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日本語以外は拙くない
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ネザメにアキの翻訳係として頼られたセイカは役割を与えられ居場所が出来たことに喜び、嬉しそうに「任せろ」と言った。
「それじゃあまずは……ふふ、照れるなぁ、僕のことをどう思っているのか聞いてくれるかい?」
「あぁ、いいけど……え、それ聞くのか? お前鳴雷が好きなんじゃ……」
「僕は美しいものが好きなんだよ、秋風くんにも好かれていたい」
「あぁそう………………俺には興味なさそうだなお前」
ボソッと自虐を呟いた後、アキにロシア語で何か尋ねた。アキはネザメを一瞥し、セイカに何か伝えた。
「……どうだい?」
「あー……うん、まぁ……」
「秋風くんの言ったことをそのまま伝えてくれて構わないよ? あまりよく思われていないだろうというのは分かっている、覚悟はあるよ」
「あぁ、そう? じゃあそのまま言うけど……」
セイカは何やら躊躇っているようだが、見た目も言動も可愛いアキがそんな酷いことを言うとは思えない。
「会話やスキンシップは嫌がるくせにジロジロ見てきて不愉快、気持ち悪い」
アキひっど。
「…………そこまで、思われてるなんて」
「ネ、ネザメ様! しっかり!」
「あー……多分だけどな、アルビノだから物珍しがってるんだって思われてる」
「珍しいとは思うけれど僕が真に愛でたいのはその造形だよ! 鳴雷くんもそうだけれど本当に素晴らしい顔をしている、もちろん顔だけじゃなく胴や手足のバランスも──」
「会話とかスキンシップちゃんとやってりゃ普通の好意って思われたんじゃねぇかな。近寄ったら逃げたらそりゃ、珍しい動物観察したいけど近くに来たら怖い、みたいな感じだと思うだろ」
「……美し過ぎる顔が間近で表情を変えたらそれを見るのに必死で脳の容量が足りなくなるだろう? 上手く話せないのは大目に見て欲しいよ……そう伝えてくれないかい?」
静かな室内に聞き慣れない言語での問答が響く。
「どっちにしろ不愉快だしキモいってさ。会話もスキンシップも出来ない奴とは友達になれないって」
「ハッキリ言いよんなぁアキくん」
「正論言い過ぎると友達出来ませんよ」
「嫌味もな! どこが正論だと言うんだ鳥待一年生! ネザメ様の素晴らしさを分かっていない愚論だ!」
「いいよミフユ。みんな、僕は秋風くんと仲良くなりたいんだ、協力してくれないかい?」
俺は二つ返事で了承したが、他の彼氏達はみな乗り気ではない。今日は勉強会のために集まったのだから──なんて真面目な者達ではない、単にネザメがあまり好かれていないのだろう。
「…………協力してくれるなら今日のおやつにはとても珍しい物を出そう。父様のお知り合いがくださった一般には出回らない特別な品だ」
「しゃーないなぁやったろぉやないか!」
「何でもしますよ」
「協力するする~!」
「頑張るっす!」
現金な連中だ。カンナはリュウの隣で縮こまったままだが、多分元から協力する気もしない気もないだろう。彼もまだアキとろくに話していないし。
「失礼します」
「叔父様っ、ありがとうございます。配膳を手伝います」
ソファの前に置かれた背の低い机に食事が並べられる。
「え~、ケーキスタンド初めて生で見た~!」
トレーが三段になった海外のティータイムで見かける例のアレはケーキスタンドという名前なのか……今置かれているのはサンドイッチっぽいけど。
「……サンドイッチばかりですね?」
「テスト勉強をなさると聞きましたので、片手で食べられるものが良いかと……食べながらというのは行儀の悪い行為ですが、勉学に励む学生は食事の時間も惜しむもの。食べないよりはいいでしょう」
「…………食べる暇があるなら勉強する、なんて少数派だと思うけどなぁ」
レイの耳元でそう囁くと「そっすね」と困ったような笑顔で返してくれたが、セイカが一瞬だけ目を見開いて驚き、気まずそうに俯いた。
《ラッキーだったなスェカーチカ、利き手じゃなくても楽に食えるぜ。俺はてっきりナイフとフォーク使ったフルコースでも出されるもんだと思ってたぜ》
「……あっ」
不意に何かに気付いたようにセイカが配膳中のミフユの叔父を見上げる。
「では、ごゆっくり」
しかし彼はセイカの視線に気付くことなく部屋を出ていった。
《…………俺のためなのかな。客用の車椅子とかおかしいと思ってた。俺のこと事前に言ってくれてたから……多分。なぁ、秋風、紅葉は良い奴だよ。変態なだけだ。あんまり嫌ってやるな》
《悪い奴とは思ってねぇよ。嫌ってる訳でもねぇ、ろくに会話出来ないヤツを好きになりようがねぇってだけ。どーとも思ってねぇよ》
《……無関心は嫌いより酷ぇからな》
《そう言われてもなー、関心とか興味なんて他人に持てって言われて持てるもんじゃねぇし》
セイカとアキはずっとボソボソと二人にしか分からない言葉で話している。ネザメはもちろん、他の彼氏達もそれを気にしている。アキが案外と歯に衣着せぬ人物評価をすると分かって不安なのかもしれない、この流れはまずい。
(アキきゅんが陰口叩いてるみたいな感じになっちゃうかもしれませんぞ!)
内容までは聞き取れないヒソヒソ話が異様に気になるのと同じだ。そういう場合、大抵の人間は他者が自分をこき下ろす話をしていると思い込んでしまうだろう、少なくとも痩せるまでの俺はそうだった。このままでは彼氏達の無意識下でアキの好感度が下がってしまう。
「すごく美味しいですねこのサンドイッチ! 特にこの、ローストビーフのヤツ最高です!」
「分かる~」
「カツサンドもええで。めっちゃ分厚いし美味いし……俺が今まで食うてた肉あんのかないんか分からんみたいなカツサンドなんやったんやろ」
よし、意識を逸らせた。
「お気に召してくれたようで何よりだよ。天正くん、君は秋風くんと仲が良かったよね? 仲良くなるコツとか教えてもらえると嬉しいな」
「コツ言われましても……話出来るようならなあかんのとちゃいます?」
「……うん、鳴雷くんからもらった写真を見て彼の美貌にはもう随分と慣れた。今なら……きっと」
ネザメは席を立ち、アキの前に跪いた。
《今度一緒にバーニャ入ろうぜスェカーチカ、可愛いアンタと熱くなりたい》
《紅葉さん来てるぞ、話したそうだ》
「もみじー? 話すするです?」
「……! あ、あぁ、するよ。君と話をしたい」
ネザメが心底嬉しそうな笑顔を浮かべると、アキもそれに応えるようにニコっと微笑んだ。
「はっ……ぁ、あ、美しい……! なんて美しい」
《気持ち悪ぃしジロジロ見てくんのウザいけど、過剰反応すんのは面白いし悪い気しないよなー》
セイカが呆れたようなため息をついているのが気になるけれど、ネザメとアキはようやく仲良くなれそう……かな?
「それじゃあまずは……ふふ、照れるなぁ、僕のことをどう思っているのか聞いてくれるかい?」
「あぁ、いいけど……え、それ聞くのか? お前鳴雷が好きなんじゃ……」
「僕は美しいものが好きなんだよ、秋風くんにも好かれていたい」
「あぁそう………………俺には興味なさそうだなお前」
ボソッと自虐を呟いた後、アキにロシア語で何か尋ねた。アキはネザメを一瞥し、セイカに何か伝えた。
「……どうだい?」
「あー……うん、まぁ……」
「秋風くんの言ったことをそのまま伝えてくれて構わないよ? あまりよく思われていないだろうというのは分かっている、覚悟はあるよ」
「あぁ、そう? じゃあそのまま言うけど……」
セイカは何やら躊躇っているようだが、見た目も言動も可愛いアキがそんな酷いことを言うとは思えない。
「会話やスキンシップは嫌がるくせにジロジロ見てきて不愉快、気持ち悪い」
アキひっど。
「…………そこまで、思われてるなんて」
「ネ、ネザメ様! しっかり!」
「あー……多分だけどな、アルビノだから物珍しがってるんだって思われてる」
「珍しいとは思うけれど僕が真に愛でたいのはその造形だよ! 鳴雷くんもそうだけれど本当に素晴らしい顔をしている、もちろん顔だけじゃなく胴や手足のバランスも──」
「会話とかスキンシップちゃんとやってりゃ普通の好意って思われたんじゃねぇかな。近寄ったら逃げたらそりゃ、珍しい動物観察したいけど近くに来たら怖い、みたいな感じだと思うだろ」
「……美し過ぎる顔が間近で表情を変えたらそれを見るのに必死で脳の容量が足りなくなるだろう? 上手く話せないのは大目に見て欲しいよ……そう伝えてくれないかい?」
静かな室内に聞き慣れない言語での問答が響く。
「どっちにしろ不愉快だしキモいってさ。会話もスキンシップも出来ない奴とは友達になれないって」
「ハッキリ言いよんなぁアキくん」
「正論言い過ぎると友達出来ませんよ」
「嫌味もな! どこが正論だと言うんだ鳥待一年生! ネザメ様の素晴らしさを分かっていない愚論だ!」
「いいよミフユ。みんな、僕は秋風くんと仲良くなりたいんだ、協力してくれないかい?」
俺は二つ返事で了承したが、他の彼氏達はみな乗り気ではない。今日は勉強会のために集まったのだから──なんて真面目な者達ではない、単にネザメがあまり好かれていないのだろう。
「…………協力してくれるなら今日のおやつにはとても珍しい物を出そう。父様のお知り合いがくださった一般には出回らない特別な品だ」
「しゃーないなぁやったろぉやないか!」
「何でもしますよ」
「協力するする~!」
「頑張るっす!」
現金な連中だ。カンナはリュウの隣で縮こまったままだが、多分元から協力する気もしない気もないだろう。彼もまだアキとろくに話していないし。
「失礼します」
「叔父様っ、ありがとうございます。配膳を手伝います」
ソファの前に置かれた背の低い机に食事が並べられる。
「え~、ケーキスタンド初めて生で見た~!」
トレーが三段になった海外のティータイムで見かける例のアレはケーキスタンドという名前なのか……今置かれているのはサンドイッチっぽいけど。
「……サンドイッチばかりですね?」
「テスト勉強をなさると聞きましたので、片手で食べられるものが良いかと……食べながらというのは行儀の悪い行為ですが、勉学に励む学生は食事の時間も惜しむもの。食べないよりはいいでしょう」
「…………食べる暇があるなら勉強する、なんて少数派だと思うけどなぁ」
レイの耳元でそう囁くと「そっすね」と困ったような笑顔で返してくれたが、セイカが一瞬だけ目を見開いて驚き、気まずそうに俯いた。
《ラッキーだったなスェカーチカ、利き手じゃなくても楽に食えるぜ。俺はてっきりナイフとフォーク使ったフルコースでも出されるもんだと思ってたぜ》
「……あっ」
不意に何かに気付いたようにセイカが配膳中のミフユの叔父を見上げる。
「では、ごゆっくり」
しかし彼はセイカの視線に気付くことなく部屋を出ていった。
《…………俺のためなのかな。客用の車椅子とかおかしいと思ってた。俺のこと事前に言ってくれてたから……多分。なぁ、秋風、紅葉は良い奴だよ。変態なだけだ。あんまり嫌ってやるな》
《悪い奴とは思ってねぇよ。嫌ってる訳でもねぇ、ろくに会話出来ないヤツを好きになりようがねぇってだけ。どーとも思ってねぇよ》
《……無関心は嫌いより酷ぇからな》
《そう言われてもなー、関心とか興味なんて他人に持てって言われて持てるもんじゃねぇし》
セイカとアキはずっとボソボソと二人にしか分からない言葉で話している。ネザメはもちろん、他の彼氏達もそれを気にしている。アキが案外と歯に衣着せぬ人物評価をすると分かって不安なのかもしれない、この流れはまずい。
(アキきゅんが陰口叩いてるみたいな感じになっちゃうかもしれませんぞ!)
内容までは聞き取れないヒソヒソ話が異様に気になるのと同じだ。そういう場合、大抵の人間は他者が自分をこき下ろす話をしていると思い込んでしまうだろう、少なくとも痩せるまでの俺はそうだった。このままでは彼氏達の無意識下でアキの好感度が下がってしまう。
「すごく美味しいですねこのサンドイッチ! 特にこの、ローストビーフのヤツ最高です!」
「分かる~」
「カツサンドもええで。めっちゃ分厚いし美味いし……俺が今まで食うてた肉あんのかないんか分からんみたいなカツサンドなんやったんやろ」
よし、意識を逸らせた。
「お気に召してくれたようで何よりだよ。天正くん、君は秋風くんと仲が良かったよね? 仲良くなるコツとか教えてもらえると嬉しいな」
「コツ言われましても……話出来るようならなあかんのとちゃいます?」
「……うん、鳴雷くんからもらった写真を見て彼の美貌にはもう随分と慣れた。今なら……きっと」
ネザメは席を立ち、アキの前に跪いた。
《今度一緒にバーニャ入ろうぜスェカーチカ、可愛いアンタと熱くなりたい》
《紅葉さん来てるぞ、話したそうだ》
「もみじー? 話すするです?」
「……! あ、あぁ、するよ。君と話をしたい」
ネザメが心底嬉しそうな笑顔を浮かべると、アキもそれに応えるようにニコっと微笑んだ。
「はっ……ぁ、あ、美しい……! なんて美しい」
《気持ち悪ぃしジロジロ見てくんのウザいけど、過剰反応すんのは面白いし悪い気しないよなー》
セイカが呆れたようなため息をついているのが気になるけれど、ネザメとアキはようやく仲良くなれそう……かな?
応援ありがとうございます!
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