539 / 2,016
どいつもこいつも睡眠不足
しおりを挟む
電車に揺られて総合病院へ。
「アキ、大丈夫か? もうすぐだからな」
待合室の椅子にアキを座らせ、受け取った問診票には俺が記入していく。
「氏名、えーっと、苗字カタカナでいいのかな……秋風、マールト……いや、待て、真ん中、まきしむびち? だったっけ、これも要るのか? アキ、アキ、名前、言うする、お願い」
「……? 秋風・マキシモヴィチ・マールト」
「マキシ……も? モか。びち…………ヴィチかな。まぁいいだろ、表記揺れはご愛嬌だよな。えーっと、手術歴は……ナシだよな、遺伝的疾患……? アルビノは、遺伝じゃないよな……アレルギー、アレルギーか、日光アレルギーではないんだよな……えー問診票意外と難しい。あっ、アキ、熱測ってくれ」
現在の体温を記すスペースがあったので、問診票と鉛筆と一緒に渡されていた体温計をアキに渡した。
「妊娠はしてない……ご職業、アキ学生でもないしな……無職かな、あっなんかこの書き方嫌。無記入でいいかな、歳書いてるしいいか」
我ながら雑だなと思いつつ記入を進めていると、二の腕をつんとつつかれた。
「測れたか? どれどれ……は? 39.8!? えっ、アキ……死ぬ!?」
「……?」
「ダメだろアキそんな高熱で歩いちゃ! お兄ちゃんにおんぶされなさいよもぉ! お兄ちゃんそんな頼りない……!? うぅ……見てろよアキぃ、医者と世間話しに来たじいちゃんばあちゃんに土下座して順番譲ってもらってくるからな、お兄ちゃんの頼りがいのあるとこ見てろよ」
と宣言したものの、この病院がそういうものなのか時間帯によるものなのか、その手の患者は今この場にはあまり居なかった。また待ち時間も数分だった。
「先生ぇ~……アキ治りますか? アキ死にませんよねぇ」
アキの喉を覗いている医者にアキの背後から鬱陶しく語りかける。医者の集中を欠いてはいけないと分かっているつもりだが、じっとしていられなかった。
「うん……まぁ、ただの風邪だね」
「ぅえぇ? でも熱高過ぎ……あの、アキ、免疫弱いって聞いたんですけど、ほら、アルビノだし……」
「秋風くんは先天性白皮症だから、色素欠乏と弱視……眼振や羞明くらいしか先天的な症状はないはずだよ?」
「…………と言いますと?」
「白い、紫外線に弱い、視力が低い、視界がブレる、眩しい、これ以外の先天的な症状はないよ。以前検査もしたから間違いない」
アキの視力が低いと感じたことはあまりない、俺が鈍いのかアキの努力の賜物なのか……
「えー……じゃあ母さんが適当言ってたのかな」
「まぁ、いわゆる免疫が弱いって言うのは事実だよ。先天的なものじゃなくて、慢性的な睡眠不足によるものだね。それと、強いストレスのせいか内臓の状態があまりよくない」
「……えっ、アキいつも俺の隣でぐっすり……してなかったのかアキぃ! えっお兄ちゃん歯ぎしりとかしてる? いびき? ストレス源はお兄ちゃん!?」
「一回落ち着こうか」
「はい」
「急に落ち着くねぇ……話、続けていいかい? 睡眠不足と高ストレスは何年も続いていることみたいでね」
じゃあ原因は俺じゃないな。
「今回は風邪の治療のためにお薬を出すから睡眠導入剤は渡せない。でも、早い治療のためには質のいい長い睡眠時間が必須だ。よく話して、よく眠れる環境を作ってあげてね、お兄ちゃん」
「…………はい」
流石に入院などは必要なかったようだ。診察室を後にし、代金を支払う。後は帰るだけだが、せっかくだしセイカのところへ顔を出しに行こう。
「お薬もらったぞ、アキ。今度こそちゃんと飲めよ。セイカの顔ちょっと見に行こう、お兄ちゃんが抱っこしていくからな」
座っているアキを抱き上げる。おんぶは嫌がっていたのに、対面で抱かれるのはいいのか体力が尽きてきたのか今は俺の腕の中で大人しくしている。
「……よしよし」
エレベーターに乗り、アキの頭を撫でながら到着を待つ。エレベーターを降り、セイカの待つ病室へと向かう。
「セイカー、えっと、こんにちは」
ぬいぐるみを傍らに置いたセイカはタブレットを弄っていた。
「……鳴雷? と、秋風……なんだ、今日は来ないと思ってたぞ。昼に電話かけても出なかったし」
「ごめんな、アキ昨日の夜遅くから熱出しててさ。電話って学校帰りのタイミングで掛けてくれたんだよな? 保険証もらうのに母さんに電話掛けてたんだよ、今診てもらったところなんだ」
パイプ椅子にアキを座らせながら事情を説明すると、拗ねていた様子だったセイカが目を丸くした。
「え、熱? 大丈夫なのか?」
「ただの風邪だって。かなり高熱だけどな」
「……こんなとこ来てる場合じゃないだろ、さっさと帰ってやれよ」
ごもっともだ。だが、俺だってセイカの顔を見るためだけに病気のアキを連れ回している訳ではない。
「アキ、不眠症と高ストレスって言われたんだよ。何か悩みがあるんじゃないかと思って……で、普通にアキと話せるセイカに聞き出してもらえないかと思ってさ。セイカの知識を利用するようで気が引けるんだけど、頼むよ。セイカしか頼れないんだ」
「俺にしか? ふぅん……うん、いいぜ」
「ありがとう! 次来る時は何かお菓子買ってくるよ」
「……いらねぇよそんなの」
「でも、セイカはロシア語頑張って勉強して話せるようになった訳で……努力しようとすらしてない俺がそれにタダ乗りするのはよくないだろ? 対価が必要だよ、通訳なんて特殊技能なんだからさ」
「…………ホント変わったヤツだよな、お前」
セイカの機嫌は良さそうだ。
「そういえばセイカ、そのタブレットどうしたんだ?」
「こっちのが読みやすいだろって看護師さんが貸してくれた。電子書籍すごいぞ」
紙の本で買った方が特典が多いし、薄い本は紙が主流なので俺は紙の本派だが、電子書籍の素晴らしさは分かっているつもりだ。隻腕のセイカには特に本よりもタブレットの方が読みやすいだろう。
「そっか、よかったな」
「うん! えっと……不眠症とストレスの原因か、どう聞くかな」
「……何か悩みないかって」
「正面突破か……まぁ、それが一番かもな」
バカ正直な俺の提案にセイカは一瞬嘲笑うような顔を見せたけれど、すぐに感心したような声を出した。続けてセイカが言ったロシア語の内容は分からない、俺の提案を採用してくれたのだろうか。
「アキ、大丈夫か? もうすぐだからな」
待合室の椅子にアキを座らせ、受け取った問診票には俺が記入していく。
「氏名、えーっと、苗字カタカナでいいのかな……秋風、マールト……いや、待て、真ん中、まきしむびち? だったっけ、これも要るのか? アキ、アキ、名前、言うする、お願い」
「……? 秋風・マキシモヴィチ・マールト」
「マキシ……も? モか。びち…………ヴィチかな。まぁいいだろ、表記揺れはご愛嬌だよな。えーっと、手術歴は……ナシだよな、遺伝的疾患……? アルビノは、遺伝じゃないよな……アレルギー、アレルギーか、日光アレルギーではないんだよな……えー問診票意外と難しい。あっ、アキ、熱測ってくれ」
現在の体温を記すスペースがあったので、問診票と鉛筆と一緒に渡されていた体温計をアキに渡した。
「妊娠はしてない……ご職業、アキ学生でもないしな……無職かな、あっなんかこの書き方嫌。無記入でいいかな、歳書いてるしいいか」
我ながら雑だなと思いつつ記入を進めていると、二の腕をつんとつつかれた。
「測れたか? どれどれ……は? 39.8!? えっ、アキ……死ぬ!?」
「……?」
「ダメだろアキそんな高熱で歩いちゃ! お兄ちゃんにおんぶされなさいよもぉ! お兄ちゃんそんな頼りない……!? うぅ……見てろよアキぃ、医者と世間話しに来たじいちゃんばあちゃんに土下座して順番譲ってもらってくるからな、お兄ちゃんの頼りがいのあるとこ見てろよ」
と宣言したものの、この病院がそういうものなのか時間帯によるものなのか、その手の患者は今この場にはあまり居なかった。また待ち時間も数分だった。
「先生ぇ~……アキ治りますか? アキ死にませんよねぇ」
アキの喉を覗いている医者にアキの背後から鬱陶しく語りかける。医者の集中を欠いてはいけないと分かっているつもりだが、じっとしていられなかった。
「うん……まぁ、ただの風邪だね」
「ぅえぇ? でも熱高過ぎ……あの、アキ、免疫弱いって聞いたんですけど、ほら、アルビノだし……」
「秋風くんは先天性白皮症だから、色素欠乏と弱視……眼振や羞明くらいしか先天的な症状はないはずだよ?」
「…………と言いますと?」
「白い、紫外線に弱い、視力が低い、視界がブレる、眩しい、これ以外の先天的な症状はないよ。以前検査もしたから間違いない」
アキの視力が低いと感じたことはあまりない、俺が鈍いのかアキの努力の賜物なのか……
「えー……じゃあ母さんが適当言ってたのかな」
「まぁ、いわゆる免疫が弱いって言うのは事実だよ。先天的なものじゃなくて、慢性的な睡眠不足によるものだね。それと、強いストレスのせいか内臓の状態があまりよくない」
「……えっ、アキいつも俺の隣でぐっすり……してなかったのかアキぃ! えっお兄ちゃん歯ぎしりとかしてる? いびき? ストレス源はお兄ちゃん!?」
「一回落ち着こうか」
「はい」
「急に落ち着くねぇ……話、続けていいかい? 睡眠不足と高ストレスは何年も続いていることみたいでね」
じゃあ原因は俺じゃないな。
「今回は風邪の治療のためにお薬を出すから睡眠導入剤は渡せない。でも、早い治療のためには質のいい長い睡眠時間が必須だ。よく話して、よく眠れる環境を作ってあげてね、お兄ちゃん」
「…………はい」
流石に入院などは必要なかったようだ。診察室を後にし、代金を支払う。後は帰るだけだが、せっかくだしセイカのところへ顔を出しに行こう。
「お薬もらったぞ、アキ。今度こそちゃんと飲めよ。セイカの顔ちょっと見に行こう、お兄ちゃんが抱っこしていくからな」
座っているアキを抱き上げる。おんぶは嫌がっていたのに、対面で抱かれるのはいいのか体力が尽きてきたのか今は俺の腕の中で大人しくしている。
「……よしよし」
エレベーターに乗り、アキの頭を撫でながら到着を待つ。エレベーターを降り、セイカの待つ病室へと向かう。
「セイカー、えっと、こんにちは」
ぬいぐるみを傍らに置いたセイカはタブレットを弄っていた。
「……鳴雷? と、秋風……なんだ、今日は来ないと思ってたぞ。昼に電話かけても出なかったし」
「ごめんな、アキ昨日の夜遅くから熱出しててさ。電話って学校帰りのタイミングで掛けてくれたんだよな? 保険証もらうのに母さんに電話掛けてたんだよ、今診てもらったところなんだ」
パイプ椅子にアキを座らせながら事情を説明すると、拗ねていた様子だったセイカが目を丸くした。
「え、熱? 大丈夫なのか?」
「ただの風邪だって。かなり高熱だけどな」
「……こんなとこ来てる場合じゃないだろ、さっさと帰ってやれよ」
ごもっともだ。だが、俺だってセイカの顔を見るためだけに病気のアキを連れ回している訳ではない。
「アキ、不眠症と高ストレスって言われたんだよ。何か悩みがあるんじゃないかと思って……で、普通にアキと話せるセイカに聞き出してもらえないかと思ってさ。セイカの知識を利用するようで気が引けるんだけど、頼むよ。セイカしか頼れないんだ」
「俺にしか? ふぅん……うん、いいぜ」
「ありがとう! 次来る時は何かお菓子買ってくるよ」
「……いらねぇよそんなの」
「でも、セイカはロシア語頑張って勉強して話せるようになった訳で……努力しようとすらしてない俺がそれにタダ乗りするのはよくないだろ? 対価が必要だよ、通訳なんて特殊技能なんだからさ」
「…………ホント変わったヤツだよな、お前」
セイカの機嫌は良さそうだ。
「そういえばセイカ、そのタブレットどうしたんだ?」
「こっちのが読みやすいだろって看護師さんが貸してくれた。電子書籍すごいぞ」
紙の本で買った方が特典が多いし、薄い本は紙が主流なので俺は紙の本派だが、電子書籍の素晴らしさは分かっているつもりだ。隻腕のセイカには特に本よりもタブレットの方が読みやすいだろう。
「そっか、よかったな」
「うん! えっと……不眠症とストレスの原因か、どう聞くかな」
「……何か悩みないかって」
「正面突破か……まぁ、それが一番かもな」
バカ正直な俺の提案にセイカは一瞬嘲笑うような顔を見せたけれど、すぐに感心したような声を出した。続けてセイカが言ったロシア語の内容は分からない、俺の提案を採用してくれたのだろうか。
0
お気に入りに追加
1,228
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
就職するところがない俺は男用のアダルトグッズの会社に就職しました
柊香
BL
倒産で職を失った俺はアダルトグッズ開発会社に就職!?
しかも男用!?
好条件だから仕方なく入った会社だが慣れるとだんだん良くなってきて…
二作目です!
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる