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一晩中ヤり続けることもあったけれど、アキは基本的によく眠っている──と、思う。
《秋風、最近眠れてるか?》
《……さぁ》
《真面目に答えろ、お前の大好きな兄貴が心配してるんだよ》
《分かんねぇよ、一日七時間弱は寝てるはずだぞ》
「……秋風、一日七時間は寝てるって言ってるぞ」
俺の体感でもアキはそのくらい眠っている。寝不足というのは誤診か? いやいや、もう少し医者を信用しよう。
「頻繁に起きたりしてないか?」
「……俺に聞かれても」
「同じ家に住んでるんだろ?」
「俺寝付きいいからアキがどうしてるか分かんない」
セイカは呆れたような目を俺に向けた後、アキに何か尋ねた。多分、俺に聞いたのと同じ内容だ。
「……よかったな、鳴雷」
「何が?」
「お前の隣なら朝まで眠れることが多いってよ」
「えっ可愛っ……え、朝まで眠れないのが基本なのか? なんで……やっぱり何か悩みあるのか?」
「……今日はやめといた方がいいんじゃねぇか? 話すのもキツそうだぞ」
「あっ、そ、そうだよな。ありがとうセイカ」
「ん」
セイカは左手を差し出す。くいくい、と指を四本揺らしている。お礼を寄越せと言っているような仕草だ。
「次来る時お菓子買ってくるよ」
「お菓子なんかいらない。服、匂い薄くなってきたんだ」
セイカの左手はテディベアを抱えている。テディベアは俺の服を着ている。
「この服まだ着てないから、それと交換してくれ」
以前セイカの着替え用にと貸し与えた服のうち一つを差し出してきた。俺は今着ているシャツを脱ぎ、差し出されたシャツを着て、テディベアが着せられていた服を回収した。
「今日暑かったから結構汗かいちゃったと思うんだよ、熱出してるアキ腕に抱きつかせてたし……だからそんなに嗅がれると恥ずかしいんだけど」
「……鳴雷臭い。好き……ありがと、鳴雷」
「セイカが匂いフェチだったとは知らなかったよ」
「…………そういうのじゃない」
「はいはい。じゃあなセイカ、また明日。明日はもっと長く居るから。アキはしばらく来れないかもしれないけど」
「うん……まぁ、仕方ないな。秋風! поскорее поправляйся」
アキは堪え切れないといった様子で笑い、セイカに手を振って「ばいばい」と小さな声で言った。
「……ナイスなジョーク?」
「いや、早く治せよって言ったつもりだけど……表現硬かったのかな」
「マイネームイズって言わない、みたいな感じかな。まぁ気持ちが伝われば大丈夫だよ、今日はありがとうな、ばいばいセイカ……あっ、そうだ、ちょっともう一つ頼みが……」
おぶられてくれるよう言ってくれとセイカに頼んだが、少し揉めたような会話の後「対面での抱っこじゃなきゃ嫌だってさ」と呆れたふうに言った。
「抱っこがいいのか? おんぶの方が前見やすいんだけどなぁ……ま、いいか。おいで」
両手を広げるとアキは俺の首に腕を絡め、腰に足を絡めた。アキの尻の下でしっかりと手を組み、彼を持ち上げた。
「今度こそばいばい、またな」
「……ん」
テディベアをぎゅっと抱き締めて手を振るセイカを抱き締めたくなる気持ちを堪え、足で扉を開けて病室を後にした。
六月も終盤に差し掛かる今、晴れた日の真昼間はとても暑い。アキのために日傘を差しているから直射日光はないが、蒸されているような暑さに変わりはない。高熱のアキを抱えているのもあってあっという間に汗だくだ。
「アキぃ……大丈夫か?」
心配なのはアキだ。昨日は寒がっていたが、今はもう暑いだろう。ケチケチせずタクシーを呼ぶべきだっただろうか、俺は兄として正しい行動が取れていないのかもしれない。
「…………お兄ちゃん泣きそうだよ。なんで風邪引いちゃったんだろうな、毎日病院行ってるからか? しょっちゅう裸にさせちゃってるからか? 俺が学校とかから知らない間にウイルス持って帰ってきちゃったのかなぁ……ごめんな、アキ、ごめん……お兄ちゃん、頑張るから……お前を幸せに出来るように、頑張るから」
暑さで頭が朦朧とする。けれど、体調の悪いアキを連れて倒れるなんてあってはならない。俺はほとんど気合いだけで足を動かし、駅へと辿り着いた。
電車内の空調は大したものではなかったが、幸い空いていたので座席に座って休憩は出来た。アキは俺の隣に座らせていたが、何度促しても俺の肩に頭を預けず、眠りもしなかった。
(……アキきゅん、わたくしのことを好いてくれているのは確かですが、頼れるお兄ちゃんだとは思ってくれていませんよな……はぁ、落ち込みまそ)
俺はそんなに頼りにならないだろうか、アキより背は高いし、アキを運べる筋肉もあるのに。そう嘆く俺の脳の別の部分ではアキがチンピラを蹴り倒して俺を助けてくれた際の光景と、アキがセイカを助けその邪魔をした俺が怪我をした際の光景が再生されていた。
(頼りになりませんよなぁ、そりゃ。アキきゅんイカれた身体能力してるんですもの、わたくしのような顔以外俗人に頼る理由なんて…………今は、あるでしょう)
辛そうな呼吸すら堪え、サングラス越しに周囲を何度も確認しているアキの肩を抱いた。熱い。やはり酷い熱だ、なのにアキはその辛さを悟らせまいと気張っている。
「……アキ、お兄ちゃん居るから。ずっと、傍に、居るからな」
健気なアキにそう囁くも、やはりアキの態度は変わらなかった。勝手に落ち込みつつレイの元へ帰り、すぐにアキをベッドに寝かせた。
「俺アキくんの汗拭いとくんで、せんぱいシャワー浴びてきてくださいっす」
「あぁ、ありがとう」
タオルと水を張った洗面器を持ってきたレイに後を任せ、俺は言われた通りにシャワーを浴びた。
(…………十余年存在すら知らなかった兄弟に、兄弟としての信頼関係なんて築けないのでしょうか。アキきゅんとはセックスばっかりで、デートとかもしてませんし……恋人にも兄弟にもなれてない気がしまそ。はぁあ……落ち込みますなぁ)
兄として頼られたい、彼氏として必要とされたい、甘えて欲しい、頼って欲しい、そんな願望はこれほどまでに叶えるのが難しいものだったのだろうか。
《秋風、最近眠れてるか?》
《……さぁ》
《真面目に答えろ、お前の大好きな兄貴が心配してるんだよ》
《分かんねぇよ、一日七時間弱は寝てるはずだぞ》
「……秋風、一日七時間は寝てるって言ってるぞ」
俺の体感でもアキはそのくらい眠っている。寝不足というのは誤診か? いやいや、もう少し医者を信用しよう。
「頻繁に起きたりしてないか?」
「……俺に聞かれても」
「同じ家に住んでるんだろ?」
「俺寝付きいいからアキがどうしてるか分かんない」
セイカは呆れたような目を俺に向けた後、アキに何か尋ねた。多分、俺に聞いたのと同じ内容だ。
「……よかったな、鳴雷」
「何が?」
「お前の隣なら朝まで眠れることが多いってよ」
「えっ可愛っ……え、朝まで眠れないのが基本なのか? なんで……やっぱり何か悩みあるのか?」
「……今日はやめといた方がいいんじゃねぇか? 話すのもキツそうだぞ」
「あっ、そ、そうだよな。ありがとうセイカ」
「ん」
セイカは左手を差し出す。くいくい、と指を四本揺らしている。お礼を寄越せと言っているような仕草だ。
「次来る時お菓子買ってくるよ」
「お菓子なんかいらない。服、匂い薄くなってきたんだ」
セイカの左手はテディベアを抱えている。テディベアは俺の服を着ている。
「この服まだ着てないから、それと交換してくれ」
以前セイカの着替え用にと貸し与えた服のうち一つを差し出してきた。俺は今着ているシャツを脱ぎ、差し出されたシャツを着て、テディベアが着せられていた服を回収した。
「今日暑かったから結構汗かいちゃったと思うんだよ、熱出してるアキ腕に抱きつかせてたし……だからそんなに嗅がれると恥ずかしいんだけど」
「……鳴雷臭い。好き……ありがと、鳴雷」
「セイカが匂いフェチだったとは知らなかったよ」
「…………そういうのじゃない」
「はいはい。じゃあなセイカ、また明日。明日はもっと長く居るから。アキはしばらく来れないかもしれないけど」
「うん……まぁ、仕方ないな。秋風! поскорее поправляйся」
アキは堪え切れないといった様子で笑い、セイカに手を振って「ばいばい」と小さな声で言った。
「……ナイスなジョーク?」
「いや、早く治せよって言ったつもりだけど……表現硬かったのかな」
「マイネームイズって言わない、みたいな感じかな。まぁ気持ちが伝われば大丈夫だよ、今日はありがとうな、ばいばいセイカ……あっ、そうだ、ちょっともう一つ頼みが……」
おぶられてくれるよう言ってくれとセイカに頼んだが、少し揉めたような会話の後「対面での抱っこじゃなきゃ嫌だってさ」と呆れたふうに言った。
「抱っこがいいのか? おんぶの方が前見やすいんだけどなぁ……ま、いいか。おいで」
両手を広げるとアキは俺の首に腕を絡め、腰に足を絡めた。アキの尻の下でしっかりと手を組み、彼を持ち上げた。
「今度こそばいばい、またな」
「……ん」
テディベアをぎゅっと抱き締めて手を振るセイカを抱き締めたくなる気持ちを堪え、足で扉を開けて病室を後にした。
六月も終盤に差し掛かる今、晴れた日の真昼間はとても暑い。アキのために日傘を差しているから直射日光はないが、蒸されているような暑さに変わりはない。高熱のアキを抱えているのもあってあっという間に汗だくだ。
「アキぃ……大丈夫か?」
心配なのはアキだ。昨日は寒がっていたが、今はもう暑いだろう。ケチケチせずタクシーを呼ぶべきだっただろうか、俺は兄として正しい行動が取れていないのかもしれない。
「…………お兄ちゃん泣きそうだよ。なんで風邪引いちゃったんだろうな、毎日病院行ってるからか? しょっちゅう裸にさせちゃってるからか? 俺が学校とかから知らない間にウイルス持って帰ってきちゃったのかなぁ……ごめんな、アキ、ごめん……お兄ちゃん、頑張るから……お前を幸せに出来るように、頑張るから」
暑さで頭が朦朧とする。けれど、体調の悪いアキを連れて倒れるなんてあってはならない。俺はほとんど気合いだけで足を動かし、駅へと辿り着いた。
電車内の空調は大したものではなかったが、幸い空いていたので座席に座って休憩は出来た。アキは俺の隣に座らせていたが、何度促しても俺の肩に頭を預けず、眠りもしなかった。
(……アキきゅん、わたくしのことを好いてくれているのは確かですが、頼れるお兄ちゃんだとは思ってくれていませんよな……はぁ、落ち込みまそ)
俺はそんなに頼りにならないだろうか、アキより背は高いし、アキを運べる筋肉もあるのに。そう嘆く俺の脳の別の部分ではアキがチンピラを蹴り倒して俺を助けてくれた際の光景と、アキがセイカを助けその邪魔をした俺が怪我をした際の光景が再生されていた。
(頼りになりませんよなぁ、そりゃ。アキきゅんイカれた身体能力してるんですもの、わたくしのような顔以外俗人に頼る理由なんて…………今は、あるでしょう)
辛そうな呼吸すら堪え、サングラス越しに周囲を何度も確認しているアキの肩を抱いた。熱い。やはり酷い熱だ、なのにアキはその辛さを悟らせまいと気張っている。
「……アキ、お兄ちゃん居るから。ずっと、傍に、居るからな」
健気なアキにそう囁くも、やはりアキの態度は変わらなかった。勝手に落ち込みつつレイの元へ帰り、すぐにアキをベッドに寝かせた。
「俺アキくんの汗拭いとくんで、せんぱいシャワー浴びてきてくださいっす」
「あぁ、ありがとう」
タオルと水を張った洗面器を持ってきたレイに後を任せ、俺は言われた通りにシャワーを浴びた。
(…………十余年存在すら知らなかった兄弟に、兄弟としての信頼関係なんて築けないのでしょうか。アキきゅんとはセックスばっかりで、デートとかもしてませんし……恋人にも兄弟にもなれてない気がしまそ。はぁあ……落ち込みますなぁ)
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