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7は素数やから兄さんの誕生日はええ日や
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歌見は驚くと硬直してしまうようだ。まるでモルモットのような愛らしい反応を笑いつつ、包装紙とリボンで包んだ同人誌を歌見に持たせた。
「誕生日プレゼントです」
「…………あ、ありがとう。いや、悪い……びっくりして、そうか、今日誕生日だったか、はは……ありがとう、ぁ、すごい、嬉しさが後から来る、追いついてない……びっくりした」
クラッカーはやめておいた方がよかったかな?
「改めて、せーの……歌見先輩、お誕生日おめでとうございます!」
彼氏達と声を合わせたつもりだったが、結局みんなバラバラになってしまった。
「……めちゃくちゃ嬉しい。多分、今までで一番だ。ありがとうな、お前らに出会えてよかったよ」
「みんなプレゼント用意してきたんですよ。俺のは後で開けて欲しいので……」
「………………薄い本か。分かった、家でゆっくり楽しませてもらう」
俺はまだ十八禁の本は手に入れられない。当然この同人誌も全年齢対象だ、歌見はそれを分かっているのだろうか。ティッシュを用意してから開封して一人で勝手に恥ずかしくなっている歌見を想像すると萌えるから、勘違いしているといいな。
「みっつんの今開けないの? じゃあ二番手もう行っちゃいま~す、ナナさんお誕生日おめでと~!」
「ありがとう、開けていいか?」
「どーぞどーぞ」
歌見は包装紙を丁寧に開けようとして破り、少し落ち込みながら中身を取り出した。
「これは……! ネックレスか?」
「ドックタグ! カッコイイっしょ、ナナさん似合うと思うんだよね~」
「霞染が言うなら間違いないな」
そう言いながら歌見は首にドックタグを下げた。確かに見た目からして男らしい彼にはああいう無骨な装飾品が似合う。
《…………認識票?》
「誕生日って……嘘だろおい、聞いてないぞ、俺何も……秋風? Что случилось?」
《……いや? 何でも。俺もプレゼント取ってくる》
次にプレゼントを渡すのはリュウだ。
「お誕生日おめでとうございますー、歌見の兄さん」
「ありがとう。これは……お守りか?」
「前に事故った聞きましたんで、交通安全のん選ばしてもらいました」
「ちょっと擦っただけだけどな。ありがとう、鞄にでも付けとくよ」
リュウから俺へのプレゼントは根付だったな、今回のお守りも実家から送ってもらったりしたのだろうか。
「時雨さん、先どうぞ」
「ぇ、あっ……ありがとう。ぁ、の……あのっ、ぅた、さん……」
「そう緊張するな、あまり話はしてこなかったがお前のことは可愛く思ってるぞ」
「こ、れっ……ど、ぞ」
カンナは筒状に丸めた紙とリボンを巻いたタオルを歌見に差し出した。
「これ二つともか? お、このタオル……前にバズってたヤツだな、ちょっと欲しかったんだよ。ありがとう」
「あ~! 俺それ持ってる~! 色違うけど。超いいよ~、ず~っとふわふわのままでさぁ、すごいの~」
白い無地のタオルは俺の目には変わった物には映らないが、反応を見るに良質な品らしい。
「ありがとうな。これは何だ? ポスター?」
「ぇ、と……ぅた、さん……好き、て、言ってた、えーが……の、らしい……」
筒状に丸めた紙を歌見が広げると、何年か前に公開されたアニメ映画のポスターであることがわかった。映画館などに飾られるアレだ、こうして見るとかなり大きい。
「おぉ……! ありがとう、めちゃくちゃ嬉しいよ。でもこれ非売品じゃ……」
歌見が入手経緯を聞こうとした瞬間、ハルが俺の鼓膜を破る気なのかと叱りたくなるくらいに大きく甲高い声を上げた。
「……っ、キャアァアアアーッ!? カミア、カミアじゃん! カミアのサインっ!」
ポスターの裏、本来真っ白なそこには油性ペンと思われる黒い線が文字のようなものを作っていた。どう読めばいいのか分からないが、カミアのサインらしい。サインの脇には「歌見さんへ」と小さく書かれている。
「えっ? うわホントだ」
「カミア、が……主題歌、したのの、ポスター……じ、しょに、あったって」
「へぇー……状態がいいな、しかもサインまで……貼ったら見えないけど」
「ぼく、も……そ、言った……けど、カミア……絵、ちゃ、と、見え……方が、いい、て。うた、さん……カミア、より、えーが、好きだから……て」
「まぁ確かに今のところ映画の方が好きだが……」
歌見はそれ以上言わなかったが、たとえ知らない者だろうと有名人なら目立つところにサインが欲しいというミーハー的な思いがあったのだろう。俺もそう思うから分かる。
だが、好きなアニメ映画のポスターは無傷のまま飾っておきたいというオタク心理も分かる。贅沢を言えばサインは別で欲しかったと思っているのだろう。俺もそう思うから分かる。
「いいないいないいなぁ~! ず~る~いぃ~!」
「歌見先輩は今日誕生日なんだぞ、羨ましがるな」
「だぁってぇ~……ぅ~……」
「はは……時雨、霞染にも何か頼んでやれないか?」
「あっ、なんかそれは違う。やめてやめて。カミアがプレゼントにってくれるのはギリいいけど知り合いだからってねだったらなんか終わる気がする」
分かる気がする。
「何が終わるんだ……まぁ、お前も誕生日になったら何かくれるんじゃないか?」
「……俺誕生日一月。遠いよ~……」
誕生日に似合わないムスッとした顔のハルを後ろへ下がらせ、暇そうな顔をしていたシュカを呼んだ。
「どうぞ、歌見」
「お前なんで俺だけ呼び捨て…………ありがとう、服か? 開けるぞ」
歌見がガサガサと音を立てて包装紙を剥がすと白いシャツが出てきた、それを広げるとゴシック体で書かれた四文字熟語が現れた。
「……質実剛健」
「二十分迷いました、歌見にぴったりな言葉です」
「そう、か……? ピアス開けてるんだぞ俺」
ほとんど無表情のまま両手でピースサインをしたシュカには奇妙な愛嬌と不気味さがある。
「まぁ、ありがとう。これからの季節にぴったりな服だな。確か水月の時は……」
「古今無双でしたね、アレは会心の服選びでした」
フン、とドヤ顔を決めるシュカはとても愛らしい。毛筆の書体ではなくゴシック体で書かれた四文字熟語を選ぶところに彼のセンスが溢れている。
「次は木芽さんですか? どうぞ」
四文字熟語ゴシック体シャツのショックから歌見がまだ戻らない中、シュカは後ろに並んでいたレイを前に出した。
「誕生日プレゼントです」
「…………あ、ありがとう。いや、悪い……びっくりして、そうか、今日誕生日だったか、はは……ありがとう、ぁ、すごい、嬉しさが後から来る、追いついてない……びっくりした」
クラッカーはやめておいた方がよかったかな?
「改めて、せーの……歌見先輩、お誕生日おめでとうございます!」
彼氏達と声を合わせたつもりだったが、結局みんなバラバラになってしまった。
「……めちゃくちゃ嬉しい。多分、今までで一番だ。ありがとうな、お前らに出会えてよかったよ」
「みんなプレゼント用意してきたんですよ。俺のは後で開けて欲しいので……」
「………………薄い本か。分かった、家でゆっくり楽しませてもらう」
俺はまだ十八禁の本は手に入れられない。当然この同人誌も全年齢対象だ、歌見はそれを分かっているのだろうか。ティッシュを用意してから開封して一人で勝手に恥ずかしくなっている歌見を想像すると萌えるから、勘違いしているといいな。
「みっつんの今開けないの? じゃあ二番手もう行っちゃいま~す、ナナさんお誕生日おめでと~!」
「ありがとう、開けていいか?」
「どーぞどーぞ」
歌見は包装紙を丁寧に開けようとして破り、少し落ち込みながら中身を取り出した。
「これは……! ネックレスか?」
「ドックタグ! カッコイイっしょ、ナナさん似合うと思うんだよね~」
「霞染が言うなら間違いないな」
そう言いながら歌見は首にドックタグを下げた。確かに見た目からして男らしい彼にはああいう無骨な装飾品が似合う。
《…………認識票?》
「誕生日って……嘘だろおい、聞いてないぞ、俺何も……秋風? Что случилось?」
《……いや? 何でも。俺もプレゼント取ってくる》
次にプレゼントを渡すのはリュウだ。
「お誕生日おめでとうございますー、歌見の兄さん」
「ありがとう。これは……お守りか?」
「前に事故った聞きましたんで、交通安全のん選ばしてもらいました」
「ちょっと擦っただけだけどな。ありがとう、鞄にでも付けとくよ」
リュウから俺へのプレゼントは根付だったな、今回のお守りも実家から送ってもらったりしたのだろうか。
「時雨さん、先どうぞ」
「ぇ、あっ……ありがとう。ぁ、の……あのっ、ぅた、さん……」
「そう緊張するな、あまり話はしてこなかったがお前のことは可愛く思ってるぞ」
「こ、れっ……ど、ぞ」
カンナは筒状に丸めた紙とリボンを巻いたタオルを歌見に差し出した。
「これ二つともか? お、このタオル……前にバズってたヤツだな、ちょっと欲しかったんだよ。ありがとう」
「あ~! 俺それ持ってる~! 色違うけど。超いいよ~、ず~っとふわふわのままでさぁ、すごいの~」
白い無地のタオルは俺の目には変わった物には映らないが、反応を見るに良質な品らしい。
「ありがとうな。これは何だ? ポスター?」
「ぇ、と……ぅた、さん……好き、て、言ってた、えーが……の、らしい……」
筒状に丸めた紙を歌見が広げると、何年か前に公開されたアニメ映画のポスターであることがわかった。映画館などに飾られるアレだ、こうして見るとかなり大きい。
「おぉ……! ありがとう、めちゃくちゃ嬉しいよ。でもこれ非売品じゃ……」
歌見が入手経緯を聞こうとした瞬間、ハルが俺の鼓膜を破る気なのかと叱りたくなるくらいに大きく甲高い声を上げた。
「……っ、キャアァアアアーッ!? カミア、カミアじゃん! カミアのサインっ!」
ポスターの裏、本来真っ白なそこには油性ペンと思われる黒い線が文字のようなものを作っていた。どう読めばいいのか分からないが、カミアのサインらしい。サインの脇には「歌見さんへ」と小さく書かれている。
「えっ? うわホントだ」
「カミア、が……主題歌、したのの、ポスター……じ、しょに、あったって」
「へぇー……状態がいいな、しかもサインまで……貼ったら見えないけど」
「ぼく、も……そ、言った……けど、カミア……絵、ちゃ、と、見え……方が、いい、て。うた、さん……カミア、より、えーが、好きだから……て」
「まぁ確かに今のところ映画の方が好きだが……」
歌見はそれ以上言わなかったが、たとえ知らない者だろうと有名人なら目立つところにサインが欲しいというミーハー的な思いがあったのだろう。俺もそう思うから分かる。
だが、好きなアニメ映画のポスターは無傷のまま飾っておきたいというオタク心理も分かる。贅沢を言えばサインは別で欲しかったと思っているのだろう。俺もそう思うから分かる。
「いいないいないいなぁ~! ず~る~いぃ~!」
「歌見先輩は今日誕生日なんだぞ、羨ましがるな」
「だぁってぇ~……ぅ~……」
「はは……時雨、霞染にも何か頼んでやれないか?」
「あっ、なんかそれは違う。やめてやめて。カミアがプレゼントにってくれるのはギリいいけど知り合いだからってねだったらなんか終わる気がする」
分かる気がする。
「何が終わるんだ……まぁ、お前も誕生日になったら何かくれるんじゃないか?」
「……俺誕生日一月。遠いよ~……」
誕生日に似合わないムスッとした顔のハルを後ろへ下がらせ、暇そうな顔をしていたシュカを呼んだ。
「どうぞ、歌見」
「お前なんで俺だけ呼び捨て…………ありがとう、服か? 開けるぞ」
歌見がガサガサと音を立てて包装紙を剥がすと白いシャツが出てきた、それを広げるとゴシック体で書かれた四文字熟語が現れた。
「……質実剛健」
「二十分迷いました、歌見にぴったりな言葉です」
「そう、か……? ピアス開けてるんだぞ俺」
ほとんど無表情のまま両手でピースサインをしたシュカには奇妙な愛嬌と不気味さがある。
「まぁ、ありがとう。これからの季節にぴったりな服だな。確か水月の時は……」
「古今無双でしたね、アレは会心の服選びでした」
フン、とドヤ顔を決めるシュカはとても愛らしい。毛筆の書体ではなくゴシック体で書かれた四文字熟語を選ぶところに彼のセンスが溢れている。
「次は木芽さんですか? どうぞ」
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