。にーにお仕事、見るする欲しいです。来るしたです」
昼食を買うためセイカと一緒に外出していて、その帰りに俺の仕事ぶりを見に来た。と言った感じかな? 昼食の時間からは大幅にズレているから一旦家に帰ったのだろう。
「セイカはどうした?」
アキはテディベアだけが乗った車椅子のハンドルを握っている。彼の視線を追うと参考書コーナーを徘徊するセイカが見つかった。
「お兄ちゃんまだまだお仕事あるから、まぁ適当に帰れよ」
ざわざわヒソヒソと騒がしい客達には注意するのが店員の役目だが、俺が原因で騒いでいるのだろう彼らを注意するのは躊躇われる。俺は逃げるように参考書コーナーへ向かい、本棚を整理するフリをしつつセイカに話しかけた。
「セイカ、アキのお守りありがとうな」
「鳴雷……アイツめちゃくちゃ視線集めるじゃん、戻りにくいんだけど」
「あー、うん……まぁでも、セイカは認めないけどセイカだって十分美少年なんだから、そんな嫌がることないよ。じゃあ、俺仕事に戻らないと……帰ったらもっとちゃんと慰めてやるからな」
セイカの頭を撫でてから倉庫に戻り、作業を続けた。作業を終わらせて倉庫から出ると二人は居なくなっており、本屋に静寂が戻っていた。
「──ってことがあって、結構騒がしかったんですよ」
終業後、バックヤードで歌見に今日あったことを話した。涼しい店内で働いている俺と違い、暑い外で配達をしてきた彼の肌は濡れている。
「アキくんもお前に似て美形だからな、そりゃ騒ぎにもなるだろ。いい宣伝になったんじゃないか?」
首筋を伝う汗の粒、火照った顔、通気性の悪いバックヤード内に広がる汗の匂い、それらが俺の興奮を高める。
「あの冷たく儚げな……まさに雪って感じの美人が「にーに!」なんて言ってたらなぁ、もう大騒ぎなんてもんじゃないだろ。本屋の看板兄弟見てみたかったよ」
「…………」
「……水月? どうした、疲れてるのか?」
暑いからとシャツを着ずにタンクトップのままで居る歌見の脇や胸元を凝視していて話を聞いていなかった。
「ま、明後日からは夏休みなんだろ? ゆっくり休め。最初っから遊び過ぎると身が持たないぞ」
返事が出来ずにいるとぽんぽんと頭を撫でられた。
「……次の、金曜日とか……どうかと思ってたんだが、大丈夫そう……か?」
「次の金曜日……!? もちろんOKですぞ! 覚悟の準備をしておきます!」
「ぅ……そ、そこは「大丈夫って何が?」とか言ってとぼけるものだろ、ハーレム主人公は鈍感で難聴って相場が決まってる」
「わたくし、かわゆい男の子限定で地獄耳であります」
「俺は可愛くなければ男の子って歳でもない」
歌見の外見は確かにカッコイイ系だが、その性格や仕草には可愛いところが多い。
「わたくしの目には可愛い男の子に移っていますぞ」
「……嬉しくないからな」
歌見はふいっと顔を背け、肩がけの鞄を持った。
「そういえば……先輩が後輩の件は解決したとか言って昼飯を奢らせてきたんだが、狭雲どうにかなったのか?」
「あ、はい。セイカ様はわたくしの家で引き取ることになりましたぞ」
「そうか……相談代として奢らされ、迷惑代として奢らされ、解決代として奢らされ……ちくしょう、金持ちのおっさんに養ってもらってるくせにバイトで何とかやりくりしてる貧乏学生にたかりやがって」
「た、大変ですな。わたくしがパイセンに相談を頼んだのですし、今度ご飯ご馳走しますぞ」
「ならお前の手料理がいいな」
ふっと微笑んだ歌見の表情はどこか幼げで、台詞も相俟って心臓を握り潰したようなときめきを俺に与えた。
「……殺し文句ですなぁ、今わたくしが一機減りましたぞ」
「ちなみに何機あるんだ?」
「…………98」
「無限1UP極めてるなら安心だな、適当に亀虐めてこい」
「どうせ虐めるなら同じ亀は亀でもパイセンのき」
パチィンッ! と叩くように口を塞がれた。
「言わせないぞ」
「んむぅむむ」
口を塞がれたまま返事をしても歌見には聞こえない。
「全く油断も隙もない……」
「あ、パイセン。ネザメちゃまが夏休みに別荘に連れて行ってくださるそうで、空いている日を教えたまえとのことでそ」
「あぁ知ってる、グルチャにメッセ来てた。しかし……別荘か、すごいなぁ……違うな、なんか、生きる世界が」
「痛感しておりまそ……」
「しかし彼氏全員で別荘旅行とはまた楽しそうだな。人生二十年目にしてようやく夏出来る……! 楽しみだ」
彼氏全員集められたらいいのだが、カミアは多分来られないだろう。夏休みの間に一度会えるかどうかも怪しい、寂しくて思わずため息をつく。
「……水月? 本当に疲れてるんだな、今日はもう帰れ」
「えっ、ゃ、ちが……」
「お前はそういうの隠すからな。ほら立て、送ってやる」
本当に疲れてなどいないのだが、送ってもらえるのが嬉しくてそれを言えなかった。俺はずるいヤツだ。
(アキきゅん!?)
俺で美形に慣れているはずの常連客に黄色い声を上げさせるなんて、やはりアルビノは強い。謎の敗北感を抱きつつ彼に近寄っていくと、冷たい無表情が温かな笑顔に変わった。
「にーに!」
ざわ、と本屋が揺れた。
「にーにぃ、今日、ぼく、すぇかーちか、一緒する、お昼ご飯、買うする行くするです。にーにお仕事、見るする欲しいです。来るしたです」
昼食を買うためセイカと一緒に外出していて、その帰りに俺の仕事ぶりを見に来た。と言った感じかな? 昼食の時間からは大幅にズレているから一旦家に帰ったのだろう。
「セイカはどうした?」
アキはテディベアだけが乗った車椅子のハンドルを握っている。彼の視線を追うと参考書コーナーを徘徊するセイカが見つかった。
「お兄ちゃんまだまだお仕事あるから、まぁ適当に帰れよ」
ざわざわヒソヒソと騒がしい客達には注意するのが店員の役目だが、俺が原因で騒いでいるのだろう彼らを注意するのは躊躇われる。俺は逃げるように参考書コーナーへ向かい、本棚を整理するフリをしつつセイカに話しかけた。
「セイカ、アキのお守りありがとうな」
「鳴雷……アイツめちゃくちゃ視線集めるじゃん、戻りにくいんだけど」
「あー、うん……まぁでも、セイカは認めないけどセイカだって十分美少年なんだから、そんな嫌がることないよ。じゃあ、俺仕事に戻らないと……帰ったらもっとちゃんと慰めてやるからな」
セイカの頭を撫でてから倉庫に戻り、作業を続けた。作業を終わらせて倉庫から出ると二人は居なくなっており、本屋に静寂が戻っていた。
「──ってことがあって、結構騒がしかったんですよ」
終業後、バックヤードで歌見に今日あったことを話した。涼しい店内で働いている俺と違い、暑い外で配達をしてきた彼の肌は濡れている。
「アキくんもお前に似て美形だからな、そりゃ騒ぎにもなるだろ。いい宣伝になったんじゃないか?」
首筋を伝う汗の粒、火照った顔、通気性の悪いバックヤード内に広がる汗の匂い、それらが俺の興奮を高める。
「あの冷たく儚げな……まさに雪って感じの美人が「にーに!」なんて言ってたらなぁ、もう大騒ぎなんてもんじゃないだろ。本屋の看板兄弟見てみたかったよ」
「…………」
「……水月? どうした、疲れてるのか?」
暑いからとシャツを着ずにタンクトップのままで居る歌見の脇や胸元を凝視していて話を聞いていなかった。
「ま、明後日からは夏休みなんだろ? ゆっくり休め。最初っから遊び過ぎると身が持たないぞ」
返事が出来ずにいるとぽんぽんと頭を撫でられた。
「……次の、金曜日とか……どうかと思ってたんだが、大丈夫そう……か?」
「次の金曜日……!? もちろんOKですぞ! 覚悟の準備をしておきます!」
「ぅ……そ、そこは「大丈夫って何が?」とか言ってとぼけるものだろ、ハーレム主人公は鈍感で難聴って相場が決まってる」
「わたくし、かわゆい男の子限定で地獄耳であります」
「俺は可愛くなければ男の子って歳でもない」
歌見の外見は確かにカッコイイ系だが、その性格や仕草には可愛いところが多い。
「わたくしの目には可愛い男の子に移っていますぞ」
「……嬉しくないからな」
歌見はふいっと顔を背け、肩がけの鞄を持った。
「そういえば……先輩が後輩の件は解決したとか言って昼飯を奢らせてきたんだが、狭雲どうにかなったのか?」
「あ、はい。セイカ様はわたくしの家で引き取ることになりましたぞ」
「そうか……相談代として奢らされ、迷惑代として奢らされ、解決代として奢らされ……ちくしょう、金持ちのおっさんに養ってもらってるくせにバイトで何とかやりくりしてる貧乏学生にたかりやがって」
「た、大変ですな。わたくしがパイセンに相談を頼んだのですし、今度ご飯ご馳走しますぞ」
「ならお前の手料理がいいな」
ふっと微笑んだ歌見の表情はどこか幼げで、台詞も相俟って心臓を握り潰したようなときめきを俺に与えた。
「……殺し文句ですなぁ、今わたくしが一機減りましたぞ」
「ちなみに何機あるんだ?」
「…………98」
「無限1UP極めてるなら安心だな、適当に亀虐めてこい」
「どうせ虐めるなら同じ亀は亀でもパイセンのき」
パチィンッ! と叩くように口を塞がれた。
「言わせないぞ」
「んむぅむむ」
口を塞がれたまま返事をしても歌見には聞こえない。
「全く油断も隙もない……」
「あ、パイセン。ネザメちゃまが夏休みに別荘に連れて行ってくださるそうで、空いている日を教えたまえとのことでそ」
「あぁ知ってる、グルチャにメッセ来てた。しかし……別荘か、すごいなぁ……違うな、なんか、生きる世界が」
「痛感しておりまそ……」
「しかし彼氏全員で別荘旅行とはまた楽しそうだな。人生二十年目にしてようやく夏出来る……! 楽しみだ」
彼氏全員集められたらいいのだが、カミアは多分来られないだろう。夏休みの間に一度会えるかどうかも怪しい、寂しくて思わずため息をつく。
「……水月? 本当に疲れてるんだな、今日はもう帰れ」
「えっ、ゃ、ちが……」
「お前はそういうの隠すからな。ほら立て、送ってやる」
本当に疲れてなどいないのだが、送ってもらえるのが嬉しくてそれを言えなかった。俺はずるいヤツだ。
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