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いざプレイルームへ

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テスト勉強を始めてから数十分後、ミフユの叔父が歌見を案内してきてくれた。二次元でしか見ないような豪邸に彼も緊張しているのだろう、仕草も表情も話し方すらも硬い。

「いらっしゃい歌見さん、迷わなかったかい?」

「あっ、あぁ……迷いはしなかったが、家が立派で……かなり驚いている」

「歌見殿、こちらへどうぞ。昼食は済まされたか?」

「あぁ、お気遣いなく……」

ミフユが新しく椅子を持ってきて、歌見はそこに腰を下ろす。居心地悪そうにしながらも隣に座っているシュカのノートを覗き込んだ。

「こんにちは、歌見」

「こんにちは。お前なんで俺だけ呼び捨てで……いや、いい。それ、覚えやすい語呂合わせ教えてやろうか?」

「……お願いします」

経験を活かした教えを授けた後、歌見は不意にセイカの方を向いた。

「っと、ぬいぐるみに隠れてよく見えなかった。お前とははじめまして……だよな?」

「…………狭雲 星火」

「歌見 七夜だ。よろしくな」

立ち上がった歌見はセイカの近くへ寄り、右手を差し出した。目的は握手だろう。セイカもそう察し、右腕を伸ばした。

「…………」

セイカの右腕は肘から下数センチの位置で切断されている。反射的に差し出してしまったのだろうが、握手する右手はない。セイカは死んだ魚のような目で歌見を見上げ、そっと右腕を引っ込めて左手を差し出した。

「………………すまない」

気まずそうに左手に変えて握手をした歌見は重苦しい空気に耐え切れず、ただ一言謝った。

「あー、水月、何か教えて欲しい教科はないか?」

「あっ、化学がちょっと怪しくて」

「化学か、得意分野じゃないが……まぁ見せてみろ」

握手を終えると歌見は気まずい空気とセイカから逃げ、セイカはテディベアを強く抱き締め、居眠りをする学生のように身を丸めた。

(セイカ様ァアアッ! くっ、パイセンめやらかしてくれましたな、アレはもう謝らない方がマシなんでそ! アキきゅん何とかしてくだされ!)

状況を理解している俺が慰めてもセイカは惨めな気分になるだけかもしれない。状況も空気も理解出来ないだろうアキにセイカを元気付けてもらおう、そう考えてアキに視線を向けた。

「うーん骨格の理解が浅いっすねー。あと人体には厚みってものがあるっす、立体をちゃんと捉えないといけないっすよ」

「むずかしいです……」

テスト勉強の助っ人になれず暇を持て余したレイとアキは二人だけで絵画教室を開いていた、アキはレイのペンタブを借りて何かを描いているようだ。

(微笑ましいですが今ではありませんぞ!)

俺の視線に気付けとウインクを送ってみるも、今の彼らの目にはペンタブしか映っていないようだった。

「あー! もぉ! りゅー教えんのヘッタクソ! せーか、せーか! 数学頼める~?」

「……へっ? ぁ……うん、こっち来てくれたら」

「行く行く~、ちょっと待ってね~。も~最初からせーかに頼めばよかったぁ~ん」

顔を上げたセイカは慌てて目を擦りながら返事をし、ハルは筆記具とワークノートを片手に椅子を引き摺ってセイカの隣に移動した。

(ハルどの……ありがとうございますっ!)

今セイカを一人にしておくのはまずいと判断してくれたのだろう、その証拠にヘタクソと罵られたリュウは何食わぬ顔で課題を進めている。

(俺の彼氏達は最高だぜ!)

補い合える、助け合える、この空間に置いておけばきっとセイカの傷付きひねくれた心も癒えて真っ直ぐに戻る。俺に本物の笑顔を見せてくれるはずだ。



全員の集中力が緩やかに切れ始めた頃、俺は湧き上がる性欲に悩まされていた。六月も後半に入り暑くなってきたからと薄着な彼氏達が周りに居てムラムラしない方がおかしい。

「水月、手が止まってるぞ。分からないのか?」

何より俺の性欲を煽るのは歌見だ。俺とシュカの勉強を主に見てくれている彼は俺の斜め後ろに立って俺の手元を覗き込んでくるので、頭に分厚い胸筋が押し付けられるのだ。わざとなのかと詰め寄りたいくらいに。

「この解き方はな……」

上質な筋肉で構成された歌見の大きな胸は後頭部で触れても分かるくらいに柔らかい。思わず頭をぐりっと押し付けてしまうと、歌見は驚いて飛び退いた。わざとではなかったらしい。

「……っ、勉強に集中しろ」

歌見は以前、俺のせいで胸を意識するようになってしまったと語った。今日来ている襟ぐりの狭いシャツも新しく買ったものだろう、谷間は見えないが胸周りはパツパツで俺の肉欲を煽る着こなしとなっている。

「歌見、すみません」

「あ、あぁ……どこが分からないんだ?」

トイレを借りて抜いてこようか。いや、他人の家で……それもこんな豪邸でそんなことをするのは躊躇われる。もう正直に言おう。

「…………ネザメさん」

「ん? なんだい?」

「そのー……ムラムラして集中出来なくなってきて、プレイルーム? 貸して欲しいなー……って」

「……ふふ、いいよ。案内しよう。集中出来ないまま勉強するよりも、リフレッシュを挟んだ方がいい。いいよね? ミフユ」

ミフユはわざとらしく深いため息をついて立ち上がり、鍵を持ってくると言って部屋を出た。

「他に来たい子は居るかい?」

「行きたいのはやまやまですが、今はちょっとキリが悪いです」

歌見とハルは頬を赤らめて首を横に振り、リュウは集中していて返事をせず、レイは筆が乗ってきたからと断った。アキはお絵描きもやめて暇そうだが……

《…………兄貴と紅葉、ヤりに行くってよ。複数人でもいいらしいぞ》

《え、マジ? 行きたい行きたい》

「鳴雷、秋風行きたいってさ」

足をぷらぷらと揺らしていたアキが立ち上がり、俺に抱きついて俺を見上げて小首を傾げる。

「連れでぐ……」

「よしっ……! それじゃあ行こうか、水月くん秋風くん」

俺だけでなくアキまで呼べたことにネザメは心底喜んでいる様子だ。上機嫌な彼の横顔は普段以上に美しく、案内されながら見とれてしまった。
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