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俺だけの兄貴がいい
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金曜日の朝、登校直前、玄関先でホムラとアキの頭を同時に撫でる。
「……新鮮です。何だか、ふわふわ温かい気持ちになりますね。愛撫や抱擁によりセロトニンが増えると言われています、ストレスの軽減効果があるそうですよ。兄様にもしてあげてください」
「もちろん、セイカにはもっとたくさんしてるよ。恋人だからな」
一昨日のセイカのホムラを心配する様子を思い出し、思い合う兄弟はいいなと俺の弟の方に視線を移すと、彼は隣のホムラに反してむすっとした表情でいた。
「アキ? どうしたんだ、ご機嫌ななめだな」
「……にーに、ぼく、にーにです。ほむぅー……にーに、せーかです。ほむにーに、にーにちがうです。にーに、ぼくにーにです」
「えっと……?」
「あなたは私の兄です、ホムラの兄はセイカです、ホムラの兄はあなたではなく、あなたは私の兄です……ではないでしょうか。つまり、鳴雷さんが僕のことも弟扱いしていると感じ、鳴雷さんを兄として独り占めしたいと考えている……と考えます」
兄弟揃って俺よりもアキの言いたいことが理解出来るのか、俺の兄としての威厳は一体どこに……
「ほむらくんに構い過ぎてるって嫉妬してるんだな? お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだぞーってか? もぉ~、子供っぽいなぁ、可愛いぞー!」
むすっとしたままのアキを抱き締めて持ち上げる──腰にビキッと痛みが走った。
「……っ!」
「にーに! にーに、大好きです! 行ってらっしゃいです……にーに?」
「あっ、ぁ、あぁ……大丈夫……行ってきます。仲良くしろよ」
最近アキとする時は正常位が多いから忘れてしまっていた、アキは何故か見た目よりも重いのだと。力みが足りず腰を痛めてしまった、ギックリ腰と言うほどではなさそうだが痛みはすぐには引かなさそうだ。
「──って訳でまだちょっと腰が痛い」
「ほーん、アキくん重いんや」
「そういうのあんまり言ったげない方がよくなーい?」
朝のホームルーム前の僅かな時間。教室の隅で彼氏達と交流する尊い時間。
「み、くん……たいちょ、いーの?」
「そうそう、休んだ上に見舞いにも来るなとか言うから風邪でも引いたのかと思ってたんだけど~」
「違う違う、そういうんじゃないよ。ちょっと疲れ溜まってただけ、今日は絶好調だしな」
「腰は?」
「不調。まぁ、すぐ治るよ」
既に痛みが引き始めている。今はそれよりもシュカが心配だ。頬に貼っていたガーゼは既になく、アザなどもないが、切れた唇はまだ治っていないようで口の端の小さな絆創膏は以前見た時と同じ位置にある。
「シュカ、お腹と顔どうだ?」
「腹と頬はもう何とも。唇を切ったのはまだ治ってません、塞がりかけても食事の時などに裂けてしまって……」
「いつもより一口を小さくして食べないとだな」
「気を付けているつもりなんですが、治りかけて痛みが引くとつい忘れてしまうんですよ」
「リップ塗ってやろうか」
「……ではお言葉に甘えて」
ポケットからリップを取り出すとシュカはキスをする時のように目を閉じて口を突き出した。まるで童貞に戻ったようにドキドキしながら動きの鈍い手でリップを塗った。
「ありがとうございます。スースーしますね」
「リップなんか持ち歩いとるん?」
「普通持ち歩いてるもんじゃな~い? 俺も持ってるよ、色付きリップ」
「自分は見るからに持っとりそうやけど……」
「唇乾燥したと思ったらコンビニでホットスナックを買います」
「肥えとるもんのライフハックやないけ。しぐは?」
「ほ、しつ……液、なら。火傷、のとこ……かんそ、して、痛く……なっちゃ、から」
カンナの焼け爛れた皮膚には皮脂の分泌機能を失っている部分も多いだろう。俺やハルのような美容目的ではなく、死活問題だ。
「火傷だとそういうのあるんですね、切り傷だとちょっと突っ張るくらいなのでいいですよ」
「何がいいのさ~……」
「あぁ、そうそう水月、例のヤクザらしき男……その後は姿を見ていないのですか?」
「……ゃ、水曜日……セイカの見舞いに行く時に絡まれた。しかも家の前……いつの間にか尾けられてたみたいで」
彼氏達の合計八つの瞳がほぼ同時に見開かれる──いや、カンナは前髪で目が隠れているから確認出来るのは六つだな。
「何それ怖っ!?」
「何目的なんホンマ……」
「……で? どうなったんですか? まさか大した用事じゃなかったとか?」
「いや……その、アキがさぁ」
俺はアキが刺青男を撃退した際のことを掻い摘んで話した。
「マジ~? アキくん強~い!」
「……あの膝蹴りしばらく食欲なくなるくらいでしたよ、本当にすぐ反撃出来たんですか? 私の時より軽かったんじゃないですか」
「向こうの力加減は分かんないよ」
シュカの食欲がなくなるくらいとなると相当だな。そんな蹴りを俺の彼氏達に食らわせただなんて、やはりアイツは許せない。
「狭雲さんの空中キャッチとか、ちょくちょく変な話聞きますね彼」
「シュカとどっちが強いかな」
「くっだらないこと考えますねぇあなた……歳とタッパと実戦経験に差があり過ぎですよ。ボクシング風に言えば階級が違います」
「しゅー負けるんじゃな~い? だってしゅーがギリだったヤクザにアキくん勝ったんでしょ~?」
「……ヤクザが油断してたのかもしれないじゃないですか」
刺青男の詳細は全く分からないのに、みんなすっかりヤクザと断定してしまっている。
「鳥待三角飛び出来るんか?」
「…………三角飛び出来るかどうかなんて喧嘩の強さに関係ないでしょう」
「俺アキくんのが強いに一票~」
「俺で二票~、水月としぐは?」
「……水月、秋風さんに日曜日に決闘だと伝えておいてください」
「ダメに決まってるだろ! 悪かったよ変なこと聞いて」
好奇心のままに口や手を動かすとろくならことにならない。身に染みて実感した。
「……新鮮です。何だか、ふわふわ温かい気持ちになりますね。愛撫や抱擁によりセロトニンが増えると言われています、ストレスの軽減効果があるそうですよ。兄様にもしてあげてください」
「もちろん、セイカにはもっとたくさんしてるよ。恋人だからな」
一昨日のセイカのホムラを心配する様子を思い出し、思い合う兄弟はいいなと俺の弟の方に視線を移すと、彼は隣のホムラに反してむすっとした表情でいた。
「アキ? どうしたんだ、ご機嫌ななめだな」
「……にーに、ぼく、にーにです。ほむぅー……にーに、せーかです。ほむにーに、にーにちがうです。にーに、ぼくにーにです」
「えっと……?」
「あなたは私の兄です、ホムラの兄はセイカです、ホムラの兄はあなたではなく、あなたは私の兄です……ではないでしょうか。つまり、鳴雷さんが僕のことも弟扱いしていると感じ、鳴雷さんを兄として独り占めしたいと考えている……と考えます」
兄弟揃って俺よりもアキの言いたいことが理解出来るのか、俺の兄としての威厳は一体どこに……
「ほむらくんに構い過ぎてるって嫉妬してるんだな? お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだぞーってか? もぉ~、子供っぽいなぁ、可愛いぞー!」
むすっとしたままのアキを抱き締めて持ち上げる──腰にビキッと痛みが走った。
「……っ!」
「にーに! にーに、大好きです! 行ってらっしゃいです……にーに?」
「あっ、ぁ、あぁ……大丈夫……行ってきます。仲良くしろよ」
最近アキとする時は正常位が多いから忘れてしまっていた、アキは何故か見た目よりも重いのだと。力みが足りず腰を痛めてしまった、ギックリ腰と言うほどではなさそうだが痛みはすぐには引かなさそうだ。
「──って訳でまだちょっと腰が痛い」
「ほーん、アキくん重いんや」
「そういうのあんまり言ったげない方がよくなーい?」
朝のホームルーム前の僅かな時間。教室の隅で彼氏達と交流する尊い時間。
「み、くん……たいちょ、いーの?」
「そうそう、休んだ上に見舞いにも来るなとか言うから風邪でも引いたのかと思ってたんだけど~」
「違う違う、そういうんじゃないよ。ちょっと疲れ溜まってただけ、今日は絶好調だしな」
「腰は?」
「不調。まぁ、すぐ治るよ」
既に痛みが引き始めている。今はそれよりもシュカが心配だ。頬に貼っていたガーゼは既になく、アザなどもないが、切れた唇はまだ治っていないようで口の端の小さな絆創膏は以前見た時と同じ位置にある。
「シュカ、お腹と顔どうだ?」
「腹と頬はもう何とも。唇を切ったのはまだ治ってません、塞がりかけても食事の時などに裂けてしまって……」
「いつもより一口を小さくして食べないとだな」
「気を付けているつもりなんですが、治りかけて痛みが引くとつい忘れてしまうんですよ」
「リップ塗ってやろうか」
「……ではお言葉に甘えて」
ポケットからリップを取り出すとシュカはキスをする時のように目を閉じて口を突き出した。まるで童貞に戻ったようにドキドキしながら動きの鈍い手でリップを塗った。
「ありがとうございます。スースーしますね」
「リップなんか持ち歩いとるん?」
「普通持ち歩いてるもんじゃな~い? 俺も持ってるよ、色付きリップ」
「自分は見るからに持っとりそうやけど……」
「唇乾燥したと思ったらコンビニでホットスナックを買います」
「肥えとるもんのライフハックやないけ。しぐは?」
「ほ、しつ……液、なら。火傷、のとこ……かんそ、して、痛く……なっちゃ、から」
カンナの焼け爛れた皮膚には皮脂の分泌機能を失っている部分も多いだろう。俺やハルのような美容目的ではなく、死活問題だ。
「火傷だとそういうのあるんですね、切り傷だとちょっと突っ張るくらいなのでいいですよ」
「何がいいのさ~……」
「あぁ、そうそう水月、例のヤクザらしき男……その後は姿を見ていないのですか?」
「……ゃ、水曜日……セイカの見舞いに行く時に絡まれた。しかも家の前……いつの間にか尾けられてたみたいで」
彼氏達の合計八つの瞳がほぼ同時に見開かれる──いや、カンナは前髪で目が隠れているから確認出来るのは六つだな。
「何それ怖っ!?」
「何目的なんホンマ……」
「……で? どうなったんですか? まさか大した用事じゃなかったとか?」
「いや……その、アキがさぁ」
俺はアキが刺青男を撃退した際のことを掻い摘んで話した。
「マジ~? アキくん強~い!」
「……あの膝蹴りしばらく食欲なくなるくらいでしたよ、本当にすぐ反撃出来たんですか? 私の時より軽かったんじゃないですか」
「向こうの力加減は分かんないよ」
シュカの食欲がなくなるくらいとなると相当だな。そんな蹴りを俺の彼氏達に食らわせただなんて、やはりアイツは許せない。
「狭雲さんの空中キャッチとか、ちょくちょく変な話聞きますね彼」
「シュカとどっちが強いかな」
「くっだらないこと考えますねぇあなた……歳とタッパと実戦経験に差があり過ぎですよ。ボクシング風に言えば階級が違います」
「しゅー負けるんじゃな~い? だってしゅーがギリだったヤクザにアキくん勝ったんでしょ~?」
「……ヤクザが油断してたのかもしれないじゃないですか」
刺青男の詳細は全く分からないのに、みんなすっかりヤクザと断定してしまっている。
「鳥待三角飛び出来るんか?」
「…………三角飛び出来るかどうかなんて喧嘩の強さに関係ないでしょう」
「俺アキくんのが強いに一票~」
「俺で二票~、水月としぐは?」
「……水月、秋風さんに日曜日に決闘だと伝えておいてください」
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