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過去の蛮行が役に立つのなら
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休み時間は彼氏達と戯れ、昼はミフユの手作り弁当とシュカとのセックスなどを楽しみ、いつも通りの幸せな時間を過ごした。
「明日……水曜日か、明日はバイト休みだな」
「マジ? じゃあデートしよーよデートっ」
「うーん……セイカのお見舞い行きたいしなぁ、また今度な」
「え~……分かった。じゃ、また明日~」
ハルは落ち込んだ顔のまま裏門の方へ向かった。俺はいつも通り三人を連れて正門へと向かう。
「今日これから水月の家行ってええ? プール入りたいねん」
「えー……? まぁ、アキがいいって言ったらいいけど、水着着て入れよ? 全裸はダメだぞ。カンナとシュカはどうする?」
「ぼく、は……いい」
「今日は忙しいんでやめておきます」
「タダで入るんも悪いし、アキくんに何や買ってったろ思うんやけどアキくんお菓子とか何好きやろ。勝手にあげてもええのん?」
「別にいいと思うけど……アキ何好きかな、確か……ぶるぬぃ? 好きとか言ってたような……」
「聞いたことないわ」
「ロシアの、えーっと……クレープ? かパンケーキ、みたいな感じのだって聞いたんだけど……」
談笑しながら正門を抜け、俺の足は止まった。門の脇に見覚えのある男が立っていたからだ。タンクトップとデニムを身に付けた、顔と手と首周り以外を埋め尽くす刺青のある、耳と口の大きなピアスが目立つ男──以前セイカの見舞いに行く途中に俺に絡んできた男だ、何故か俺の似顔絵を持っていた反社会的勢力の一員っぽい男。どうしてここに。
(確かあの時わたくし制服着てて……アーッ! やらかしぃ~!)
制服から学校がバレたのだと察した俺は即座に俯いて顔を見られないようにしようとしたが、人探しの最中に顔を隠している者が居れば注目するのは当然、俺はあっさり見つかってしまった。
「あっ、見っけ~! よかったぁ、先週学校終わる時間に来ても全っ然居ねぇからさぁー、もう夏休み入ったんじゃねって思ってたんだよぉ」
気さくに話しかけてきた男の周りにもう一人の姿はない、以前はスーツの男と二人組だったと記憶しているのだが、今日は彼も車もない。走るべきだろうか、彼氏達を巻き込んでしまうだろうか、どうすれば穏便に逃げられるのだろう。
「……私の友人に何か用でしょうか」
固まってしまった俺の前にシュカがずいっと出て、リュウがカンナを背に隠し、ジリジリと後退していった。
「弟が世話になってさぁー、お礼したがってるのと、なんか頼みがあるっぽくて……なんだっけなぁ、聞いたんだけど忘れたー。ま、とにかくぅ、一緒に来てくんねぇ?」
「……俺、あなたの弟さんなんて知りません。人違いです」
「弟、絵描くの得意でさぁ、てめぇの顔描いてんだよ。この絵見てもまだんな言い逃れ出来んのか? あぁ? いいから着いて来いって、優しく言ってやってる間にさぁ……こないだみたいに逃げたら今度こそ承知しねぇぞ」
男がデニムの尻ポケットから取り出したのはスケッチブックを破ったもの、折り畳まれたそれが開かれると、見事に俺の美顔を写し取った鉛筆画が現れた。こんな超絶美形、俺以外には存在しないだろう。別人だという言い逃れは難しい。
「……あなた一体どこで何引っ掛けたんですか」
シュカが呆れた目で俺を見つめる。
「な、何も引っ掛けてないよ。知らない、知りません! 名前も知らない大人に着いてったりもしません!」
そう叫んでいる最中、男が動いた。俺の方を振り返っていたシュカの腹に重たい膝蹴りを食らわせた。
「……えっ」
シュカが腹を押さえて膝から崩れ落ちていく様子がスローモーションで見えた。
「シュ……シュカっ! シュカぁっ! 痛っ……」
嗚咽する彼を心配して屈むと男に髪を掴まれ、無理矢理上を向かされた。
「一緒に来いって言ってんだよぉ、これ以上オトモダチ痛め付けられたくねぇだろ? ぁ?」
男はシュカの肩を軽く蹴る。
「わ、分かった! 分かったから、行くから……!」
「よっしゃ、着いてこい。ったく手間取らせんなよなぁ、コインバーガーキング……パンクキング、パキスタン……パキ…………あんま停めてたら金いっぱい取られるとこ停めてんだからよぉ」
コインパーキングと言いたかったのだろうか。学校近くのそれの場所は何となく分かる、駅までの道の中程にあったはずだ。どこかのタイミングで逃げて……一時逃げられたとしても、後日コイツが俺の彼氏達を見つけたら──! 怖い、着いて行ったら何をされるか分からない、でも彼氏達が傷付くよりは……そう諦めて男に着いて行こうとした俺の手をシュカが掴む。
「シュ、シュカ……? ダメだっ、ダメ……」
俺の手を掴んで立ち上がったシュカは青い顔をしていたが、拳を構えた。男は舌打ちをして蹴りを放つも、今度こそシュカは足を上げて防いだ。だが蹴りの威力が強いのか、先程の膝蹴りが効いているのか、シュカはふらついて学校の柵にもたれかかった。
「グロッキーじゃねぇかメガネくん、喧嘩慣れしてるみてぇだけどよ、んな頑張んなよ。別にバラそうって訳じゃねぇんだぜ?」
「しゃあしいっ……オレん水月から離れぇくらすぞっ!」
「……っとぉ! いいパンチしてんなぁ」
シュカ渾身の右ストレートを受け止めた男は楽しそうに笑っている。シュカは舌打ちをし、メガネを外して俺に押し付けた。
「持っとけ」
「えっ……」
メガネキャラが本気出す時にメガネ外すメガネフェチが激怒するけどなんだかんだ燃える展開!?
(いやいや何興奮してるんでそ、これ以上シュカたま殴られたくねぇでそ! どうしようどうしよう)
裸眼では隣に居る者の顔も分からないような視力で喧嘩が出来るのか? なんでメガネを外したんだ? その疑問はシュカが顔を殴られた瞬間に晴れた。
(なるほど……互角以上の相手と喧嘩する時は顔にもらう可能性高めなので、メガネ壊されないように外すんですな。本気出す時に外すのではなく、泥臭い喧嘩の時に外すと……)
って関心してる場合じゃない。止めないと。いや、止められなかったとしてもシュカの盾くらいにはならないと──
「おっ、おいお前! うちの生徒に何してる!」
──二人の隙間に割り込もうとしたその時、聞き慣れた大声が聞こえて男は一目散に逃げ出した。
「待て! おい! うわ速っ…………お、おい、鳥待……? 大丈夫か?」
「…………せん、せ……? けほっ……平気です」
ジャージ姿の壮年の男性、体育教師だ。どうやらこっそりと学校に戻ったリュウとカンナが呼んで来てくれたらしい。
「ふらふらじゃないか、保健室まで運ぶから先生に掴まりなさい。鳴雷、何があったか聞きたいから一緒に来なさい」
「は、はい……」
教師がシュカをおぶるのを手伝い、ひとまず危機が去ったことに安堵し、シュカが俺以外の男の背中で目を閉じる姿に嫉妬し、今日はバイトに遅刻してしまうなと落ち込んだ。心が忙しい。
「明日……水曜日か、明日はバイト休みだな」
「マジ? じゃあデートしよーよデートっ」
「うーん……セイカのお見舞い行きたいしなぁ、また今度な」
「え~……分かった。じゃ、また明日~」
ハルは落ち込んだ顔のまま裏門の方へ向かった。俺はいつも通り三人を連れて正門へと向かう。
「今日これから水月の家行ってええ? プール入りたいねん」
「えー……? まぁ、アキがいいって言ったらいいけど、水着着て入れよ? 全裸はダメだぞ。カンナとシュカはどうする?」
「ぼく、は……いい」
「今日は忙しいんでやめておきます」
「タダで入るんも悪いし、アキくんに何や買ってったろ思うんやけどアキくんお菓子とか何好きやろ。勝手にあげてもええのん?」
「別にいいと思うけど……アキ何好きかな、確か……ぶるぬぃ? 好きとか言ってたような……」
「聞いたことないわ」
「ロシアの、えーっと……クレープ? かパンケーキ、みたいな感じのだって聞いたんだけど……」
談笑しながら正門を抜け、俺の足は止まった。門の脇に見覚えのある男が立っていたからだ。タンクトップとデニムを身に付けた、顔と手と首周り以外を埋め尽くす刺青のある、耳と口の大きなピアスが目立つ男──以前セイカの見舞いに行く途中に俺に絡んできた男だ、何故か俺の似顔絵を持っていた反社会的勢力の一員っぽい男。どうしてここに。
(確かあの時わたくし制服着てて……アーッ! やらかしぃ~!)
制服から学校がバレたのだと察した俺は即座に俯いて顔を見られないようにしようとしたが、人探しの最中に顔を隠している者が居れば注目するのは当然、俺はあっさり見つかってしまった。
「あっ、見っけ~! よかったぁ、先週学校終わる時間に来ても全っ然居ねぇからさぁー、もう夏休み入ったんじゃねって思ってたんだよぉ」
気さくに話しかけてきた男の周りにもう一人の姿はない、以前はスーツの男と二人組だったと記憶しているのだが、今日は彼も車もない。走るべきだろうか、彼氏達を巻き込んでしまうだろうか、どうすれば穏便に逃げられるのだろう。
「……私の友人に何か用でしょうか」
固まってしまった俺の前にシュカがずいっと出て、リュウがカンナを背に隠し、ジリジリと後退していった。
「弟が世話になってさぁー、お礼したがってるのと、なんか頼みがあるっぽくて……なんだっけなぁ、聞いたんだけど忘れたー。ま、とにかくぅ、一緒に来てくんねぇ?」
「……俺、あなたの弟さんなんて知りません。人違いです」
「弟、絵描くの得意でさぁ、てめぇの顔描いてんだよ。この絵見てもまだんな言い逃れ出来んのか? あぁ? いいから着いて来いって、優しく言ってやってる間にさぁ……こないだみたいに逃げたら今度こそ承知しねぇぞ」
男がデニムの尻ポケットから取り出したのはスケッチブックを破ったもの、折り畳まれたそれが開かれると、見事に俺の美顔を写し取った鉛筆画が現れた。こんな超絶美形、俺以外には存在しないだろう。別人だという言い逃れは難しい。
「……あなた一体どこで何引っ掛けたんですか」
シュカが呆れた目で俺を見つめる。
「な、何も引っ掛けてないよ。知らない、知りません! 名前も知らない大人に着いてったりもしません!」
そう叫んでいる最中、男が動いた。俺の方を振り返っていたシュカの腹に重たい膝蹴りを食らわせた。
「……えっ」
シュカが腹を押さえて膝から崩れ落ちていく様子がスローモーションで見えた。
「シュ……シュカっ! シュカぁっ! 痛っ……」
嗚咽する彼を心配して屈むと男に髪を掴まれ、無理矢理上を向かされた。
「一緒に来いって言ってんだよぉ、これ以上オトモダチ痛め付けられたくねぇだろ? ぁ?」
男はシュカの肩を軽く蹴る。
「わ、分かった! 分かったから、行くから……!」
「よっしゃ、着いてこい。ったく手間取らせんなよなぁ、コインバーガーキング……パンクキング、パキスタン……パキ…………あんま停めてたら金いっぱい取られるとこ停めてんだからよぉ」
コインパーキングと言いたかったのだろうか。学校近くのそれの場所は何となく分かる、駅までの道の中程にあったはずだ。どこかのタイミングで逃げて……一時逃げられたとしても、後日コイツが俺の彼氏達を見つけたら──! 怖い、着いて行ったら何をされるか分からない、でも彼氏達が傷付くよりは……そう諦めて男に着いて行こうとした俺の手をシュカが掴む。
「シュ、シュカ……? ダメだっ、ダメ……」
俺の手を掴んで立ち上がったシュカは青い顔をしていたが、拳を構えた。男は舌打ちをして蹴りを放つも、今度こそシュカは足を上げて防いだ。だが蹴りの威力が強いのか、先程の膝蹴りが効いているのか、シュカはふらついて学校の柵にもたれかかった。
「グロッキーじゃねぇかメガネくん、喧嘩慣れしてるみてぇだけどよ、んな頑張んなよ。別にバラそうって訳じゃねぇんだぜ?」
「しゃあしいっ……オレん水月から離れぇくらすぞっ!」
「……っとぉ! いいパンチしてんなぁ」
シュカ渾身の右ストレートを受け止めた男は楽しそうに笑っている。シュカは舌打ちをし、メガネを外して俺に押し付けた。
「持っとけ」
「えっ……」
メガネキャラが本気出す時にメガネ外すメガネフェチが激怒するけどなんだかんだ燃える展開!?
(いやいや何興奮してるんでそ、これ以上シュカたま殴られたくねぇでそ! どうしようどうしよう)
裸眼では隣に居る者の顔も分からないような視力で喧嘩が出来るのか? なんでメガネを外したんだ? その疑問はシュカが顔を殴られた瞬間に晴れた。
(なるほど……互角以上の相手と喧嘩する時は顔にもらう可能性高めなので、メガネ壊されないように外すんですな。本気出す時に外すのではなく、泥臭い喧嘩の時に外すと……)
って関心してる場合じゃない。止めないと。いや、止められなかったとしてもシュカの盾くらいにはならないと──
「おっ、おいお前! うちの生徒に何してる!」
──二人の隙間に割り込もうとしたその時、聞き慣れた大声が聞こえて男は一目散に逃げ出した。
「待て! おい! うわ速っ…………お、おい、鳥待……? 大丈夫か?」
「…………せん、せ……? けほっ……平気です」
ジャージ姿の壮年の男性、体育教師だ。どうやらこっそりと学校に戻ったリュウとカンナが呼んで来てくれたらしい。
「ふらふらじゃないか、保健室まで運ぶから先生に掴まりなさい。鳴雷、何があったか聞きたいから一緒に来なさい」
「は、はい……」
教師がシュカをおぶるのを手伝い、ひとまず危機が去ったことに安堵し、シュカが俺以外の男の背中で目を閉じる姿に嫉妬し、今日はバイトに遅刻してしまうなと落ち込んだ。心が忙しい。
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