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どいつもこいつも睡眠不足
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電車に揺られて総合病院へ。
「アキ、大丈夫か? もうすぐだからな」
待合室の椅子にアキを座らせ、受け取った問診票には俺が記入していく。
「氏名、えーっと、苗字カタカナでいいのかな……秋風、マールト……いや、待て、真ん中、まきしむびち? だったっけ、これも要るのか? アキ、アキ、名前、言うする、お願い」
「……? 秋風・マキシモヴィチ・マールト」
「マキシ……も? モか。びち…………ヴィチかな。まぁいいだろ、表記揺れはご愛嬌だよな。えーっと、手術歴は……ナシだよな、遺伝的疾患……? アルビノは、遺伝じゃないよな……アレルギー、アレルギーか、日光アレルギーではないんだよな……えー問診票意外と難しい。あっ、アキ、熱測ってくれ」
現在の体温を記すスペースがあったので、問診票と鉛筆と一緒に渡されていた体温計をアキに渡した。
「妊娠はしてない……ご職業、アキ学生でもないしな……無職かな、あっなんかこの書き方嫌。無記入でいいかな、歳書いてるしいいか」
我ながら雑だなと思いつつ記入を進めていると、二の腕をつんとつつかれた。
「測れたか? どれどれ……は? 39.8!? えっ、アキ……死ぬ!?」
「……?」
「ダメだろアキそんな高熱で歩いちゃ! お兄ちゃんにおんぶされなさいよもぉ! お兄ちゃんそんな頼りない……!? うぅ……見てろよアキぃ、医者と世間話しに来たじいちゃんばあちゃんに土下座して順番譲ってもらってくるからな、お兄ちゃんの頼りがいのあるとこ見てろよ」
と宣言したものの、この病院がそういうものなのか時間帯によるものなのか、その手の患者は今この場にはあまり居なかった。また待ち時間も数分だった。
「先生ぇ~……アキ治りますか? アキ死にませんよねぇ」
アキの喉を覗いている医者にアキの背後から鬱陶しく語りかける。医者の集中を欠いてはいけないと分かっているつもりだが、じっとしていられなかった。
「うん……まぁ、ただの風邪だね」
「ぅえぇ? でも熱高過ぎ……あの、アキ、免疫弱いって聞いたんですけど、ほら、アルビノだし……」
「秋風くんは先天性白皮症だから、色素欠乏と弱視……眼振や羞明くらいしか先天的な症状はないはずだよ?」
「…………と言いますと?」
「白い、紫外線に弱い、視力が低い、視界がブレる、眩しい、これ以外の先天的な症状はないよ。以前検査もしたから間違いない」
アキの視力が低いと感じたことはあまりない、俺が鈍いのかアキの努力の賜物なのか……
「えー……じゃあ母さんが適当言ってたのかな」
「まぁ、いわゆる免疫が弱いって言うのは事実だよ。先天的なものじゃなくて、慢性的な睡眠不足によるものだね。それと、強いストレスのせいか内臓の状態があまりよくない」
「……えっ、アキいつも俺の隣でぐっすり……してなかったのかアキぃ! えっお兄ちゃん歯ぎしりとかしてる? いびき? ストレス源はお兄ちゃん!?」
「一回落ち着こうか」
「はい」
「急に落ち着くねぇ……話、続けていいかい? 睡眠不足と高ストレスは何年も続いていることみたいでね」
じゃあ原因は俺じゃないな。
「今回は風邪の治療のためにお薬を出すから睡眠導入剤は渡せない。でも、早い治療のためには質のいい長い睡眠時間が必須だ。よく話して、よく眠れる環境を作ってあげてね、お兄ちゃん」
「…………はい」
流石に入院などは必要なかったようだ。診察室を後にし、代金を支払う。後は帰るだけだが、せっかくだしセイカのところへ顔を出しに行こう。
「お薬もらったぞ、アキ。今度こそちゃんと飲めよ。セイカの顔ちょっと見に行こう、お兄ちゃんが抱っこしていくからな」
座っているアキを抱き上げる。おんぶは嫌がっていたのに、対面で抱かれるのはいいのか体力が尽きてきたのか今は俺の腕の中で大人しくしている。
「……よしよし」
エレベーターに乗り、アキの頭を撫でながら到着を待つ。エレベーターを降り、セイカの待つ病室へと向かう。
「セイカー、えっと、こんにちは」
ぬいぐるみを傍らに置いたセイカはタブレットを弄っていた。
「……鳴雷? と、秋風……なんだ、今日は来ないと思ってたぞ。昼に電話かけても出なかったし」
「ごめんな、アキ昨日の夜遅くから熱出しててさ。電話って学校帰りのタイミングで掛けてくれたんだよな? 保険証もらうのに母さんに電話掛けてたんだよ、今診てもらったところなんだ」
パイプ椅子にアキを座らせながら事情を説明すると、拗ねていた様子だったセイカが目を丸くした。
「え、熱? 大丈夫なのか?」
「ただの風邪だって。かなり高熱だけどな」
「……こんなとこ来てる場合じゃないだろ、さっさと帰ってやれよ」
ごもっともだ。だが、俺だってセイカの顔を見るためだけに病気のアキを連れ回している訳ではない。
「アキ、不眠症と高ストレスって言われたんだよ。何か悩みがあるんじゃないかと思って……で、普通にアキと話せるセイカに聞き出してもらえないかと思ってさ。セイカの知識を利用するようで気が引けるんだけど、頼むよ。セイカしか頼れないんだ」
「俺にしか? ふぅん……うん、いいぜ」
「ありがとう! 次来る時は何かお菓子買ってくるよ」
「……いらねぇよそんなの」
「でも、セイカはロシア語頑張って勉強して話せるようになった訳で……努力しようとすらしてない俺がそれにタダ乗りするのはよくないだろ? 対価が必要だよ、通訳なんて特殊技能なんだからさ」
「…………ホント変わったヤツだよな、お前」
セイカの機嫌は良さそうだ。
「そういえばセイカ、そのタブレットどうしたんだ?」
「こっちのが読みやすいだろって看護師さんが貸してくれた。電子書籍すごいぞ」
紙の本で買った方が特典が多いし、薄い本は紙が主流なので俺は紙の本派だが、電子書籍の素晴らしさは分かっているつもりだ。隻腕のセイカには特に本よりもタブレットの方が読みやすいだろう。
「そっか、よかったな」
「うん! えっと……不眠症とストレスの原因か、どう聞くかな」
「……何か悩みないかって」
「正面突破か……まぁ、それが一番かもな」
バカ正直な俺の提案にセイカは一瞬嘲笑うような顔を見せたけれど、すぐに感心したような声を出した。続けてセイカが言ったロシア語の内容は分からない、俺の提案を採用してくれたのだろうか。
「アキ、大丈夫か? もうすぐだからな」
待合室の椅子にアキを座らせ、受け取った問診票には俺が記入していく。
「氏名、えーっと、苗字カタカナでいいのかな……秋風、マールト……いや、待て、真ん中、まきしむびち? だったっけ、これも要るのか? アキ、アキ、名前、言うする、お願い」
「……? 秋風・マキシモヴィチ・マールト」
「マキシ……も? モか。びち…………ヴィチかな。まぁいいだろ、表記揺れはご愛嬌だよな。えーっと、手術歴は……ナシだよな、遺伝的疾患……? アルビノは、遺伝じゃないよな……アレルギー、アレルギーか、日光アレルギーではないんだよな……えー問診票意外と難しい。あっ、アキ、熱測ってくれ」
現在の体温を記すスペースがあったので、問診票と鉛筆と一緒に渡されていた体温計をアキに渡した。
「妊娠はしてない……ご職業、アキ学生でもないしな……無職かな、あっなんかこの書き方嫌。無記入でいいかな、歳書いてるしいいか」
我ながら雑だなと思いつつ記入を進めていると、二の腕をつんとつつかれた。
「測れたか? どれどれ……は? 39.8!? えっ、アキ……死ぬ!?」
「……?」
「ダメだろアキそんな高熱で歩いちゃ! お兄ちゃんにおんぶされなさいよもぉ! お兄ちゃんそんな頼りない……!? うぅ……見てろよアキぃ、医者と世間話しに来たじいちゃんばあちゃんに土下座して順番譲ってもらってくるからな、お兄ちゃんの頼りがいのあるとこ見てろよ」
と宣言したものの、この病院がそういうものなのか時間帯によるものなのか、その手の患者は今この場にはあまり居なかった。また待ち時間も数分だった。
「先生ぇ~……アキ治りますか? アキ死にませんよねぇ」
アキの喉を覗いている医者にアキの背後から鬱陶しく語りかける。医者の集中を欠いてはいけないと分かっているつもりだが、じっとしていられなかった。
「うん……まぁ、ただの風邪だね」
「ぅえぇ? でも熱高過ぎ……あの、アキ、免疫弱いって聞いたんですけど、ほら、アルビノだし……」
「秋風くんは先天性白皮症だから、色素欠乏と弱視……眼振や羞明くらいしか先天的な症状はないはずだよ?」
「…………と言いますと?」
「白い、紫外線に弱い、視力が低い、視界がブレる、眩しい、これ以外の先天的な症状はないよ。以前検査もしたから間違いない」
アキの視力が低いと感じたことはあまりない、俺が鈍いのかアキの努力の賜物なのか……
「えー……じゃあ母さんが適当言ってたのかな」
「まぁ、いわゆる免疫が弱いって言うのは事実だよ。先天的なものじゃなくて、慢性的な睡眠不足によるものだね。それと、強いストレスのせいか内臓の状態があまりよくない」
「……えっ、アキいつも俺の隣でぐっすり……してなかったのかアキぃ! えっお兄ちゃん歯ぎしりとかしてる? いびき? ストレス源はお兄ちゃん!?」
「一回落ち着こうか」
「はい」
「急に落ち着くねぇ……話、続けていいかい? 睡眠不足と高ストレスは何年も続いていることみたいでね」
じゃあ原因は俺じゃないな。
「今回は風邪の治療のためにお薬を出すから睡眠導入剤は渡せない。でも、早い治療のためには質のいい長い睡眠時間が必須だ。よく話して、よく眠れる環境を作ってあげてね、お兄ちゃん」
「…………はい」
流石に入院などは必要なかったようだ。診察室を後にし、代金を支払う。後は帰るだけだが、せっかくだしセイカのところへ顔を出しに行こう。
「お薬もらったぞ、アキ。今度こそちゃんと飲めよ。セイカの顔ちょっと見に行こう、お兄ちゃんが抱っこしていくからな」
座っているアキを抱き上げる。おんぶは嫌がっていたのに、対面で抱かれるのはいいのか体力が尽きてきたのか今は俺の腕の中で大人しくしている。
「……よしよし」
エレベーターに乗り、アキの頭を撫でながら到着を待つ。エレベーターを降り、セイカの待つ病室へと向かう。
「セイカー、えっと、こんにちは」
ぬいぐるみを傍らに置いたセイカはタブレットを弄っていた。
「……鳴雷? と、秋風……なんだ、今日は来ないと思ってたぞ。昼に電話かけても出なかったし」
「ごめんな、アキ昨日の夜遅くから熱出しててさ。電話って学校帰りのタイミングで掛けてくれたんだよな? 保険証もらうのに母さんに電話掛けてたんだよ、今診てもらったところなんだ」
パイプ椅子にアキを座らせながら事情を説明すると、拗ねていた様子だったセイカが目を丸くした。
「え、熱? 大丈夫なのか?」
「ただの風邪だって。かなり高熱だけどな」
「……こんなとこ来てる場合じゃないだろ、さっさと帰ってやれよ」
ごもっともだ。だが、俺だってセイカの顔を見るためだけに病気のアキを連れ回している訳ではない。
「アキ、不眠症と高ストレスって言われたんだよ。何か悩みがあるんじゃないかと思って……で、普通にアキと話せるセイカに聞き出してもらえないかと思ってさ。セイカの知識を利用するようで気が引けるんだけど、頼むよ。セイカしか頼れないんだ」
「俺にしか? ふぅん……うん、いいぜ」
「ありがとう! 次来る時は何かお菓子買ってくるよ」
「……いらねぇよそんなの」
「でも、セイカはロシア語頑張って勉強して話せるようになった訳で……努力しようとすらしてない俺がそれにタダ乗りするのはよくないだろ? 対価が必要だよ、通訳なんて特殊技能なんだからさ」
「…………ホント変わったヤツだよな、お前」
セイカの機嫌は良さそうだ。
「そういえばセイカ、そのタブレットどうしたんだ?」
「こっちのが読みやすいだろって看護師さんが貸してくれた。電子書籍すごいぞ」
紙の本で買った方が特典が多いし、薄い本は紙が主流なので俺は紙の本派だが、電子書籍の素晴らしさは分かっているつもりだ。隻腕のセイカには特に本よりもタブレットの方が読みやすいだろう。
「そっか、よかったな」
「うん! えっと……不眠症とストレスの原因か、どう聞くかな」
「……何か悩みないかって」
「正面突破か……まぁ、それが一番かもな」
バカ正直な俺の提案にセイカは一瞬嘲笑うような顔を見せたけれど、すぐに感心したような声を出した。続けてセイカが言ったロシア語の内容は分からない、俺の提案を採用してくれたのだろうか。
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