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沖縄土産

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先程までホットプレートが置かれていたテーブルの上に今、ネザメ達の沖縄土産が入った紙袋等が置かれている。

「海がとても美しいところだったよ」

ネザメは思い出話をしながら土産をより分けている。

「え~、いいなぁ~。沖縄やっぱ暑かった~?」

「そうだねぇ、でも湿度は低かったのか不快な暑さではなかったよ。あ、そうそう、ガマの中は不思議と涼しくてね……僕はあの中はとても落ち着いたんだけれど、過呼吸になったり倒れたクラスメイトも居てね。洞窟が苦手だったんだろうけど」

「へ~」

「……資料館にも行ったんだけれど、僕はあっちの方が苦手だったな。直視出来ないような写真があって、でも目を背けてはいけないものだし……胸が痛かったね」

「へ~……」

「君達も来年行くんだから、あまり聞いたら楽しみが減ってしまうかな? はい、霞染くんのはこれだよ」

一番近くでネザメの話を聞いていたハルに紙袋が渡された。

「ザメさんありがと~! 開けていーい?」

「もちろん」

「やった~! 何かな~? わ、可愛~い!」

中身は小さなバッグのようだ。南国風の派手な模様が可愛らしいが、スマホくらいしか入らなそうなサイズも相俟って使い所に困りそうだな。

「ちょうどいいサイズだしぃ、普段使い神~! マジでありがとザメさんっ、センス最高!」

「君のようにオシャレな子にお褒めの言葉を頂けるとは光栄だね」

「……ネザメ様、あのバッグを選んだのは自分です」

俺の考えに反してハルはバッグのサイズも気に入ったようだ。何入れるんだろ……小銭?

「天正くんはシーサーだったね」

「ありがとうございますー。ぅわ、めっちゃ可愛いですやん」

リュウへの土産は机に飾れそうな手のひらサイズのシーサーの置物。可愛らしくディフォルメされており、厳つさはすっかり失われている。アレでも魔除けになるのだろうか。

「鳥待くんにはちんすこう」

「ありがとうございます……!」

お菓子をもらったシュカは目を輝かせて包装紙を破り始めた。早速食べるのかな?

「時雨くん達には星の砂のキーホルダーだよ」

「ぁ、りっ……がと、ござい……ます」

「小六くんによろしくね」

カンナには小瓶に詰まった星の砂が二つずつ渡された。

「水月くんはメインディッシュにして……木芽くん、オーガニックソープだよ」

「わ……! ありがとうございますっす! 見た目も結構華やかなんすね、使うのもったいなくなっちゃうっす」

天然素材で作られたらしい石鹸を受け取ったレイは相変わらずの光のない目をしたままだが喜んでいるようだった。

「どうぞ、歌見さん」

「あぁ、ありがとうな。へぇ……これが。帰ったら食べ比べてみないとな」

歌見に贈られたのは島唐辛子だ。俺は辛いものが苦手なので、アレを一口舐めたとしても普通の唐辛子との違いも良さも分からないだろうな。

「……狭雲くん」

「へっ? ぇ……俺にもあるの? 俺、いらないって……何? これ……布巾?」

「サンゴ染めのスカーフだよ」

セイカの前に広げられたスカーフは白地に様々な色で独特な模様が描かれたものだった。見慣れないデザインだが、洒落たものだ。

「名の通りサンゴを使って染めるんだ。同じ模様の物は一つとない、君のために僕が体験会で君を思って作った物さ。いつも何かに怯えている君が、どうか心から笑えますようにと祈って染めたんだよ。受け取ってくれるかい?」

「………………うん。ありがとう」

「よかったぁ、巻き方は分かるかい? こうやって折って、首に……こうかな?」

「ネザメさんそれ単なる絞殺ですセイカ死んじゃう! 俺がやります、俺がやりますから!」

三角形に折ったスカーフで首を絞められ咳き込んだセイカの首にちゃんとスカーフを巻いてやると、彼は嬉しそうに微笑んで俺にも礼を言ってくれた。

「…………さて」

ネザメは咳払いをし、手の汗をシャツで拭き、深く息を吐いてから一際大きな袋を持った。

「ァ……アキ、くん」

「もみじー、ぼく、くれるするです?」

「これを、どうぞ……アキくん。えっと……喜んでくれると嬉しいな」

震える手から袋を受け取ったアキはすぐに中に入っていたぬいぐるみを引っ張り出した。チーター、いや、ヒョウ……いや、アレがイリオモテヤマネコなのか? 想像よりもワイルドな色と柄だ。

「君の好きなネコのぬいぐるみなんだけれど……」

身体は暗褐色と淡褐色に分かれていて、縞模様や斑点模様があり、尻尾は太く黒っぽい。猫感は少なく、猛獣感が強い見た目だ。

《……ぬいぐるみ? おいおいマジかよ俺十四歳だぜ。確かに猫好きとは言ったけどよ、まさか欲しいもん聞いてたとはな……まぁいいや、とりあえずありがとうな、もみじっ……と、日本語で言わなきゃ。えーっと》

アキはぬいぐるみをしげしげと眺めながらロシア語で長々と感想を呟いた後、ネザメに微笑みかけた。

「もみじー、ありがとー! です! ぬーぐるーみぃ、ぼくくれるするです。もみじー、ありがとーです」

「あぁ……喜んでくれたんだね! よかったよ……こちらこそありがとう」

「よかったな、アキ」

白い髪をわしわしと撫でていると、紙袋を持ったネザメが意を決した表情で俺を見つめた。

「……水月くん、君にはこれを」

「ありがとうございますネザメさん、開けますね」

俺は特に希望を言わず土産選びを彼らに任せた。受け取った紙袋は重く、期待が膨らむ。紙袋の中には長細い箱が入っており、それを開けると青色の美しいグラスが現れた。

「綺麗……」

「琉球グラスと言ってね、伝統工芸品らしいよ。涼やかな美しさは君によく似合うと思うんだ」

「不思議な模様……海をそのままコップにしたみたいですね、すごく綺麗」

「海をそのまま……? ふふっ、君の感性もグラスに負けない美しさだね」

水面の煌めきや波の雄々しさが見事に表現されているように思える。ガラス製というのもあって使うよりは飾っていたくなる。

「……これめちゃくちゃ高かったんじゃ?」

「そうでもないよ」

「一番高額なのはイリオモテヤマネコのぬいぐるみだ。グラスはその三分の一以下だぞ」

「そ、そうなんですか……ぬいぐるみ意外と高いですもんね、ありがとうございますホント……」

最高額の土産をもらったなんて露知らず、アキはソファに腰を下ろして膝の上にぬいぐるみを乗せ、その手触りを楽しんでいる。

「……一人だけないのは何だか悪いから、これだけでも受け取ってくれるかい? 開いているもので悪いけれど」

ネザメはにこやかに俺達を祝福していたホムラに開封済みの紅芋タルトの箱を渡した。紅葉家、そして年積家の者達に一つずつ配った後らしく、中身は四分の一ほどしか残っていない。

「ありがとうございます! 部外者の僕にまで気を回してくださって……」

「ちんすこうと一つ交換してください」

「はい喜んで!」

皆が土産を眺めて楽しそうに過ごす中、俺はグラスを箱に戻した。持っていたら割りそうで怖いから……

「貴様ら、今渡したのはネザメ様からの土産だ。ミフユからの土産はまだあるぞ」

「え~! 別々で買ってきてくれた感じなの~? やった~、なになに~?」

「そんなに食いつかれると出しにくいな……ストラップだ、誕生月によって色が違う。自分の誕生月の物を持っていけ」

ミフユは包装されたままのストラップを机に並べた。俺は六月と八月と五月のストラップを取り、アキとセイカに渡してやった。

「十月はちゃんと二つあるぞ、片割れに渡してやれ」

「ぁ、りがと……ござ、い……ますっ」

「可愛い~! え~どこ付けよっかな~」

「なんかアレみたいですね、あの……海にある」

「浮き玉?」

「それです! って天正さんに言われるのなんか嫌ですね……」

「なんでやねん」

「その通りだ貴様ら、浮き玉をモチーフにしたちゅら玉という品だ。よく分かったな」

俺の彼氏達は見事に誕生日が分かれている。三月以外の月が揃っているため、ストラップの色もバラバラだ。彼らのイメージカラーとはズレがあるはずなのに、持っているところを眺めているとそれぞれち合った色な気がしてくる。不思議だ。
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