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ヤる気を出すには
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アキだけは特別メニューの昼食を四人で囲む。久しぶりの母の手作り料理はとても美味しい、少し気まずいけれど。
(うーむしかし、おかーたまに嫌味言われてたくらいで免疫弱るほどストレス受けませんよな……受けるんでしょうか。他の原因もあると考えた方がよろしい? うぅん……向こうでの暮らしぶりが聞きたいのですが、わたくし葉子さんに嫌われ気味ですしな)
いや、嫌われていると言うよりは警戒されているのかな……と義母の方をチラリと見る。
「あの、水月くん。アキ……どうだった? いい子にしてた?」
「あっ、はい! それはもちろん、とても。でも……風邪を引かせてしまって」
「あぁそれは、いいの…………なんで風邪引いたのか心当たりある?」
今思えば、ネザメの家でシャワーを浴びた後アキは髪をしっかり乾かしていなかった。俺もミフユもそうだが、まぁ、アキは免疫が弱いらしいから、そういうことだろう。
「あー……お風呂の後、髪乾かすのサボっちゃったみたいで。気付いた時は言ってたんですけど、来週テストで勉強の方に気が向いちゃって……」
《……悪化しやすいんだからお風呂の後の処理はちゃんとしなさいよ》
《ハッ! 処理ねぇ、愛しのおにーたまが色んな処理をしてくれたぜ?》
義母はため息をついてアキから視線を外し、食事に集中し始めた。時折母に「美味しい」なんて笑いかけながら。
「………………にーにぃ」
「ん?」
「……それ、欲しいです」
アキは俺の昼食の皿に入っている生姜焼きを指している。
「おにくー……食べるするしないです、今日ー、昨日……おととー? おにく食べるする欲しいです」
「一昨日、な。でも肉……消化に悪いしなぁ」
「いいわよ、一枚くらい。薄い肉だし、生姜は身体にいいし」
「……そうですか? じゃあ、アキ……一枚取れよ」
嬉しそうに笑ったアキは口を大きく開けた。あーんをしたこともさせたこともレイの家では多かったけれど、家で……義母の前では流石にキツい。
「……? にーに?」
「あ、あぁ……うん、スプーンだもんな。あーん」
お粥をスプーンで食べているアキの手元に箸はない。それだけの理由だと義母に示しつつ、アキの口に生姜焼きを一枚入れた。
「んん……! おいしー、です」
《ありがと》
《日本に来てから美味いもんしか食ってねぇ。ま、料理に大事なのは国籍じゃなくシェフの腕だけどな。唯乃が作ればどこの料理だろうが美味いはずだ》
《あらお上手》
料理の感想を言っているのだろうか? 義母が不機嫌そうなのが気にかかるが、まぁ、俺にどうこう出来る問題ではないだろう。
「ごちそうさま。俺、部屋で勉強しようと思ってるんだけど……いいですかね?」
「好きにしなさいよ」
「いや、アキ……」
「……私が看病する、母親だもん。水月くんはテストに集中して」
アキに何を言ってきたか忘れたのか? なんて思いつつ、口に出すのは「頑張ります」の一言のみ。あぁ、レイの家が恋しい。
リフォーム部分は結局教えてもらえないまま自室にこもった。俺の部屋からはアキの荷物が撤去されているだけで、広がったり扉が増えたりはしていない。
「……増築費用は建築費用の二倍いただくだなも~」
勉強に飽きてボソッと呟く。
「………………そういえば最近起動してないな。雑草めっちゃ生えてそう」
テスト勉強中の禁じ手、ゲーム起動。
コンコンと扉が叩かれて慌ててゲーム機を隠し、返事をした。
「夕飯出来たわよ」
「えっもうそんな時間」
「あら、随分集中して勉強してたのね……なんて言うと思う? アンタがそんなこと出来る訳ないわ、ゲーム? 漫画? それともシコってた?」
「き、傷付きますぞ! そんなこと出来る訳ないなんて、子供の可能性を狭める発言でそ!」
「何してたの?」
「ゲームでそ~」
スパーンっ! とハリセンのいい音が鳴った。久しぶりの痛みに脳天を押さえ、涙目で抗議した。
「どうして持っているんでそ!」
「勉強サボってそうだなーって。いい、水月。私はね、アンタが勉強出来なくてもいい、いい大学入っていい会社に就職しろなんて言わない。楽しく生きてくれたらそれでいいの」
「はい……」
「でもね、追試になったら夏休みがなくなるでしょ!? 高校生の夏は大切なのよ、好きな子とヤったり、憧れのあの子とヤったり!」
ヤってばっか。
「夏はお堅いあの子も開放的になるのよ、大好きなあの子の水着姿や浴衣姿も見られるの! そんな夏を! くっだらない追試如きで潰していいの!?」
「そんなことあってはなりませんぞ!」
「いい水月、勉強はね……遊ぶために! サボるために! その時間を確保するためにあるのよ!」
「いえすまむ!」
「いい返事ね、夕飯の後で勉強見てあげるわ!」
小中高大とトップを独走し続けた母がテスト勉強を見てくれる? 百人力だ。これで俺は追試回避間違いなしだ。
夕飯の後、母は約束通り俺の部屋に来てくれた。手には何故かハリセンがある。
「夏祭りに行きたい?」
「はい!」
「夏祭りに行ってナニをするの!」
「射的でいいとこ見せます!」
大きなぬいぐるみを撃ち落として、プレゼントして、満面の笑みを浮かべた彼氏に賞賛されたい。
「違う! 木陰で青姦よ!」
「ママ上! 勉強を教えてくだされ!」
「その前にやる気出そうと思って」
「ヤる気が出ちゃいまそ。男は一度勃ったら冷静ではいられない生き物なのでそ……」
とは言いつつも、追試を回避出来なければ夏休みがなくなってしまうという恐怖心と、夏休みで起こるだろう様々なイベントへの期待が俺の手と頭を動かした。
「海に行きたい?」
「はい!」
「海に行ってナニをするの!」
「水着姿の彼氏に泳ぎ方を教えまそ!」
リュウは確か泳ぎが上手くなかったな、カンナなんてプールに入れてすらいなかった。イメージでしかないがレイやネザメも下手そうだ、泳ぎ方を教えるありがちなシチュに持っていけそうな相手は何人も居る。
「違う! 岩陰で青姦よ!」
「青姦ばっかでそ……」
「……水着ズラして挿入」
「ふぁーっ!? なんでそその憧れのシチュ! 絶対ヤってやりまっそ!」
こうしてやる気を出した俺は赤点の危機に瀕していた英語の理解力を大幅に上げたのだった。
(うーむしかし、おかーたまに嫌味言われてたくらいで免疫弱るほどストレス受けませんよな……受けるんでしょうか。他の原因もあると考えた方がよろしい? うぅん……向こうでの暮らしぶりが聞きたいのですが、わたくし葉子さんに嫌われ気味ですしな)
いや、嫌われていると言うよりは警戒されているのかな……と義母の方をチラリと見る。
「あの、水月くん。アキ……どうだった? いい子にしてた?」
「あっ、はい! それはもちろん、とても。でも……風邪を引かせてしまって」
「あぁそれは、いいの…………なんで風邪引いたのか心当たりある?」
今思えば、ネザメの家でシャワーを浴びた後アキは髪をしっかり乾かしていなかった。俺もミフユもそうだが、まぁ、アキは免疫が弱いらしいから、そういうことだろう。
「あー……お風呂の後、髪乾かすのサボっちゃったみたいで。気付いた時は言ってたんですけど、来週テストで勉強の方に気が向いちゃって……」
《……悪化しやすいんだからお風呂の後の処理はちゃんとしなさいよ》
《ハッ! 処理ねぇ、愛しのおにーたまが色んな処理をしてくれたぜ?》
義母はため息をついてアキから視線を外し、食事に集中し始めた。時折母に「美味しい」なんて笑いかけながら。
「………………にーにぃ」
「ん?」
「……それ、欲しいです」
アキは俺の昼食の皿に入っている生姜焼きを指している。
「おにくー……食べるするしないです、今日ー、昨日……おととー? おにく食べるする欲しいです」
「一昨日、な。でも肉……消化に悪いしなぁ」
「いいわよ、一枚くらい。薄い肉だし、生姜は身体にいいし」
「……そうですか? じゃあ、アキ……一枚取れよ」
嬉しそうに笑ったアキは口を大きく開けた。あーんをしたこともさせたこともレイの家では多かったけれど、家で……義母の前では流石にキツい。
「……? にーに?」
「あ、あぁ……うん、スプーンだもんな。あーん」
お粥をスプーンで食べているアキの手元に箸はない。それだけの理由だと義母に示しつつ、アキの口に生姜焼きを一枚入れた。
「んん……! おいしー、です」
《ありがと》
《日本に来てから美味いもんしか食ってねぇ。ま、料理に大事なのは国籍じゃなくシェフの腕だけどな。唯乃が作ればどこの料理だろうが美味いはずだ》
《あらお上手》
料理の感想を言っているのだろうか? 義母が不機嫌そうなのが気にかかるが、まぁ、俺にどうこう出来る問題ではないだろう。
「ごちそうさま。俺、部屋で勉強しようと思ってるんだけど……いいですかね?」
「好きにしなさいよ」
「いや、アキ……」
「……私が看病する、母親だもん。水月くんはテストに集中して」
アキに何を言ってきたか忘れたのか? なんて思いつつ、口に出すのは「頑張ります」の一言のみ。あぁ、レイの家が恋しい。
リフォーム部分は結局教えてもらえないまま自室にこもった。俺の部屋からはアキの荷物が撤去されているだけで、広がったり扉が増えたりはしていない。
「……増築費用は建築費用の二倍いただくだなも~」
勉強に飽きてボソッと呟く。
「………………そういえば最近起動してないな。雑草めっちゃ生えてそう」
テスト勉強中の禁じ手、ゲーム起動。
コンコンと扉が叩かれて慌ててゲーム機を隠し、返事をした。
「夕飯出来たわよ」
「えっもうそんな時間」
「あら、随分集中して勉強してたのね……なんて言うと思う? アンタがそんなこと出来る訳ないわ、ゲーム? 漫画? それともシコってた?」
「き、傷付きますぞ! そんなこと出来る訳ないなんて、子供の可能性を狭める発言でそ!」
「何してたの?」
「ゲームでそ~」
スパーンっ! とハリセンのいい音が鳴った。久しぶりの痛みに脳天を押さえ、涙目で抗議した。
「どうして持っているんでそ!」
「勉強サボってそうだなーって。いい、水月。私はね、アンタが勉強出来なくてもいい、いい大学入っていい会社に就職しろなんて言わない。楽しく生きてくれたらそれでいいの」
「はい……」
「でもね、追試になったら夏休みがなくなるでしょ!? 高校生の夏は大切なのよ、好きな子とヤったり、憧れのあの子とヤったり!」
ヤってばっか。
「夏はお堅いあの子も開放的になるのよ、大好きなあの子の水着姿や浴衣姿も見られるの! そんな夏を! くっだらない追試如きで潰していいの!?」
「そんなことあってはなりませんぞ!」
「いい水月、勉強はね……遊ぶために! サボるために! その時間を確保するためにあるのよ!」
「いえすまむ!」
「いい返事ね、夕飯の後で勉強見てあげるわ!」
小中高大とトップを独走し続けた母がテスト勉強を見てくれる? 百人力だ。これで俺は追試回避間違いなしだ。
夕飯の後、母は約束通り俺の部屋に来てくれた。手には何故かハリセンがある。
「夏祭りに行きたい?」
「はい!」
「夏祭りに行ってナニをするの!」
「射的でいいとこ見せます!」
大きなぬいぐるみを撃ち落として、プレゼントして、満面の笑みを浮かべた彼氏に賞賛されたい。
「違う! 木陰で青姦よ!」
「ママ上! 勉強を教えてくだされ!」
「その前にやる気出そうと思って」
「ヤる気が出ちゃいまそ。男は一度勃ったら冷静ではいられない生き物なのでそ……」
とは言いつつも、追試を回避出来なければ夏休みがなくなってしまうという恐怖心と、夏休みで起こるだろう様々なイベントへの期待が俺の手と頭を動かした。
「海に行きたい?」
「はい!」
「海に行ってナニをするの!」
「水着姿の彼氏に泳ぎ方を教えまそ!」
リュウは確か泳ぎが上手くなかったな、カンナなんてプールに入れてすらいなかった。イメージでしかないがレイやネザメも下手そうだ、泳ぎ方を教えるありがちなシチュに持っていけそうな相手は何人も居る。
「違う! 岩陰で青姦よ!」
「青姦ばっかでそ……」
「……水着ズラして挿入」
「ふぁーっ!? なんでそその憧れのシチュ! 絶対ヤってやりまっそ!」
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