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他所の弟ばっか可愛がるな
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中学校からの帰り道、ホムラと共に薬局に寄った。セイカはお菓子に疎いようだったからホムラもそうなのだろうという予想は正しく、彼はお菓子コーナーの棚を眺めて呆然としているように見える。
「お菓子決まったか?」
絆創膏や打撲用の湿布、火傷向けの軟膏などをカゴに入れ、お菓子コーナーに放置していたホムラを迎えに行った。
「すみません、まだ……よく分からなくて。薬局なのにどうしてお菓子があるのでしょう、お菓子は身体に悪いと母様から聞いているのですが……」
「甘いもの食べると気持ちがふわーっと上向きになる。心のお薬だ」
「なるほど……」
ホムラは真面目で素直過ぎる、あまり適当なことは言えないな、自分の言動を改めて見つめ直さなければ。
「どれ食べたい?」
「味が分からないので……」
「しょっぱい系、甘い系、辛い系……チョコだとほろ苦系もあるぞ」
「…………甘いものがいいです。チョコ……チョコ、興味あります。以前……二月頃でしたか、級友にチョコレートをいただいたのですが、学校や通学路でお菓子を食べる訳にはいかず家に持ち帰ったら母様に取り上げられてしまい……気になっていたのです」
それはバレンタインチョコというヤツではないだろうか。俺には長らく縁のない物だった。流石セイカの弟、いや、素直な分セイカよりモテるかもしれない。
「甘いチョコね。食感はトロッとするのとザクッとするのどっちがいい?」
「……とろ、がいいです」
「じゃあー……これっ、ホムラくん用な。アキにはミニクレープ……よし、レジ行こっか」
「鳴雷さんのお菓子は……」
「俺ダイエット中なの忘れてた」
最初から俺用のおやつを買う気などなかった。俺の彼氏達のうち勘のいい者ならそれに気付きそうなものだが、ホムラは素直なので俺の言葉を信じて納得した。
(言いくるめやすぅ……ちょっと心配になりますな、詐欺とか引っ掛かりそうでそ)
中学生の間はこのくらいが可愛いのかなとも思い、ホムラの頭を撫でてみる。彼は不思議そうな顔で俺を見上げた。セイカのように照れたり笑ったりはしてくれない、俺に恋していない証拠だ。
何事もなく自宅へ帰還。部屋着を貸すという名目でホムラを私室に入れ、制服を脱がせることに成功した。
「……やっぱり怪我増えてるな。手当てするよ、どこに何されたかちゃんと教えてくれるな?」
「………………はい」
服で隠れる位置に無数の真新しい傷跡があった。打撲、擦り傷、火傷まで……思い出して怯えながら、そして泣きながらホムラは傷の付けられ方を語り、俺はそれに合わせて手当てをした。
「……こんなもんかな」
「ありがとうございます。スースーします……」
「湿布結構貼ったからなぁ。絆創膏も……肌しばらく荒れるかもな」
「構いません。少し痛みが引いた気がします」
湿布や軟膏にそんな即効性があるとは思えない、プラシーボ効果というヤツだろう。
「……ほむらくん、君とセイカを保護する目処が立った。だから……しばらくは自宅に帰らないでくれるかな、学校に行ったら迎えに来られるだろうから、出来れば学校も休んで欲しい。勉強は俺が見てあげるから、な? この家で大人しく過ごすんだ、出来るか?」
「分かりました。ご迷惑をかけたようで……申し訳ありません」
「いいよ、謝らなくて。ほむらくんは学校に行くって真面目な選択をしただけなんだからな」
「……ありがとうございます」
「俺はアキの部屋に居るから、一人で過ごしたかったら俺の部屋使ってくれ。アキの部屋暗いし勉強には向かないだろうから」
「本当にありがとうございます、何から何まで……」
歳下に深く感謝されると何とも言えない複雑な気分になる。個人的には苦手な空気だ。
「もちろん一人嫌だったらこっち来てくれていいよ。じゃあ……ごゆっくり」
何となく気まずいのもあってそそくさと自室を後にした。母が帰ってくるまでアキの部屋で過ごし、母が帰ってきてしばらくしたら制服を着て玄関から家に入った。学校から帰ってきたように装って母に挨拶をし、再びアキの部屋へ。
「……にーに、何するです?」
アキに不審がられて当然の行動だ。上手く説明出来る自信がなかったので抱き締めてキスをし、誤魔化した。
「あの……母さん、言っておくことがあって」
「何?」
夕飯の後、皿洗いを終えた俺はテレビを見ている母の隣に座った。
「今日連れて来たほむらくんなんだけど、実は彼氏じゃなくて……セイカの弟で。やっぱり家で酷い目に遭ってるから、その……助けて欲しくて。セイカはほむらくんだけでもって言ってたし、ゃ、俺はセイカのが……えっと、つまり、その」
「ほむらくんも助けてってことね。分かった。なんで口説いてないの? フラれちゃった?」
「……いや、なんか……チンピクしなくて」
「あー……たまにあるわね、可愛いしいい子だし押せばイケそうなんだけど、そういう気になれない子。兄弟丼とかしないの?」
「うぅーん……」
「ま、どうでもいいけど……分かったわ。あんまり嘘つかないでね」
「……はい」
髪型を崩すように頭をくしゃくしゃと撫でられた。私室に戻るとホムラは勉強机に座っていた、その小さな背中は頼りなさ過ぎて劣情を抱けない。
「ホムラくん、宿題終わった?」
背の高いアキや実年齢は上のレイやミフユとは違い、ホムラは子供らしさがしっかりとある歳下だ。だから俺は反応しないのだろう、とそれらしく分析してみる。
「はい」
「……明日は休むってのに真面目だねぇ」
「鳴雷さん、勉強見てくださるんですよね。今お願い出来ますか?」
「いいよ、どこ?」
ホムラの手元のノートを覗く。俺は今通っている高校では平均以下の成績だが、そもそも十二薔薇高校は難関の名門校として有名だ。そこに入れた以上どんなに低成績だろうと中学生の勉強を見る程度は容易。
(…………分かる、全て分かりますぞ! ふはははは!)
優越感に機嫌を良くしてホムラの勉強に付き合っていると、ノックもなく部屋の扉が開いた。
《なんで俺の部屋来ねぇの……寂しいじゃんかぁー》
アキがぶつぶつ呟きながら部屋に入ってきて俺の肩に頭突きをする。
「どうしたどうした、ん?」
身体を反転させるとアキはじっと俺を睨み上げた後、胸に顔を押し付けてきた。甘えたかったのだろうか、他所の弟に構っていたから嫉妬したとか? 可愛い子だ。
「お菓子決まったか?」
絆創膏や打撲用の湿布、火傷向けの軟膏などをカゴに入れ、お菓子コーナーに放置していたホムラを迎えに行った。
「すみません、まだ……よく分からなくて。薬局なのにどうしてお菓子があるのでしょう、お菓子は身体に悪いと母様から聞いているのですが……」
「甘いもの食べると気持ちがふわーっと上向きになる。心のお薬だ」
「なるほど……」
ホムラは真面目で素直過ぎる、あまり適当なことは言えないな、自分の言動を改めて見つめ直さなければ。
「どれ食べたい?」
「味が分からないので……」
「しょっぱい系、甘い系、辛い系……チョコだとほろ苦系もあるぞ」
「…………甘いものがいいです。チョコ……チョコ、興味あります。以前……二月頃でしたか、級友にチョコレートをいただいたのですが、学校や通学路でお菓子を食べる訳にはいかず家に持ち帰ったら母様に取り上げられてしまい……気になっていたのです」
それはバレンタインチョコというヤツではないだろうか。俺には長らく縁のない物だった。流石セイカの弟、いや、素直な分セイカよりモテるかもしれない。
「甘いチョコね。食感はトロッとするのとザクッとするのどっちがいい?」
「……とろ、がいいです」
「じゃあー……これっ、ホムラくん用な。アキにはミニクレープ……よし、レジ行こっか」
「鳴雷さんのお菓子は……」
「俺ダイエット中なの忘れてた」
最初から俺用のおやつを買う気などなかった。俺の彼氏達のうち勘のいい者ならそれに気付きそうなものだが、ホムラは素直なので俺の言葉を信じて納得した。
(言いくるめやすぅ……ちょっと心配になりますな、詐欺とか引っ掛かりそうでそ)
中学生の間はこのくらいが可愛いのかなとも思い、ホムラの頭を撫でてみる。彼は不思議そうな顔で俺を見上げた。セイカのように照れたり笑ったりはしてくれない、俺に恋していない証拠だ。
何事もなく自宅へ帰還。部屋着を貸すという名目でホムラを私室に入れ、制服を脱がせることに成功した。
「……やっぱり怪我増えてるな。手当てするよ、どこに何されたかちゃんと教えてくれるな?」
「………………はい」
服で隠れる位置に無数の真新しい傷跡があった。打撲、擦り傷、火傷まで……思い出して怯えながら、そして泣きながらホムラは傷の付けられ方を語り、俺はそれに合わせて手当てをした。
「……こんなもんかな」
「ありがとうございます。スースーします……」
「湿布結構貼ったからなぁ。絆創膏も……肌しばらく荒れるかもな」
「構いません。少し痛みが引いた気がします」
湿布や軟膏にそんな即効性があるとは思えない、プラシーボ効果というヤツだろう。
「……ほむらくん、君とセイカを保護する目処が立った。だから……しばらくは自宅に帰らないでくれるかな、学校に行ったら迎えに来られるだろうから、出来れば学校も休んで欲しい。勉強は俺が見てあげるから、な? この家で大人しく過ごすんだ、出来るか?」
「分かりました。ご迷惑をかけたようで……申し訳ありません」
「いいよ、謝らなくて。ほむらくんは学校に行くって真面目な選択をしただけなんだからな」
「……ありがとうございます」
「俺はアキの部屋に居るから、一人で過ごしたかったら俺の部屋使ってくれ。アキの部屋暗いし勉強には向かないだろうから」
「本当にありがとうございます、何から何まで……」
歳下に深く感謝されると何とも言えない複雑な気分になる。個人的には苦手な空気だ。
「もちろん一人嫌だったらこっち来てくれていいよ。じゃあ……ごゆっくり」
何となく気まずいのもあってそそくさと自室を後にした。母が帰ってくるまでアキの部屋で過ごし、母が帰ってきてしばらくしたら制服を着て玄関から家に入った。学校から帰ってきたように装って母に挨拶をし、再びアキの部屋へ。
「……にーに、何するです?」
アキに不審がられて当然の行動だ。上手く説明出来る自信がなかったので抱き締めてキスをし、誤魔化した。
「あの……母さん、言っておくことがあって」
「何?」
夕飯の後、皿洗いを終えた俺はテレビを見ている母の隣に座った。
「今日連れて来たほむらくんなんだけど、実は彼氏じゃなくて……セイカの弟で。やっぱり家で酷い目に遭ってるから、その……助けて欲しくて。セイカはほむらくんだけでもって言ってたし、ゃ、俺はセイカのが……えっと、つまり、その」
「ほむらくんも助けてってことね。分かった。なんで口説いてないの? フラれちゃった?」
「……いや、なんか……チンピクしなくて」
「あー……たまにあるわね、可愛いしいい子だし押せばイケそうなんだけど、そういう気になれない子。兄弟丼とかしないの?」
「うぅーん……」
「ま、どうでもいいけど……分かったわ。あんまり嘘つかないでね」
「……はい」
髪型を崩すように頭をくしゃくしゃと撫でられた。私室に戻るとホムラは勉強机に座っていた、その小さな背中は頼りなさ過ぎて劣情を抱けない。
「ホムラくん、宿題終わった?」
背の高いアキや実年齢は上のレイやミフユとは違い、ホムラは子供らしさがしっかりとある歳下だ。だから俺は反応しないのだろう、とそれらしく分析してみる。
「はい」
「……明日は休むってのに真面目だねぇ」
「鳴雷さん、勉強見てくださるんですよね。今お願い出来ますか?」
「いいよ、どこ?」
ホムラの手元のノートを覗く。俺は今通っている高校では平均以下の成績だが、そもそも十二薔薇高校は難関の名門校として有名だ。そこに入れた以上どんなに低成績だろうと中学生の勉強を見る程度は容易。
(…………分かる、全て分かりますぞ! ふはははは!)
優越感に機嫌を良くしてホムラの勉強に付き合っていると、ノックもなく部屋の扉が開いた。
《なんで俺の部屋来ねぇの……寂しいじゃんかぁー》
アキがぶつぶつ呟きながら部屋に入ってきて俺の肩に頭突きをする。
「どうしたどうした、ん?」
身体を反転させるとアキはじっと俺を睨み上げた後、胸に顔を押し付けてきた。甘えたかったのだろうか、他所の弟に構っていたから嫉妬したとか? 可愛い子だ。
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