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バイト先の珍客

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テスト返しばかりで授業がなかった今日はとても楽な一日だった。テストの結果も俺にしてはいい方だったし、セイカのことがなければバイト先に向かう足はスキップをしていただろう。

「お疲れ様でーす」

バックヤードに入っても誰も居ない。一人寂しく着替えて店に出た。

(パイセンは配達中ですし、レイどのはわたくしがテスト中にバイト辞めたそうですしさびしす……うーむ、本格的にレイどのとの関わりが減りつつありますぞ。インドア派のイジメられっ子気質かつ若干のヤンデレみを感じるレイどののことですから、セイカ様のこともう嫌いになっててもおかしくないですし……前みたいに家に来てくれるかどうか怪しいですよな)

ごちゃごちゃ考えながら本棚の整理をしていると声をかけられた。

「はい、何かお探しでしょうか」

営業スマイルを作って「すみません」と言ってきた青年の方を見る。

「歌見居る?」

「えっ……と」

歌見の知り合いだろうか? 歳は近そうだ。しかし相手が誰だかハッキリ分からない間は情報を明かしてはいけない決まりになっている。

「……何か規則ある感じ? これで何とかなる?」

青年は学生証を鞄から出して俺に見せた。そこに記している大学名は歌見が通っている大学のものだった。

「あの……先輩、配達中で」

「はぁ? 人呼び付けておいて何だよ……立ち読みしてていい?」

「えぇ……ぁー……はい」

ほとんどの本は立ち読みが出来ないようにラッピングされている。俺に話しかけてくる前から不機嫌だった彼に注意をするのも嫌だったので、適当な返事をしてさっさと離れた。



青年の様子を遠くから見たり、バイクの音が聞こえないかと耳を済ませたりして、十数分後、歌見がバックヤードから出てきた。

(全然バイクの音聞こえませんでしたな)

倉庫の整理に向かうようだ。俺は慌てて後を追った。

「歌見先輩っ」

「お、水月。どうした?」

「パイセンの知り合いっぽい人が来てますぞ。苗字はちょっと読めなかったんですけど、雨って人でそ」

 「あめ……? 知らないな」

「えー……ストーカーですかな」

「俺の? まさか」

着いてきてもらい、本棚の影から二人で青年を覗く。

「……あぁそっか、漢字は雨だったな。悪い悪い、俺が呼んだんだよ。おーい、待たせたみたいだな」

本棚の影から歌見が出ると青年は不機嫌そうに本を閉じ、歌見を睨み付けた。なかなかの美人だ、色気もある。それも童顔、普通にしていれば目付きは悪くないのだろう。

「おやおやおやおや先輩を呼び付けておいて随分なご挨拶だな、うーたぁーみぃ」

「先輩の先輩なんですか?」

「そんなとこだ。バイト終わるまで待っててくれ、ジュース奢るから」

十分少し待たされただけで酷く不機嫌になっていた青年が更に数時間待たされることを了承する訳もなく、舌打ちをした。

「……休憩、聞いてくる」

店長との交渉の結果、倉庫整理を終えたら休憩していいということになった。俺も手伝ってすぐに終わらせ、青年と共にバックヤードへ入った。

「ここ俺入っていいの?」

「まぁいいだろ」

「緩いな……まぁいいや、で、相談って?」

「水月、お前が話した方が伝わりやすいだろ」

ただボーッと着いてきただけだったので、突然名前を呼ばれ話を振られ、驚いてしまう。

「……昨日言っただろ? 弁護士の知り合いが居る知り合いが居るって、その人だよ。確か、弁護士事務所で働いてるんだったな」

「会計士見習いに法律の知識なんかないぞ」

「でも弁護士って相談だけでも金取るしめちゃくちゃ高いから、相談するかどうかの相談はしたいよな」

「俺お前のこと嫌い」

イライラしている様子の青年に相談するのは躊躇われたが、意を決して相談を始めると歌見への態度に反して温和な対応をしてくれた。

「……なるほど。彼氏が虐待されてて、思わず家から弟ごと連れ出して……誘拐にならないかビビってる、と」

「実際どうなんだ? 拉致に当たるのか?」

「言い訳次第でどうにでもなる、高校生なんか家出するものだからな」

リュウの想定は当たっていた、檻に入らずに済みそうなことに安堵して思わずため息をついた。

「まぁ、まず……裁くとしてだけど、虐待されたガキが親を庇うことがある、虐待の証拠がハッキリしないものばかり、懸念点は大きく見てこの二つ。ガキの意志と証拠がしっかりしなきゃ訴えても意味がねぇ」

「それなら……セイカは、俺のとこに来るって言ってくれてるし、セイカにも弟にも傷あるし証言すると思うので……何とか」

「立証出来たとしても引き離すのは難しいし、引き離すにしても預け先は親戚か施設。高校生の同性の恋人の家に……なんて無理だね。もちろん、お前の親に話さず解決なんてもっと不可能」

「……そんなハッキリ言わなくても」

「いえ、大丈夫です先輩。ハッキリ言ってもらえてよかった……やっぱり難しいですよね、俺達が一緒に居続けるのは……でも、セイカは、俺が居ないと……」

突然手足が片方ずつない親戚の子供を預けられて優しく接し続けられる人間がどれだけ居るだろう、セイカの親戚は信頼出来るのだろうか、施設の方がマシか? だが、どちらにせよ彼が俺を求めて啜り泣くことは想像に難くない。

「おやおや、裁判を起こしては望み通りにならないと分かっただけでそんなに落ち込んで。そう焦るなよ」

「……何か別の方法があるんですか?」

「交渉する。うちで預からせてくださいってな、簡単だろ? 交渉材料にも虐待の証拠は必要だけど」

「そんなの……」

「虐待をする親の多くは子供に執着する、けど、それがないレアケースなら引き離すのは比較的容易だ。成功条件はそのセイカとやらの母親がセイカへの関心が本当に薄まっているかどうか……あと、度の過ぎたバカかどうか。こんな穴だらけの脅迫、普通の人間なら反撃してくるからな」

難しいということは伝わった。セイカの人生はまさに茨の道のように辛いもののようだ、どうにか俺が彼を抱きかかえて茨のトゲから庇いながら歩いていく未来を掴めないだろうか。
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