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やっぱり俺は顔だけの男だ

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母がセイカと俺が共に暮らせるように動くつもりだと話していたことを、セイカに丁寧に説明した。俺が弁護士の知り合いと話したことも、名刺を貰ったことも伝えた。

「……本っ当に、人間出来た人だな。お前も、お前のお母さんも」

「俺はともかく、母さんはホントにすごい人だよ。嫌いだし恨んでるし憎んでるって言ってたけど、それとこれとは別だって……俺の想いを尊重してくれてる。だから、セイカ、アキの部屋で過ごす分にはきっと快適だと思う。少なくとも、セイカの……本当の家よりは」

「まぁ、そりゃ……酷い家だからな。ほむらはまだ鳴雷の家に厄介になってるのか?」

「…………ほむらくん?」

そういえば、あの子はどこに行ったんだ? 歌見の誕生日を一緒に祝って、次の日の朝は一緒に朝食を食べて……俺が帰った時には居なかった。まさか一人で家に帰ったのか?

「違うのか? ほむらどうしたんだよ」

「ご、ごめん、忘れてたって言うか……その、今どうしてるかは分かんない」

「…………は? そんなっ、嘘だろ!? ほむらは、せめてほむらだけはって、俺っ!」

「ごめん、本当にごめんっ、八日の朝は一緒に居たよな、それで……その後どうしたんだろ、なんで居なくなったんだ? ア、アキ、アキ知らないか?」

焦っている様子だったセイカは深呼吸をしてからロシア語でアキに話しかけた、弟の居場所を尋ねているのだろう。

《八日の朝は確か……モミジ達が先に出て、その後に兄貴達が行って……歌見がダイガクってのに行って、その後くらいにスェカーチカの弟もガッコー行くって出てったな。で、最後にコノメがリアルウチアワセってのに行った》

「……ほむら、学校行ったらしい」

「えっ!? そんなクソ真面目な……解決するまで休むだろそういうのは、中学なんか義務教育なんだし……っていうか制服とか教科書とか全部家に置きっぱなしのはずだろ? 一旦帰ったのかな」

「さぁ……でも、ほむらはそういうとこある……あぁ、クソ、何が離脱症状だクソヤク中が……弟のことも見れないで……クソ、クソっ、ほむら、ほむらぁ……ちくしょう……」

蹲ったセイカの左手はズボンを強く掴んでおり、そのままにさせておけば爪が割れてしまいそうだった。ホムラのことを今の今まで忘れていた俺に何が言えるだろう。

「セイカ……その、俺……すぐ確認するよ! そうだ、明日、明日中学校行ってみる、クソ真面目なんだから明日もきっと行ってるだろ? 絶対会えるはずだよ、会えたら様子確認して、それで、えっと……怪我とかしてたら家に連れて帰る」

「…………頼む。俺今外出許可降りないんだ。お願いだ鳴雷っ、何でもするからほむらを頼む」

「いいお兄ちゃんだなぁ……俺は不甲斐ないことばっかだよ、どうすりゃいいお兄ちゃんになれるんだろう」

「……お前が何に悩んでるのかよく分からないけど、少なくともいい兄は弟とヤらねぇよ」

そう言われてはおしまいだ。

「ここ来る前さ、絡まれたって言っただろ? 前の、ほら……ネザメさん家行く時だったかな、その時にも絡まれた、ヤクザみたいなヤツら、その片っぽにまた今日も絡まれたんだよ」

「……あぁ、お前がヤクザのお嬢様に一目惚れされてるヤツか」

それはヤクザ風の男達が何故俺を探しているのかという疑問に対し、セイカが勝手に想像しただけの回答じゃないか。

「理由は知らないけど……絡まれてさぁ、アキ、腹に膝蹴り食らって……」

「えっ……大丈夫なのか?」

「お腹痛いってずっと言ってたよ。俺……アキのこと全然守れてないんだ、前に不良に絡まれた時だってそうだ、アキが倒してくれた……」

「……そのヤクザっぽいヤツは?」

「……アキが倒してくれた。すごかったよ……お兄ちゃんが守ってやりたいのになぁ」

ぽんぽんと白い頭を撫でるとアキは俺の苦悩なんて知らないで無邪気な笑顔を見せてくれた。

「……その前にシュカもやられてて、あの時も俺……見てるだけで。彼氏なのに、俺が守らなきゃいけない人なのに……はぁ」

「シュカ……あぁ、あのメガネか」

「うん……」

「めちゃくちゃ落ち込んでるな……えっとな、鳴雷、俺は、その……あのなっ、暴力とか忌避しちゃう鳴雷の生来の優しさってヤツが好きだぞ」

生来の優しさ? 違う、ただのビビりだ。

《兄貴何落ち込んでんの?》

《ここ来る前喧嘩したんだって? お前を守れなかったって落ち込んでるんだよ、慰めてやってくれ》

学校で柔道は少し習った、今度絡まれたら投げ技を試してみようかな……いや、アスファルトの上でするのは危ないよな……なんてグダグダ考え込んでいる俺の両手をアキが両手で包んだ。

「アキ……?」

「にーに、にーにぃ……ぅー、なやむ……? する、いるしないです」

「悩むなって? そりゃ無理だよ……」

「にーに、ぼく、守るするです。にーに痛いする、にーに怖いする、ぼく、ないするです。にーに、安心するです」

「守ってやるから安心しろって言ってるのか? はは……頼もしいなぁアキは」

それに対して俺のなんと情けないことか。

「ぼく、にーに守るする、いつもです。にーに、ぼく寂しいする、しないです。にーに温かいです。にーに居ないする、ぼく、寂しいするです、寒いするです。にーにぼく守るする、お礼するです」

「…………ありがとうな、アキ」

いつも俺に寂しさから守ってもらえていると、今日のように暴力から守るのは恩返しだと、そう言ってくれているのだろう。

「にーに強いする、いるしないです。にーに温かいする、柔らかいする、です!」

俺に強さは要らないと、アキが俺に求めているのは癒しだと、そういうことか。得意分野による役割分担だと理解は出来るが、兄として、そしてタチとしてはやはり屈辱的だ。夏休みに入ったらアキのトレーニングを真似てみよう、少しは鍛えられるだろう。
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