冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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七夕の次の日の朝

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鳴り響くアラームに起こされ、音源に手を伸ばす。スマホを掴んでアラームを止め、身体を起こして欠伸をする。

「……おはようございます」

頭を掻きながらボーッとしていると声がして、シュカに見上げられていることに気付いた。

「ぁ……シュカ、おはよう」

「……メガネ、取ってきてくれません?」

「あぁ、ちょっと待っててくれ」

寝転がったままのシュカを置いてベッドを降り、勉強机の上に置いたメガネを取る。ギシ、とベッドが軋み、振り返れば起き上がったシュカが眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。

「……機嫌悪いのか?」

「この上なく上機嫌ですが」

メガネをかけていないシュカはレア物だ。彼にメガネを手渡すまでにたっぷりと観察し、目に焼き付けた。

「朝ご飯作ってくるよ、ダイニング来る時にエアコン消してくれるか? リモコンそこ置いてあるから。朝は何人前食べる? 三人前でいいか?」

「じゃあ三人分お願いします」

「まだ早いから寝てていいぞ、今日は朝ご飯いっぱい作るために早起きしてるんだ」

「問題ありません、私も普段このくらいの時間に起きてます」

立ち上がったシュカはエアコンの電源を切ると服を着て俺の隣に並んだ。俺が歩き出すとシュカも歩き出す。

「早起きなんだな」

「朝食とお弁当を作らなければなりませんので」

「あぁ、シュカはお弁当自分で作ってるんだったな。えらいえらい」

扉を開け、廊下に出る。

「……なんで、とか、聞かないんですか?」

「何がだ? 自分の飯自分で作るのは不自然じゃないぞ」

シュカは父親が昔に死んでいるらしいから、母親が食事を用意する暇がなくても不自然ではない。家事と仕事を完璧にこなしつつ息子と潤沢なコミニュケーションを取り恋人との時間も確保している俺の母が異常、いや、母は怪物なのだ。

「…………水月のそういうとこ好きです」

頭にクエスチョンマークを浮かべながらもありがとうと微笑んでキッチンとダイニングに繋がる扉を開けると、料理中の母と目が合った。

「おはよう水月、とー……シュカくん、だったわよね」

「……はい、おはようございます」

シュカは目を丸くして驚きながらも丁寧に挨拶をした。

「おはよう……母さんいつ帰ってたの?」

「ちょっと前。アンタ卵なくなったんならパック潰して捨てておきなさいよね。多めに買ってきておいてよかった。ねぇ、彼氏何人来てるの?」

「えーっと……十、一です。なので私入れて十二人分……あっ、シュカ三人前欲しいって」

「OK。他に多めに欲しい子は?」

「どうだろう……多分そんな厚かましい子は他に、痛っ!? な、なんで足踏んだんだよ今ぁっ!」

「私厚かましくないですよ!」

「厚かましいじゃん……痛っ、わ、分かったよ。厚かましくない厚かましくない、厚かましくありません!」

卵が焼ける匂いがする。今日も朝食に卵が食べられそうでよかった。

「……葉子さんは?」

「部屋で寝てる。昨晩ちょっとはしゃぎすぎちゃったかしら。家もいいけどホテルってやっぱり盛り上がれるのよね、アンタも……アンタまだラブホ入れないんだっけ? 私がアンタくらいの時には入ってたけど」

「…………彼氏達起こしてきます」

「あら、下ネタ乗らないなんて珍しい……シュカくんの前だからってカッコつけてるのかしら」

義母を巻き込んだ下ネタにはあまり乗りたくないだけだ。と心の中で返事をしつつアキの部屋へ。全員を起こし、朝の準備をさせ、ダイニングへ向かうよう伝えた。

「あー……セイカ、ごめんな、セイカはちょっとここで待っててくれるか? 母さんにセイカのことまだ話してないからさ……本当にごめん」

「なんで言ってないの~?」

「…………色々、あって。ごめん……これは話せない。みんなもセイカの話題は母さんの前で出さないでおいてくれるか?」

ポツポツと肯定の返事が上がる。物分かりのいい彼氏達で助かった──

「納得出来んな」

──助かってなかった。

「この数の恋人が居ることは話せて、何故狭雲だけは隠す。狭雲弟は構わないのに、何故彼だけをここに置いていく。もし狭雲の身体に関わる理由であるのならば自分は……」

「虐めてたからだよっ!」

劈くような耳障りな声が部屋中に響いた。

「虐めてたんだ……中学の頃ずっと! 鳴雷をっ……虐めてた。泣いて痛がってるのに殴ったり蹴ったり、物盗ったり、壊したり……もっと酷いこと、聞いただけで食欲失くすようなこともたくさんやった。それバレて、訴えられて……こないだ飛び降りて鳴雷の肋骨折った件でもきっちり払ってるから、俺の顔も名前も知ってるんだよ鳴雷の母親はっ……! だからダメなんだろ鳴雷」

「…………ごめん。母さんが、セイカと付き合ってるの認めてくれるって、俺……どうしても思えなくて」

セイカの乾いた笑い声が部屋に響く。

「お前もそういうことあるんだなぁ……無条件に信頼し合って愛し合うもんなんだろ親子ってのはさぁ、そう教えてくれたじゃねぇかお前。子供が愛されるのに必要なのは成績でも媚びでもなくて、運だって、俺は運が悪かったってさ」

「…………人虐めるような性格してるからでしょ。何ひねてんの」

「……っ、ハル! なんてこと言うんだよ、セイカは優しくて健気ないい子だ」

「そんな子イジメやったりしない! みっつん……みっつん何されたの? ねぇっ、何……健気なのはみっつんじゃんっ! 虐められたくせにこんなに尽くして! なのにコイツまだ嫌味言って!」

これ以上ハルに喋らせたらセイカの心の傷を抉ることになる。俺は咄嗟にハルを強く抱き締めて胸で口を塞いだ。黙ってくれたことに安堵する暇もなく、ハルがこういった行為に恐怖を感じることを思い出した。

(やっべ……)

すぐに離すべきか迷う俺の腕にハルの震えが伝わってくる。

「…………原因と結果が逆転しとる。ハルはそんなんやから数学カスみたいな点取んねん、論理的思考っちゅうもんが出来んヒス野郎やからのぉ」

「……っ、はぁ!? 今なんつったこの山猿野郎!」

ハルの気がリュウに向いた。腕をどかすとハルはリュウの方に向かっていった、何とかなった。リュウの突然の悪口はまさかこのために? 考え過ぎか? 

「……水月くん、今僕達はとても混乱しているよ。君と彼との過去にね。みんな多少なりとも狭雲くんに嫌悪感を抱いただろう、けれど、聞いただけの過去よりも体験した狭雲くんとの時間を信じたい。今は……詳しいことが何も分かっていない今は、狭雲くんを……心配している」

ネザメに言われてセイカの方を向くと、彼は蹲ってぶつぶつと何かを呟いていた。あまりちゃんと聞きたくない、産まれたことを後悔するような、自分が如何に死ぬべき存在かを証明しようとするような、そんな言葉が断片的に聞こえてきた。

「…………セイカ」

セイカはまだ眠いみたいだとか、そんな適当なことを言えばよかったのだろうか。騒ぎが起きる前から二度寝を始めていたアキの穏やかな寝顔を見て、酷く憂鬱な気分になった。
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