581 / 1,971
七夕を兼ねた誕生日
しおりを挟む
膝の少し上から切断され、太腿しかない左足に義足を取り付ける。かぽん、と大したことなさげにハマった血の通っていない足で立ち上がったセイカはすぐによろけた。
「っと」
支えてやると彼は気恥ずかしそうに俯いた後、恐る恐る顔を上げて「ありがとう」と呟いた。可愛い。
「晩ご飯はちらし寿司とお刺身だぞ、セイカ生魚はイケる口か?」
「さぁ……」
「給食で生のお魚は出ませんからね。ちらし寿司は給食で食べた覚えがあります、塩梅のいい酸っぱさでした」
「俺食ったことないぞ、新メニューか?」
狭雲兄弟の会話を聞いて彼らが俺の想像するような食生活を送ってこなかったことを思い出し、内省した。
(逆に何なら食べてるんでそ……給食で出なさそうなヤツは全滅と考えてよろしいか?)
好きな物も嫌いな物も分からないんじゃこれから先献立を考えるのも大変だな、というところまで考えてから明日以降同居出来るか分からないのだと思い出して落ち込んだ。
「鳴雷一年生、支度を手伝うぞ。酢飯は力仕事だろう、鳥待一年生にでも手伝わせるか」
「ありがとうございます。酢飯は作って置いてるので大丈夫ですよ」
「む、そうか。準備がいいな、偉いぞ。では取り分けるだけか?」
「卵も作ってるし……あ、魚は短冊のままなので切らないとです」
人数分の皿を用意しながら数時間前の行動を思い返し、やらなければならないことを炙り出していく。
「では刺身は自分が作ろう、貴様はちらし寿司の取り分けだ」
「え、でも……」
「自分の方が包丁の扱いに長けている。任せろ」
「……じゃあ甘えちゃいます。お願いしますね、ミフユさん」
ミフユは背が低いから失念してしまいがちだが、俺の方が歳下なのだから甘えたり頼ったりすればミフユは喜んでくれるかもしれない。さぁ、どうだ?
「うむ! 任せておけ!」
喜んでいるみたいだ、背が低いから歳下にまで歳下扱いされてきた悲しい過去があったりするのだろう。
れんこんにニンジン、しいたけが混ざった酢飯を均等に皿に盛り、錦糸卵をかけていく。七夕だからと星型に切ったニンジンと薄焼き卵を皿の縁に並べ、綺麗に出来たなと一人頷いた。
《おぉ……和食は見た目も綺麗だな》
《ロシアの料理は見た目にこだわってないのか?》
《ババア料理クッソ下手だったから俺ろくなロシア料理食ってねぇと思うしアンタらが想像するロシア料理結構な割合でウクライナ発祥だぜ、ウィキ曰く》
《……前半スラング多過ぎてよく分かんなかった。後半は……そんなこと言ったら日本だって天ぷらはポルトガルだしカレーはインドだしラーメンは中国だぞ。つーか自分の国の情報をネットに頼るな》
《スェカーチカがロシアのこといっぱい聞いてくるから調べてんじゃん……俺外界と関わってこなかったから文化も特産品も分かんねぇのに》
《俺のため? そっか……ごめん》
《クソチョロ》
《……? もう少し簡単な言い方してくれ》
セイカとアキがぼそぼそ話し合っている。七夕やちらし寿司について説明してくれているのだろうか。
「みんな、そろそろ座ってくれ。刺身来たぞ」
ミフユが切って綺麗に盛り付けてくれた刺身の大皿が机の真ん中に運ばれてきた。マグロ、サーモン、ハマチ、タコ、イカ、貝柱、イクラ、などなど有名どころばかりだ。
「刺身は一人四切れずつ、イクラは……んー、スプーン二すくい。嫌いなのとか苦手なのがあったら隣近所と交換すること。一方的にあげたりするのは原則ナシな」
「イクラ一粒やるから刺身三切れずつ寄越せ、とかは?」
「もちろんカツアゲはダメだぞ~」
注意事項を説明し終える頃には全員に箸と飲み物が行き渡ったので、アキ以外の者はみんな「いただきます」と言って食べ始めた。
「卵星型に切られとるやん」
「一人一つずつだけどな、構想段階だと卵は全部星型だったんだけど、やっぱり面倒臭くて」
「俺イクラ無理なんすよね……他のならどれでもいいんで誰か交換してくれないっすか?」
「ではハマチかタコのどちらかと」
《これ何? 魚卵? これも生? うぉぉ……凝縮された鮭》
みんな美味しそうに食べてくれているし、会話も盛んだ。ちらし寿司にして正解だったな。
「酢の具合が優しくて美味い、この間自分で作ったら上手く粉を混ぜられなくてただの米と噎せる米の混合物になったんだ……」
「お酢って粉なのかい?」
「お酢は液体だけどすし粉は粉だぞ」
「すしこ……? あ、そうだ歌見さん。しいたけとれんこんを交換しないかい?」
「ほじくり返すのか? いや、遠慮しておく。面倒だし……お付きの者が恐ろしいんでな」
「…………ネザメ様! 全く嘆かわしい!」
酢飯に混ぜ込んだしいたけをほじり出して皿の端に並べていたネザメはミフユにたっぷり叱られた。
「水月、おかわりあります?」
「あるある。おひつ向こうに置いてあるから入れてきな。あ、卵はないな……すぐ焼くからちょっと待っててくれ」
箸を置いてキッチンに向かい、冷蔵庫から卵を取り出す。
「…………私ご飯だけでいいですよ」
「遠慮するなよ、らしくない。もう割っちゃったし」
「らしくないってあなたねぇ」
シュカはため息をついて話すのをやめ、飯櫃にしゃもじを突っ込んで軽くかき混ぜてから皿に盛った。
「……今日みんなにはアキの部屋で寝てもらおうと思ってるんだ、だからさ、俺の部屋で……しよう。二人きりでたくさん。ヤり疲れて寝て、起きたらすぐ学校、楽しそうだろ?」
「ええ、期待していますよ、水月」
その時までは数時間ある、今は意識したくないのかシュカは俺のボディタッチを拒絶して上品に微笑んだ。
「っと」
支えてやると彼は気恥ずかしそうに俯いた後、恐る恐る顔を上げて「ありがとう」と呟いた。可愛い。
「晩ご飯はちらし寿司とお刺身だぞ、セイカ生魚はイケる口か?」
「さぁ……」
「給食で生のお魚は出ませんからね。ちらし寿司は給食で食べた覚えがあります、塩梅のいい酸っぱさでした」
「俺食ったことないぞ、新メニューか?」
狭雲兄弟の会話を聞いて彼らが俺の想像するような食生活を送ってこなかったことを思い出し、内省した。
(逆に何なら食べてるんでそ……給食で出なさそうなヤツは全滅と考えてよろしいか?)
好きな物も嫌いな物も分からないんじゃこれから先献立を考えるのも大変だな、というところまで考えてから明日以降同居出来るか分からないのだと思い出して落ち込んだ。
「鳴雷一年生、支度を手伝うぞ。酢飯は力仕事だろう、鳥待一年生にでも手伝わせるか」
「ありがとうございます。酢飯は作って置いてるので大丈夫ですよ」
「む、そうか。準備がいいな、偉いぞ。では取り分けるだけか?」
「卵も作ってるし……あ、魚は短冊のままなので切らないとです」
人数分の皿を用意しながら数時間前の行動を思い返し、やらなければならないことを炙り出していく。
「では刺身は自分が作ろう、貴様はちらし寿司の取り分けだ」
「え、でも……」
「自分の方が包丁の扱いに長けている。任せろ」
「……じゃあ甘えちゃいます。お願いしますね、ミフユさん」
ミフユは背が低いから失念してしまいがちだが、俺の方が歳下なのだから甘えたり頼ったりすればミフユは喜んでくれるかもしれない。さぁ、どうだ?
「うむ! 任せておけ!」
喜んでいるみたいだ、背が低いから歳下にまで歳下扱いされてきた悲しい過去があったりするのだろう。
れんこんにニンジン、しいたけが混ざった酢飯を均等に皿に盛り、錦糸卵をかけていく。七夕だからと星型に切ったニンジンと薄焼き卵を皿の縁に並べ、綺麗に出来たなと一人頷いた。
《おぉ……和食は見た目も綺麗だな》
《ロシアの料理は見た目にこだわってないのか?》
《ババア料理クッソ下手だったから俺ろくなロシア料理食ってねぇと思うしアンタらが想像するロシア料理結構な割合でウクライナ発祥だぜ、ウィキ曰く》
《……前半スラング多過ぎてよく分かんなかった。後半は……そんなこと言ったら日本だって天ぷらはポルトガルだしカレーはインドだしラーメンは中国だぞ。つーか自分の国の情報をネットに頼るな》
《スェカーチカがロシアのこといっぱい聞いてくるから調べてんじゃん……俺外界と関わってこなかったから文化も特産品も分かんねぇのに》
《俺のため? そっか……ごめん》
《クソチョロ》
《……? もう少し簡単な言い方してくれ》
セイカとアキがぼそぼそ話し合っている。七夕やちらし寿司について説明してくれているのだろうか。
「みんな、そろそろ座ってくれ。刺身来たぞ」
ミフユが切って綺麗に盛り付けてくれた刺身の大皿が机の真ん中に運ばれてきた。マグロ、サーモン、ハマチ、タコ、イカ、貝柱、イクラ、などなど有名どころばかりだ。
「刺身は一人四切れずつ、イクラは……んー、スプーン二すくい。嫌いなのとか苦手なのがあったら隣近所と交換すること。一方的にあげたりするのは原則ナシな」
「イクラ一粒やるから刺身三切れずつ寄越せ、とかは?」
「もちろんカツアゲはダメだぞ~」
注意事項を説明し終える頃には全員に箸と飲み物が行き渡ったので、アキ以外の者はみんな「いただきます」と言って食べ始めた。
「卵星型に切られとるやん」
「一人一つずつだけどな、構想段階だと卵は全部星型だったんだけど、やっぱり面倒臭くて」
「俺イクラ無理なんすよね……他のならどれでもいいんで誰か交換してくれないっすか?」
「ではハマチかタコのどちらかと」
《これ何? 魚卵? これも生? うぉぉ……凝縮された鮭》
みんな美味しそうに食べてくれているし、会話も盛んだ。ちらし寿司にして正解だったな。
「酢の具合が優しくて美味い、この間自分で作ったら上手く粉を混ぜられなくてただの米と噎せる米の混合物になったんだ……」
「お酢って粉なのかい?」
「お酢は液体だけどすし粉は粉だぞ」
「すしこ……? あ、そうだ歌見さん。しいたけとれんこんを交換しないかい?」
「ほじくり返すのか? いや、遠慮しておく。面倒だし……お付きの者が恐ろしいんでな」
「…………ネザメ様! 全く嘆かわしい!」
酢飯に混ぜ込んだしいたけをほじり出して皿の端に並べていたネザメはミフユにたっぷり叱られた。
「水月、おかわりあります?」
「あるある。おひつ向こうに置いてあるから入れてきな。あ、卵はないな……すぐ焼くからちょっと待っててくれ」
箸を置いてキッチンに向かい、冷蔵庫から卵を取り出す。
「…………私ご飯だけでいいですよ」
「遠慮するなよ、らしくない。もう割っちゃったし」
「らしくないってあなたねぇ」
シュカはため息をついて話すのをやめ、飯櫃にしゃもじを突っ込んで軽くかき混ぜてから皿に盛った。
「……今日みんなにはアキの部屋で寝てもらおうと思ってるんだ、だからさ、俺の部屋で……しよう。二人きりでたくさん。ヤり疲れて寝て、起きたらすぐ学校、楽しそうだろ?」
「ええ、期待していますよ、水月」
その時までは数時間ある、今は意識したくないのかシュカは俺のボディタッチを拒絶して上品に微笑んだ。
0
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる