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で、リフォームどうなったの?

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土曜日の朝、俺は悩んでいた。アキの看病があるからとずっと休んでいたお見舞いをするかどうかを、だ。

(セイカ様にはそろそろ会いたいですし、セイカ様は勉強を教えるの得意でいらっしゃるので勉強も出来まそ。葉子さん今日はお出かけしないようですし、アキきゅん任せても大丈夫ですかな)

顔を洗いながら、歯を磨きながら、悩んだ。答えが出ないまま洗面所から出たその時、アキが目の前に現れた。ちょうど彼も洗面所を使いに来たようだ。

「にーに、お早う御座います」

「おはよう、アキ……相変わらずそれだけ発音いいな。熱、どうだ? 下がったか?」

白い前髪をかき上げ、やはり真っ白な額に額をくっつける。

「……うん、まだ温かいけどかなり下がってるな。よかったぁ……アキ、心配してたんだぞ、このまま下がらなかったらどうしようって……よかった、本当によかった。アキが辛そうにしてるの見るの、すごく辛かったよ」

「にーにぃ、ぼく、んー……ぼく……おせわ? する、ありがとーです」

「へっ? あ、あぁ……お母さんに言うように言われたのか? いいんだよ、お兄ちゃんなんだから当たり前だ。元気になったらまたみんなと遊ぼうな」

アキの額にキスをして洗面所を後にし、朝食の配膳を手伝った。

「ママ上ママ上~、リフォームってどこ変えたんでそ?」

「全然使ってない中途半端な大きさのウッドデッキあったでしょ? アレぶち壊してアキの部屋建てたの」

「えっ!? うわ……ブロックビルドゲーム初心者が頑張ったみたいな小屋建ってまそ」

ダイニングには大きな窓がある。以前はここを開けるとウッドデッキがあり、寝転がって星空を眺められたのだが、今は縁側ほどの幅にカットされている。その代わり、庭に長方形の上に三角柱を横倒しにしたみたいなシンプルな小屋が建っている。

「ん……? ママ上、小屋の後ろにくっついてる円柱はなんでそ?」

「後でアキに入れてもらいなさい」

「……? はーい」

小屋はアキの一人部屋と言うには大き過ぎる気がする。物置でも兼ねているのだろうか? 空きがあればグッズを置かせてもらいたいものだ。



朝食の後、アキはリビングの窓から庭に出て小屋へと入っていった。これからは一日のほとんどの時間をあそこで過ごすのだろうか。

「……なんか一人だけちょっと離れて住んでるの寂しいですね」

「まぁそうかもね。でもあそこは窓も作ってないし、他の設備もアキがずっと欲しがってたものらしいからプラマイで言えばプラスじゃない? アンタがあそこに入り浸ればいいだけだし」

「はは……まぁ、ちょっと気になるので今日は見に行こうと思ってますけど」

義母が居なければ「ヤり部屋にしてやりますぜ」くらい言えたのだが、彼女の手前そんなことは絶対に言えない。今後、しょっちゅう遊びに行ったり長時間居座ったりするのも難しいだろう。

「ちょっと行ってきますね」

皿洗いが終わったので窓から庭に出て小屋の扉を叩いた。

「……? にーに! にーにぃ、入るするです」

「ふふ、おじゃまします」

扉を開けたアキは俺の顔を見てぱぁっと笑顔になり、俺を中へ引き入れた。

「ゆっくりするです」

扉を閉めるとアキはサングラスを外し、俺の腕を引っ張って部屋の真ん中へ連れていった。窓がなく、証明も弱められた室内は薄暗い。内装も相まって少し不気味だ。

「あー……なかなか、洒落たポスターだな」

燃え盛る十字架、蛇が住む髑髏、目がなく牙が生えたクリーチャー、血まみれのずた袋……アキの好きなバンドのポスターのようだ。

「……このクリーチャーはエロいかも。うん、抜ける」

口だけがあるのっぺらぼうのようなクリーチャーはなかなか俺好みだ。血管が浮いた肌の質感がいい。

「…………アキ、髑髏……えっと、骨、好きか?」

ローチェストの上には角の生えた髑髏の置物が飾られている。

「ほねー、好きです」

「そっか、お兄ちゃんも好きだぞ。肋骨のラインとか背骨の曲線とか骨盤とかエロいよな。アキは頭だけでいいのか? 眼射ならぬ眼窩挿入とかもイイな」

「……?」

壁紙、絨毯、家具、どれも暗い色をしている。

「ん? あれっ、ベッドセミダブルか、いいなぁー。広々寝れるじゃん」

母もアキに甘いなと思いつつベッドに近寄ると、アキが腕に抱きついてきた。まだ体温が高い、腕に熱が伝わってくる。

「にーにぃ、えっちするです。時です。その為です。ゆの、おっきー、買うするしたです」

「……俺とえっちする時のために母さんに大きいの買ってもらったのか? あぁもうなんて可愛いんだ、たくさんしような」

義母に怪しまれないように立ち回りを考えておかなければな。しかし、やはりこの部屋は外観から想定される半分程度の広さしかない。もう半分は何なのだろう。

「ん? アキ、あのドアは?」

もう半分の方へ行けそうな扉があった。

「行くするです?」

「うん、開ける、いいか?」

アキに許可をもらって扉を開け、プールを見た瞬間俺は思わず声を上げた。

「うわっ……プール!? は!? うっそだろおい金持ちの象徴自宅プールがとうとう俺の家に!? いつの間に中流を抜け出したんだよ鳴雷家は! すっごい……母子家庭の姿か、これが。はぁー……母さん無敵か?」

広さは五メートル×三メートル程だろうか、俺の目測が正確ならば。学校のプールと比べれば小さなものだが、風呂に比べればかなり大きい。

「にーにぃ、ここ来るするです」

「ん?」

スクール水着を取りに行こうか、自宅なら裸で飛び込んでもいいのか、なんて考えてプールを眺めていた俺をアキが呼ぶ。どうやら円柱を横倒しにしたような形の謎の小屋の中に入れてくれるようだ。

「なになに? お兄ちゃんに何見せて……サウナ! あっ、バレルサウナか! お兄ちゃん前にテレビの特集で見たぞ」

二人、いや三人は入れるだろうか。

「何この石……あー、ロウリュだっけ。水かけて、なっ?」

サウナにあまり興味はないが、自宅にあるとなれば一度くらいは体験してみてもいいかもしれない。念のため、試すのはテストが終わってからにしよう。

「…………バレルサウナとロウリュはフィンランドのじゃなかったか? ロシア式のとかじゃなくていいのか? いやロシア式とかあるのか知らないけどさ」

《何言ってんのかあんま分かんねぇけど俺は蒸気浴出来たら何でもいいぜ》

「お兄ちゃんサウナ知識全くないんだよなぁ」

「にーに、また、入るするです。一緒するです、あついするです」

「ん? うん、一緒に入ろうな。でも「また」は違うぞ、お兄ちゃん一回も入ったことないからな」

まだアキの風邪は完治していない。俺は彼の肩を抱いて部屋に戻り、ベッドに寝かせた。

「いいかアキ、「また」ってのは「再び」「もう一度」とか、二回目から使う言葉だ。だから……んー、今度一緒に入る、が正しい……かな?」

アキに日本語を少し教えただけなのに、俺は兄らしいことが出来たなと握り拳を作った。

「でもー……てんしょー、また、今度するです、言うするしたです」

「リュウに教わったのか? まぁ……アイツ数学以外バカだからなぁ」

「ばかー?」

「アッそれ覚えちゃダメ」

悪口まで教えてしまった。やはり俺は兄失格だ。
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