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参考になるものでしょうか
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ずっと水面下で感じていた兄としての不甲斐なさが今心を満たしている、いや、溢れそうになっている。今辛いのはアキなのだから、俺が潰れるなんてあってはならないことなのに、理想と現実の自分のあまりのギャップの大きさに叫び出したくなる。
「ただいま~……アキどうだ?」
悩んでいることなんて表に出さず、けれどいつもの笑顔は引っ込めて、兄らしく弟を心配している表情を作ってみた。中学時代、セイカによる虐めを母に悟らせないために磨いた演技力が役に立っている。
「んー……熱はすごいんすけど、あんましんどそうじゃないんすよねぇ」
そう、役に立っているんだ。彼氏達を不安にさせないために演技力は必要不可欠なんだ。なのに俺は自分の演技の上手さがあまり好きではない。何故なのかは自分でもよく分からない。
「熱、何度だった?」
「……40.1っす。やばいっすよね。アキくんの平熱は38くらいとか、そういう話ないんすかねぇ」
「残念ながらないな……アキ、起きてるか? ご飯、食べる……出来るか?」
「……だ」
油揚げを細かく刻んだきつねうどんを作り、寝室まで持っていった。ゆっくりとではあったが、アキはうどんを完食して弱々しく微笑んだ。
「おい、しー……です。にーに、ありがとーです」
「……っ、うん、どういたしまして」
お礼なんていい、もっと甘えて欲しい、ワガママを言って欲しい、そんな願望を全て伝えたところでアキを困らせるだけだろうと堪え、頭を撫でて微笑み返した。
「ほら、ねんねしな。お兄ちゃんずっと傍に居るから。大丈夫……ずっと居る。な?」
俺が隣に居るとよく眠れる、セイカはアキがそう言っていると言っていた。シュカと同じだ、喧嘩が強い者同士似た何かがあるのだろう。
「……ごめん、お兄ちゃんお皿洗わなきゃ。ちょっとだけ離れる、ごめんな」
空の器を持ってキッチンに向かい、器をシンクに置き、鍋に水を入れて火にかけた。スポンジを揉んで泡を出しながらスマホを操作し、肩と頭でスマホを挟み、空いた手で器を持ち上げた。
「…………あ、もしもしシュカ? ごめんな、勉強中か?」
『ええ、まぁ……何か?』
洗い終えた器を置き、乾麺を鍋に入れる。
「アキ病院に連れてったんだけど、昔から不眠症って言われてさ。でも俺の傍だと寝れるって言ってて……シュカもそうだろ? なんでだ? アキも同じ理由かな」
『…………恥ずかしいこと聞きますねぇ。私の理由が参考になるとは思えませんが……ま、一応話しますよ』
「助かる」
シュカは電話の向こうで照れくさそうに咳払いをした後、ぽつりぽつりと話し始めた。
『私、ほら……地元ではちょっとヤンチャしてたんですよ、知ってますよね。それでまぁ、裸を見てるあなたには察せるでしょうが、かなり恨みを買ってましてね……』
鍋に液体スープを入れ、菜箸でかき混ぜる。
『寝ている間、人間ってすごく無防備なんですよ。学校で居眠りしている時に腹を刺されましてね。情けない言い方になりますが、それから眠るのが怖くなったんです』
チャーシューを乗せ、メンマを乗せ、ネギを散らす。
『裏切りや下克上がたまに出ていたので舎弟に見張りをさせる選択肢もありませんでした。誰も知らない狭くて暗い場所が私の寝床でした。最初は家の押し入れでどうにかなってたんですが、段々とそこでも眠れなくなって……大変でしたよ』
「……辛かったんだな」
『自業自得な面がかなり大きいのに同情してくださるんですね、感謝します。ね? 参考にならなかったでしょう? 秋風さんがこんな殺伐とした暮らしをしてたと思います?』
「うーん……アキが向こうでどういう生活してたのかはよく分かんないんだよなぁ。親父さんになんか格闘技習ったとかで、殴られたとかボヤいてたことはあるけど……別に虐待とかじゃなさそうだし」
完成したラーメンを先程洗ったものと同じ種類の器に移す。
「あ、シュカ、ちょっとごめん…………レイー! 飯出来たぞー! ラーメン!」
「はいー! って作ってくれたんすか? 今日は昼夜インスタントだと思ってたっすよ。ありがとうございますっすホント……でももうアキくんに集中したげて欲しいっす。あ、せんぱいご飯は? 学校帰りとかに食べたんすか?」
「あー、いや、俺はいいや。悪いけど皿は自分で洗ってくれ。じゃあ俺アキのとこ戻るから……ごめんなシュカ、えっと、それで……アキの過去はよく分かんないって話したんだっけ。えーっと……ん? シュカは結局なんで俺とならよく眠れるんだって?」
シュカは小さな声で「忘れてなかったか」と呟き、ため息をついた後、教えてくれた。
『……あなたが私を身体を張って守ってくれたからですよ。馬鹿みたいに……ナイフで、切られて……私なんかのために…………だから、あなたが私を傷付けることはないし、もし誰かに寝込みを襲われてもあなたが守ってくれるから……そう、心で理解したから、あなたの傍ではよく眠れるんです』
「…………照れるなぁ」
『参考にならないでしょこんな話。はぁ……もう、顔熱い。もういいですか?』
「あぁ、ありがとう。また明日」
顔を赤くしているシュカを妄想して萌え、癒され、少し元気になった。これなら昼食抜きにも耐えられる。
「アキ? よしよし……お兄ちゃん、する、欲しい、あるする……お兄ちゃん言う、するんだぞ。分かったか? うん、賢いな、よしよし……いい子だ」
「……にーに」
「お兄ちゃんここに居るぞ。アキ…………アキ、俺が、アキ……守る。だから、安心しろ」
《守る? 兄貴が俺を? ウケる……しんどいのに笑わせんなよな》
シュカと同じ理由ではないだろうと思いつつも、安心して眠ってくれないかと「守る」と宣言してみた。するとアキは可愛らしく笑ってくれた、安心してくれたのかな……?
「ただいま~……アキどうだ?」
悩んでいることなんて表に出さず、けれどいつもの笑顔は引っ込めて、兄らしく弟を心配している表情を作ってみた。中学時代、セイカによる虐めを母に悟らせないために磨いた演技力が役に立っている。
「んー……熱はすごいんすけど、あんましんどそうじゃないんすよねぇ」
そう、役に立っているんだ。彼氏達を不安にさせないために演技力は必要不可欠なんだ。なのに俺は自分の演技の上手さがあまり好きではない。何故なのかは自分でもよく分からない。
「熱、何度だった?」
「……40.1っす。やばいっすよね。アキくんの平熱は38くらいとか、そういう話ないんすかねぇ」
「残念ながらないな……アキ、起きてるか? ご飯、食べる……出来るか?」
「……だ」
油揚げを細かく刻んだきつねうどんを作り、寝室まで持っていった。ゆっくりとではあったが、アキはうどんを完食して弱々しく微笑んだ。
「おい、しー……です。にーに、ありがとーです」
「……っ、うん、どういたしまして」
お礼なんていい、もっと甘えて欲しい、ワガママを言って欲しい、そんな願望を全て伝えたところでアキを困らせるだけだろうと堪え、頭を撫でて微笑み返した。
「ほら、ねんねしな。お兄ちゃんずっと傍に居るから。大丈夫……ずっと居る。な?」
俺が隣に居るとよく眠れる、セイカはアキがそう言っていると言っていた。シュカと同じだ、喧嘩が強い者同士似た何かがあるのだろう。
「……ごめん、お兄ちゃんお皿洗わなきゃ。ちょっとだけ離れる、ごめんな」
空の器を持ってキッチンに向かい、器をシンクに置き、鍋に水を入れて火にかけた。スポンジを揉んで泡を出しながらスマホを操作し、肩と頭でスマホを挟み、空いた手で器を持ち上げた。
「…………あ、もしもしシュカ? ごめんな、勉強中か?」
『ええ、まぁ……何か?』
洗い終えた器を置き、乾麺を鍋に入れる。
「アキ病院に連れてったんだけど、昔から不眠症って言われてさ。でも俺の傍だと寝れるって言ってて……シュカもそうだろ? なんでだ? アキも同じ理由かな」
『…………恥ずかしいこと聞きますねぇ。私の理由が参考になるとは思えませんが……ま、一応話しますよ』
「助かる」
シュカは電話の向こうで照れくさそうに咳払いをした後、ぽつりぽつりと話し始めた。
『私、ほら……地元ではちょっとヤンチャしてたんですよ、知ってますよね。それでまぁ、裸を見てるあなたには察せるでしょうが、かなり恨みを買ってましてね……』
鍋に液体スープを入れ、菜箸でかき混ぜる。
『寝ている間、人間ってすごく無防備なんですよ。学校で居眠りしている時に腹を刺されましてね。情けない言い方になりますが、それから眠るのが怖くなったんです』
チャーシューを乗せ、メンマを乗せ、ネギを散らす。
『裏切りや下克上がたまに出ていたので舎弟に見張りをさせる選択肢もありませんでした。誰も知らない狭くて暗い場所が私の寝床でした。最初は家の押し入れでどうにかなってたんですが、段々とそこでも眠れなくなって……大変でしたよ』
「……辛かったんだな」
『自業自得な面がかなり大きいのに同情してくださるんですね、感謝します。ね? 参考にならなかったでしょう? 秋風さんがこんな殺伐とした暮らしをしてたと思います?』
「うーん……アキが向こうでどういう生活してたのかはよく分かんないんだよなぁ。親父さんになんか格闘技習ったとかで、殴られたとかボヤいてたことはあるけど……別に虐待とかじゃなさそうだし」
完成したラーメンを先程洗ったものと同じ種類の器に移す。
「あ、シュカ、ちょっとごめん…………レイー! 飯出来たぞー! ラーメン!」
「はいー! って作ってくれたんすか? 今日は昼夜インスタントだと思ってたっすよ。ありがとうございますっすホント……でももうアキくんに集中したげて欲しいっす。あ、せんぱいご飯は? 学校帰りとかに食べたんすか?」
「あー、いや、俺はいいや。悪いけど皿は自分で洗ってくれ。じゃあ俺アキのとこ戻るから……ごめんなシュカ、えっと、それで……アキの過去はよく分かんないって話したんだっけ。えーっと……ん? シュカは結局なんで俺とならよく眠れるんだって?」
シュカは小さな声で「忘れてなかったか」と呟き、ため息をついた後、教えてくれた。
『……あなたが私を身体を張って守ってくれたからですよ。馬鹿みたいに……ナイフで、切られて……私なんかのために…………だから、あなたが私を傷付けることはないし、もし誰かに寝込みを襲われてもあなたが守ってくれるから……そう、心で理解したから、あなたの傍ではよく眠れるんです』
「…………照れるなぁ」
『参考にならないでしょこんな話。はぁ……もう、顔熱い。もういいですか?』
「あぁ、ありがとう。また明日」
顔を赤くしているシュカを妄想して萌え、癒され、少し元気になった。これなら昼食抜きにも耐えられる。
「アキ? よしよし……お兄ちゃん、する、欲しい、あるする……お兄ちゃん言う、するんだぞ。分かったか? うん、賢いな、よしよし……いい子だ」
「……にーに」
「お兄ちゃんここに居るぞ。アキ…………アキ、俺が、アキ……守る。だから、安心しろ」
《守る? 兄貴が俺を? ウケる……しんどいのに笑わせんなよな》
シュカと同じ理由ではないだろうと思いつつも、安心して眠ってくれないかと「守る」と宣言してみた。するとアキは可愛らしく笑ってくれた、安心してくれたのかな……?
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