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たくさんの誕生日プレゼント

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シュカによって歌見の前へ押し出されたレイはチケットのような形と大きさに整えたノートの切れ端を歌見に渡した。そこには俺への誕生日プレゼント時と同様「なんでも好きなモノ描いてあげましょう券」と書いてある。

「あれ、このめんまたそれ~?」

「……マジか、本当になんでもいいのか」

「はいっす。そういえばせんぱいまだ頼んでくれてないっすよね、忘れてないっすか?」

「ラストエリクサー病がなかなか治らなくてな」

原作者の絵が一番好きでアニメ絵のグッズにすらそこまで興味が湧かないタイプの推しや、色んな人が描いていてどんな絵柄でもいいタイプの推し、好きなキャラというものは大抵この二つに分けられる。その上──

「俺絵柄真似るのも結構得意なんすよ、塗りとかも。だから、このキャラをこの人の絵で……とかも一応受け付けるっす、ちょっと癪っすけど」

──こんなこと言ってくるから余計困る。レイの絵が欲しいと言いたいところだが、それはそれでレイの絵柄で見たい推しを考えなければならなくて……一ヶ月経っても決まらないのだ。

「おぉ……サ、サイズは? 色付きか? メカとかもいいのか?」

「なんでも、っすよ。まぁA1サイズの集合絵とか言ってきたらイラッとはするっすけど」

断りはしないのか?

「そこまで厚かましいことは言わない。えぇと、そうだな……うーん…………すまない、一度持ち帰らせてくれ」

「いいっすよ、せんぱいもそうしてるっすし。じゃあ次……えっと、紅葉さんすね」

「お誕生日おめでとうございます、歌見さん」

ネザメからのプレゼントは高級そうな箱に入っている。歌見は見て分かるほどに緊張しながらゆっくりとそれを開けた。

「これは……! と、時計か?」

「歌見さんは今日で二十歳と聞きました、大人の男には腕時計が必要です。どうぞお使いください」

「……ありがとう、使わせてもらうよ」

笑顔で礼を言った歌見はネザメが引くとスマホを取り出し、こっそりと画像検索を行った。目を見開いて青ざめたのを見るに、相当高価だったのだろう。

「では次は自分だな」

歌見は小さな声で「もう怖い」と呟きつつ引き攣った笑みを浮かべてミフユの方を向いた。

「お誕生日おめでとうございます、歌見殿。お納めください」

「ありがとう、開けさせてもらうぞ」

リボンが結ばれた平たい箱は既に高級感を演出している。歌見が震える手でリボンを解いて蓋を開けると黒い手袋が現れた。

「手袋……?」

「歌見殿は仕事でバイクに乗ると聞きました、どうぞお使いください」

「ライダースなのか、ありがたい。おぉ……! カッコイイ。はめ心地もいい、最高だ、ありがとうな年積」

黒い革製の洒落た手袋を片方だけはめて歌見ははしゃいでいる。ぐっぱっと閉じたり開いたりを繰り返す拳を見ていると変な気分になってきた。

「……これ着けたままえっちなことしたら盛り上がりそうですね」

「鳴雷一年生!」

「じょ、冗談ですよぉ」

後はセイカとアキだな。セイカには事前に伝えられなかったし、プレゼントを用意するタイミングもない。アキには事前に教えておいたがちゃんと用意しただろうか?

「ぅ、歌見……」

アキに確認に行こうとすると、いつの間にか立ち上がっていたセイカがそろそろと歌見の前にやってきた。

「その、俺……誕生日って今日聞いて……渡せるもの何もなくて、あの……ごめんなさい」

「あぁ、いいんだ別に。気にするな。初めて話したようなもんなんだし」

「本当にごめんなさい……」

苦笑いを浮かべた歌見は俺に視線を送る。ハルやリュウにも押し出され、俺は泣いているセイカを抱き締めてソファへと無理矢理移動させた。

「お、俺っ、何も知らなっ……言っとけよぉっ、ばか……ぁ、ごめ、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃ……」

「……よしよし」

何を言えばいいのか分からず、ただセイカの頭を撫でる。心の不調などに俺よりは詳しいネザメに助けてもらおうと視線を送るも、彼はプレゼントを持ってきたアキを視姦するのに忙しそうだ。

「アキくんもくれるのか? ありがとう、結構デカい箱だな……重っ! な、何が入ってるんだ? なんか書いてるけど……何語だこれ、読めないな」

あんな物いつ買ったんだろうと思いつつも歌見が箱を開ける様子を眺める。

「……これは?」

箱の中から取り出されたのは装飾が施されたガラス製のボトルだ。中の液体は品のある紅茶のような色をしている。

《日本で出来たマブダチが成人の誕生日だっつったら親父が送ってくれたんだ、酒で人生かなり損してるくせにまだ飲んでるらしいぜあのクソ親父。まぁそんな酒バカのオススメなら割と信用あるんじゃねぇかな》

「……み、水月ー? 狭雲大丈夫そうか? 来て欲しいんだが」

翻訳機代わりに使うのは申し訳ないのだが、セイカは頼られると嬉しいようだし機嫌を直してくれるかもしれない。

「セ、セイカ! その……アキが何言ってるか分からないんだけど、通訳頼めないか?」

「……! 俺……いる? 必要?」

「いるいる、すごく必要、頼めるか?」

セイカは大きく頷くと涙を拭って立ち上がり、ふらふらとアキの隣へ歩んだ。それから十数秒俺達には全く聞き取れない会話が続き、終わるとセイカは困ったような顔をしながらも歌見を見つめた。

「それ……コニャック? って言うものらしい。電話? で、お父さんと話してて……友達が成人の誕生日だって言ったら、これ送ってくれたって。お父さんお酒好きだから味は保証する……的なこと言ってる」

「なるほど酒か! せっかく二十歳になったことだし飲みたいと思ってたんだ、ちょうどいい、ありがとうなアキくん」

「ロシアはお酒が有名だものね、地酒というやつかな?」

「ネザメ様、コニャックはフランス産のブランデーです。白ワインを蒸留、熟成したものです」

「おや……そうかい。白ワインの方が飲みやすいと聞くから、秋風くんのお父様は歌見さんが初心者だということも考慮してくれたのかもしれないね」

俺の知識が間違っていなければブランデーはアルコール度数が四十を超えるはずだ、初心者向けとはとても思えない。まぁ、水割りとかにすればいいのかな? よく知らないけど。

《……お前親父さんと仲悪いんじゃなかったのか?》

《俺は親父のことあわよくば殺してぇとは思ってるけど、親父は俺のこと好きだから別に仲悪くはねぇぞ。ビデオ通話は義務みてぇなもんだし》

《殺したいってお前》

《基本どうでもいいんだけど、チャンスがあれば逃したくねぇ。たとえるなら……ブリーダーとか探す気はないけど捨て猫見つけたら絶対飼うって決めてる、みたいな感じだな》

《分かりにくい……》

アキとセイカがまだ何か話しているようだが、セイカはずっと眉をひそめている。何を話しているんだろう。

「ケーキもあるんですよ歌見先輩、ノンアルのシャンパンも買ってるんですけど……先輩はそっち飲みます?」

「ケーキまであるのか? あぁもう本当にめちゃくちゃ嬉しい……ぁ、いや、俺にもそのシャンパンくれ、今日は酔わずに全部覚えて帰りたい」

酔って記憶を失うタイプかどうかもまだ分かっていないのにと笑いつつ、ケーキの準備をしにキッチンへ向かった。
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