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甘みに蕩けるお顔

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蜂の巣を欲しがらなかった者も居たので、余った分は他の者で均等に分け直していた。アキにやってくれと頼んだセイカの分だけはそのままアキの皿に乗せたが、何故かロシア語での口論が始まってアキが蜂の巣をセイカの口にねじ込むという珍事件が起きた。

「ア、アキ! なんてことするんだ!」

蜂の巣を食べたくない理由は、虫を連想して気持ち悪くなるからだとか、そんなところだろう。そんな繊細な者に、それも特にセイカには、強硬手段など取ってはならない。

「セイカっ、アキがごめん! 大丈夫か? ぺっするか?」

セイカの口の前に皿を差し出したが、彼はムスッとした顔で蜂の巣を咀嚼し、目を見開き、頬を薄紅色に染め、目をゆっくりと閉じて「んん……!」と高い声を漏らした。美味しかったのかな?

「はぁ……結果よかったからいいけど、ダメだぞアキぃ」

「すぇかーちか、食べるするしない、すぇかーちか……ぅー……ぁー…………だめです、すぇかーちか、食べるするしない、だめです! ぼく渡すする、だめです」

日本語での上手い言い方が分からず、理由を言えないままただ「ダメ」と語っているのだろうか。

「……セイカが遠慮して寄越してくるの、嫌なのか? セイカにもちゃんと食べて欲しいのか? アキは優しいなぁ……でも無理矢理突っ込んじゃダメだぞ。セイカも、嫌なら食べなくていいけど、食べれそうなら遠慮するなよ? ネザメさんセイカに食べて欲しくて用意してくれてるんだからな」

セイカはジトっとした目で俺を睨んだが、その目はすぐにとろんと蕩けた。

(……もぐもぐ全然やめませんなセイカ様! かわゆい。めっちゃ気に入っるみたいですな……表情勝手に変わっちゃうんですなぁ、かわゆいゆいでそ)

俺は食事をする姿、特に美味しそうに食べる姿はエロいものと認識しているのだが、人間みんなそういうものなのだろうか。珍しいフェチなのだろうか。
もちろん不味いものを無理矢理食べて涙目になったり嘔吐いたりしているのもエロいのだが、そっちは正統派のエロな気がする。ただ美味しそうに食べているだけの姿がエロいと思うのはフェチな気がする。

(目ぇ死んでるのにお顔とろっとろ……かわゆすぎて勃っちゃいそうでそ)

《だらしねぇ顔。あー……なんか美味そうに食ってんの見てたら勃ちそう》

《……っ、何……秋風が俺に向けてるのは友情だと思ってたんだけど、お前も鳴雷みたいに俺に……その、ムラムラするのか?》

《スェカーチカはマブダチだぜ。今度兄貴と3Pしような、スェカーチカのならしゃぶってやってもいいからよ。ちゃんと洗っとけよー? ハハッ!》

《俺お前が分かんないよ……》

またなんか話してる。いいなぁ、俺もアキと普通に話してみたいし、セイカともっと何気ない会話を楽しみたい。

「水月くん、どうだい? 蜂の巣は」

「あっ、はい、すごく美味しいです。食感も面白いし、ホントにもう蜂蜜が固まったものって感じで、すっごく美味しいです」

「喜んでもらえてよかったよ。秋風くんはどうだい?」

聞かなくても顔を見れば分かる。美味いものを食べれば誰でも自然と笑顔になってしまうものだ。

「アキ、それ、美味しいか?」

「вкусный!」

「ふくーすにぃ……?」

「美味しいってさ」

「おい、しー、です! もみじー、ぼく、また、食べるするしたいです」

「また食べたいのかい? 蜂蜜の質は季節によるからねぇ……その味の違いを楽しむのもまたいいのだけれど」

ニホンミツバチとセイヨウミツバチの蜂蜜の違いすら分からないらしい人が同じハチの蜂蜜の違いなんて語ってる。

「霞染くん達が食べてくれなかったのは残念だけれど、みんな概ね喜んでくれたみたいでよかった」

「食べ終わった者は勉強を再開しろ。皿はミフユが持っていく。ネザメ様、ネザメ様も勉強を再開なさってください」

面倒臭そうにため息をついたネザメが勉強道具を並べるのを見て、他の彼氏達も勉強道具を再び机に乗せていく。休憩はもう終わりだ。




おやつの時間が終わってから俺達は勉強をし続けた。勉強を教えることも出来ず退屈なのだろうレイはいつの間にか座ったまま眠っていた。

(寝ちゃったレイどのもかわゆいですな。皆様の真剣な顔もたまりませんぞ)

やはり俺はしょっちゅう彼氏達に目を奪われてしまい、勉強に集中出来なかった。赤点を回避するなんて不可能なのかもしれない。

「みんな夕飯は食べていかないんだったね、少し寂しいよ」

「え、もうそんな時間? やば」

「今度はみんなで夕飯を囲もう、一緒に寝ようじゃないか」

そういえば腹が減ったななんて話しながら勉強道具を片付け、席を立つ。挨拶だけをして玄関へと向かう彼氏達に対し、俺はまずミフユを抱き締めた。小さな身体に庇護欲が煽られる。

「さようなら、ミフユさん。数日会えないなんて寂しいですけど……修学旅行、楽しんできてくださいね」

「う、うむっ」

「……キスしても?」

「いい、だろう……するがいい」

緊張している様子のミフユの頬を撫で、そっと唇を重ねる。これから帰るというのに勃ってしまってはまずいので、舌は入れずすぐに口を離した。

「……少し寂しくなってしまうな」

大きな目を細めてそう呟くミフユの顔はどこか幸せそうに見える。

「さよならのキス、僕にはないのかい?」

俺の肩をつついたネザメは俺の視線が自分に向いたのを確認すると、その人差し指で自身の唇を指した。俺はすぐにネザメを抱き寄せ、唇を重ねた。

「んっ……」

ミフユは小さいけれど丈夫そうな身体をしているが、ネザメはその逆だ。頼りない腰や内臓が全て入っているのか不安になる腹、ミフユが管理しているだろうから痩せ過ぎということはないのだろうが、少し心配だ。

「……ディープは旅行から帰るまでお預けかい?」

「俺がお預け食らうんですよ。もう帰らなきゃいけないのに興奮だけするなんて、ねぇ」

「ふふっ……また、えっと……来週かな、元気でね」

「ネザメさんこそ」

微笑み合って別れ、待ちくたびれたとボヤく彼氏達に合流する。徒歩と電車で帰宅するつもりだったが、邸宅のすぐ外に車が停まっていた。
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